NATROMの日記 RSSフィード Twitter

0000 | 01 | 02 | 03 | 04 |
0010 | 11 |
0011 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 11 |
0012 | 04 | 05 | 06 | 07 | 09 | 10 | 11 | 12 |
0013 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 11 |
0014 | 01 | 02 | 05 | 06 | 07 | 09 |
0015 | 05 | 06 | 09 |
0016 | 01 | 02 | 09 | 10 |
0017 | 01 | 03 | 05 | 10 | 11 |
2004 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2005 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2006 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2007 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2008 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2009 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2010 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2011 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2012 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2013 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2014 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2015 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2016 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2017 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
cover ■「ニセ医学」に騙されないために

 ホメオパシー、デトックス、千島学説、血液型ダイエット、ワクチン有害論、酵素栄養学、オーリングテストなどなど、「ニセ医学」についての本を書きました。あらかじめニセ医学の手口を知ることで被害防止を。

2017-08-28 クリニックで行われた臍帯血投与に意味がない理由

[]クリニックで行われた臍帯血投与に意味がない理由 クリニックで行われた臍帯血投与に意味がない理由を含むブックマーク

無届けで臍帯血(さいたいけつ)の投与を行ったとして、医師を含む6人が逮捕されるというニュースがあった。



■さい帯血無届け投与、販売業者や医師ら6人逮捕 : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)



がんの治療や美容目的で臍帯血の投与が行われていたという。該当するクリニックで行われていた臍帯血の投与は、医学的には意味がない。意味がないというか、意味がわからない。よくある細胞免疫療法は、少なくとも理論上は効くかもしれないと思えるようなものであるが、臍帯血については逮捕された医師がいったい何を期待していたのか見当がつかない。ぜんぜんわからずに雰囲気で臍帯血投与をやっていたとしか思えない。

臍帯血移植は標準医療である。大きなくくりでは、骨髄移植や末梢血幹細胞移植と同じく、造血幹細胞移植の一種である。たとえば、血液系の悪性腫瘍(がん)に対して臍帯血移植が行われている。しかし、そのメカニズムを知っていれば、がん患者にただ臍帯血を投与したところで何の効果もないことがわかる。

臍帯とはいわゆる「へその緒」である。このへその緒から採れた血液中にさまざまな血球に分化する能力を持った造血幹細胞が含まれている。血液系の悪性腫瘍に対し臍帯血移植を行う前に、まず抗がん剤や放射線治療によってがん細胞を叩く。しかし、こうした治療は副作用として正常な造血細胞にもダメージを与える。抗がん剤の副作用として白血球減少や血小板減少は有名である。

がん細胞に対して十分な治療を行ったところで臍帯血を移植すると、ドナーの造血幹細胞が増殖、分化して白血球や血小板を造りはじめる。つまり、治療によってダメージを受けた造血機能が回復する。臍帯血を移植することで思い切った治療が行えるわけだ。また、造血幹細胞由来の免疫細胞が残ったがん細胞に対して攻撃するという移植片対白血病効果(GVL効果)も期待できる。

臍帯血移植が効果を発揮するのはその前に抗がん剤治療や放射線療法を行うからであって、ただ臍帯血だけ入れても意味がない。レシピエントの免疫細胞が残っているので、逆に臍帯血由来の細胞は攻撃されて死に絶えるだけである。通常の臍帯血移植であれば、レシピエントの免疫細胞はほとんど残っていないので、臍帯血由来の細胞は生き残ることができる。

クリニックで行われた臍帯血移植において、移植された造血幹細胞が死に絶えてくれるならまだよい。臍帯血移植を含めた造血幹細胞移植には移植片対宿主病(GVHD)という副作用がある。移植された造血幹細胞由来の免疫細胞ががん細胞を攻撃するだけではなく、正常な組織も攻撃することによって起こる。運悪く移植片対宿主病が起きたとき、クリニックの医師は正しく対処できたであろうか。というか、移植片対宿主病の存在自体を知らないのではないか。知っていたら、生きている他人の造血幹細胞を外来で患者の体内に注入するなんて恐ろしいことはできない。

今回は、再生医療安全性確保法という法律があったため、こうして事件となった。しかし仮に法律がなかったとしても、入院設備のないクリニックががんの治療を目的として臍帯血投与を行うのは医学的に考えて容認できない。今回の事件は、単に法律上の手続きの不備に留まらず、医学的な観点において根本的に問題があった。

やっかいなのは、幹細胞さえ使用しなければ、同レベルのインチキ医療を規制する法律が存在しないことである。賢いクリニックではわざわざ臍帯血移植には手を出さず、もっと効率的に儲かる代替医療を提供している。長期的にはなんらかの法的な規制が行われるかもしれないが、現時点では、患者さんが各自騙されないよう気を付けるぐらいしか方法はなさそうである。



関連記事

■作業員の自己造血幹細胞の事前採取の是非は誰にもわからない

■クリニックで幹細胞療法はいかが?

