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cover ■「ニセ医学」に騙されないために

 ホメオパシー、デトックス、千島学説、血液型ダイエット、ワクチン有害論、酵素栄養学、オーリングテストなどなど、「ニセ医学」についての本を書きました。あらかじめニセ医学の手口を知ることで被害防止を。

2012-07-26 牛乳は肝癌を抑制するか

[]牛乳は肝癌を抑制するか 牛乳は肝癌を抑制するかを含むブックマーク

■さまざまなリスクを比較するー「放射能のリスクを生活の中のリスクと比較する」関連図表 : Global Energy Policy Researchを見ていると、「牛乳・ヨーグルトの摂取」で肝臓癌の相対リスク 0.3 だとされていた。つまり、牛乳やヨーグルトを摂取している人は、そうでない人と比較して、3分の1ぐらいしか肝臓癌にならないというわけだ。いくらなんでも相対リスク 0.3 というのは強く効きすぎのように思えた。私の知る限りでは、牛乳やヨーグルトが肝癌を抑制するという話は一般的ではない。参照文献*1は提示されていたので、サマリーだけは読んだ。

イタリアの症例対照研究。肝癌症例185人に対し対照412人。対照は「食事と関連しない急性・非悪性疾患のための入院患者」。B型肝炎、C型肝炎、アルコール摂取は補正済み。摂取カロリーも。オッズ比(この場合、相対リスクとだいたい同じ)は、ミルクとヨーグルト摂取 (OR = 0.28; 95% CI: 0.13-0.61)。白身肉(OR = 0.44; 95% CI: 0.20-0.95)、卵(OR = 0.31; 95% CI: 0.14-0.69)、果物(OR = 0.48; 95% CI: 0.22-1.05) 。

私の個人的な印象。未調整の交絡因子*2が存在するのではないか。牛乳だけでなく、白身肉や卵等々の他の食事も同時に肝臓癌のリスクに影響するとは考えにくいように思う。たぶん、本文ではこうしたことは考察されていると思う。手抜きして本文は読んでいない、ごめん。仮にこれらの食事がこれほど強く(オッズ比 0.3ってめっちゃ強い)肝臓癌のリスクに影響しているなら、他の疫学研究でも見えそうなものだ。

「milk intake hepatocellular carcinoma」(牛乳摂取、肝細胞癌)をキーワードにしてPubmed先生に聞いて、ギリシャでの症例対照研究*3を見つけた。この研究では牛乳および乳製品の摂取が肝癌に逆相関しているように見えるが、ギリギリで有意差なし(OR = 0.70, 95% confidence interval = 0.49-1.01)。サマリーを読む限りでは、著者らは「ホントは牛乳は肝癌を抑制するんだけど、症例数が足りないため有意差が出なかった」ではなく、「多重比較のため、たまたまそう見えた」という意見のようだ。つまり、「いろんな食べ物について有意差検定を行ったんで、偶然にそういう結果が出るものもあるだろう」ってことか。ギリシャの研究では、促進であれ抑制であれ肝細胞癌に関連する食べ物はなかったという結果であった。

なお、「milk hepatocellular carcinoma cohort」(牛乳、肝細胞癌、コホート)だと該当論文なし。食事と発癌のコホート研究はたくさんなされている。キーワードを工夫して探せばもしかしたら論文はあるのかもしれないが、おそらくは単独で論文にするほど牛乳と肝癌に強い関係はないってことだろう。

WCRF(World Cancer Research Fund 世界癌研究基金)のサイトで検索したところ、牛乳および乳製品と肝癌の関係については記述なし。ちなみに、「牛乳は大腸癌のリスクをおそらく下げる」「牛乳は膀胱癌のリスクを下げる限定的な証拠がある」「牛乳と乳製品は前立腺癌のリスクを上げる限定的な証拠がある」とされていた*4



f:id:NATROM:20120717184932j:image

牛乳は大腸癌と膀胱癌のリスクを下げ、前立腺癌のリスクを上げるかもしれない


「牛乳は体に悪い」とするマクロビ系の主張があるけど根拠に乏しい。いったいどういうわけだか、少しは関係ありそうな前立腺がんではなく、乳がんとの関係が主張されることが多い。



関連記事

■一生に一度でいいから肝炎の検査を受けよう

■はたともこ氏(民主党)の主張を紹介してみる

*1■Food groups and risk of hepatocellular carcinom... [Int J Cancer. 2006] - PubMed - NCBI

*2たとえば、所得が少ない層ではミルクやヨーグルトや白身肉や卵をあまり食べず、同時に所得が少ない層では「食事と関連しない急性・非悪性疾患のための入院」が多い、など

