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2011-03-07 救急救命士による点滴

[]救急救命士による点滴 救急救命士による点滴を含むブックマーク

救急救命士が「交通事故負傷者を搬送中に、救急救命士法に違反する点滴を行っていた」という報道があった。


■救急救命士、「生命の危険」で患者に違法点滴 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

 同本部によると、救命士は先月7日、常滑市内で起きた交通事故現場に出動。負傷した男性(35)に、救急車内で血流確保のための輸液を静脈に点滴した。救命士は「大量出血で意識がもうろうとしていたため、搬送先の常滑市民病院の医師と連絡を取りながら輸液を行った」と説明したという。負傷した男性は病院で治療を受け、現在は快方に向かっている。

 救急救命士法の施行規則では、心肺停止状態の患者に限って医師から具体的な指示を受けながら、点滴や気管にチューブを挿入して酸素を送ることができるが、男性は心肺停止状態ではなかった。

 同本部の事情聴取に対し、救命士は「施行規則のことは知っていたが、生命の危険があると思ったので輸液を行った」と話しているという。救命士は2004年に資格を取得した。石川忠彦消防長は「救命のためだったが、違法行為は遺憾。病院とのやりとりを含めて、当時の状況を検証していく」と述べた。


大量出血患者にいち早く輸液を開始するという医学的判断は現時点では妥当だったと個人的には考える。消防本部による発表や報道の必要性についても疑問である。それはそれとして、ネット上の反応では、「法律の方がおかしい。救急救命士による輸液を早急に認めるべき」という趣旨の意見が多かったことに危惧を覚えた。なぜなら、救急救命士による輸液が本当に死亡率を下げるかどうか、十分なエビデンスがないからだ。それどころか、搬送前の輸液が死亡率をかえって増大させるというエビデンスがある。


■ヘルスデージャパン - 搬送前の静脈内輸液により外傷患者の死亡リスクが増大する可能性も(2011.1.17掲載)

重症外傷患者を病院に搬送する前に現場で静脈内輸液(IV fluid)を行う処置が長年施行されているが、実際は死亡リスクを増大させる可能性のあることが新しい研究で示唆された。

約77万7,000人の外傷患者を対象に分析したデータから、搬送前に静脈内輸液を受けた患者の死亡率は、受けていない患者よりも全体で11%高いことが判明。搬送の遅れだけでなく、輸液による血圧上昇に伴う出血リスクの増大も死亡原因になると考えられている。米ジョンズ・ホプキンズ大学(ボルチモア)医学部准教授のElliott R. Haut博士らによる今回の研究は、医学誌「Annals of Surgery」2月号に掲載された。

分析の対象となった患者の多くは40歳以下の白人男性であり、約半数が外傷センターに搬送される前に静脈内輸液を受けていた。輸液を受けた患者の死亡率が高いことに加え、外傷の種類によってはさらに予後が悪化することもわかった。例えば、刺し傷や銃創を負った患者に輸液を実施すると、実施していない患者に比べ死亡リスクが25%増大。重度の頭部外傷を負った患者や、後に病院で緊急手術を受けた患者では死亡リスクが35%増大した。「この研究が最終的な結論であるとは考えていないが、輸液は必ずしも有益ではなく、むしろ有害である場合もある」と同氏は述べている。


"Annals of Surgery"2月号に掲載された論文はこちら→■Prehospital Intravenous Fluid Administration is As... [Ann Surg. 2010] - PubMed result。本文は入手できず、私は要約しか読んでいない。「搬送前に輸液を受けた患者の死亡率のほうが高い」という、一見常識とは異なる結果に対し、「輸液が害を及ぼすのではなく、重症例だと輸液をされる確率が高いだけ」という解釈もありうるが、当然その辺の補正はなされているようだ。ただ、無作為化試験ではないので、何らかの偏りがある可能性は排除できない。「死亡リスクを増大させる可能性」「この研究が最終的な結論であるとは考えていない」とあるのは、そのためだ。

また、これはアメリカの研究であるので、日本でも同じことが言えるとは限らない。この研究だけで、直ちに「救急救命士による点滴は不要である」という結論は出せない。しかしながら、今後、日本において、心肺停止状態以外の患者に対する救急救命士による点滴を認めるのであれば、「輸液により死亡リスクが増大する可能性もある」ことを念頭において、同時に検証も行うべきである。ついでに言うなら、現在でも合法である心肺停止状態の患者に対する点滴も、本当に効果があるか検証すべきだと私は考える。

