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cover ■「ニセ医学」に騙されないために

 ホメオパシー、デトックス、千島学説、血液型ダイエット、ワクチン有害論、酵素栄養学、オーリングテストなどなど、「ニセ医学」についての本を書きました。あらかじめニセ医学の手口を知ることで被害防止を。

2017-01-16 ピロリ菌は胃がんの原因の何%か?

[]ピロリ菌は胃がんの原因の何%か? ピロリ菌は胃がんの原因の何%か?を含むブックマーク

ピロリ菌感染は胃がんの原因の一つである。主な原因であると言っていい。ピロリ菌が胃がんを引き起こすメカニズムもだいぶ明らかになっているが、よしんばメカニズムが不明であっても、疫学研究からピロリ菌と胃がんの因果関係は証明されている。

ただ、ピロリ菌感染が胃がんの原因だと言っても、ピロリ菌に感染していなくても胃がんになる人もいれば、ピロリ菌に感染していても胃がんにならない人もいる。報告によっても差があるが、ピロリ菌に感染していると、感染していない場合と比較してだいたい5〜10倍ぐらい胃がんになりやすい*1。ピロリ菌感染と胃がんの関係は、喫煙と肺がんの関係と同じぐらいの強さで、HPV(ヒトパピローマウイルス)と子宮頸がんの関係よりは弱い。

「胃がんの99%はピロリ菌が原因」という主張があるが、さすがに99%というのは過大評価である。仮に胃がん患者の99%がピロリ菌陽性であったとしても、その中にはピロリ菌とは無関係に胃がんになった人もいるであろう。それでは、実際には、胃がんの何%がピロリ菌によるものなのだろうか?

ある集団で発生した胃がんのうち何%がピロリ菌が原因かを推計するためには、ピロリ菌に感染していると何倍胃がんになりやすいのか(相対リスク)という数字のほかに、その集団でピロリ菌に感染している人の割合も知る必要がある。極端な話、ピロリ菌に感染している人の割合がゼロの集団から発生した胃がんのうち、ピロリ菌が原因であるのはゼロ%である。

まずわかりやすいように、ピロリ菌に感染していると5倍胃がんになりやすく、一般集団におけるピロリ菌の感染割合が50%だった場合を考える。ちょうど、ピロリ菌に感染していない人と、感染している人の数が同じである。すると、ピロリ菌に感染していない人の集団中から1人が胃がんになるとき、ピロリ菌に感染している人の集団中からはその5倍の5人が胃がんになる。その5人のうち1人はピロリ菌感染がなくても胃がんになったはずの人である。すると、集団全体では胃がん患者6人中4人、約67%がピロリ菌が原因で胃がんになったと推計できる。



f:id:NATROM:20170116155324j:image

相対リスクが5倍、ピロリ菌に感染している割合が50%の集団では、ピロリ菌(-)からの胃がん発症1人あたり、ピロリ菌(+)からは5人が発症する。ピロリ菌(+)からの胃がん5人のうち、ピロリ菌が原因であるのは4人。集団全体では、胃がん6人中4人がピロリ菌が原因で発症した胃がんである。もしこの集団からピロリ菌を撲滅したら、胃がん発症は6人から2人に減る。





ある集団の胃がん患者のうちピロリ菌が原因である割合をあらわす数値を集団寄与危険割合(人口寄与リスク割合)という。上記例では集団寄与危険割合は約67%である。一般集団におけるピロリ菌の感染割合が高ければ高いほど、あるいは、相対リスクが高ければ高いほど、集団寄与危険割合は高くなる。一般集団における感染割合、相対リスク、集団寄与危険割合の関係を表にした。相対リスクを10倍、ピロリ菌の感染割合を99%と仮定しても、集団寄与危険割合は89.9%であり、99%には届かない。