2017-08-18 因果推論の考え方を学ぶ。『「原因と結果」の経済学』

[]因果推論の考え方を学ぶ。『「原因と結果」の経済学』 因果推論の考え方を学ぶ。『「原因と結果」の経済学』を含むブックマーク

cover■「原因と結果」の経済学―――データから真実を見抜く思考法 中室牧子 (著), 津川友介 (著)



相関関係があるからといって必ずしも因果関係があるとは限らない*1。テレビを長時間見ている子どもほど学力が低いとしても、テレビの視聴が低い学力の原因とは限らない。たとえば、テレビ視聴そのものは原因ではなく、長時間のテレビ視聴を許すような家庭環境が低い学力の真の原因なのかもしれない。

因果関係の有無を検証するのはしばしば困難である。テレビの視聴以外の、家庭環境を含め条件がすべて同一で、唯一の違いがテレビ視聴時間だけの子どもの学力を比較できればよいが、通常はそのような比較は難しい。十分な数の子どもたちをランダムに二群に分け、テレビの視聴時間を減らした介入群と視聴時間が変わらない対照群との間に学力に差が出るかどうかを比較するランダム化比較試験を行えばいいが、コストも時間もかかる。ランダム化比較試験ができない場合でも因果推論は可能である。本書では、テレビ視聴と学力の因果関係を「操作変数法」で検証した研究を紹介している。

操作変数とは「結果には直接影響を与えないが、原因に影響を与えることで、間接的に結果に影響を与える」ような第3の変数のことである(P115)。アメリカ合衆国においてテレビが普及しつつあった1948年から1952年までの期間、新規のテレビ放送免許の凍結が行われた。これを利用し、1948年以前からテレビを視聴できた群と1952年以降しかテレビを見ることができなかった群とを比較できる。この場合、操作変数は「テレビの所有」であり、「子供の学力」には直接影響を与えないが*2、「テレビの視聴」には影響を与える。この研究ではテレビを見ていた子どもたちのほうが、わずかであるが学力テストの成績が良かったことが示された。

書名に「経済学」とあるが、因果推論は経済学だけではなく医学の分野でも重要である。たとえば「喫煙は肺がんの原因かどうか?」という問いは因果推論そのものである。治療についても同様だ。「高血圧の患者は降圧薬を内服すべきか?」という問いは「降圧薬内服は良好な予後の原因かどうか?」という問いに変換できる。

本書では因果推論の方法として、ランダム化比較試験や操作変数法のほか、「差の差分析」「回帰不連続デザイン」「マッチング法」「重回帰分析」などが紹介されている。マッチング法と重回帰分析は医学の分野でもよく使われるが、そのほかの方法はあまり馴染みがない。操作変数法も医学の分野で馴染みがないと当初は思ったが、よく考えてみると、「メンデルランダム化解析」という手法は操作変数法であるように思う。今後、経済学での手法が分野を超え医学の分野でも応用されるようになるかもしれない(というか応用されているが私が知らないだけかもしれない)。



関連記事

■コレステロールを下げると危険なのか?

■食の安全や健康情報の「うんちく話」

■『生態学と化学物質とリスク評価』

*1:本書では「相関関係」を「2つのことがらに関係があるものの、その2つは原因と結果の関係にないもの」という狭い意味で使用しているが、ここでは因果関係がある場合も含んだ広い意味での相関関係を指す

*2:当時、テレビを所有していたかどうかは、家庭環境などではなくテレビ放送されている地域に住んでいるかどうかでほとんど決まるため

2017-08-17 『生態学と化学物質とリスク評価』

[][]『生態学と化学物質とリスク評価』 『生態学と化学物質とリスク評価』を含むブックマーク

cover■生態学と化学物質とリスク評価 (共立スマートセレクション) 加茂 将史 (著)



生態学と生態リスク評価はだいぶ違うものらしい。本書は基本的にはリスク評価、とくに生態リスク評価の方法の解説であるが、ちょいちょい挟まれる著者の経験が興味深い。著者の加茂将史さんは生態学が専門で理学出身だ。一方で、リスク評価は工学的な考え方をするそうである。

