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cover ■「ニセ医学」に騙されないために

 ホメオパシー、デトックス、千島学説、血液型ダイエット、ワクチン有害論、酵素栄養学、オーリングテストなどなど、「ニセ医学」についての本を書きました。あらかじめニセ医学の手口を知ることで被害防止を。

2016-05-29 サンデー毎日での丸山ワクチンの記事について

[]サンデー毎日での丸山ワクチンの記事について サンデー毎日での丸山ワクチンの記事についてを含むブックマーク

サンデー毎日2016年6月5日号にて『丸山ワクチンはやはり「がん患者」に光明』という記事が掲載された。ジャーナリストの森省歩(もり・せいほ)氏による。プロフィールによると、もともとは政界ものに定評があり、2012年に自身が大腸がんの手術を受けて以降は医療ものも手掛けているそうである。週刊文春に『乳製品をやめたらがんが治った』という記事や、文藝春秋に『川島なお美氏さんはもっと生きられた』という近藤誠氏のインタビュー記事を書いている。

森氏は2012年にstage IIIAの大腸がんと診断され、手術後に再発予防のための経口抗がん剤の服用を勧められるも辞退し、丸山ワクチンを選択したそうである。stage IIIの大腸がんの術後補助化学療法は現在の標準的な治療法である。大雑把には、術後補助化学療法によって再発やがんによる死亡を3分の1から4分の1減らすことができる*1。おおむね、日本の大腸がんの術後成績は海外と比較すれば良好でstage IIIAだと5年生存率は70%ぐらいである。術後補助化学療法をしなくても100人中70人ぐらいは再発しないところに、術後補助化学療法を加えることで100人中75〜80人が再発しないようにになる、という感じである。

「抗がん剤を使わないと高い確率で死ぬ」というならともかく、大腸がん術後補助化学療法であれば、副作用とのトレードオフを考えて治療を受けないという選択肢もありだ*2。丸山ワクチンが大腸がんに効くというエビデンスは皆無と言ってよいが、それでも害はなさそうで、かつ、比較的安価であるので、丸山ワクチンを受けるのも悪くない。というわけで、森氏自身の治療法の選択に異論を唱えたいわけではない。丸山ワクチンの歴史的経緯や効果についての補足である。



効果の証明されていない治療法を受けられないことは理不尽なのか

森氏は、日本医科大学の丸山ワクチン外来を受診するが、患者本人が受診したことを受付係に驚かれる。



聞けば、患者本人が手続きのために来院するケースは少なく、実際にやって来るののはほとんどが患者の家族や身内などの代理人なのだという。私はこの事実にハッとさせられるとともに、あらためて丸山ワクチンを取り巻く現状の厳しさを痛感させられた。

一言で言えば、手術、放射線、抗がん剤などの標準がん治療をやり尽くし、歩くこともままならない打つ手なしの最末期にならない限り、事実上、がん治療医は丸山ワクチンの使用を認めようともせず、患者やその家族らも使用したい旨を医師に言い出せない、という悲しい現実が、いまだに存在しているのである。

言うまでもなく、治療選択の決定権は患者にある。にもかかわらず、このような理不尽な状況がなぜ続いているのか。その構造的理由を知るには、丸山ワクチンをめぐる「受難の歴史」に迫る必要がある。


現時点では、丸山ワクチンががんに効くというエビデンスはない。にも関わらず、有償治験薬という例外的な制度によって使用可能である。代替医療としては優遇されているほうである。治療選択の決定権は患者にあるので、丸山ワクチンを使用してくれる医師を選ぶ自由はある。しかしながら、標準的医療を行っている医師が同時にエビデンスのない治療法も併せて行ってくれないからといって、理不尽であるとは私は思わない。丸山ワクチンを併用してくれる医師もいるだろうが、書類書きや薬剤の管理という手間を好意で負担してくれているのである。

丸山ワクチンが使いづらい状況が理不尽であると言うなら、他の代替医療、たとえば、細胞免疫療法や高濃度ビタミンC療法が使いづらい状況も理不尽であるというのだろうか。これらの治療を他の医療機関で受けるのは患者の自由である。基幹病院でこうした治療を受けられない状況が続いている理由は単純である。効果が証明されていないからである。

森氏は、丸山ワクチンによって「利権が脅やかされる」ことを恐れた「厚生省ムラ」との闘争の歴史が影響していると考えているようだ。1970年台から1980年台にかけては、もしかしたらそういうこともあったかもしれないが、現在ではそんな昔のことは無関係である。



最初の障壁は、患者が丸山ワクチンの6文字を口にした瞬間に立ち現れる。おそらくは厚生省ムラとの闘争の過去が暗い影を落としているのだろう。標準治療の現場では主治医から次のように冷たく突き放されるケースも少なくない。

「あんなもの、『ただの水』なんだから、効くはずがない。どうしてもやりたいと言うのなら、ウチの病院ではもう診ない」



患者さんに対する言い方や態度に問題はあるだろうが、こういう医師は「高濃度ビタミンC療法を受けたい」と言っても、同じ反応をするであろう。「厚生省ムラとの闘争」ではなく、エビデンスの有無の問題である。



歴史的ニューエビデンスって何だろう?