木内ら*1は、現場で「静脈路確保も何度か試みたがうまくいかなかった」、自宅で心肺停止に陥った78 歳の男性の例を提示し、「今回の場面では,患者との接触現場での特定行為にこだわり過ぎたあまり,いたずらに現場滞在時間が延びてしまった可能性が高い」と述べている。また、「気管挿管の実施によって現場滞在時間の延長が見られていないことが確認された」という報告を紹介する一方で、「現場滞在時間は救急救命士制度の導入後,救急救命士の業務拡大で延長したとの報告がある」とも述べている。


f:id:NATROM:20110307172324j:image

文献6とは、「小濱啓次.都会でも救急医療の過疎化が起こっている.

日臨救医誌.10(5),2007,509-16」


点滴に限らず、救急救命士の業務拡大が有益かどうかは検証してみないとわからない。点滴や気管内挿管に時間をかけるより、一刻でも早く搬送したほうがいいという可能性もある。検証抜きに、心肺停止状態以外の患者に対する救急救命士による点滴がなし崩しに認められるようなことになりませんように。


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*1:エマージェンシー・ケア 21巻7号 (2008) p.671-674 特集 “ちょっと待った”な救急シーン20 常識のウソ? その嘘ホント?【前編】 、タイトル:(1)プレホスピタルでのシーン (4)CPA患者は静脈路確保,気管挿管をしてから搬送すべき?、著者:財団法人田附興風会医学研究所北野病院 木内俊一郎 新谷 裕 箱田 滋

nn 2011/03/08 01:00 原文入手できる環境だったので見てみました。この分野全然専門ではないのでツッコミよろしくお願いします。
分析(abstractにありますが)は、アメリカNational Trauma Data Bankの78万人の救急外傷患者を対象にしたいわゆる「ロジスティック回帰分析」で、重症度、点滴の有無、性別、人種、年齢、保険の有無、GCS(意識レベル)などの様々なファクター(変数)が死亡にどの程度関与しているのかを統計的に導く手法です。

abstractや日本語ニュース記事にあるのを除いて、めぼしい情報は
「77万人中血圧低下例は4.4%、全体死亡例は4.6%。点滴を受けたのは搬送されたうちの約半分(つまり日本の実情と全然違う)」
「外傷の種類や程度にわけてサブセットで分析してもやっぱり点滴で死亡オッズ比>1であり点滴の有効性は見いだせない。頭部外傷でもやっぱりダメ」
「死亡率上昇の原因として血栓の移動、凝固因子の希釈、血圧上昇による出血の促進などがあるのかも」
「外傷の種類によっては搬送中は比較的低血圧に保つことが重要だというのは以前から知られていた」
「The Eastern Association for the Surgery of Traumaの最近のガイドラインで、病院到着前の点滴は必要ない、特に胴体貫通創の場合は点滴を"しない"べき」
「別のガイドラインでも、"点滴のために搬送が遅れることはいかなる場合でもあってはならない"とされている」
「NTDBに情報がないので、搬送時間・郊外/田舎の別・補液量は解析に含められず補正できていない:すなわち点滴確保に手間取ったせいで予後が落ちたのか、点滴そのものに生理学的な悪影響があるのかは厳密には分からない」

とかそんな感じです。自分も本文読む前までの時点で「重症例で点滴され易いことによるバイアスなんじゃ」と思ったのですが、本文見てそうとも言い切れないと考えを改めました。すでに搬送前の補液を推奨するガイドラインが減ってるらしく、ちょっと意外。「搬送時間を絶対に遅らせない」という条件のもとで点滴する価値がある症例は部分的にはあるのでしょうが、全般としては点滴しないほうがよさげであり、答えが出るのはずっと先って感じですかね。
少なくともこれが例えば心停止のAEDとかなら、市民や救命士の行為で救命率が劇的に上がることは見事に証明されてるわけで、有効性が仮にあったとしてもAEDとは比較にならない微妙な有効性でしかなそう。