リスク評価は工学の世界で誕生しました.理学者は「飛行機がなぜ飛ぶのか」を知ろうとします.工学者は「どうすればちゃんと飛ぶ飛行機を作ることができるか」を考えます.「なぜ飛ぶのか」といった原理はさておいて,とにかく安全に行って帰ってくる飛行機を作ることが最大の目的なのです.化学物質の影響なんて,細かく詰めていけばわからないことだらけです.わからないことはわからないというべきであって,わからないから研究を行うのである.何か主張したければまず証拠を示せ,というのが理学的な発想です.その発想からすると,わからない世界にあえて踏み込んでいくリスク評価の方法論は危なっかしいものに思えます.工学的な発想と折り合いをつけること,これが,理学出身の私が超えなければならないルビコンでした.(はじめに)

強いて言えば、基礎医学が理学的で臨床医学が工学的であるようなものか、とも思ったが、基礎医学と臨床医学は分野間の交流が密である。臨床経験のある基礎医学者はざらにいるし、臨床医であっても博士号を基礎医学の分野で取ることもよくある。ところが,生態学と生態リスク評価では「お互いが思っている『生態』という言葉の意味が違いすぎて,話が通じない」ほどだったそうだ。

生態学を学んできた著者は生態リスクの基礎知識を知らないゆえに、苦労もするし悩みもする。一方で、生態リスク評価村の住民は生態学村での基礎知識を知らない(P51)。生態学を学んだ人にとっては当たり前のことも生態リスク評価分野ではそうでもなかったりした。分野間に断絶があることに気づき、生態リスク評価分野においては新しい発想である「個体群の維持が困難となる濃度での種の感受性分布」についての研究を行い、高い評価を受けた。まさに「その世界の常識を知らないことがよい方向に働いた幸運な事例」(P74)である。

現代科学は各分野の専門性が高く、そのぶん、隣がなにをしているのかよくわからない。分野をまたいだ学際的な発想が進歩を促すのであろう。私はただ読むだけだが、たまには違った分野の本を読むのも面白い。本書を読まなければ、生態学と生態リスク評価の違いなんて知らないままだったに違いない。



関連記事

■食の安全や健康情報の「うんちく話」

2017-08-16 食の安全や健康情報の「うんちく話」

[][]食の安全や健康情報の「うんちく話」 食の安全や健康情報の「うんちく話」を含むブックマーク

cover

■効かない健康食品 危ない自然・天然 (光文社新書) 松永 和紀 (著)



松永和紀さんの新刊。ちなみに和紀は「かずのり」ではなく「わき」と読む。本書のプロフィールによれば、毎日新聞社の記者として10年間働いた後に退職し、科学ジャーナリストとして活動を開始した。最近では、BuzzFeedNewsに載った■<偽装豆腐>という間違いだらけの指摘にこそ注意!という記事で注目を集めた。

本書では食の安全や健康情報の分野のさまざまな話題が扱われている。水素水、ブルーベリー、ウコン、酵素ドリンク、グルテンフリー、トランス脂肪酸などなど。各項目は数ページで、冒頭に数行のサマリー、末尾に1〜2行のチェックポイントがついている。たとえば水素水の項目のサマリーは

「抗酸化作用がある」「がんに効く」「糖尿病が改善する」など、水素水のさまざまな”効能”が話題です。でも、「効かない」「根拠がない」と批判する科学者も目立ちます。どちらを信用すべきでしょうか?

答えは今のところ、「効き目の根拠は、ほとんどなし」です。水素は体内の大腸でも大量発生しており一部は血液中を循環しています。それに比べ、水素水として口から飲める量はごくわずかです。

チェックポイントは

「効く成分」が入っていなくても、期待が効き目に結びつく「プラセボ効果」にご注意。

といった具合。一項目が長くないので好きなところ、興味のあるところだけスパっと読める。

書名の「危ない自然・天然」は、肉の生食、浅漬けや冷やしキュウリによる腸管出血性大腸菌の感染、ヒジキ中の無機ヒ素などのリスクを紹介していることによる。なんとなくイメージで「天然なら安全」と思い込んでいる人はこのブログの読者には多くないだろうが、さまざまな事例を学ぶことができ有用だろう。また、友人、家族に勧めるのにも本書は手ごろだと思う。

リスクだけではなく、だったらどうすればいいかという点も述べられている。たとえば「バランスの取れた食事」は死亡リスクを下げる。当たり前のことではあるが、だからこそあまり取り上げられない。根拠に乏しくても「健康になりたければ○○しなさい」「××を食べるだけでがん予防になる」といった刺激的なキャッチコピーのほうが広まりやすい。とくにインターネットではそうである。

最終章ではNHS(イギリスの国民保健サービス)の「健康ニュースの読み解き方」が紹介されている。また、各項目のチェックポイントは他の事例にも応用ができるだろう。ネットの情報は玉石混交である。そうした情報の見分け方を身に付けるのに本書は役立つだろう。



関連記事

■食の安全と環境−「気分のエコ」にはだまされない

■メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学