そもそも、丸山ワクチンを製造しているゼリア新薬は、エビデンスの構築に消極的である。記事の見出しには「治験患者延べ40万人超!」とあるが、「そんだけ治験患者がいて、いまだにまともなエビデンスが存在しないってどういうことよ?」と私は考える。積極的に臨床試験を行って効果を証明できれば日本だけでなく海外にも売ることができるし、なによりも患者さんのためになるのに、なぜゼリア新薬は臨床試験を行わないのか。現在でも有償治験薬として年間1万人前後の患者さんが丸山ワクチンを使用しているという。ゼリア新薬としては、別に臨床試験をしなくても現在の売り上げを維持できればよい、ということなのではないか。

しかし、森氏によれば、「歴史的ニューエビデンス」が登場したそうである。



実は、例の政治的決着以降も、丸山ワクチンの新たな製造承認申請に向け、多くの医師や研究者らが、「著効例」や「どのように効くのか」「なぜ効くのか」などについての研究報告を精力的に続けてきている。



「著効例」については、治験患者が「延べ40万人超!」もいるのであるから、丸山ワクチンにまったく効果がないと仮定しても、著効したように見える事例は出てくる。2006年の日本医事新報に、進行胃がんと進行大腸がんについてのケースシリーズが発表されている*3。何も発表しないよりはましであるが、丸山ワクチンの効果については何もわからない。

「どのように効くのか」「なぜ効くのか」については、まず「効くのかどうか」をはっきりさせてからにしたほうがいいだろう。

森氏もこれらの研究報告のエビデンスが弱いことを認めている。実は、がんに対する効果を丸山ワクチンとプラセボとで比較した、質の高いランダム化比較試験が1件だけある*4。これは「効くのかどうか」を評価した研究である。おそらくこれが森氏のいう「歴史的ニューエビデンス」の一つであろう。

stage IIBからIVAの子宮頸がん患者(計249人)をランダムに丸山ワクチン群(論文では"the lower dose (0.2 µg) of immunomodulator Z-100"で、丸山ワクチンB液と同じ)とプラセボ群に分けた。どちらの患者さんも放射線療法を受けた。つまり、「放射線療法+丸山ワクチン」対「放射線療法+プラセボ」を比較した。主要エンドポイントは全生存、二次エンドポイントは無再発生存および毒性。

結果は、丸山ワクチン群の5年生存率が良い傾向はあったものの、有意差なし。つまり、丸山ワクチンに効果があるとは言えない。まともな比較試験が行われてこなかった丸山ワクチンにしてみれば、これでも「歴史的ともいうべきニューエビデンス」であるのかもしれない。

ゼリア新薬によれば、新たにフェーズIII(アジア共同治験)の途中である*5。数を増やしたり、試験対象を絞ったりすると*6、今度は有意差が出るかもしれないし、出ないかもしれない。私の知る限り、他に丸山ワクチンの臨床試験は行われていない。ゼリア新薬としては、もしこの臨床試験で有意差が出なくても、「子宮頸がんに対する放射線療法+丸山ワクチンの効果が証明できなかっただけで、他のがんに対する効果が否定されたわけではない」「そもそも丸山ワクチンはA液とB液を交互に皮下注射するのが一般的な使い方であって、B液のみを使用した臨床試験で結果が出なくても、効果が否定されたわけではない」などという言い訳ができる。

私がもし「丸山ワクチンの有効性を検証することは、公私にわたる大命題」だと考えるジャーナリストであったら、ゼリア新薬に取材する。「どうして、丸山ワクチンの効果を証明する臨床試験をもっと積極的に行わないのですか?本当に御社は、丸山ワクチンに効果があるとお考えなのでしょうか?」と。



関連記事

■丸山ワクチンに期待できない理由

■進行胃癌に対する丸山ワクチンの比較試験

■丸山ワクチンをおとしめる週刊ポストの記事

*1http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11596588 , "For patients with node-positive (stage III) disease, adjuvant treatment with fluorouracil and levamisole reduces the risk of death by one third, as compared with surgery alone." 海外の研究。日本人集団に対する手術単独vs手術+術後補助化学療法の比較試験は見つけることができなかった

