NATROMの日記 RSSフィード Twitter

0000 | 01 | 02 | 03 | 04 |
0010 | 11 |
0011 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 11 |
0012 | 04 | 05 | 06 | 07 | 09 | 10 | 11 | 12 |
0013 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 11 |
0014 | 01 | 02 | 05 | 06 | 07 | 09 |
0015 | 05 | 06 | 09 |
0016 | 01 | 02 | 09 | 10 |
0017 | 01 | 03 | 05 | 10 | 11 |
2004 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2005 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2006 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2007 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2008 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2009 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2010 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2011 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2012 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2013 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2014 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2015 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2016 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2017 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
cover ■「ニセ医学」に騙されないために

 ホメオパシー、デトックス、千島学説、血液型ダイエット、ワクチン有害論、酵素栄養学、オーリングテストなどなど、「ニセ医学」についての本を書きました。あらかじめニセ医学の手口を知ることで被害防止を。

2015-11-27 乳がん検診の利益とリスクを図で説明してみる

[]乳がん検診の利益とリスクを図で説明してみる 乳がん検診の利益とリスクを図で説明してみるを含むブックマーク

がん検診には利益と不利益がある。利益は早期発見・早期治療によって、がんによる死亡や進行が減ることである。不利益は偽陽性や過剰診断などである*1。偽陽性は、実際にはがんではないのに「がんの疑いがある」と診断されることで、過剰診断は、将来死亡や症状を引き起こさないがんを診断されることである。偽陽性と過剰診断は異なる概念である。詳しくは■「過剰診断」とは何かで解説した。

偽陽性は、精密検査でがんでないと診断されるので、がんの治療まではなされない。しかしながら、余分な検査や精神的な不安を招く。過剰診断は、たいていはがんの治療を受けることになるので、不利益はさらに大きい。

あらゆる医療と同じく、がん検診を受けるべきかは、利益と不利益のバランスによって決まる。個人の価値観や個人的なリスク(家族歴など)にも左右されるが、平均的なリスクを持つ人たちに対するがん検診については、公的機関がガイドラインを発表している。現時点において、大腸がん検診と子宮頸がん検診は多くの国で推奨されている。胃がん検診と肺がん検診は日本では推奨されているが、諸外国ではそうでもない。甲状腺がん検診を推奨している国は一つもない。

乳がん検診は議論の的である。日本では40歳以上の女性が対象とされている。米国予防医学専門委員会(USPSTF)は50歳以上、米国がん協会(ACS)は45歳以上*2、米国産婦人科学会(ACOG)は40歳以上を乳がん検診の対象としている*3。傾向としては乳がん検診対象者の年齢は引き上げられてきている。言い換えれば、検診対象者の範囲は狭くなっている。がん検診の不利益について広く認識されるようになったことが理由の一つだろう。

乳がん検診の利益は、つまり乳がん検診が乳がん死を減らすことは、ほぼ確かである。「ほぼ」というのは、時代や国や検診対象者の範囲によって結果が変わりうるからである。乳がん検診に不利益があるのはきわめて確かである。問題は利益と不利益のバランスである。50歳以上では利益が勝る、39歳以下では不利益が勝る、40歳台は専門家の間でも議論がある、と考えておけばだいたいよろしい。

では、乳がん検診の利益と不利益は具体的にどれくらいか、みなさんご存知だろうか。たとえば、乳がん検診によってどれぐらい乳がん死を減らすことができるか?一人の乳がん死を減らすために何人の偽陽性や過剰診断が生じるのか?読者の中には、がん検診を受けた方もいらっしゃるだろう。そのとき、不利益についての説明を受けただろうか?たぶん、あまり説明されていないであろう。がんの治療をするときには、5年生存率はどれくらいで、合併症が生じる確率は何%か、ということはしばしば説明されるようになったのに。具体的な確率まで説明されないとしても、不利益について説明しないことはほぼありえない。がん検診についても、きちんとしたインフォームド・コンセントが必要だろう、という論調になりつつある。

