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cover ■「ニセ医学」に騙されないために

 ホメオパシー、デトックス、千島学説、血液型ダイエット、ワクチン有害論、酵素栄養学、オーリングテストなどなど、「ニセ医学」についての本を書きました。あらかじめニセ医学の手口を知ることで被害防止を。

2013-01-29 ローレンツと体罰

[][]ローレンツと体罰 ローレンツと体罰を含むブックマーク

『体罰は教育です!』『子供には「体罰を受ける権利」があります』と主張する、「体罰の会」というサイトに、コンラート・ローレンツに関する記載があった。


■**体罰の会**

 水が高いところから低いところに流れるように、学級生徒の中に怠惰な者がいて、それに対して教師が何らの教育的矯正をなさないとしたら、学級全体が怠惰を是認することになって、克己心を持って研鑽している他の生徒にも悪影響を与えます。その結果、学級全体の生徒の進歩が遅れ、学級の秩序が乱れます。

  そのことを動物行動学を確立してノーベル賞を受賞したコンラート・ローレンツが科学的に証明しました。それは、「種内攻撃は悪ではなく善である」ということです。ここで「善」というのは、種族保存のために必要な秩序維持に必要不可欠なことを意味します。決して、理性的、宗教的に判断した「善」のことではありません。善悪は、理性で決するものではなく、固体と種族の本能(生命原理)に適合するか否かによって科学的に決定されることを意味します。種内攻撃は、すべて種内の秩序の形成と維持のためになされます。決して秩序を壊し秩序を乱すためになされるものではありません。人間以外の動物は、秩序を壊し秩序を乱す結果を生む種内攻撃をすることがありません。そして、本能的行動としての種内攻撃、つまり、同種内における有形力の行使は、種族維持、秩序維持のために必要なものであることを説いたのです。この種内攻撃の最も重要なものに「体罰」があるのです。


彼らによれば、「ノーベル賞受賞者のローレンツは種内攻撃は悪ではなく善であると証明した。体罰は種内攻撃である。よって体罰は善である」ということらしい。そいつは初めて知った。おそらくは、体罰に「科学的」なお墨付きをつけたい人が、中途半端にローレンツを読んで思いついちゃったのであろう。

「体罰は種内攻撃である。よって体罰は善である」という理屈で、殺人も種内攻撃であり善であると言い張れそうである。ローレンツの時代にはまだ知られていなかったかもしれないが、ライオンやチンパンジーは「子殺し」をする。ライオンの子殺しは「種内攻撃」であり「善」であるとして、ヒトの子殺しも種内攻撃で善であると「体罰の会」の方々は考えるのだろうか。理性ではなく「本能」に適合するかどうかで善悪を決めるのならば、生徒のためを思ってなされる冷静な「愛の鞭」よりも衝動的な殺人のほうが善ということになりはしないか。もしかしたら、「体罰の会」の方々は、理性的にではなく、「本能的に」体罰を行っているのかもしれないが。

よしんば体罰が「本能的行動」であるとして、それが人間の社会において容認されるべきかどうかとは別問題である。それに、私の知る限りではローレンツが体罰を本能的行動だとしたり、善だとしたりしたことはない。むろん、ローレンツの著作を全部読んだわけではないので、どこかでローレンツが体罰を容認する旨を書いた可能性は否定できないが、きちんと引用元を明示されない限り、ローレンツを体罰容認に持ち出す主張を私は信用しない。そもそも「種内攻撃は悪ではなく善である」とローレンツが証明したというところからして信用できない。

■ローレンツが体罰を肯定したの? - じゃんけんをする猫:文房具のことなどによれば、石原東京都知事(当時)が「動物行動学者のコンラッド・ローレンツは、体罰も含めて、子どものころに我慢を強いられることである肉体的苦痛を遭わされることがなかった人間は非常に不幸なことになるということをいっておりますが、私は至言だと思います」と言ったことについての「この著作のどこにこの文章が出ているのか、説明してください」という質問に対して、心の東京革命推進担当部長は「今回の引用は、全体の趣旨を損なわないように要約をしたもの」と回答している。要するに要約する過程でローレンツが言ってもいない体罰肯定を勝手に付け加えたということである。いかにもありそうな話である。

