NATROMの日記 RSSフィード Twitter

0000 | 01 | 02 | 03 | 04 |
0010 | 11 |
0011 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 11 |
0012 | 04 | 05 | 06 | 07 | 09 | 10 | 11 | 12 |
0013 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 11 |
0014 | 01 | 02 | 05 | 06 | 07 | 09 |
0015 | 05 | 06 | 09 |
0016 | 01 | 02 |
2004 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2005 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2006 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2007 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2008 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2009 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2010 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2011 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2012 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2013 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2014 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2015 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2016 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 |
cover ■「ニセ医学」に騙されないために

 ホメオパシー、デトックス、千島学説、血液型ダイエット、ワクチン有害論、酵素栄養学、オーリングテストなどなど、「ニセ医学」についての本を書きました。あらかじめニセ医学の手口を知ることで被害防止を。

2016-02-24 肝臓洗浄(レバーフラッシュ/肝臓デトックス)は本当か?

[][]肝臓洗浄(レバーフラッシュ/肝臓デトックス)は本当か? 肝臓洗浄(レバーフラッシュ/肝臓デトックス)は本当か?を含むブックマーク

「肝臓洗浄」とは肝臓や胆のうにある胆石を排出させ、肝機能の改善など効果をうたう民間療法です。「レバーフラッシュ」とか「肝臓デトックス」とか呼ばれることもあります。肝臓洗浄にはいろんなやり方があるようですが、典型的には空腹時にオリーブオイル、グレープフルーツジュース、エプソムソルト(硫酸マグネシウム)、水を特定の手順で飲みます。その後体から出てきた排泄物(要するにウンコ)をザルで濾すと、大小さまざまな緑色の「胆石」が大量に得られるというのです。"liver flush"(レバーフラッシュ)で画像検索すると写真を見ることができます。

残念ながら肝臓洗浄はインチキです。確かに胆道は十二指腸に開口していますので、小さな胆石であれば胆道から腸管を通って排泄されることはあります。しかし、肝臓洗浄で出てくるような2-3 cmもの「胆石」は通常は胆道を通りません。また、一度にこれほど大量の「胆石」が排泄されることはありません。もし肝臓洗浄がインチキでないとしたら、それを医学的に証明するのは簡単です。肝臓洗浄によって出てきた「胆石」を調べて、本当に胆石であると示せばよいのです。あるいは、肝臓洗浄前後で腹部エコーで胆石が減るかどうかを比較すればいいのです。しかし、肝臓洗浄にはそのような医学的証拠はありません。

肝臓洗浄が神話に過ぎないことを証明した論文もありますのでご紹介します*1。ニュージーランドのワイカト病院に、脂っこいものを食べた後に右上腹部が痛む40歳の女性が紹介されてきました。腹部エコー検査を行ったところ、径1-2 mmの胆のう内胆石が認められました。症状も年齢性別も胆石症としては典型的です。ただ、この患者さんには一つだけ特別な点がありました。この患者さんは最近「肝臓洗浄」を行ったのです。そして直腸を通過した(要するにウンコに混じっていた)緑色の「胆石」を持参して医師に見せました。

医師たちがその「胆石」を調べたところ、本物の胆石にはあるはずの結晶構造がなく、また、本物の胆石の構成成分であるコレステロールやビリルビンやカルシウムを含みませんでした。また、この患者さんが肝臓洗浄に使ったのと等量のオレイン酸(オリーブオイルの主成分)とレモンジュースに少量の水酸化カリウムを加えると、「胆石」と似たような白い球状の物体ができました。つまり、肝臓洗浄後に排泄物に混じって出てきた「胆石」は、本物の胆石ではなく、肝臓洗浄に使ったオリーブオイルとレモンジュースがお腹の中で消化液と混じって固まってできたのです。緑色だけは胆汁由来なのでしょう。この患者さんの本物の胆石は、普通に手術で除去されました。論文には、肝臓洗浄による「胆石」と、本物の胆石(コレステロール胆石)の写真が載っています。

f:id:NATROM:20160224174101j:image

上が肝臓洗浄後に排泄された「胆石」

下が外科的に切除された胆のうに入っていたコレステロール胆石

Sies CW and Brooker J, Could these be gallstones?, Lancet. 2005 Apr 16-22;365(9468):1388. より引用

本物の胆石を見たことがなくても、ちょっとだけ頭を使えば肝臓洗浄がインチキであることがわかります。そんなに簡単に胆石を取り除くことができるのなら、なぜ病院で肝臓洗浄をしないのでしょうか?手術せずに胆石を取り除ける可能性が少しでもあるなら、多くの医師が試してみるはずです。実際のところ、肝臓洗浄はインチキであることが明白過ぎるので、まともな医療従事者は相手にしていません。



関連記事

■平沢進と物質X(ミラクルミネラルソリューション)

*1:Sies CW and Brooker J, Could these be gallstones?, Lancet. 2005 Apr 16-22;365(9468):1388. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15836886