その一環として、カナダ予防医療対策委員会(CTFPHC)が、一般向けに、乳がん検診の利益とリスクを説明した図を公開しているので紹介する。これはカナダ人に対するもので日本人集団には当てはまらない可能性があるのでご注意のこと。しかし、がん検診の利益と不利益についての「相場観」を知るには役に立つだろう。以下は、50歳から69歳までの女性(つまり多くの公的機関も検診を推奨している集団)に対して11年の間マンモグラフィーによる検診を2年に1回行って、一人の乳がん死を減らすために、何人が検診を受ける必要があるのか。何人が偽陽性とされ、何人が針生検を受け、何人が過剰診断されるのかを表している。



f:id:NATROM:20151128005434j:image

マンモグラフィーによる検診の利益とリスク(カナダ予防医療対策委員会)



円一つが女性一人を表す。マンモグラフィーでがんの疑いがあるとされ追加の画像検査を受けた人(偽陽性)は204人、生検を受けて癌ではなかった人は26人、紫丸f:id:NATROM:20151128005437j:imageが不必要ながん治療を受けた人(過剰診断)で4人、茶丸f:id:NATROM:20151128005438j:imageが検診によって乳がん死をまぬがれた人で1人である。この1人の乳がん死を減らすために720人が乳がん検診を受ける必要があるわけだ。

ちなみに、図示されていないが、検診を受けても乳がんで死亡する人は720人中約3.7人である。検診による相対リスク減少は21%、相対リスク比は79%である。検診によってがん死を2割減らすことができるとも言えるし、検診を受けても(検診なしでがんで死ぬはずだった人の)8割はがんで死ぬとも言える。

いかがだったろうか。もちろん、研究によってこれらの数字は変わるが、「相場観」としてはだいたいこんなものである。乳がん検診はがん死を半分にも減らせないし、予防できるがん死よりも多くの過剰診断を引き起こすし(この例では4倍)、偽陽性はさらにたくさん起こる。カナダ予防医療対策委員会や他の公的機関は、これぐらいの不利益は許容範囲内だと考えているわけである。

稀に誤解している人がいるが、誤診や不適切な治療が過剰診断を生み出すのではない。微小ながんまで見つけて治療するから過剰診断が起こるわけではない。検診で発見されたがんは、診断時点で過剰診断かそうでないか判断する方法はない。ガイドラインを遵守しても、治療対象に過剰診断されたがんが含まれてしまうのだ。過剰診断を恐れて治療を手加減したら、今度は助かるはずのがんを治療しないことにつながる。

また、私には不思議でならないのは、ワクチンについては「健康な人へ接種するのだから高い安全性が必要だ」などと言って、ワクチンとの因果関係が必ずしも明らかでない有害事象も問題視する人が、同じく健康な人が対象のがん検診の不利益については、因果関係が明確であってもあまり問題視しないことである。患者のQOLや後遺症を無視しているのだろうか。

今後、乳がん検診の推奨基準は変更される可能性がある。とくにカナダでは。2014年にカナダから「40歳から59歳の女性に対するマンモグラフィーによる乳がん検診は、通常の胸部診察と比較して、乳がん死を減らさない」という研究が発表された*4。「ギリギリで有意差が出なかった」とかではなく、ほとんど差がなかった。ハザード比で0.99、95%信頼区間は0.88から1.12であった。この研究のみで乳がん検診の推奨が取り消されるとは限らないが、次のガイドラインの改定では、より弱い、より範囲の狭まった推奨になるだろう。



関連記事

■がん検診による絶対リスク減少はどれくらい?

キリンキリン 2015/12/01 02:01 マンモグラフィーの検査を受けたことがあります(というか、受けさせられます)が、ものすごく痛いので、できれば受けたくないです。あの痛みだけでも「不利益」だと常々思ってます。

でも、このごろやたらとテレビ等で乳ガン撲滅キャンペーンとかやってますね。
乳ガンで死なないために、検査を受けましょうって。
どうして効果がはっきりしないのに、あんなにマンモグラフィーの検査を勧めてるんでしょう?

NATROMNATROM 2015/12/01 08:46 キリンさん、コメントありがとうございました。乳がん検診については、効果ははっきりしているほうなんです。乳がん死を減らすという効果があります。ただ、その効果の大きさや、デメリットについて、十分なインフォームドコンセントが行われていないというのが、問題なんです。

