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cover ■「ニセ医学」に騙されないために

 ホメオパシー、デトックス、千島学説、血液型ダイエット、ワクチン有害論、酵素栄養学、オーリングテストなどなど、「ニセ医学」についての本を書きました。あらかじめニセ医学の手口を知ることで被害防止を。

2012-02-20 日本新型ウツ病学会(松井孝嘉学会理事長)が提唱する「頸筋症うつ」

[]日本新型ウツ病学会(松井孝嘉学会理事長)が提唱する「頸筋症うつ」とは? 日本新型ウツ病学会(松井孝嘉学会理事長)が提唱する「頸筋症うつ」とは?を含むブックマーク

「新型うつ病」は精神病ではなく、首が原因で治せると主張する「日本新型ウツ病学会」が発足されたとのニュースがあった。いまのところ、報じているのはJ-CASTニュースのみ。


■「新型うつ病」は首に原因とする学会発足 雅子さまも? 治療で治せる : J-CASTニュース

学会理事長に就任した松井孝嘉・東京脳神経センター理事長 (脳神経外科) は「首からの新型うつ病の最も典型的な患者は皇太子妃の雅子さまではないでしょうか。毎年3万人超の自殺者の多くもこの病気であり、精神科では治らない」と早期の対応の必要性を訴えた。

(中略)

首からくる新型うつ病(頸筋症うつ)は、従来のうつ病にくらべて、身体症状の訴えが多く、症状の波があり、気圧が下がると悪くなるなどの特徴がある。また、治らないことからの不安や絶望気分から自殺の率は従来のうつ病の数倍も高い。松井さんは重症者に対して低周波治療や電気鍼治療を実施しており、患者さんの8、9割は、うつ症状が3週間、身体症状は3カ月以内に消える、という。「間違った治療によるむだな医療費、自殺者を減らしたい」と、学会設立を思い立った。

松井さんは、雅子さまの症状に関しては、微熱や風邪症状、天候による変化、のどの渇きやめまい、疲れやすい、不安感などが報道されていることから、典型的な首からの新型うつ病であり、精神科治療では治る見込みがないことを医師団に指摘したことも明らかにした。


この時点でかなり懐疑的にみなければならないことがわかる。「最も典型的な患者は皇太子妃の雅子さまではないでしょうか」とのことだが、松井孝嘉氏は実際に診察したのであろうか?「微熱や風邪症状、天候による変化、のどの渇きやめまい、疲れやすい、不安感などが報道されていることから、典型的な首からの新型うつ病であり、精神科治療では治る見込みがないことを医師団に指摘した」そうなので、実際には自分では診察しておらず、報道からの推測したと思われる。

新しい疾患概念について、自分で診察していないのに、「最も典型的な患者」などと診断することは普通はできない。しかも、首の痛みなどの首が原因であることが示唆される症状があるならともかく、微熱や風邪症状や天候による変化などなどの、非特異的な症状のみである。医師団に指摘したそうだが反応はあったのだろうか。おそらく相手にされなかったのではないか。

「毎年3万人超の自殺者の多くもこの病気であり、精神科では治らない」ともあるが、いったいどのようなデータがあればそんなことが言えるのか、私にはわからない。強いて言えば、うつ病の診療経験が豊富な精神科医が、「そういえば自殺した患者は首周りの症状を訴えていることが多かった」などといった印象を持ったのであれば、「もしかしたら自殺者の多くは”首からのうつ病”なのかもしれない」と言えるのみである。

以上のことから、松井孝嘉氏が記者会見を開いた目的は、他の専門家と協力して新しい疾患について研究していくことではなく、専門知識を持たない一般の人向けにアピールすることだと、私は推測する。聞こえのいい「○○学会」が発足し、「有名人の誰それもその病気だ」「精神科では治らない」と聞けば、東京脳神経センターを受診する人もいるであろう。

患者を集めるのが目的であれば、非特異的な症状のみが疾患の特徴として挙げられているのにも合点がいく。たとえば診断基準に「最低でも1ヶ月以上継続する頸部の痛み」などと付け加えれば、”首からのうつ病”の患者を識別する助けにはなるであろう。しかし、集まる患者は減る。

