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cover ■「ニセ医学」に騙されないために

 ホメオパシー、デトックス、千島学説、血液型ダイエット、ワクチン有害論、酵素栄養学、オーリングテストなどなど、「ニセ医学」についての本を書きました。あらかじめニセ医学の手口を知ることで被害防止を。

2017-03-17 福島県の甲状腺がん検診の2巡目の数字から言えることと言えないこと

[]福島県の甲状腺がん検診の2巡目の数字から言えることと言えないこと 福島県の甲状腺がん検診の2巡目の数字から言えることと言えないことを含むブックマーク

福島県の甲状腺がん検診において、2巡目で50人を超えるがんあるいは疑い例が見つかった。これらの例は1巡目(先行調査)ではがんは指摘されていない。「たったの2年間で50人以上もの新たながんが発症しているのであるから明らかに被曝による多発である」という主張がなされているが、そうは言えない。

たとえば、津田敏秀氏は、2巡目のがん検診を受けた236595人中がんの発症が51人(216人/100万人)を、全国平均発症率から推定した有病割合5人/100万人×2年=10人/100万人と比較して、22倍の多発だと主張している*1。過剰診断がゼロであるならば、この計算は正しい。津田氏の主張をまとめると「過剰診断がゼロだと仮定すると甲状腺がんは多発している」になるが、そんなことは計算なんてしなくても自明である。過剰診断がどれぐらいの割合なのか不明なので苦労しているのだ。

仮に、検診で発見可能な甲状腺がんのうち、将来症状を呈するがん1につき過剰診断が21であったとしたら、被曝の影響がなくても「22倍の多発」という数字は説明可能である*2。しかし、検診で発見された小児の甲状腺がんにおいて、過剰診断がどれぐらいの割合で含まれるのかはわかっていない。よって、2巡目の数字だけでは、過剰診断なのか、それとも被曝による多発なのかはわからない。過剰診断がゼロでほぼ被曝による多発のみ*3を観察しているのかもしれないし、被曝による多発はゼロで過剰診断*4を観察しているのかもしれない。あるいはその混合(半分が被曝による多発で、半分が被曝と無関係の過剰診断+狭義のスクリーニング効果、など)かもしれない。

成人においては、検診で発見された甲状腺がんの大半が過剰診断であることはわかっている。韓国では死亡率が不変である一方で甲状腺がんの罹患率は15倍に増えた。単純計算で有症状もしくはいずれ症状を呈する甲状腺がん1に対し過剰診断14と推測できる*5。しかも、甲状腺がん検診を受けたのはせいぜい成人の10-20%であるため、福島県調査のように高い検診受診割合だと過剰診断の割合はさらに高くなる。ただし、成人と小児は異なる可能性があるので、これは参考情報に過ぎない。言えるのはせいぜい、小児においても検診で発見された甲状腺がんの多くが過剰診断であっておかしくない、程度である。

被曝による多発の有無を検討するには、2巡目の数字以外の情報も必要である。そうした情報を総合すると、現時点では、津田氏が主張するほどの多発はないと考える。理由はいくつかあるが、たとえば、福島県内の地域間で罹患率に有意差がない。むろん、有意差がないことは差がない証明ではない。しかし、被曝によって何十倍もの多発が起こっているのに地域差が検出できないというのはきわめて考えにくい。自然発症に埋もれて有意差が見えにくくなっている程度の多発なら地域間比較だけでは否定できない。

また、「検査で検出される大きさに成長してから、その後もがんが成長し続け、病院に行くほどの自覚症状が出る(発症する)のが平均して4年」(診断可能前臨床期)、かつ、被曝によって数十倍もの多発があるならば、原発事故から6年経った現時点で、それなりの数の発症した有症状の小児甲状腺がん患者が観察できるはずである。検診を受けて治療介入されれば発症をまぬがれるとしても、福島県の検診受診割合は75-90%であり検診を受けていない人たちもいる。検診群から160人以上もがんが発見されているので、検診を受けていない割合を少なく10%と見積もっても福島県内だけで20人弱程度は検診外での甲状腺がんがあるはずだ*6。福島県外も含めるともっといる。しかし、そういう話は聞こえてこない。これは、「診断可能前臨床期は4年間」および「多発が数十倍」という推定のどちらかもしくは両方が誤りであることを示唆している。

現時点でのデータでは被曝による多発があるとは言えないが、将来にわたってそうだとは限らない。今後、症例数を重ねると福島県内での地域差が明瞭になってくるかもしれない。あるいは、診断可能前臨床期が4年ではなく10年ぐらいであり、今から検診外の発症が観察されるようになるかもしれない。注意深い観察を続けるべきである*7。また、被曝による影響が証明できなくても、甲状腺がん患者には十分な補償が必要である。



関連記事

■「過剰診断」とは何か

■韓国における甲状腺がんの過剰診断

*1http://blog.miraikan.jst.go.jp/event/20160719post-683.html

*2:診断可能前臨床期が4年間だとして。これも推定だから厳密な定量的な考察にあまり意味があるとは思えない

*3:22分の1は被曝と無関係の「前倒し」(狭義のスクリーニング効果)