*2:ただし、読者らが抗がん剤を使うかどうかの選択肢を迫られたときは、必ず専門家による説明を受けること。副作用対策が不十分であったころに抗がん剤治療を受けた知り合いの体験、ドラマや小説の描写、ニセ医学本による不適切な主張などにより、実際よりも副作用の程度を過大評価していることが多い。私ならstage IIIAの大腸がんの術後補助化学療法は迷わず受ける。やってみて副作用がきつければ薬剤を変更したり、化学療法を止めたりすればいい

*3■論文・資料 アーカイブス│丸山ワクチンとがんを考える会(NPO)から全文が読める。「専門性の高い資料」だそうで

*4http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24569914

*5http://www.zeria.co.jp/deve/de02.html

*6:死亡のイベントが生じやすい進行した患者を対象する、など

CoralReefCoralReef 2016/05/31 13:42 効果がないと分かっていながら有償治験薬として科学的リテラシーの低い客をカモに売り続けるつもりなのでしょうね
癌霊一号のように大逆転劇を見せてくれれば科学の発展として喜ばしいのですが、ダメでみたいですね
残念です

antant 2016/06/02 11:04 ゼリア新薬さんのSSMの生産ライン更新時期が来たらどうなるんでしょう。少なからぬお金をかけてラインを更新して、果して元がとれるのかどうか。昔と違って今じゃ基準も厳しくなり、新しいラインを立ち上げるのにもかなりの費用がかかると思いますし。株式会社として株主に対する責任を考えれば、投入した資金を回収し利益を出せる目処が立たないと。あと何年後にその時が来るのかは知りませんが、どうなるんでしょう。
もし更新するのであれば、ひょっとすると期待してもいいのかもしれませんが。

2016-05-01 「熊本済生会病院からSOS」は事実だったのか?

[]「熊本済生会病院からSOS」は事実だったのか? 「熊本済生会病院からSOS」は事実だったのか?を含むブックマーク

「医療ジャーナリスト」の伊藤隼也氏が、2016年4月16日付のツイートにて、「熊本済生会病院」にて物品や水などの不足があるとの情報の拡散を促す主張を行った。



しかしながら、日経メディカルに掲載された済生会熊本病院循環器内科部長坂本知浩医師のインタビューでは、



■徹夜でトリアージ、2日ぶりの帰宅でくつろいでいたときに本震が…(3ページ目):日経メディカル

幸いなことに地震発生直後も現時点(引用者注:4月21日)でも、院内の食糧や医療用品は枯渇していない。なぜなら、当院は災害拠点病院のため、孤立しても1週間は医療を続けられるように、日頃から食糧や医療品を備蓄しているためだ。途中、外傷患者に最初に使用する細胞外補充液の「1号輸液」が枯渇しかけたときがあったが、物流が回復したことや同じ済生会グループからの支援などもあり、月曜の夕方には全て揃った印象で、問題なく医療を提供できた。



とあり、伊藤氏の主張と食い違っている。伊藤氏の主張の情報源は「済生会病院の関係者」だそうである。その関係者が誰なのかは不明である。一方で、日経メディカルの記事の情報源は所属も氏名も明らかだ。

ジャーナリストの仕事の価値は、ネット上の「拡散!○○病院からSOS 」というような真偽不明の情報について、取材に基づいて事実かどうかを検証し報じることにあると私は考える。百歩譲って、緊急時に情報が錯綜するのは仕方がないとして、状況が落ち着いたら、いったいなぜこのような主張の食い違いが生じたのか、伊藤氏にはきちんと検証していただきたい。

ジャーナリストが情報源を秘匿する意義は十分に理解できる(今回は内部告発とかではないから情報源を秘匿する必要はないと思うが、一般的な話として)。しかしながら、不用意なジャーナリストが、「関係者」を名乗った者から不正確な情報を吹き込まれることもあるだろう。あるいは、信頼できないジャーナリストが、「関係者の話」として不正確な情報を捏造することもできる。

伊藤隼也氏が今回の済生会熊本病院の件について検証しないままであるのなら、伊藤氏の「医療ジャーナリスト」としての信頼性について疑問が生じる。伊藤氏がこれから報じる、あるいはこれまで報じた情報源としての「関係者」の話が、伊藤氏によって正確に伝えられているかどうか、あるいは、その「関係者」が本当に実在するかどうか、懐疑的に見ておいたほうがよい、ということになりかねない。




外部リンク

■「熊本済生会病院からのSOS」とは何だったのか - Togetterまとめ

じょんじょん 2016/05/02 11:24 ネタ元は院長だったそうで。
https://twitter.com/itoshunya/status/726601555307167744

NATROMNATROM 2016/05/02 14:38 院長先生が、いつ、どのような情報を伊藤氏に伝えたのか。「地震発生直後も現時点でも、院内の食糧や医療用品は枯渇していない」という循環器内科部長の主張と食い違っているのはなぜか。院長先生から伝えられた情報が事実だとして、それをSNSで拡散したのは適切な方法だったのか、といった点について検証が必要でしょうね。

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