ちなみに本題ではないですが「民間保険よりメディケア/メディケイドでオッズ比1.4」だそうです(^^;)

nn 2011/03/08 04:38 連投すみません。比較的質のよさそうなRCTもあるみたいですね。NEJM。

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJM199410273311701
穿通性外傷かつ血圧低下例かつ成人の外傷患者598人を偶数/奇数日で割り振って治療した前向き研究にて、搬送時から早期に輸液した群(平均870mL)は死亡の相対危険率が1.26。PTやPTTや血小板の値が早期輸液群で有意に悪く、この辺が悪化要因かも。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9356056
あと「搬送時間が長いほど、むしろ輸液することで死亡の危険性が高まる」という、これまた一見常識とは違う結果が出てる論文。

ざっと検索した限り、早期の輸液で救命率がしっかり上がった系の論文は見あたらず。
透明な輸液で血液を薄めた上に不用意に血圧を上げれば、自力で固まって出血を止めようとする血液本来の働きを邪魔することになりかねません。出血がコントロールできてない状況なら「少しでも長く低空飛行を維持する」ことに努めるべきというのは、話としては理解できます。「雪山遭難で低体温になった患者は不用意に暖めるな」というのとちょっと似てるなと思いました。
(心肺停止までいった場合は上記の話とはまったく別です、念のため)

NATROMNATROM 2011/03/08 08:15 nさん、情報ありがとうございました。搬送前の輸液だけでなく、搬送後の初期輸液についても、常識の見直しが必要なのかもしれません。

ランダムランダム 2011/03/08 17:34 ベトナム戦争の負傷兵で、輸液した方がよくないみたいな話を聞いたことがあります。

tadano--rytadano--ry 2011/03/08 23:22  救急医学の講義ノートをほじくり返しました。

 出血性ショックに対して大量輸液が有効とされたのは、1950〜60年代の動物実験モデルによる研究によるものだそうです。この当時のショックモデルは血管から単に血液を抜いただけのものだったそうです。このモデルの欠点は出血源がなく出血のコントロールが必要ないことにあります。ですから大量輸液によって予後が改善するのは当然です。

 このモデルに疑問が呈されたのはご指摘の通りベトナム戦争の負傷兵を解析したスタディだったそうです。その後1980年代から90年代に人為的に出血源を残した動物モデルが考案された結果、積極的な輸液は希釈性凝固異常により予後を悪化させるという結果が動物モデルで確立され、人間を対象としたスタディでも立証されました。

 ただし、そのほとんどが穿通性外傷を対象としている点には注意する必要があるとのことで、現時点で鈍的外傷に対して早期輸液が有効か否かを示す明確なエビデンスはない、と講義ノートにはありました。今から5年前の話です。

 またプレホスピタルではpermissive hypotension という概念があり、止血処置がすむまでは収縮期血圧を70〜80mmHg(橈骨動脈が触れる程度。小児は上腕動脈)を維持する程度の輸液が推奨される、とも書いてありました。調べたところ以下のreviewがソースのようです。ただしこれも体幹の穿通性外傷が対象となっています。

Revell,M., et al.:Emerg Med J.,19:494-498(2002)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1756310/pdf/v019p00494.pdf

tadano--rytadano--ry 2011/03/08 23:38  直接の関係はありませんが、久しぶりに見返したノートにはこんな論文が。

Diem,SJ, et al.: NEJM 334:1578-1582(1996)
http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJM199606133342406

「テレビの世界では心肺停止の74%が蘇生され、67%が後遺症なく退院」とメモされていました。

nn 2011/03/09 13:35 上記のNEJMの無作為化試験は、正しくは「救急車内から積極的に輸液した早期輸液群」と、「オペ室で全身麻酔をかけるまではルート確保のみに留めた遅延群」との比較となってます。穿通創(銃創とかナイフとか)が多くて、かつ重症外傷を受ける病院が1か所しかないような地域性じゃないとなかなかやれない試験だなーと。

救命士の「気管内挿管」の方は、予後改善どころか悪化させるというエビデンスが大量にあるようですが、最近の日本の流れ的にどうなってるんでしょう。

critical physiciancritical physician 2011/03/10 06:27 要約からだけでは、研究の対象の概要が見えてこないのですが、頭部外傷を伴った多発外傷の場合、輸液(細胞外液製剤)は脳圧亢進を招きます。また神経原性肺水腫を伴う場合にはそれを悪化させ、酸素化の障害もきたす恐れがあります。すなわち頭部外傷と他の外傷とは、ことに輸液に関するかぎり、多くはTrade-offの関係にあります。
何をどのくらい輸液するかはcase by caseであり、専門医でも難しい問題です。
循環虚脱の前にルート確保するのは大切だとは思いますが、個人的にはそこまでにしておいた方がよいのではと考えます。