f:id:NATROM:20170116155325j:image

感染割合、相対リスク、集団寄与危険割合の関係


日本の一般集団のピロリ菌感染割合は年代によって異なるため、この表から日本の胃がんにおけるピロリ菌感染の集団寄与危険割合を計算すると誤差が生じる。一般集団ではなく患者集団中のピロリ菌感染割合からも集団寄与危険割合が計算できる*2。1990年から2004年までの日本の研究では、患者集団中の抗ピロリ菌抗体陽性者の割合は約93.5%、相対リスクは約5.1倍であった*3。集団寄与危険割合を計算すると約75%となる。抗ピロリ菌抗体は胃粘膜の萎縮が進むと陰性になることがあり、ピロリ菌感染のリスクを低く見積もってしまうため、陰転化が遅いCagAというピロリ菌が産生するタンパク質を合わせて解析すると感染割合は約98.8%、相対リスクは約10.2倍であった。この場合、集団寄与危険割合は約90%になる*4

1990年から2004年までの研究に基づけば日本人の胃がんのうち、ピロリ菌が原因である割合はおおよそ75%〜90%ぐらいであったと推定される。若年者のピロリ菌の感染割合は小さいので、現在の胃がんのうちピロリ菌が原因である割合は75%〜90%より小さいし、将来はもっと小さくなる。



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*1https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16835334 , https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25630323

*2:詳しくは成書を参照のこと

*3:胃がん患者511例中478例が抗ピロリ菌抗体陽性、オッズ比を相対リスクの近似値とした

*4https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16835334 , http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/287.html

ペロニー菌ペロニー菌 2017/01/17 01:46 突然すみません。
あまり詳しくないんですけど、インターネットなんかでよく「進化論は証明されている」とか「証拠がある」みたいな文章を目にするんですが、
具体的にどういうことでしょうか?
科学者の方でも進化論を信じていない人が一定数いると聞いて、もし本当に証明されていたり証拠があったりすれば
みんながみんな進化論者になってると思うんですが
分かりやすく教えていただけないでしょうか?

NATROMNATROM 2017/01/17 08:36 ペロニー菌さん、コメントありがとうございました。

生物進化の証拠はさまざまあります。化石とか、現在生きている生物のDNAの比較とか、生物の行動とかです。本気でお知りになりたいなら、

進化の存在証明,リチャード・ドーキンス (著)
https://www.amazon.co.jp/%E9%80%B2%E5%8C%96%E3%81%AE%E5%AD%98%E5%9C%A8%E8%A8%BC%E6%98%8E-%E3%83%AA%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%89%E3%83%BC%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B9/dp/4152090901

がお勧めです。生物進化についての証拠は圧倒的ですので、科学者で生物進化を信じていない人はほとんどいません。とくに生物学の分野では皆無です。「進化論を信じていない科学者」とされる人は、実際には、科学者を自称しているだけか、生物学とは無関係な分野の科学者で生物進化に詳しくないかのどちらかです。

ピピットピピット 2017/01/17 16:01 ピロリ菌検査で陰性になった人の中には、薬の除菌や自然排菌でピロリ菌がいなくなった人もいます。
こういった人を感染者としてカウントすれば、ピロリ菌感染割合は99%を超えるのではないでしょうか?

NATROMNATROM 2017/01/17 16:21 ピピットさん、コメントありがとうございました。

胃がん患者のピロリ菌感染割合がほぼ99%という報告もあります。それでも、相対リスクが5〜10倍程度ですので、集団寄与危険割合は約80%〜約90%にしかなりません。「ピロリ菌陽性の胃がん患者のすべてがピロリ菌が原因とは限らない」というのがポイントです。

ピピットピピット 2017/01/17 17:32 回答ありがとうございました。
「ピロリ菌陽性の胃がん患者のすべてがピロリ菌が原因とは限らないというのがポイント」ということには異論はないのですが、薬の除菌や自然排菌でピロリ菌がいなくなった人を感染者として扱ったとしたならば、コホート研究での相対リスクの数値も変わってくるのではないでしょうか?