体罰を受けていたバスケ部の主将が自殺した問題について、ローレンツを絡めて考えるとしたら、同族をいびり殺すハトが私には思い浮かぶ。ローレンツの書いた「ソロモンの指環」という本の中で、交雑品種を育成しようとしてヨーロッパキジバトとジュズカケバトを同じカゴの中に入れておいた話が出てくる。


あくる日帰ってみると、ぞっとするような光景がくりひろげられていった。キジバトはかごの一隅の床にたおれていた。その後頭部と首のうしろ側、さらに背中じゅうが、尾のつけ根にいたるまで羽毛をむしられて丸坊主にされていたばかりでなく、一面にベロリと皮をむかれていた。この赤裸の傷口のまん中に、もう一匹の平和のハトがえものをかかえたワシのようにふんぞりかえっていた。(P210)

f:id:NATROM:20130128165827j:image



ローレンツによれば、オオカミのように武器を持つ動物は「同類虐殺を防ぐ保証」、つまりは仲間に対する攻撃行動の抑制を進化的に発達させてきたが、ジュズカケバトはその必要はなかったという*1


ジュズカケバトはそのような抑制を必要としない。この動物は相手を傷つける力がごく弱く、おまけに逃げだす能力がじつによく発達しているからである。したがって、ハトのようにくちばしが弱く、つっつかれても羽毛が二、三本ぬける程度の武器しかもたぬ鳥どうしなら、そのような抑制なしでも十分やってゆけるわけだ。負けたと感じたほうのハトは、相手から第二の攻撃が加えられる前に、さっさと逃げてしまう。けれど、せまいおりのように不自然な条件のもとでは、負けたハトはすばやく逃れる可能性を封じられてしまう。そこでいよいよ、このハトには仲間を傷つけさいなむことを妨げる抑制が欠けていることが、完全に露呈されてしまうのだ。(P219)


むろん、ハトは体罰も自殺もしない。しかし、逃げ場のない環境でなされる攻撃の危険性について、なにがしかの教訓は得られるだろう。



関連記事

■ソロモンの指環 by ローレンツ

■愛国心の遺伝子

*1:ローレンツは群淘汰説による説明を行っているが、現在ではそのような素朴な群淘汰説は否定されている。現在の進化生物学でどのような説明がなされているのかは私は詳しくは知らないが、「仕返し」をされるリスクを考慮すれば説明可能なように思う。オオカミのように武器を持つ動物が相手を本気で攻撃すると、たとえ最終的には勝利するとしても反撃されて怪我をするかもしれない。よほどのことがない限り仲間を本気で攻撃しないライバルの個体のほうが有利かもしれない。群淘汰説による説明が正しかろうと正しくなかろうと、反撃できない個体を閉じ込めておくとろくなことが起きない点は変わりない

lets_skepticlets_skeptic 2013/01/29 10:52 似たような状況に追い込まれたニワトリのいじめも目撃したことがあります。私が見たのは、1羽をターゲットとした集団いじめでした。子供ながらに、なんて醜いんだろうと思ったものです。

bobjokerbobjoker 2013/01/29 14:33 筒井康隆氏の書評をば。http://book.asahi.com/hyoryu/TKY201004200253.html

tikani_nemuru_Mtikani_nemuru_M 2013/01/29 16:53 「人間は不幸にも、自分の種の外にある環境のあらゆる力を支配することを学んだが、自分自身についてはあまりわずかしか知らなかったために、種内淘汰の悪魔的はたらきをどうしようもなくほっぽらかしにしてきたのである」  [K. ローレンツ「文明化した人間の八つの罪」 第4章 p36 ]

というわけで、ローレンツは明瞭に「種内での攻撃性(種内淘汰)」に否定的です。この主張は「攻撃 悪の自然史」でも「鏡の背面」でも繰り返し主張されてます。
ひとことで言えばデタラメ。
ローレンツは保守思想に都合よく使われちゃう側面が確かにあるけど、これは捏造。ひどすぎ。

shinzorshinzor 2013/01/31 20:44 「有利」ではなく「善」という言葉が生物学で出てくるのがなんとも。
それはともかく,体罰が種内攻撃ということなら,少なくとも教育ではないと認めるようなものかと。
そもそも,生物学に「種内攻撃」という用語はあるのでしょうかね。「種内淘汰」ではないでしょうか?しかし,「淘汰」だと,優良な個体の選別であり,弱い個体の排除であることがあからさまになり,とても教育と言うことは出来ませんから。

