NATROMのブログ

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自覚症状のない発熱はありうる

エボラ出血熱の発生地であるリベリアに滞在後、羽田空港に到着した男性に発熱の症状が確認されたというニュースがあった(■リベリア滞在の男性 エボラウイルス検出されず NHKニュース)。ニュースによれば、「男性は体の不調は訴えていませんでしたが、到着時に検疫所で熱を測ったところ、37度8分の熱があった」とのことである。

ブックマークコメントに、37.8度の発熱があるのに体調不良などの自覚症状がないことがあるのだろうか、という趣旨のものがあった。このように疑問を表明していただくのはありがたいことである。医療従事者にとっては当たり前のことであっても、必ずしも一般の方にとって当たり前とは限らない。言ってもらわなければそこにギャップがあることになかなか気付けない。

多くの人にとって、体温を測るのは、何かしらの体調不良があるときである。だが、体調不良がないのに体温を測ることはめったにないのではないか。そのため、「体調不良がないけど体温が高い」ときがあったとしても認識されない。このことがバイアスとなり、「体調不良はないのに発熱しているなんてことがあるのだろうか」という疑問につながるのではないか。体調不良の有無に関わらず定期的に体温を測っていれば、「体調不良がないけど体温が高い」ことに気付くことができるだろう。

たとえば入院中の患者さんは、自覚症状の有無に関わらず、定期的に体温を測る。入院中とは言え、自覚症状のある方ばかりではない。検査入院中や外傷後のリハビリ中の方が、体温を測ってみたら熱があるのに自覚症状はない、なんてことはある。たいていは何もしなくても自然に熱は下がる。発熱の原因はよくわからないが一過性のウイルス感染かなにかだろうと思う。

慢性C型肝炎に対してインターフェロンという薬を使うが、発熱はほぼ必発である。典型的にはインフルエンザウイルスに感染したときのような副作用が出る。つまり、発熱、倦怠感(体がだるい)、関節痛、頭痛、食欲不振などである。インターフェロンにインフルエンザ様症状の副作用があるのは当然のことである。インフルエンザウイルスに感染すると内因性のインターフェロンが分泌されて自分の体自身がウイルスに対抗しようとする。一方で、慢性C型肝炎の治療においては、外部からインターフェロンを投与することによってウイルスに対抗するわけである。

さて、発熱と自覚症状の関係についてであるが、インターフェロン投与によって発熱したとしても、自覚症状の出方には患者さんによってさまざまだ。関節痛、頭痛といった副作用は全例に現れるわけではない。ぐったりとして食事も入らないようになる患者さんもいれば、38度以上の発熱があるのに何の自覚症状もないような患者さんもいる。インターフェロン投与に伴う発熱に伴う自覚症状には個人差がある。インターフェロン投与だけではなく、ウイルス感染による発熱においても個人差があると考えるのが妥当である。

なぜわざわざこのようなことを言うかというと、発熱には必ず自覚症状が伴うという誤解は、感染防御においてマイナス要因になりうるからである。今回報道された男性のケースで、誤解に基づいて「発熱があるのに自覚症状がないなんてありえない。検疫をすり抜けるために嘘をついたのだろう」といった的外れな批判が起こらないとも限らない。加えて、流行地から帰ってきた人がこうした誤解をしていると危ない。「何も自覚症状がないから、わざわざ体温を測らなくても大丈夫だろう」と勘違いするかもしれない。