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cover ■「ニセ医学」に騙されないために

 ホメオパシー、デトックス、千島学説、血液型ダイエット、ワクチン有害論、酵素栄養学、オーリングテストなどなど、「ニセ医学」についての本を書きました。あらかじめニセ医学の手口を知ることで被害防止を。

2016-08-11 がん検診による絶対リスク減少はどれくらい?

[]がん検診による絶対リスク減少はどれくらい? がん検診による絶対リスク減少はどれくらい?を含むブックマーク



ワクチンは有効性を過小評価されやすく、がん検診は過大評価されやすい

公衆衛生についてあまりなじみのない方にはあまり知られていないようだが、一般的にワクチンはがん検診と比較して有効性が高い。たとえば、おたふくかぜワクチンはおたふくかぜの罹患を85%減らす。一方で、乳がん検診は乳がん死を20%しか減らさない。

また、ワクチンは一次予防であるのに対し、がん検診は二次予防である。ワクチンは疾患そのものの発症を抑制するが、一方で検診は病変が見つかったら何らかの治療介入を要する。検診には偽陽性や過剰診断についての問題もある(なお、乳がん検診は乳がんの罹患を減らすどころか増やす)。子宮頸がん検診の受診割合が十分に高い海外でなぜ、HPVワクチンが開発され、接種が推奨されているのか、ここらあたりに理由がある。

ワクチンと比較して検診の利益が過大評価されやすく、害が過小評価されやすいのには理由がある。主観的には、検診の利益は実感しやすいのに対し、ワクチンはそうでもない。

韓国では成人の甲状腺がん検診が広く施行され、がんの罹患率は15倍になったが死亡率は変わらなかった。増えた甲状腺がんの多くは過剰診断で、結果的には必要のない治療を受けたのであるが、その「害」は統計的な数字をみなければわからない。検診で甲状腺がんを発見され、手術を受けた人は、過剰診断であったとしても、「検診のおかげで早期発見でき、いまも再発も起こっていない。助けてもらった」と考えているだろう。

一方、ワクチンによって「助けられた」ことは自覚しにくい。統計的な数字をみれば多くの人がワクチンによって助けられたのだが、誰が助けられたのかを同定することはできない。いっぽう、ワクチンによる「有害事象」は容易に同定できる。因果関係の有無に関わらず、ワクチン接種後になにか好ましくない症状が起きれば、ワクチンのせいであると自覚しうる*1。これが、検診と比較してワクチンの害が過大評価されやすい構造的な理由である。



がん検診の有効性と「副作用」はどの程度か

有効であると証明されているがん検診ですら、多くの「副作用」が生じる。たとえば、乳がん検診では、1人の乳がん死を防ぐために4人の過剰診断が生じるという報告がある。1人の乳がん死を防ぐために必要な検診数は720人であるので、検診を受けた人の中に過剰診断という「副作用」が起こる割合は約0.5%である。因果関係は明確だ。この「副作用」には、10日程度の入院と、必要だと判断されたら化学療法と、そして乳房を失ったことや再発への不安などの著しいデメリットがある。

これほどの大きなデメリットのある副作用が0.5%も生じるワクチンはとうてい容認されない。それどろかワクチンでは、因果関係があるかどうかも明確でない何万人に1人、何十万に1人という有害事象ですら問題にされる。「もともと健康な人に対する医学介入なので高い安全性が要求される」という理屈には一定の合理性があるが、だとするならば、同じくもともと健康な人に対する医学介入であるがん検診にも同様の安全性を要求するべきであろう。

乳がん検診や子宮頸がん検診はまだいい。有効であるという臨床的証拠があるからだ。問題は福島県の小児の甲状腺がん検診である。小児の甲状腺がん検診の有効性は証明されていない。成人の甲状腺がん検診の結果を外挿すると、小児の甲状腺がん検診も、害だけあって有効性はない可能性が高い。



なぜ甲状腺がん検診は容認するのに、HPVワクチンは容認できない人がいるのだろう?

さて、ツイッターで、HPVワクチンは「(前がん状態(CIN2/3)の)絶対リスクをわずか 0.7%減らせるだけのこと」という言葉を好意的に引用する一方で、福島県の甲状腺がん検診は「25年ほどは現在と同等かより強化した検診を続けなくてはならない」と主張している人がいた*2。「絶対リスクを0.7%減らす」というのは、1000人にワクチンを接種すると、前がん病変になる人が7人減るという意味である*3。絶対リスク0.7%減、というのはけっこう良い介入である。

有効性が確認されている乳がん検診であっても、そんなには絶対リスクを減らさない。先に挙げた報告では、乳がん検診による乳がん死の絶対リスク減少は約0.14%である*4。検診の害については先に述べた通りである。「絶対リスクをわずか 0.7%減らせるだけのこと」といってHPVワクチンに反対する人は、より強く乳がん検診に反対するはずである*5