*4:および「前倒し(狭義のスクリーニング効果)」

*5:統計上の罹患率には症状を呈してから診断された例を含むので、「検診で発見された甲状腺がん」のうちの過剰診断の割合はもっと高くなる

*6:160÷9≒17.8

*7:検診を推奨しているわけではない。甲状腺がん検診は無効である蓋然性がきわめて高いので、行うなら十分な説明と同意を要する。なお、本記事はがん検診の有効性とは独立している。「甲状腺がん検診はきわめて有効である」と信じている人であっても本エントリーの内容には同意しうるであろう

比ヤング比ヤング 2017/03/19 01:51 医者は「経過観察」(場合によっては、放置)を患者に勧めるべきだ、と主張するのではなく
医者は検査を受け付けるべきではない、という主張にすり替えるのは、何故ですかぁ〜〜〜?

反原発イデオロギーに対して(また別種の不適切な)イデオロギーをぶつけているようにしか
見えませんよ。www

比ヤング(ふま)比ヤング(ふま) 2017/03/19 02:08 まあ、たまたま、その患者と個人的にお友達で

「できれば長生きして欲しいんだけど、こいつ本当にバカだから、大したことない癌でも見つかったら、“切らない方がいいと思うよ”とアドバイスしても理解できずに、手術することになるだろう」

と予想できるような特殊事情でもあれば、受け付けない方がいいかもね。

比ヤング(なとろむ先生のお友達)比ヤング(なとろむ先生のお友達) 2017/03/19 02:31 ああ、

   「こんなアホな検査を受けにくる時点で、アドバイスが理解できないおバカさんだろう」

という予想か。でも、そういうのは「極めて主観的な先入観」に基づく予想であって、医学的な根拠を持つものでは全くありませんね。

池田信夫のう●こ、食べたい♪池田信夫のう●こ、食べたい♪ 2017/03/19 03:40 いずれにしても、もし仮に過剰診断であるとすれば、

   「医者が行っている治療行為」が(少なくとも統計的に)過剰である

ということであって、その原因として、まず疑うべきは、

   (少なくとも統計的には)医者が患者に「過剰な治療」を勧めた

ということでしょ。福島原発由来の検査に限るのなら、この一般原則に当て嵌まらないかもしれないが。

NATROMNATROM 2017/03/19 08:51 >医者は「経過観察」(場合によっては、放置)を患者に勧めるべきだ、と主張するのではなく
>医者は検査を受け付けるべきではない、という主張にすり替えるのは、何故ですかぁ〜〜〜?

「医者は検査を受け付けるべきではない」とは言っていません。甲状腺がん検診を推奨すべきではないですが、ケースバイケースで「検査を受け付け」たほうがいい場合もあるでしょう。それはそれとして、甲状腺がん検診を推奨すべきでない理由は、主に3点です。

一つ目は、甲状腺がん検診が無効である蓋然性がきわめて高いからです。一定の割合で過剰診断が生じてもそれに見合うメリット(甲状腺がん死の抑制、など)があれば検診を行った方がいい場合もありますが、甲状腺がん検診はそうではありません。

二つ目は、検査で発見した時点で、その疾患が過剰診断なのか、それともいずれ症状を呈するようになるのか、区別がつかないことです。「がんが見つかっても過剰診断なら治療せずに経過を観察すればいいだろう」という意見を散見しますが、区別がつくなら苦労はしません。

三つ目は、よしんば経過観察や放置を選択できる場合においてすら、がんと診断することは患者のQOLを落とすからです。

これは、私の独自の意見ではなく、医学界のコンセンサスです。

nn 2017/03/26 20:25 NATROMさんの上の書き込みにちょっとだけ補足しておきます。
確かに、NATROMさんのこの記事の内容は、学問としての医学界のコンセンサスです。福島の事件が起こるより遥か以前より、国家試験を受ける前の大学生向けの教科書に必ず書かれているレベルです。
ただしこういう疫学的考え方を医師にちゃんと教えるようになったのはそこまで古い話ではないので、場末の高齢の開業医まですみずみこれを理解しているかというとそうではありません。

また、甲状腺癌のスクリーニングを仕事として見た場合は話が変わってきます。とりあえず国が大量にお金を出してくれ、特殊な教育を受けていない国民はみんな正しいことだと信じており、しかも見逃したって手術したってどうせ結局ほとんど誰も死なない(結果的に無駄な手術受けた人はトラウマでしょうが)という、超ローリスクハイリターンなお仕事です。こんなおいしい事業はないため、学問的妥当性とは別に、現地の当事者が声を上げて止めろとも言いづらいということはあると思います。
声を小にして(大じゃなくw)言いますけど、利権とか陰謀ネタで医師を叩くのがお好きな方は、むしろNATROMさんの主張をちゃんと理解した方がお得だと思うんですけどねえ…w

耳鼻科医耳鼻科医 2017/03/27 08:22 昔から「高校の検診で胸部異常影を指摘されたことで発見される甲状腺癌」「妊婦健診で指摘される甲状腺癌」の発生率がわかるのではないかと,私はこの福島スクリーニングに期待しております.