なぜあんなに推奨されているのか、という点については、私も疑問に感じます。推奨している人たちのほとんどが「乳がん死を減らしたい」という善意によるのであろうとは思います。

nn 2015/12/01 19:33 この絵の丸の数を数えていたのですが、明らかにグラフか数字かのどっちかが間違っていませんか…w まあ「相場観」というだけなら別に違和感もないですが。
検診受けるだけで乳癌が撲滅できるかとでも考えている人がわりと大勢いるので、こういう「常識的な相場観」を見せるのは非常に有意義だと思います。
ところで、肺癌はNLST試験の後にわりと一気に海外も検診推奨の方向に傾いた(けど「費用が高い」という別のファクターのせいでなかなか普及はしてない)という感じかなと思っています。
http://www.cdc.gov/cancer/lung/pdf/guidelines.pdf

NATROMNATROM 2015/12/01 20:40 >この絵の丸の数を数えていたのですが、明らかにグラフか数字かのどっちかが間違っていませんか…w 

…ホントだ。ご指摘ありがとうございます。たぶん、"204 women would experience a false positive mammogram requiring further imaging"の204人は、(初回検査陽性で画像検査は受けたが生検に至らなかった人:青丸)+(画像検査および生検まで受けたが治療は受けなかった人:黒丸)?。

"26 of these women would have a biopsy, all to confirm that they do not have breast cancer"の26人は、(画像検査および生検まで受けたが治療は受けなかった人:青丸)+(過剰診断:紫丸)です。ブログの不正確な記述は訂正しました。

原文は、
http://canadiantaskforce.ca/ctfphc-guidelines/2011-breast-cancer/risks-and-benefits-age-50-69/

PDFは、
http://canadiantaskforce.ca/files/guidelines/2011-breast-cancer-risks-and-benefits-age-50-69-en-1.pdf

です。

たけおたけお 2015/12/05 04:30 すみません、理解力のない愚か者の質問に答えてくださいませ。
診断されていない、自覚症状のない甲状腺がんを患っている、それ以外には健康な人をAさんとして、
そのAさんが交通事故でなくなったとします。
このとき、仮にAさんが甲状腺ガンだと診断されていれば、それは過剰診断にあたるのでしょうか?

NATROMNATROM 2015/12/05 11:38 たけおさん、コメントありがとうございました。

>診断されていない、自覚症状のない甲状腺がんを患っている、それ以外には健康な人をAさんとして、
>そのAさんが交通事故でなくなったとします。
>このとき、仮にAさんが甲状腺ガンだと診断されていれば、それは過剰診断にあたるのでしょうか?

典型的な過剰診断にあたります。

甲状腺がんに過剰診断が多いと考えられている理由の一つが、他の原因で死んだ人を解剖して甲状腺を調べてみると、結構な割合(数十%)でがんが見つかることです。

tsuyoshitsuyoshi 2015/12/05 17:10 まあ、明確に過剰なのは、それはそれで困るってのはありますね。

過剰にならないタイプ(スクリーニングして、出た結果は基本治療が推奨できるような病気で年齢とかで発症数から考えると全員検査でも妥当なの)とか、治療が「明日は念のため寝とけ」くらいの治療がデメリットになりにくい、とかだったらそれはそれでアリなわけだし、それも疫学というか予防なのですが...

後からでも過剰と明確になったら、もうちょっと調整が効いてほしいところはあるな。

あと、コメントの上記の例(甲状腺癌)だと、もっと直接的かつ悪性の高い、が自覚症状のないもの(膵臓癌とか?)だとまた別の話になるってのはありますね。

# というか甲状腺癌はなにと組合せても過剰診断の話とも繋ってしまう(もちろん適切な治療が必要なこともある上で)ので、説明にはいいがちょっと例示には向いてない感

2015-11-20 スクリーニング効果の定義

[]スクリーニング効果の定義 スクリーニング効果の定義を含むブックマーク

ややこしい話になるので、まずは結論から書く。「スクリーニング効果」の定義には混乱があり、過剰診断を含む意味で使う論者もいれば、過剰診断を含まない意味で使う論者もいる。最近では、過剰診断を含まない意味で使われることが多くなった。今後は、スクリーニング効果という用語は過剰診断を含まない意味で使うのがスタンダードになると思われる

検診(スクリーニング)を行うと、診断される病気の数は増える。具体的な事例で説明したほうがわかりやすい。余計な議論を呼ばないように、ある高齢者集団に前立腺がん検診をしたとしよう。検診前はその集団の前立腺がんの罹患率は1年間で10万人中20人であった。この20人はすべて前立腺がんによる症状がきっかけで診断されていた。ところが前立腺がん検診を行うと、自覚症状から診断される20人に加え、10万人中80人の前立腺がんが発見された。検診前と比較して、罹患率は20人/10万人年から100人/10万人年の5倍に増えた。