私がわからないのは、HPVワクチンの絶対リスク減少がわずか0.7%と言っている一方で、小児に対する甲状腺がん検診を推奨している理由である。いったい、甲状腺がん検診による絶対リスク減少をどれぐらいだと推定しているのであろうか?乳がん検診ですら、0.1%強といったところだよ?どんだけ甲状腺がん検診の有効性を過大評価しているのか興味がある。尋ねてみたところ、言を左右して明言していただけない。


よしんば被ばくによって甲状腺がんのリスクが高くなっているとしても、小児甲状腺がんはもともとのリスクがきわめて小さいので、検診の有効性はあったとしても小さい*6。「ハイリスク集団には検診したほうがいいでしょ」ということであるが、仮に被ばくによって甲状腺がんリスクが100倍になっていたと仮定しても、成人の一般集団よりも絶対リスクは小さいのだ。そもそも、リスクが高いとしても、甲状腺がん検診が、がん死やそのほか有害なアウトカムを減らすという臨床的証拠は存在しない。一方、検診が過剰診断そのほか害をもたらすという確固たる証拠ならある。そのような医学介入を推奨するなんてとんでもないと私は考える。これがワクチンだったら異常さがわかるであろう。

「甲状腺がんワクチンを開発し、海外の成人集団に接種したところ、がん死亡率は減らさなかったばかりか副作用が頻発した。けれども、海外の成人と、日本人の小児は違う。日本人の子どもに効果があるかもしれない。福島県の小児はハイリスク集団なので甲状腺がんワクチンをどんどん接種しよう」。

福島県での甲状腺がん検診を推奨している人は、効果があるという臨床的証拠がないばかりか、他の集団においては害しかないであろう医学介入を子供たちに勧めているわけだ。



対照群がなくても、検診群において絶対リスク減少の「最大値」はわかる

実は、福島県で行われている甲状腺がん検診による絶対リスク減少の「最大値」はわかる。最大値だけなら、検診を受けない対照群は要らない。「がん検診によって臨床的な利益を得るのは、検診を受けてがんが発見され、治療を受けた人だけである」という単純な事実さえ理解すればいい。

検診で甲状腺がんを発見された治療介入された小児のすべてが、検診によって利益を得たと仮定しよう(後述するように、このような仮定はありえないが、現在求めるのは絶対リスク減少の最大値なので)。つまり、検診で発見されたがんの全例において、検診がなければ、いずれ転移したり死亡したりしたはずだったのを、100%検診で防ぐことができたとする。検診の対象者は30万人程度、甲状腺がんと診断されたのが百数十人である。検診がなければ発生したであろう30万人中百数十人の有害アウトカムを検診が防いだのであるから、絶対リスク減少は約0.05%である。

HPVワクチンについて「絶対リスクをわずか 0.7%減らせるだけのこと」として反対する人は、最大でわずか0.05%しか絶対リスクを減らせない甲状腺がん検診についてはどう考えるのだろうか*7

なお、0.05%というのは「最大で」の話である。検診で発見され治療介入されたがん患者のすべてが利益を得る、というようながん検診は存在しない。がん検診で発見されたがんは、検診で発見されても予後が変わらないもの、検診によって予後が改善するもの、過剰診断のいずれかである。予後が改善するものは、検診で発見されたがんの一部である。がん検診とはそういうものである*8

成人での甲状腺がん検診で発見された甲状腺がんについては、大半が過剰診断、残りが検診で発見されても予後が変わらないもので、検診によって予後が改善するものはほとんどないか、ゼロである。「小児の甲状腺がん検診は、がん検診の中で例外的に有効性が高い」と考える合理的理由は存在しない。



関連記事。

■韓国における甲状腺がんの過剰診断

■乳がん検診の利益とリスクを図で説明してみる

*1:検診で発見されたがんに対する治療に伴う合併症は、検診との因果関係が明らかな「副作用」だが、主観的には「がんの治療だから仕方ない」、あるいは「(検診ではなく)治療のせいだ」とされる

*2:URL:https://twitter.com/ROKKASHO/status/699112778699649024

*3:この発言がなされた時点で、絶対リスクを0.7%減らすという研究があったのだろう。おそらく観察期間は数年。観察期間が長くなると0.7%という数字はもっと高くなる。一方で、浸潤子宮頸がんやがん死の絶対リスク減少はもっと小さい

*4:大まかな目安に過ぎないが、がん死の絶対リスク減少が0.1%以上なら有効だとされている

*5:実際、近藤誠氏の主張に影響を受けて、ワクチンだけでなく、がん検診にも反対している人たちもいる

*6:がん検診に詳しい人は、30歳台の乳がん検診が推奨されていないことを思い出すかもしれない

*7:「0.05%と少数だからといって無視するのか、なとろむはそれでも医者か」という的外れな批判が予測されるのであらかじめ反論しておく。そもそも、わずか0.7%を無視したのは誰だったのか。あるいは、過剰診断そのほか検診による害を無視したのは誰だったのか。医療介入の是非は、原則として医学的損得から判断するべきである。「東京電力の責任を追及するためには、甲状腺がん検診で害を被る福島県の子どもなんてどうでもよい」と考えているようにしか思えない事例を散見する。ついでに言うなら「検診を続ければ0.05%より増える」という批判もすでに反論済みである。HPVワクチンの「わずか0.7%」も観察期間が長くなると増える