看護師赤嶺看護師赤嶺 2011/03/17 16:45 ブログへのコメントありがとうございます!
温州みかんやマイタケの件ですが、C型肝炎に効くとは書いていませんよ。
ちゃんと読んでみてください。

それに、上から目線的な突っ込みですね。
自分なりに調べて一生懸命ブログを書いています。不確かな情報の時は、記事の中で「説明できなくてすいません」と、今回謝っております。
本当に看護師でしょうか?は、無いと思います。本当に看護師ですよ!
すいませんね、勉強不足で。
しかし自分の勤めている病院の医師に、そのような全否定的な注意をしてくる方は居られません。
情報が間違っているなら、情報だけを注意なり、教えてくれても良さそうなのに、会ってもいない人間に、職業まで否定されるとは。
本当に医者ですか?患者さんへの態度や言葉使いはいかがなんでしょうか?
看護師に対しては?

見えない相手だからこそ、文字にするときは注意が必要なのじゃないですか?
医師の知識レベルと、看護師のレベルのそれとは確実に差があると想いますが、人間性に差が出るのはこういったところでしょうね?

これからも、上から目線のコメントなら要りませんので関わらないで下さいね。
もちろん、心のあるご注意、ご指導なら大変ありがたいですので、教えていただきたいです。

NATROMNATROM 2011/03/18 00:08 看護師赤嶺さんのブログはこちらですね
http://ameblo.jp/lexion-hide/entry-10831886059.html

「肝臓がん予防つづき!」というエントリーで、「温州みかんのジュースを1日1杯飲むとよい、と聞いたことがあります」とか「マイタケが免疫作用を活性化させてガンの増殖を抑える。乳がん、肺ガンにも効くというのは有名ですよね」とか書いておられます。

なるほど、「C型肝炎に効く」とは書いていませんが、肝臓がんの予防によいと読めますね。何かエビデンスがおありでしょうか?

「説明できなくてすいません」と謝れば、不確かな情報を広めても構わない、と看護師赤嶺さんはお考えなのですね。私は、医療関係について不確かな情報を広めるのは慎重になったほうがいいと考えます。特に、医療従事者を名乗るのであれば。

「自分の勤めている病院の医師に、そのような全否定的な注意をしてくる方は居られません」とありますが、まさか、ブログだけでなく、現場で患者さんに対して、「よく調べずに」「きちんと説明できないのに」不確かな医学情報を提供しているのでしょうか?幸いにも、私の勤務先には、看護師赤嶺さんのような看護師はいません。

看護師赤嶺さんのように、聞きかじりの知識で、不確かな、というか、誤った医学知識を患者さんに吹き込むことで、患者さんは混乱し、場合によっては健康被害を生じます。看護師赤嶺さんは、ご自身のプライドのほうが大事で、患者さんのことなどまったく考えておられないようです。医療従事者は、人間性も大事ですよ。

くろおにくろおに 2011/03/18 16:24 看護師赤嶺さんの方に書いても、削除されそうなのでこちらに書かせていただきます。

内容的には、今はなき「あるある○事典」や「おもい○きりテレビ」なレベルですね。健康マニアの叔母がいて、葬式や法事などで親戚が集まると、「太りすぎ」や「薬は飲まない方が良いとかかりつけの医者が言っている」など、眉唾なうわさ話を吹聴します。
「目新しい治療法や、一部の医療関係者の発言を、鵜呑みにせずに、一次データを調べた方が良いですよ。」と注意したら、法事に来なくなりました。こちらは、行為を注意しただけなのですが、その行為は叔母にとっては非常に重要だったらしく、彼女にとっては人間性を否定されたのと同様だったようです。

当人は、善意で広めているのでしょうが、良いことをしてあげているという善行欲を満たすことが重要になってしまっているようです。まさに手段の目的化です。

反応まで含めて似ていたので書かせていただきましたが、このような人達は自己評価が高い傾向にあるようなので、扱いがとても面倒です。

くろおにくろおに 2011/03/18 16:29 上の投稿は『「太りすぎ」や』を消し忘れてしまいました。
削除したものとしてお読みください。