NATROMNATROM 2017/01/17 20:54 ご指摘の通り、「どこまでをリスク因子に暴露されたとみなすのか」によって、相対リスク(オッズ比で近似)は変わります。本文中にも言及した症例対照研究では、CagA陽性者もピロリ菌陽性(曝露あり)とみなすと、オッズ比が5→10と約2倍になります。

ただ、「薬の除菌や自然排菌でピロリ菌がいなくなった人を感染者として扱った」としても、必ずしもオッズ比が上がるとは限りません。たしかに胃がん患者中の暴露者の割合は増えますが、対照(胃がんではない人)中の暴露者の割合も増えるからです。

海外の研究も参照しましたが、ピロリ菌感染の胃がんに対する相対リスクは数倍程度で、集団寄与危険割合が99%になることは考えにくいようです。

ピピットピピット 2017/01/17 21:45 回答ありがとうございました。
「ピロリ菌 20倍」でネット検索すると「ピロリ菌に感染している人は未感染者に比べて20倍以上胃がんになりやすい」といった医療機関のページがたくさんヒットするのですが、この20倍という数字は相対リスクとは違うのでしょうか?

ペロニー菌ペロニー菌 2017/01/17 22:07 ご返信ありがとうございます。
そうかなと思っていたんですがやはりドーキンスさんの本がいいんですね。ありがとうございます。購入します。

でもやっぱり気になるのは、証拠があるのに信じていない人がいるということなんです。証拠があるんだったら信じざるを得ないんじゃないの?と思うんです。
それはつまり、100%証拠であるとは言い切れないということなのか、証拠を証拠だと認識するにはそれなりの知識が必要なのか、どちらでしょうか?

NATROMNATROM 2017/01/17 22:52 ピピットさんへ。

確かにネット上では、「20倍以上」「20〜30倍」とかいう数字が見られます。普通に考えれば胃がんにおけるピロリ菌感染の相対リスクのことを言っているようにしか解釈できません。ただ、その数字がどのような研究に基づくのかはわかりません。

サンプルサイズの小さい質の低い研究に由来するか、あるいは、誰かが「盛った」数字が一人歩きしている可能性もあると私は考えます。

「20倍以上」「20〜30倍」とかいう数字が挙げてあるサイトで、参考文献を提示しているものがあれば、調べてみます。お気づきになったら教えてください。

NATROMNATROM 2017/01/17 23:05 ペロニー菌さんへ。

進化論に関しては宗教が絡んできますので、証拠があっても生物進化を信じたくないという心理が働くのかもしれません。どれだけ証拠があっても信じたいものを信じる人たちは一定数います。たとえば、地球は丸くなく平らであると信じている人たちが現在でもいるのだそうです。

信じたいものを信じるでもまあ構わないのですが、できるだけ客観的に物事を判断したいときには、科学的手法という手段があります。科学的手法の則れば生物進化が起こったという証拠は十分すぎるほどあるというだけで、人によって「私は科学的手法は採用しない」という方針を取るのはその人の自由です。「いいや、科学的手法に則っても生物進化が起こったという証拠は不十分だ」と主張するなら、科学的手法に則って、学会で発表したり論文を投稿したりしなければなりません。

ピピットピピット 2017/01/17 23:24 gut.bmj.com/site/misc/MaastrichtIVJapanese.pdf

こちらの28ページに20倍のことが書いてあり、参考文献も示されてるようです。

ペロニー病ペロニー病 2017/01/18 01:03 ありがとうございました。とりあえず読んでみます。

NATROMNATROM 2017/01/19 17:36 ピピットさんへ。とても興味深い情報をありがとうございました。返事が長くなりましたので、過去日付のエントリーとして書きました。

http://d.hatena.ne.jp/NATROM/00170119#p1

要約すると、

・胃がんにおけるピロリ菌感染の相対リスク20倍〜30倍という研究は存在する。
・『誰かが「盛った」数字が一人歩きしている可能性』というのは私の邪推でした。ごめんなさい。
・そうは言っても、いろいろな理由で20倍〜30倍というのは過大評価ではないか。
・仮に30倍だとしても集団寄与危険割合は99%もの高い数字にはならない