松井孝嘉氏の名前に覚えがあった。3年前に、松井孝嘉氏が提唱している「頚性神経筋症候群」なる怪しげな疾患概念についてエントリーを書いていた。


■頚性神経筋症候群(Cervical Neuro Muscular Syndrome)


非特異的症状を前面に出し、マスコミ露出を図っている点は、今回の「頸筋症うつ」と同じパターンである。おそらく、まともな医学論文がない点も同じだろう。「頚性神経筋症候群」と「頸筋症うつ」がどう違うのか、私には分からない。「新型うつ病も頚性神経筋症候群である」ではなにがいけないのか。新型うつ病にかこつけて新しい病名をつけて話題づくりを狙ったのではないか。

「患者さんの8、9割」は良くなるという主張についてはあまり意味がない。たとえば、下あごのズレを矯正すると称するバイオプレートでも同じくらい治る(参考:■バイオプレートにエビデンスなし)。バイオプレートに効くとされる諸症状が、「頚性神経筋症候群」や「頸筋症うつ」と似ているのは偶然ではない。それらはプラセボ効果や自然経過によって改善しうる症状である。

「プラセボ効果でも良くなるのならいいのではないか」という意見もあるだろう。軽症例のみを相手にしているのなら、容認できなくもない。しかし、今回の件では、「新型うつ病」を対象にしており、しかも精神科医による診療に悪影響を与えうる主張がなされているのが問題である。

J-CASTニュースの記事についても一言述べておく。記事はほとんど松井孝嘉氏の受け売りである。速報ではないのだから、せめて、うつ病の診療を行っている専門家にも意見を尋ねて両論併記するべきではないか。というか、医療ジャーナリストを名乗るのであれば、東京脳神経センターのトップページを見て、「これはなんか怪しい」と感じて欲しい。


f:id:NATROM:20120220185358j:image

今まで治療法のなかった17疾患が完治

東京脳神経センターのウェブサイトのトップページ(URL:http://tokyo-neurological-center.com/)より引用


なお、このエントリーは「頸筋の異常から自律神経を介してさまざまな身体症状が現れ」、うつ病もしくはうつ病と似た病態に陥る可能性を否定するものではない。そのような可能性があるとしても、あるいは可能性があるのならなおさら、専門家、つまりは精神科医と協力して病態解明にあたるべきである。



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いわともいわとも 2012/02/22 16:11 J-CASTの記事で「新型うつ病は精神病ではなく」と書いて有りますが、もともとうつ病は精神病という扱いじゃないという点で私はこの記事とライターの信頼を無くしました。

ふもふも 2012/02/22 23:19 この松井氏は、詐欺だと自覚してやっている確信犯なのでしょうか?
それとも、妄想を抱いてしまう傾向が強すぎるタイプの方でしょうか?

確信犯的に医師がこのようなことをやっているとすると、非常にたちが悪いですね。

tantortantor 2012/02/23 22:06 うつ病に関してはこれ以外にもいろいろ怪しげな説が多い印象です。
「SSRIを摂取すると異常行動を起こす」とか。

nn 2012/02/23 23:44 ん。SSRIに限らず、大抵の抗うつ系の薬は、稀に異常行動の副作用自体はあるんじゃなかったでしたっけ。ただSSRIは昔報道で危険性が騒がれ、実態以上に叩かれているという印象もあります。全く専門外なので変なこと言ってたらすみません。

ttytty 2012/02/24 00:12 この記事書いたのはTBSラジオのDigでやたらとホメオパシーを擁護していた田辺氏じゃないですか。この人はやっぱりえせ医療側の人なんですね。

ymym 2012/02/24 15:44 パキシルによる重症のセロトニン症候群に先日遭遇しましたよ。

tadano--rytadano--ry 2012/02/25 11:34 Treatment for Depression with Chronic Neck Pain Completely Cured in 94.2% of Patients Following Neck Muscle Treatment