「前立腺がんが増えるような、何か環境要因の悪化があったに違いない」と思う読者はいないだろう。病気の真の増加がなくても、検診を行えば診断される病気の数は増えるに決まっている。ただ、ここで問題になるのが、検診によって増えた分のうち、将来死ぬまで前立腺がんによる症状を呈さない人もいれば、何年か先に前立腺がんによる症状が出る人を前倒しして発見された人もいることである。

将来死ぬまで前立腺がんによる症状を呈さないことを「過剰診断」、何年か先に前立腺がんによる症状が出る人を前倒しして発見することを「前倒し」と呼ぶことにする。「過剰診断」についてはこの意味で使われることがスタンダードになりつつある(参考:■「過剰診断」とは何か)。「前倒し」はここだけの便宜的な呼び名である。

過剰診断と前倒しの区別は検診の有効性を評価するために重要である。過剰診断が多ければ、診断に伴う不安や不必要な治療という不利益が大きくなる。前倒しが多ければ、早期発見による死亡例や進行例の減少が期待できるし*1、少なくとも「どうせそのうち症状を呈するはず」の疾患への治療介入は過剰診断よりもずいぶんましである。

また、過剰診断と前倒しを合わせて、見かけ上の罹患率上昇を表す言葉も必要である。罹患率の上昇が見かけ上のものなのか、それとも病気の真の増加を反映したものなのか、議論になる場合もある。たとえば、福島県における小児の甲状腺がんがそうだ。ここで、スクリーニング効果という用語が異なる定義で使用されており、混乱の原因となりうる。まずは、過剰診断と前倒しを区別せずに「スクリーニング効果」としている例。山下俊一氏。




■福島県における小児甲状腺超音波検査について(山下俊一氏)

■「スクリーニング効果」の懸念

  全県下の子どもたち、約36万人もの規模に対する小児甲状腺超音波検査を、診断精度が高い最新の超音波検査機器を利用し、さらに国内の専門家が協力して行うような体制整備は、まさに世界でも初めての経験でした。

  このため当初から、医療界ではよく知られたスクリーニング効果(それまで検査をしていなかった方々に対して一気に幅広く検査を行うと、無症状で無自覚な病気や有所見〈正常とは異なる検査結果〉が高い頻度で見つかる事)の発生が懸念されていたことを、まずお伝えしておきます。

スクリーニング効果の定義はここでは「それまで検査をしていなかった方々に対して一気に幅広く検査を行うと、無症状で無自覚な病気や有所見〈正常とは異なる検査結果〉が高い頻度で見つかる事」となっている。過剰診断か前倒しかの区別はなされていない。

次に、スクリーニング効果を、過剰診断とは別に、前倒しに限った例。津田敏秀氏および津金昌一郎氏。



■Fukushima Voice version 2: 岡山大学・津田敏秀教授 日本外国特派員協会での記者会見の動画と読み上げ原稿(津田敏秀氏)

この分析により、福島県内では、事故後 3 年目以内に数十倍のオーダーで事故当時18 歳以下であった県民において甲状腺がんが多発しており、それはスクリーニング効果や過剰診断などの放射線被ばく以外の原因で説明するのは不可能であることが分かりました。これまでの議論から拝察しますと、スクリーニング効果というのは「後にがんとして臨床的に診断されるいわば『本当のがん』がスクリーニングにより2-3 年早く見つかること」で、過剰診断というのは、「一生がんとして臨床的に診断されることのないがん細胞の塊、いわば『偽りのがん』がスクリーニングによりがんとして検出されてしまうこと」のようです。多くの議論はこの2者が区別されずに単に「スクリーニング効果」として主に後者を意識されて呼ばれているようです。

「スクリーニング効果」を「後にがんとして臨床的に診断されるいわば『本当のがん』がスクリーニングにより2-3 年早く見つかること」として、過剰診断を含んでいないことを明確にしている。過剰診断を含んだ意味において「スクリーニング効果」という用語が使用されることがある点についても触れられている。



■福島の子ども、甲状腺がん「多発」どう考える 津田敏秀さん・津金昌一郎さんに聞く:朝日新聞デジタル(津金昌一郎氏)