*3■Diet and hepatocellular carcinoma: a case-contro... [Nutr Cancer. 2000] - PubMed - NCBI

*4:URL:http://www.dietandcancerreport.org/cancer_resource_center/downloads/chapters/Ch4.4-4.11_Foods_and_drinks.pdf

十六夜十六夜 2012/07/27 22:09 このサイトのQ4、Q5、Q6に対する回答には非常に共感できるのですが、「牛乳+ヨーグルトで肝癌の発症率が0.3倍」という、どう考えてもうさんくさいデータを「正しいもの」として提示していると、結果的に「100 mSvの被ばくの相対リスク比が1.005」という数値も疑わしくなってしまうのが残念です。

「未調整の交絡因子」があるとして、それは何かと考えるのは非常に興味深いです。

余談ですが、最近放映された某深イ○話で「患者を絶対断らない病院」の「美談」が紹介され、「他の病院も見習ってほしい」というタレントの発言に、コメンテーターの医師が「満床時に廊下に寝かせてでも患者を受け入れている病院もある。そういった医師の苦労を分ってほしい」などと、トンチンカンなフォロー(?)をしていた件について何かツッコミはないかと期待していたりします…。

tata 2012/07/29 09:28 牛乳というのが何なのかが問題です。アメリカやイギリスでは低脂肪乳が普通であり、肥満を気にするような人は低脂肪乳を飲みます。牛乳を飲むのは、肥満を気にしない人(痩せ型で健康な人)だけでしょう。だから……(あとは言わなくてもわかるはず。)

usau3usau3 2012/07/29 10:11 肝臓癌と食事の関係で有名なのは鉄ですが、その辺は交絡因子の一つになり得るのでは?
他でコントロール困難なトランスアミナーゼ上昇も瀉血でかなり下がるようですし、牛乳は鉄制限食でおすすめされる食材です。
「牛乳・乳製品をよく摂る」イタリア人というのはおそらく同じ形容詞がつく日本人とはレベルの違う量を摂っていると思われます。ググったらアメリカ人の鉄摂取量は日本人の2倍以上だとかで、これが欧米の肉食習慣に由来するとすれば乳製品を相対的に多くとることで鉄過剰状態=発癌リスクを抑えられる、とか。

nn 2012/08/03 02:33 論文の中身をチラ見したところ、教育年数とか生まれた地域(イタリア北中部vs南部)といった要素でもなかなか凄いORが出てますね。大学卒業するだけで肝細胞癌が半分以下になるのとかは、もちろん何かの交絡でしょう(笑)。
イタリアはなんか地域格差がすごく大きいイメージがあるので、「高学歴で標準体型で健康に気を遣いHCCが流行っていない」地域性の群と、その逆のタイプの地域性の群、とか、その辺ですごい攪乱されてるんじゃないかな…と。NATROMさんと同意見です。

(補足:日本で極端な例を挙げれば、例えば「味噌カツを食べる人は交通事故死が多い」みたいな現象が観測されたなら、それが交絡。味噌カツ食べる人が多い某県でそれと無関係に交通事故が多い、というだけで、味噌カツ自体が交通事故の原因であるはずはないのですが、全国調査すれば見かけ上関連があるかのように見えてしまいます)

ぽーぽー 2012/08/16 13:04 >大学卒業するだけで肝細胞癌が半分以下になるのとかは、もちろん何かの交絡でしょう

これは実際にあり得る話で、学歴が高い人と低い人とを比較した場合、ウイルスへの感染経路やリスクを知っているかどうかという因子は明らかに前者が知っている割合が高くなり、結果的にリスクが下がります。
同じことが多くの疾患でも実際に見られているので、教育の質・量が疾患への知識の差となり、結果として疾患発症リスクに影響するものは多くあると考えることが妥当だと思います。

nn 2012/08/19 20:36 >ぽー さん
おっしゃるとおり、元論文の結果は、ぽーさんの考えているような現象を見ている可能性が高いと思います。そしてまさに、ぽーさんが考えているような現象を通じて学歴と肝細胞癌の間に見た目の関連が生じることを、「交絡」と呼ぶのでは?(^^;)
ウイルスに学歴そのものを区別できる知能があって低学歴者に優先的に感染するなら「学歴そのものが独立した因子だ」と言えますが、流石に荒唐無稽な話です。本物のリスク因子は「感染を防ぎうる各種生活習慣」の方であって、逆にそれが同じなら学歴の高低でリスクが変わるはずはないと思います。