http://www.scirp.org/Journal/PaperInformation.aspx?paperID=5500

に"Matsui Index"なるものがありますが、スコア化もされていず、非特異的症状の羅列で、これが必須症状とか何項目あれば確診との説明もなく、まあひどいものです。
コピーする気も失せました。

nn 2012/02/26 01:38 わぁ、一応症例報告の形になってる!! その「松井指数」が余りに面白いので探したところ、どうやら松井指数の日本語版はこれみたいです(東京脳神経センター内のPDF)。
http://tokyo-neurological-center.com/image/monshin-fax.pdf
診断基準は論文にはありませんが、Webの宣伝文句によれば5項目以上該当すれば、治療が必要な首こり病だそうです。頚の痛み自体は数十個ある診断基準のうちの1つに過ぎず、必須基準とかではなさそう。例えば「目が疲れやすくて便秘がちで、血圧が高くて動悸がして胸が痛い人」は、首凝り病と診断するそうです。すげえ。

これらの症状の複合で悩み、鬱々としている現代人がごまんといること自体は、そりゃ誰でも理解できる事実ですが、これにCNMSだか新型鬱病だかという大層な病名を付けなければいけない理由が不明。一応その点は症例報告内で多少語ってはいますけど、私には到底納得できませんでした。この「症例報告」を通したレビュアーがいることに驚きます。
あと基本的な英語の文法ミスとか誤植が多い気がするんですけど、誰も校正してないの? これ。

nn 2012/02/26 01:49 いやまあ、頚の治療でこれらの症状が綺麗に改善する症例が本当に多いなら、それを報告する態度自体はとても良いと思います。
上記の「通したレビュアーがいることに驚き」というのは、あくまで議論の稚拙さとか、定義の曖昧さとか、自己賛美的な文体とか、誤植とか、「90%以上治癒」等の胡散臭い数字に何の根拠も示されない、といった、論文の質が単純に悪いことに対する感想です。報告するなとか言ってる訳ではありませんので、その点は誤解なきよう。

tadano--rytadano--ry 2012/02/26 12:42 「松井指数」によれば、「吐き気があって微熱があって下痢をして全身がだるくて昼間から横になってい」たらCNMSですか。すげえ、誰がどう見たって腸炎じゃんw

某ホメオパシー業界誌でもそうですが、論文の質を無視してとにかく「出せば通る」的な学術雑誌があって、そういった雑誌に投稿して掲載されることで「科学雑誌に掲載された」と言い張るわけですね。ディプロマミルならぬペーパーミルですな。おそらく査読も校正ももされてないんでしょう。でなきゃビタミンB12を1日「1000g」投与したなんて載せるわけないでしょう。

キンジョキンジョ 2012/02/26 16:59 バイタルリアクトセラピー
っていうのは、これの仲間ですか?
効きそうなので、通ってみようかと思案中なのですが…。

nn 2012/02/27 13:46 >キンジョさん
山ほどある代替療法の一種だと思います。慢性疼痛分野は個人差や心理的効果が強く、代替療法が効く人には効くし、逆に西洋医学も効かない人は効かないため、西洋医学でダメで悩んでいる人が代替療法を試すのは、個人的には構わないと思います。ただし「卓越した理論で世界中の医師が注目」といった話は怪しいです。
松井氏のも本質的には同じだし、受診すれば"効く"可能性がある点も同じですが、変な病名で記者会見開いてニュース記事作らせたり、うつ病に手を広げたり、霊感商法と見まごうばかりの症状リストに改善率、と、奇行が目立つのが弄られる所以かと。
『松井指数』の症状一覧はこのまま「悪霊に憑かれた人の症状一覧」として霊能者のサイトに載ってれば違和感ないですが、医学論文誌に載ってる姿には凄まじい違和感があります。でも載ってるんだよなー…(笑)

十六夜十六夜 2012/02/29 00:11 「新型うつ病」は実際のところ、ICD−10にもDSM−?にも載っていません。もちろん載っていないからといってそんな疾病はないとは言えないのですけど。