選別排除(淘汰)と考えると,体育会系の部活動で体罰が多いわけが分かるような気がします。競技自体が生き残り競争であることに加え,有名で人気のあるクラブでは,レギュラーに残る為の競争もあります。指導教官はその選別を行わなければならず,駄目な奴を排除する必要があります。代わりの人材はいくらでもおり,駄目な奴を教育し育てるなどという非効率なことをやっていれば,指導教官としての業績は望めなさそうです。

AH1AH1 2013/01/31 23:35 効率だけなら辞めさせるなり放置するなりもできるので、もう少し、「シゴけば根性がつく」「これに耐えて強くなる」的な、こう、、、
「秘密の特訓」とか「修行」みたいなメンタリティが元になっていそうな気がしますが。
あとは「自分もこうやって強くなったんだ!」というコピーイングですかねえ。

ErdaErda 2013/01/31 23:39 結局、無駄に長い主張に対して
教育的に体罰を肯定する論文も根拠も一切示されてないように見えるんだけど私の目が節穴なんだろう。
というかなんか胡散臭い人しかいない気がするのもたぶん気のせいなんだろう。戸塚ヨットとか。

副会長:南出 喜久治

子宮頚がんワクチンについて、「完全永久不妊」を引き起こす「民族根絶やしワクチン」だと主張し、
子宮頸がんワクチンの危険性についての論文を掲載。これに対し、医師などから批判を受けている。

stmstm 2013/02/01 00:46 要は保守派の人は「体罰は部のパフォーマンスを上げるからやって良い」
と言ってるだけなんですよね。体罰を否定する人も、体罰を適宜使う指導者の
大会での成績が良くなる可能性は必ずしも否定しないと思います。

ただ、いくら指導に便利だからってやっちゃいけないことはやっちゃいけないだけで。

というか「種内攻撃は秩序維持に必要不可欠」なのであれば、同じように種内攻撃である体罰よりもいじめを原則、擁護して貰わないと困ります。指導手法の一環としての体罰はちょっと違う話じゃ名じゃないかと。

att460att460 2013/02/05 14:59 何処までの辞書をカバーできているか分かりかねますが、weblioでは「種内攻撃」という用語は見つからなかった。
http://www.weblio.jp/content/%E7%A8%AE%E5%86%85%E6%94%BB%E6%92%83

生物学用語辞典は含まれている模様
http://www.weblio.jp/category/academic/sbtgy

moorhenmoorhen 2013/02/07 07:37 個人的にツボなのは、ここ:

> 善悪は、理性で決するものではなく、固体と種族の本能(生命原理)に適合するか
> 否かによって科学的に決定されることを意味します。

では体罰の会の人々は「科学的に決定される」善悪で納得するのかと。
自分の善悪の基準でしか語ってないくせに、科学を僭称するところがイタイです。
偽の権威にすがる教育者なんて、醜いの一言。

「体罰の会」の文章には、こうもあります。

> 本能に忠実な人間以外の動物は、無益な殺生や虐待をしません。親殺し、子殺し、
> 夫殺し、妻殺しのような犯罪も犯しません。

NATROMさんのいうように動物は子殺しもするし、夫殺しもカマキリという著名な例があるので、彼らの主張は「科学的に」間違っていますけどね(そもそも群淘汰が間違いだし)。それで彼らは自分たちの考えを改めるのでしょうか?
「利己的な遺伝子」を読ませて感想が聞きたいですね。

antant 2013/02/20 08:11 安倍首相は体罰を否定してるみたいです。
>安倍首相「『体罰が伝統』は間違い。悪弊だ」 参院予算委
2013.2.19 12:38
ttp://sankei.jp.msn.com/politics/news/130219/plc13021912390008-n1.htm
別に首相が言ったからどうだ、と言うつもりもありませんが。
ただナンたらの会がどう反応するか。
アレは全面否定ではない、とか、どう屁理屈こね回すか少しだけ関心があるような無いような。

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