*8:医療とはそういうものである、と言ったほうがいいかもしれない。

FT3FT3 2016/09/19 15:12 10年前に甲状腺癌の手術を受けました。

最近になって「過剰診断」という概念を知りました。答えは判っていたのに主治医に聞かずにはいられませんでした「最近、甲状腺がんは過剰診断が多いっていわれていますよね…」主治医は笑って言いました「あれは子供の話でしょう」 私はもっとバカなことを聞きました「私が手術したのは、間違っていなかったんですよね」 主治医は力強く言いました「勿論です」

勿論、今となっては「間違っていない」と信じるしかありません。術後の経過は良好で、甲状腺ホルモン剤は一生飲み続けなければいけませんが、運動制限や食事制限もないし、まあ「サプリメントマニアの普通の人」ぐらいの生活といえるでしょう。

でも、生命保険にはもう入れないし、入院・手術も勿論必要で、職場の人に迷惑かけたりしたし、自分も痛かったし怖かった。テタニー症状にも当時は苦しんだ。そして、よく見ればわかる程度とはいえ、結構目立つ位置に傷跡が一生残る。

「検診は、ガンがみつかればラッキー。みつからなくてもラッキー」そんな簡単な問題じゃない。もし本当に「過剰診断」だったら癌なんて見つけてほしくなかった。でもそれはもう一生判らない。「本当の」「致死的な」癌だったと信じ続けるしかない。

shinzorshinzor 2016/09/19 16:14 FT3さん,心中お察しします。
検査で見つかった以上お医者さんも放ってはおけないでしょう。もし,悪化したら責任を問われかねません。だから,先ず検査すべきかどうかから考えなければならないのでしょう。
状況は違いますが,私はがんが見つかったときに,どの程度の治療をするかで悩みました。後遺症はほとんどないが,再発の可能性が残る治療か,後遺症が残るが再発の可能性の少ない治療のどちらかで。お医者さんは丁寧に説明してくれますが,決定するのは自分ですからね。もし,「先生にお任せします」といえば,徹底的に治療する方法になる可能性が高いと思います。私は,有る条件で後遺症は残るが徹底的な治療を選択しました。その条件がなければ別の選択になったと思います。

通りすがり通りすがり 2016/09/20 13:18 必要のない治療だったかどうかは
治療せずに死ぬ、という結果になってみないとわからない
治療する前にそれを見分ける方法がない以上、
必要のない治療などない、と考えるしかないと思うのですが

NATROMNATROM 2016/09/20 15:32 通りすがりさん、コメントありがとうございます。

治療に伴う死亡がなく、かつ、死亡を避けることが唯一の治療の目的であった場合は、「過剰診断かどうか見分けることができない異常、必要のない治療はない」ということになります。

実際にはもうちょっと複雑です。たとえばの話、「ものすごく辛い、後遺症が残るかもしれない治療を受けることで、その病気で死ぬ確率が0.1%から0%に下がる」という場合、通りすがりさんは治療を受けますか?通りすがりさんは受けるかもしれませんが、「それだったら治療を受けない」という人がいても不思議ではないとは思いませんか。

現実の医療の現場では、治療を行うかどうかは、治療介入の程度と治療の効果のバランスを考えます。負担の小さい治療介入であれば治療の効果が小さくても行います(大腸ポリープ切除などが相当します)。負担の大きな治療介入は相当の効果が期待できないと行いません(急性白血病に対する化学療法などが相当します)。

治療だけでなく、予防介入もバランスを考えなければんなりません。ワクチンと比較して、がん検診はこのバランスがわりと微妙なところにあります。推奨されている乳がん検診ですら、新しい研究では効果が示されなかったりします。甲状腺がん検診は効果が証明されていませんし、効果があったとしても小さいです。下手したら害しかありません。

通りすがり通りすがり 2016/10/02 15:27 >「ものすごく辛い、後遺症が残るかもしれない治療を受けることで、その病気で死ぬ確率が0.1%から0%に下がる」という場合、通りすがりさんは治療を受けますか?通りすがりさんは受けるかもしれませんが、「それだったら治療を受けない」という人がいても不思議ではないとは思いませんか。

レスいただきありがとうございます。
お返事が遅れまして失礼いたしました。
もちろん治療しなくてもよいし、治療してもよいと思います。
ただ、治療することを選択した人に対して、
それは必要だったかどうか?という問いは不要なのではないか、と思います。
治療なさる先生方は、患者とは違った立場で、その適否をお考えになる必要があるとは思います。
だから、過剰な「治療」でなく、過剰な「診断」を問題にされるのかなと考えています。
実は、家族ががんの診断を受けて、迷いなく手術をしたのですが、
摘出したものを検査したらがんではなかった、ということがありました。
合併症といいますか、手術の結果、排泄関係のコントロールがうまくいかなくなりました。
可哀そうで、手術をしていなかったら?と考えます。
でも、診断された以上、そのままにして生活する不安に
本人は耐えられないと思うので、手術以外なかったと考えています。
運が悪かった、としかいえません。

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