 日本全体の甲状腺がんの罹患(りかん)率(がんと診断される人の割合)から推計できる18歳以下の有病者数(がんの人の数)は福島県の場合、人口から見て2人程度。実際にがんと診断された子どもの数は、これと比べて「数十倍のオーダー(水準)で多い」とは言える。

 数年後に臨床症状をもたらすがんを前倒しで見つけているという「スクリーニング効果」だけでは、この多さを説明できない。現時点では放射線の影響で過剰にがんが発生しているのではなく、「過剰診断」による「多発」とみるのが合理的だ。

「スクリーニング効果」を「数年後に臨床症状をもたらすがんを前倒しで見つけている」としており、過剰診断を含んでいないことは明確である。

津田敏秀氏と津金昌一郎氏は意見は対立しているが、「スクリーニング効果」という用語を過剰診断を含まない意味で使用している点は共通している。また、福島県の小児の甲状腺がんの事例が、前倒しだけでは説明できない点についても意見は一致している。津田敏秀氏は(被曝なしでも将来発生した分の)前倒しだけではなく原発事故の影響で真の病気の増加があるという立場で、津金昌一郎氏は前倒しだけではなく過剰診断があるという立場である。

「スクリーニング効果」という用語が、過剰診断を含むのか、それとも含まないのか。教科書や公的なサイトを調べてみたが、明確な定義は発見できなかった。ただし、私の調べ方が甘かっただけかもしれない。もし、何か情報をご存知の方はいらっしゃれば教えていただけるとありがたい。

そもそも"screening effect"で上位に検索できるWikipediaの記述は、どう見ても疫学とは無関係の物理学の用語である。同様にPubmedで"screening effect"で検索しても、物理学用語の「スクリーニング効果」がかなり混じってくる。検診に関係する論文であっても、"healthy screening effect"(もともと健康に気を使う人のほうがより多く検診を受ける傾向があること。「選択バイアス」と呼ぶほうが一般的だと思う)のことであったりする。検診の有効性(検診によってがん死が減ること)を"screening effect"と呼ぶ事例もあった。

現時点では「スクリーニング効果」の定まった定義はないと私には思われる。論者によって過剰診断を含んだり、含まなかったりするが、どちらかが間違っているというわけではない。「スクリーニング効果」という用語を使用するときには、誤解を招かないよう、あらかじめ定義をはっきりさせておいたほうが良いと思う。津田敏秀氏と津金昌一郎氏が過剰診断を含まない意味で「スクリーニング効果」という用語を使用していることから、今後はこの意味で用語が定着するのではないかと、私は推測する。



2016年10月29日追記

■第19回がん検診のあり方に関する検討会(2016年9月23日) |厚生労働省において、祖父江構成員によって、「前倒し」「スクリーニング効果(狭義)」と同じ意味で「先取り効果」という言葉が使われている。誤解を招きにくいため、「先取り効果」という用語のほうが望ましいかもしれない。



外部リンク

■甲状腺がんのスクリーニング効果は過剰診断を含むの?含まないの? - Togetterまとめ スクリーニング効果の定義の混乱について、いち早く指摘されている。私が知る限り一番最初の指摘である。



関連記事

■「有病割合≒罹患率×平均有病期間(D)」という式の適用可能性

■検診で発見された腫瘍のサイズ分布だけでは過剰診断分を推定することはできない

*1:なお、前倒しによる早期発見は有害なアウトカムを減少させる必要条件であって十分条件ではない

shinzorshinzor 2015/11/21 06:22 朝日の記事を読んだときモヤモヤした理由が分かりました。

ublftboublftbo 2015/11/21 20:02 今晩は。

▼ 引  用 ▼
もともと健康に気を使う人のほうがより多く検診を受ける傾向
▲ 引用終了 ▲
この概念に関係しそうな選択バイアスについてですが、『しっかり学ぶ基礎からの疫学』では「志願者バイアス」(volunteer bias)、『ロスマンの疫学 第2版』では、「予後選択バイアス」(prognostic selection bias)というのが紹介されていました。

(==;(==; 2015/11/26 13:09 がん疫学業界では、がん検診の効果とは「そのがんを死因とする死亡率の減少」であり、
スクリーニングによる罹患率の上昇は、単純に「スクリーニングによる罹患率の上昇」でしかありません。
当然、「スクリーニング効果」に「過剰診断を含む罹患率上昇」は含まれません。
参考:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedhealth/PMH0032633/