「新型うつ病」についていろいろと調べてみましたが、精神科医の中でもかなり意見が分かれている模様。「そんなの病気じゃない」説から、「従来のうつ病そのものであり、精神科医の怠慢でレッテルを貼っているだけ」までいろんな立場がありますけど、「他罰的で、薬物療法が効きにくく、自分の好きなことをするのは苦痛でない」などの大まかな定義は共通している様子です。

つまり、精神科医にとっては「困った患者」ではないでしょうか。

「困った患者」が大挙して標準医療の場をはなれ、松井孝嘉氏の病院(?)に転院(?)してくれるなら、一般病院にとっては、願ったりかなったりではないでしょうか。同様に「科学物質過敏症」や「低線量被曝症候群」の患者なんかも、標準医療の場では冷たくあしらわれがちなのが、「うんうん判りますよ。医者は新しい概念は認めたくないものです。あなたの考えは正しいです」と言ってもらえれば、感動のあまり、少しは病状が回復するかもしれませんね。

なんか、標準医療と代替医療の、理想的な棲み分けであるような気さえします(笑)

ただ、「化学物質過敏症」や「低線量被曝症候群」と違って、自ら「自分は新型うつだ!」と主張して治療をうけたがる人は少ないんじゃないかと思うのが難点(注:経営的に)ですが。

NATROMNATROM 2012/02/29 08:42 棲み分けという一面は確かにあろうと思います。代替医療にも有用性があるということです。本当のうつ病の人についてはちゃんと専門医に紹介し、精神科医の邪魔をしないのであれば、それほど問題は大きくないのですが。

J-CASTニュースの記事に対するネットの反響を見るに、「自分がそうかも(自分の症状は首から来るうつ病かも)」という反応はそれなりにありました。精神科医に不信感を持っている人たちは一定数いますので、そういう人たちがターゲットなのかも。

自ら「自分は新型うつだ!」と主張して治療をうけたがる、というよりも、「ヤブ医者の精神科医どもは新型うつ病などと言っているが、本当は首からくる『頸筋症うつ』なのだ」という感じなのでは。

藤棚藤棚 2012/02/29 23:49 「激励禁忌神話の終焉」という本の中で、新型うつ病の診療の現状(精神科医の側の体験)が描写されている部分があります。著者は精神科領域の混合診療についてもコメントされています。NATROM先生、お時間のできたときにご一読いただけましたら幸いです。

野口野口 2012/04/16 15:58 うつ治療経験者です。
色んな薬を処方されましたが、飲むのを辞めたら治りました。ただし、副作用や断薬時の苦しみはそうとうなもので何度も死を覚悟しました。
生かさず殺さずが精神疾患の治療の現実です。
薬では完治しません。

NATROMNATROM 2012/04/16 17:29 こんにちは、野口さん。コメントありがとうございました。野口さんのうつ病が治って良かったと思います。標準医療によるうつ病の治療が対症療法であり、完治に至るものではないというのはその通りです。

しかしながら、標準医療が十分に満足できないものであるという事実は、それ以上に満足できる他の治療があることを意味しません。より良い他の治療はあるかもしれませんが、十分に証明されたものは存在しません。その他の治療法が十分に証明されたものであるなら、その治療法が標準治療となっています。

また、野口さんが薬を止めたら治ったという事実は、「生かさず殺さずが精神疾患の治療の現実」であることを意味しません。野口さんがたまたま運が良かったからかもしれないからです。他の人が野口さんと同じように薬を止めても治るとは限りません。

「生かさず殺さずが精神疾患の治療の現実」であるかもしれませんし、そうでないかもしれませんが、「生かさず殺さずが精神疾患の治療の現実」だと主張するならば、「薬を止めたら治った」という体験談では不十分です。

私は精神科治療は専門外ですが、「生かさず殺さずが精神疾患の治療の現実」であるとは思いません。他の医学の領域と同じように、中にはヤブ医者もいるでしょうし、治療ガイドラインが必ずしも最良のエビデンスを反映しなかったりはあるでしょう。しかしながら全体としては、エビデンスに基づいた医療が行われるようになってきていると私は考えます。