ピピットピピット 2017/01/19 21:13 エントリー読みました。
ありがとうございました。

たいがたいが 2017/01/21 17:54 いつも楽しく、興味深く拝見しております。

>1990年から2004年までの日本の研究では、患者集団中の抗ピロリ菌抗体陽性者の割合は約93.5%、相対リスクは約5.1倍であった*3。集団寄与危険割合を計算すると約75%となる。

の部分なんですが、集団寄与危険割合は約79%になるのではないでしょうか?
素人ですので間違っているかもしれませんが。
直感的に78.3%よりは高いのではないかと思うのです。

ublftboublftbo 2017/01/22 01:17 今晩は。

ちょっと計算してみました。

曝露群内リスクに占める寄与リスクの割合
(5.1-4) / 5.1 ≒ 0.845

人口内の曝露群の割合を 93.5%とすると、
0.845 * 0.935 ≒ 0.79

なので、たいが さんの仰るように、79%になるようですね。

ublftboublftbo 2017/01/22 02:06 あ、すみません。勘違いしてました。
上のは無視してください。

ublftboublftbo 2017/01/22 03:05 何度も恐縮です。
改めて計算してみたら、約0.793になりました。
75%というのは、人口寄与リスク割合の分子だったりしないでしょうか(分母は0.948)。

NATROMNATROM 2017/01/22 11:06 曝露を抗ピロリ菌陽性と定義します。

仮に一般集団中の暴露割合が93.5%、相対リスク5.1のとき、集団寄与危険割合は79.3%になります。しかし、エントリー中での計算は、「一般集団中」でなく「患者集団中」の暴露割合を元に計算しています。

患者集団中の暴露割合が93.5%、相対リスク5.1のとき、一般集団中の暴露割合は約73.8%になるはずです。一般集団中の暴露割合が73.8%、相対リスク5.1だと、集団寄与危険割合は75.2%(約75%)になると思います。

患者集団中の暴露割合と相対リスクから直接、集団寄与危険割合を算出することもできます。Wikipediaの人口寄与危険割合

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%BA%E5%8F%A3%E5%AF%84%E4%B8%8E%E5%8D%B1%E9%99%BA%E5%89%B2%E5%90%88

の、暴露率との関係、患者内暴露率との関係を参照してください。Wikipediaでいう暴露率が「一般集団中の暴露割合」、患者内暴露率が「患者集団中の暴露割合」です。患者内暴露率をP'とした場合、人口寄与危険割合={(相対危険度−1)/相対危険度}×P’という式があります。

ublftboublftbo 2017/01/22 12:07 あ、そうですね。確かに。色々ごっちゃにしてしまっていました。
失礼しました。

たいがたいが 2017/01/22 17:37 ublftboさん、NATROMさん、ありがとうございます。

<「一般集団中」でなく「患者集団中」の暴露割合

ということなんですね。理解が足らず失礼しました。
こういう数字の取り扱いってやっぱり難しいですね。

ublftboublftbo 2017/01/23 00:14 手許にある疫学・公衆衛生学の本を復習している所なのですが、人口寄与リスク割合の計算式を、全リスク内の曝露割合を用いて説明しているものって、ほとんど無いのですね。興味深い事だと思いました。
所持している本で確認出来ていない物もありますが、最近参照した中だと、『今日の疫学 第2版』くらいでした。その本では、
▼ 引  用 ▼
人口寄与危険割合(population attributable risk percent):(曝露群寄与危険割合)×(集団での全罹患者うち(※原文ママ),曝露群からの罹患者が占める割合)
▲ 引用終了 ▲
となっています。

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