2015-11-10 甲状腺がん検診でPECOを学ぼう

[][]甲状腺がん検診でPECOを学ぼう 甲状腺がん検診でPECOを学ぼうを含むブックマーク

成人、小児に限らず、甲状腺がん検診が、がん死や有害なアウトカムを減少させるという臨床的証拠は存在しない。むしろ、観察研究によれば成人に対する甲状腺がん検診はがん死を減少させないという証拠すらある(■韓国における甲状腺がんの過剰診断)。甲状腺がんに限らず、がん検診の有効性についての議論を追っかけていれば、この辺りは常識に属することがわかるだろう。

ところが、cyborg001さんから「(甲状腺がん検診が、がん死やそのほか有害なアウトカムを減らすという)臨床的証拠は存在しています」とのツイートがあった*1。なぜcyborg001さんが間違ったのか、解説することは無駄ではないと思う。


甲状腺がん検診の有効性を示す「臨床的証拠」とは?

cyborg001さんの提示する根拠は以下である。

f:id:NATROM:20151110155404j:image

https://twitter.com/cyborg0012/status/649062853912035328 より引用。


慣れていれば、調べなくてもcyborg001さんの主張のどこがおかしいかがわかる。たとえば、累積死亡率のグラフが30年後まであるのはおかしい。30年前は超音波による甲状腺がん検診は一般的ではなかった。起点が治療というのも、検診の有効性を議論しているにしては変だ。がん検診の有効性を評価したいのであれば、検診を受けた人と、検診を受けなかった人を比較しなければならない。起点は検診を受けた時点のはずである。


累積死亡率のグラフは捏造である

よって、このグラフは、甲状腺がん検診の有効性でなく、何か別のものを表していると考えた。確認するために、Chung, 2014*2を参照したが、驚くべきことに、Chung, 2014にはそのようなグラフは存在しなかった。

よく見ると「概念図」とある。どうやら「30年間の癌死亡率を2倍以上増加させる」という文章からcyborg001さんが自分でグラフを「作成」したらしい。10年目や20年目の数値をcyborg001さんはどうやって知ったのだろうか。あるいは30年目であっても、「2倍以上」以外の情報はあったのだろうか。そうした情報がないのにこのようなグラフを描いたとしたら、これは「作成」ではなく「捏造」である


何が30年後の癌死亡率を増加させたのか?

これだけでもcyborg001さんの主張が信頼に値しないことを示すのに十分であるが、「30年間の癌死亡率を2倍以上増加させる」についても解説をしておこう。訳の部分を読めばおおよそ推測できるが、Mazzaferri, 1999*3にあたってみた。

思った通り、がんの死亡率の増加は検診をしないことに由来するものではなかった。すでに甲状腺がんの治療を受けた患者のうち、放射性ヨウ素によるスキャンで再発を発見された人と比較して、臨床的徴候によって再発を発見された人はがん死亡率が2倍になるという話である*4

1999年のさらに30年以上も前は、まだCTスキャンは実用化されていない。当時、放射性ヨウ素によるスキャンが甲状腺がんの再発を早期に発見し、治療成績の改善に寄与したというのは十分にありそうな話である*5。しかし、健康な人を対象とした超音波による甲状腺がん検診の有効性については何も言えない。


論文を読むときにはPECOを意識しよう

EBM(evidence based medicine:根拠に基づいた医療)の基本の一つが、PECOである。それぞれ、P(patient:どのような患者に)、E(exposure:何をすると)、C(comparison:何と比べて)、O(outcome:どうなるか)を表す。PECOは臨床における疑問を整理するのに役に立つ。たとえば、甲状腺がん検診の有効性についての疑問を整理するとこうなる。


P:自覚症状のない成人に対して

E:超音波による甲状腺がん検診を行うと

C:検診を行わなかった場合と比較して

O:甲状腺がんによる死亡や有害なアウトカムが減少するか?