てすとてすと 2016/02/24 22:42 こういう民間療法を医師の観点から説明してくださるととても勉強になります。
ところで、今やっている医療ドラマではガンが疑われる患者の治療方針を医師が集まる場で決めるシーンをやっていました。そこで、ガンかどうかを確定するために他の検査をしてから治療する派と転移のリスクが考えられるため追加検査はせず投薬治療を開始する派と意見が2つに分かれていましたが、転移だった場合の責任を考え投薬治療を開始するという方針に決まっていました。
私が患者の立場なら検査をしてからガン治療に移っていただきたい。それが本当にガンだとして転移してしまったとしても自身の責任として受け入れたいと思うのです。
そこで、質問なのですが、現在このような治療方針が分岐しうる場合、患者が方針を決定することは難しいのでしょうか?お時間に余裕がある時にでもお返事いただけると幸いです。

NATROMNATROM 2016/02/25 00:11 >現在このような治療方針が分岐しうる場合、患者が方針を決定することは難しいのでしょうか?

難しくありません。普通は、医師から説明を受け、患者さんが方針を決定します。患者さんに説明しなかったり、患者さんの意思を無視した治療をしたりしたて結果が思わしくなかったら、医師は責任を追及されます。訴訟になることもあります。医療機関によっては説明に十分な時間を取れなかったりすることもあり、必ずしも理想通りとはいきませんが、たいていはまあまあそこそこの説明はされるはずです。

その医療ドラマの例で行くと、「ガンかどうかを確定するために他の検査をしてから治療する」方針のメリットとデメリット、および、「転移のリスクが考えられるため追加検査はせず投薬治療を開始する」方針のメリットとデメリットをそれぞれ患者さんにご説明し、患者さんの意思決定を支援します。インフォームドコンセントというやつです。

実際には「私にはようわからんから先生に全部お任せします」という患者さんもいらっしゃいますので、医師が集まる場(「カンファレンス」と言います)で治療方針が決まってしまうこともありますが、それでも普通は説明および治療方針への同意を取ります。

岩井岩井 2016/02/25 01:44 はじめまして。
先生のご本の、「愛」の字がつくほどではないけれど、それでも、わりと真剣な読者です。分からないことがありまして、質問させていただきます。

かなり昔ですが、背中に激痛の発作があり、胆石(ビー玉大だったとか)ということで手術した親族がおりました。なので、その時から、胆石と聞くと激痛があるのだろうと理解していて、どんなものかと疑問に思っていました。本記事で示された胆石の写真を拝見すると、わりと小さいものもあるのですね。

そこで質問なのですが、激痛発作を起こす胆石の、大きさの目安といったものはあるのでしょうか?  それから、胆石を見つけるいい方法といいますか、簡便な方法はありますでしょうか?

といいますのは、胆管が詰まってパンクしそうになって痛む、ということなら機序が分かりやすいのですが、記事で示された画像を見る限り、胆管を塞いでしまうほどの大きさではない胆石もあるように思えてなりません(いえ、胆管の太さなんて、ぜんぜん知らないのですけれど)。実際には、胆石が単体で胆管を塞いでしまうこともあるでしょうし、大小こき混ぜた胆石がひとかたまりになって胆管の流れを阻害することも、可能性としてはあると思います。

で、そういう現象を引き起こす胆石の大きさが知りたくなった、というわけです。もちろん、それを教えていただいたからといって、自分で胆石の大きさをコントロールなんて、きっとできないのですけれど、もし、胆石をなにかの検査のついでにでも、早期に見つけられれば、激痛発作を起こさないで済むのかな? とも思いましたもので…。

以上です。
ご教示くだされば、幸いです。

NATROMNATROM 2016/02/25 17:16 岩井さん、コメントありがとうございました(言い忘れていましたが、てすとさんも、コメントありがとうございました)。臨床の現場では医師は忙しいし、患者さんは遠慮して聞きたいことを聞けないということがあります。こうして質問していただければ、時間があるときにゆっくり回答できますし、お答えするにあたって知識を再確認するきっかけにもなります。


>激痛発作を起こす胆石の、大きさの目安といったものはあるのでしょうか?

どのような大きさの胆石であっても、腹痛を起こすことがあります。数ミリ程度の石で、最終的には十二指腸へ自然に落ちるとしても、胆管内を引っかかりながら通過していくときに痛みが生じるのでしょう。むしろ、ある程度の大きさがあったほうが、胆のうから胆管へ入り込まず症状を起こしにくいかもしれません。


>それから、胆石を見つけるいい方法といいますか、簡便な方法はありますでしょうか?

検査機器を使わずに胆石があるかどうかを判断するのは難しいと思います。「脂っこいものを食べた後に右上腹部が痛む」という症状があれば、胆石がある可能性が高いとは言えます。医療機関に受診していただければ、腹部エコー検査を行えば胆石の有無は比較的簡単にわかります。

胆石を持っているけれども症状がない人はけっこうたくさんいます(人口の数%〜十数%)。「無症候性胆石」と言います。無症候性胆石のうち、将来なにか症状を引き起こすのは20%ぐらいだと言われています。つまり、症状がないけれどもエコーで胆石があると診断された人の80%は「過剰診断」ということになります。

無症候性胆石に対しては治療をしないほうがいい、というのが現在のコンセンサスです。がんのように放っておいたら進行して手遅れになるような病気ではなく、何か症状が出てから治療すればいい、というわけです。よって、症状がないのに胆石を心配してエコー検査を受ける必要はありません。もちろん、気になる症状があれば医療機関に相談してください。

てすとてすと 2016/02/25 23:51 やはり創作物だからこその展開だったのですね。安心しました。
最近では元銀行員が銀行を舞台にした物語を書くなど、ストーリーを作る方も現場の事情に詳しい可能性があるのでモヤモヤしていました。
こちらこそ、お忙しい中お返事いただけて嬉しいです。ありがとうございます。

あ 2016/02/28 01:33 このような事実が明白ではなかったから論文が出たのでは?
はてなブックマークのように大多数が否定したから真実みたいな思い込みは第二のSTAPの始まりと思う。三人市虎を成す
ともあれデマの確率が高いと分かり参考になりました
もともと試す気なかったけど

NATROMNATROM 2016/02/28 14:11 >このような事実が明白ではなかったから論文が出たのでは?

いいえ、違います。肝臓洗浄がインチキであることは明白なのは、著者らも査読者も編集者も論文を読む人たちもわかった上でのことです。


>はてなブックマークのように大多数が否定したから真実みたいな思い込みは第二のSTAPの始まりと思う。

もちろん、「大多数が否定したから(「肝臓洗浄はインチキだ」という主張は)真実みたいな思い込み」は危険です。しかしながら、肝臓洗浄については、大多数が否定しなくても、というかこれまで誰一人として否定しなくても、ある程度の医学知識がある人が見ればインチキであることは明白なのです。この点が、STAP細胞の話とはまったく異なります。

uchitode2014uchitode2014 2016/02/28 16:55 >「胆石」と似たような白い球状の物体
消化器を通るときに、傷つけてしまいそうです。

岩井岩井 2016/03/09 20:09 痛みなどの症状がないときは心配せず、「無症候性胆石に対しては治療をしないほうがいい」とのこと。分かりやすいご説明を、ありがとうございました。

6年前の深夜、左の腕から上行して胸にまで、正座したあとのようなじんじんする痺れを感じ、救急車で病院に行きましたら、時間外でCTやMRIは撮れないものの、脳梗塞だとの診断。発症からは3時間以内でしたが、t-PAは副作用が心配だと言われ、結局、浮腫を抑えるだけの治療を選択しました。現在も左半身に運動・感覚とも、ラクナ梗塞による軽い麻痺が残っていまして、あのときt-PAを使っておれば或いは…と考えることもありますが、「一病息災」というか、後遺症のおかげですこし健康に留意するようになったのも事実です。

今後とも、体調変化に敏感でありたいと思いました。重ねてお礼申し上げます。

かっちゃんかっちゃん 2016/05/06 23:13 胆石の痛みについては、物凄く痛くても本人が「胃の痛み」として訴えたら、胃薬をくれてそれで悪化させる場合だってありますよ。僕は最終的に、血液検査の数字が非常に悪くなって、とにかく抗生剤の点滴投与と、腹部CTスキャンで胆嚢炎とわかり、胆嚢の摘出手術をした結果、ウズラの卵より一回り大きなもの一個と真珠大二個の胆石を取り出しました。胆石の存在自体は三十代後半からわかっていました。しかし、「無症状」ですから、痛くなるまで放っていたのです。けれど、しょっちゅう胃が痛くなるのでブスコバンを、ほぼ常用に近いくらい医師から貰っていました。
胆石胆嚢炎の痛みは最後は耐え難いくらい酷くなるので、結局はわかるのでしょうが、胆石を取ってから長年の喉の痛み、下痢症状が消えて、声まででかくなりました。どんな痛みでも緩和する時があるのです。その時は痛み止めを服用しているのでそれが効いたと思い込むのです。
後で調べたら、ちゃんと胆石特有の痛みでした。僕は「胃が痛い」とは言いましたが、場所は正確にみぞおちをしめして、そこは胃の位置ではないと言ったのに、なんで胆石を医師は見抜けなかったんでしょうね。風邪を引いたと言えば喉が腫れているから抗生剤もくれて、腹が痛いと言えば腹痛止め下痢止めを医師はくれます。僕の腹部エコーには毎年胆石が順調に成長している事が映し出されていましたが、その間30年間、胃痛と下痢に悩まされて仕事にも影響して家庭も崩壊しましたよ。
今は手術は内視鏡で一週間の入院で済みます。開腹も二週間あれば良いらしい。僕は、石が大きかったので取り出すとき、少し余計に穴を5ミリ左右に余計切ったそうですが、縫い合わせることもなく4時間足らずで終わりました。
腹部エコーでは胆石の大きさは分からないようです。CTスキャンでは炎症は分かるようですが、大きさまでは分からないようです。「無症状」とは簡単には言えないようですよ。

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20160224