現在のところ、甲状腺がん検診やがん死や有害なアウトカムを減少させるという臨床的証拠はないばかりか、甲状腺がん死を減らさないという観察研究があるのは既に述べた。この主張に対してcyborg001さんが持ち出してきた「臨床的証拠」は、


P:甲状腺乳頭がん治療後の患者が

E:放射性ヨウ素によるスキャンによって早期に再発が発見されると

C:臨床的徴候によって再発が発見された場合と比較して

O:甲状腺がんによる死亡が減少する


という、的外れなものであった。EBMについての基本を学ぶと、こうした誤りに陥らずに済む。

PECOを使って臨床的疑問を定式化することは、「ニセ医学」だけではなく、慣行医療におけるグレーゾーンを判別するのに役立つ。たとえば、「この薬を飲むと血中LDLコレステロールが低下することが臨床試験で証明されました」という製薬会社の主張に対し、

  • 「どういう患者が対象か?単に血中LDLコレステロールが高い人?それとも、LDL以外にも心血管疾患のリスクを持った人?それとも、心筋梗塞を発症したことのある人が対象?」
  • 「血中LDLコレステロールを低下させるというが、心血管疾患の発症や死亡を減らすことはできるのか?」

といった疑問を持つことができる。二つほど「外部リンク」として、PECOを解説したページを紹介する。PECOを意識することで、論文をより批判的に吟味できるようになるだろう。



外部リンク

■《121》 「ピコ」って知っていますか? - これって効きますか? - アピタル(医療・健康)

■Blogger版 地域医療の見え方: EBMの入り口


関連記事

■「ニセ医学」についての本を書きました

■韓国の最近の甲状腺がん死亡率の推移

*1:URL:https://twitter.com/cyborg0012/status/663902437300813824、「甲状腺がん検診が、がん死やそのほか有害なアウトカムを減らすという臨床的証拠はない」という私のツイートに対するリプライとして

*2■Unfounded Reports on Thyroid Cancer

*3■An overview of the management of papillary and follicular thyroid carcinoma.

*4:"Mortality rates are lower when recurrences are detected early by radioiodine scans rather than by clinical signs."

*5:細かいことを言えば、ランダム化比較試験でない限り、「放射性ヨウ素によるスキャン群においては、治療介入をせずとも臨床症状を呈さない人も含まれるがゆえに予後が良好に見える」等のバイアスの可能性は否定できない

mushimushi 2015/11/10 22:23 この手の「グラフ捏造」は、特にネットではいろいろな分野で見られますが、なかなかに面倒な問題ですよね。
捏造する側は適当に作ればいいので大した手間はかからない。捏造を指摘する側は、「捏造っぽいけどどこかに出典があるかもしれないしなあ・・・」と考えると、いろいろ検証せざるをえず、手間がかかります。
そういう不均衡をなくすためにも引用元を明記することが重要なわけですが、そういう意味ではまだcyborg001さんはまだマシなほうかもしれませんね。間違った意味ではあるものの、いちおう引用元は示しているので。

それにしても、「甲状腺がん検診はそこまで意味がないかもね」という結論を、なぜここまでして否定したがるのだろう?

kuching_tidurkuching_tidur 2015/11/11 10:24 人を脅かすと空から小判でも降ってくるんでしょう。
ところで、医療の裏側を描いた社会漫画「教えて!ブラックジャック先生」(たしかそんなタイトル)もずいぶんいろんな事いってましたが、確かこんなことも言ってましたね。
「人間は治療しようがしまいが誰でも100%死ぬ。だったら医療というのは死への恐怖を金に替える商売といえないか」
一方の極論ではあるけど間違ってはいないんでしょう。
どこに立ってどっちを向くかで、なにが医療に含まれるかっていうのは変わってくるんでしょうね。
で、っていう(

motoyama3kaomotoyama3kao 2015/11/12 03:45 義務教育内では自分の意見が間違っているか正しいか、それはなぜそう言えるか。
そんなことをみっちりやらないので、自分の主張をちゃんと精査するっていう発想自体がなかったり、あっても中途半端だったりするんでしょう。
大学の理系なら研究室である程度叩き込まれるかもしれませんが。
一番厄介なのは、ロジカルに考えることができない、かつ、長文でまとまらない文章で意見を主張している人たち。
彼らとは議論がかみ合わないので、相手にしてしまうと第三者にはどちらがバカかわからなくなるという。格言の通りだと思います。

counterfactualcounterfactual 2015/11/15 21:24 あちらの方々は、手術で死ぬこともあるし、手術で死ななかったとしてもその後の生活の質が下がったり、寿命が短くなることもあるということが理解できない様子。検診で早期発見し手術しても、その病気による死亡率が下がらないなら、その検診には意味がないどころか、有害であるのに。
無意味な手術をしてQOLが下がってしまった気の毒な人々など関心はないのだろうね。