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cover ■「ニセ医学」に騙されないために

 ホメオパシー、デトックス、千島学説、血液型ダイエット、ワクチン有害論、酵素栄養学、オーリングテストなどなど、「ニセ医学」についての本を書きました。あらかじめニセ医学の手口を知ることで被害防止を。

2015-11-10 甲状腺がん検診でPECOを学ぼう

[][]甲状腺がん検診でPECOを学ぼう 甲状腺がん検診でPECOを学ぼう - NATROMの日記 を含むブックマーク

成人、小児に限らず、甲状腺がん検診が、がん死や有害なアウトカムを減少させるという臨床的証拠は存在しない。むしろ、観察研究によれば成人に対する甲状腺がん検診はがん死を減少させないという証拠すらある(■韓国における甲状腺がんの過剰診断)。甲状腺がんに限らず、がん検診の有効性についての議論を追っかけていれば、この辺りは常識に属することがわかるだろう。

ところが、cyborg001さんから「(甲状腺がん検診が、がん死やそのほか有害なアウトカムを減らすという)臨床的証拠は存在しています」とのツイートがあった*1。なぜcyborg001さんが間違ったのか、解説することは無駄ではないと思う。


甲状腺がん検診の有効性を示す「臨床的証拠」とは?

cyborg001さんの提示する根拠は以下である。

f:id:NATROM:20151110155404j:image

https://twitter.com/cyborg0012/status/649062853912035328 より引用。


慣れていれば、調べなくてもcyborg001さんの主張のどこがおかしいかがわかる。たとえば、累積死亡率のグラフが30年後まであるのはおかしい。30年前は超音波による甲状腺がん検診は一般的ではなかった。起点が治療というのも、検診の有効性を議論しているにしては変だ。がん検診の有効性を評価したいのであれば、検診を受けた人と、検診を受けなかった人を比較しなければならない。起点は検診を受けた時点のはずである。


累積死亡率のグラフは捏造である

よって、このグラフは、甲状腺がん検診の有効性でなく、何か別のものを表していると考えた。確認するために、Chung, 2014*2を参照したが、驚くべきことに、Chung, 2014にはそのようなグラフは存在しなかった。

よく見ると「概念図」とある。どうやら「30年間の癌死亡率を2倍以上増加させる」という文章からcyborg001さんが自分でグラフを「作成」したらしい。10年目や20年目の数値をcyborg001さんはどうやって知ったのだろうか。あるいは30年目であっても、「2倍以上」以外の情報はあったのだろうか。そうした情報がないのにこのようなグラフを描いたとしたら、これは「作成」ではなく「捏造」である


何が30年後の癌死亡率を増加させたのか?

これだけでもcyborg001さんの主張が信頼に値しないことを示すのに十分であるが、「30年間の癌死亡率を2倍以上増加させる」についても解説をしておこう。訳の部分を読めばおおよそ推測できるが、Mazzaferri, 1999*3にあたってみた。

思った通り、がんの死亡率の増加は検診をしないことに由来するものではなかった。すでに甲状腺がんの治療を受けた患者のうち、放射性ヨウ素によるスキャンで再発を発見された人と比較して、臨床的徴候によって再発を発見された人はがん死亡率が2倍になるという話である*4

1999年のさらに30年以上も前は、まだCTスキャンは実用化されていない。当時、放射性ヨウ素によるスキャンが甲状腺がんの再発を早期に発見し、治療成績の改善に寄与したというのは十分にありそうな話である*5。しかし、健康な人を対象とした超音波による甲状腺がん検診の有効性については何も言えない。


論文を読むときにはPECOを意識しよう

EBM(evidence based medicine:根拠に基づいた医療)の基本の一つが、PECOである。それぞれ、P(patient:どのような患者に)、E(exposure:何をすると)、C(comparison:何と比べて)、O(outcome:どうなるか)を表す。PECOは臨床における疑問を整理するのに役に立つ。たとえば、甲状腺がん検診の有効性についての疑問を整理するとこうなる。


P:自覚症状のない成人に対して

E:超音波による甲状腺がん検診を行うと

C:検診を行わなかった場合と比較して

O:甲状腺がんによる死亡や有害なアウトカムが減少するか?


現在のところ、甲状腺がん検診やがん死や有害なアウトカムを減少させるという臨床的証拠はないばかりか、甲状腺がん死を減らさないという観察研究があるのは既に述べた。この主張に対してcyborg001さんが持ち出してきた「臨床的証拠」は、


P:甲状腺乳頭がん治療後の患者が

E:放射性ヨウ素によるスキャンによって早期に再発が発見されると

C:臨床的徴候によって再発が発見された場合と比較して

O:甲状腺がんによる死亡が減少する


という、的外れなものであった。EBMについての基本を学ぶと、こうした誤りに陥らずに済む。

PECOを使って臨床的疑問を定式化することは、「ニセ医学」だけではなく、慣行医療におけるグレーゾーンを判別するのに役立つ。たとえば、「この薬を飲むと血中LDLコレステロールが低下することが臨床試験で証明されました」という製薬会社の主張に対し、

  • 「どういう患者が対象か?単に血中LDLコレステロールが高い人?それとも、LDL以外にも心血管疾患のリスクを持った人?それとも、心筋梗塞を発症したことのある人が対象?」
  • 「血中LDLコレステロールを低下させるというが、心血管疾患の発症や死亡を減らすことはできるのか?」

といった疑問を持つことができる。二つほど「外部リンク」として、PECOを解説したページを紹介する。PECOを意識することで、論文をより批判的に吟味できるようになるだろう。



外部リンク

■《121》 「ピコ」って知っていますか? - これって効きますか? - アピタル(医療・健康)

■Blogger版 地域医療の見え方: EBMの入り口


関連記事

■「ニセ医学」についての本を書きました

■韓国の最近の甲状腺がん死亡率の推移

*1:URL:https://twitter.com/cyborg0012/status/663902437300813824、「甲状腺がん検診が、がん死やそのほか有害なアウトカムを減らすという臨床的証拠はない」という私のツイートに対するリプライとして

*2■Unfounded Reports on Thyroid Cancer

*3■An overview of the management of papillary and follicular thyroid carcinoma.

*4:"Mortality rates are lower when recurrences are detected early by radioiodine scans rather than by clinical signs."

*5:細かいことを言えば、ランダム化比較試験でない限り、「放射性ヨウ素によるスキャン群においては、治療介入をせずとも臨床症状を呈さない人も含まれるがゆえに予後が良好に見える」等のバイアスの可能性は否定できない

mushimushi 2015/11/10 22:23 この手の「グラフ捏造」は、特にネットではいろいろな分野で見られますが、なかなかに面倒な問題ですよね。
捏造する側は適当に作ればいいので大した手間はかからない。捏造を指摘する側は、「捏造っぽいけどどこかに出典があるかもしれないしなあ・・・」と考えると、いろいろ検証せざるをえず、手間がかかります。
そういう不均衡をなくすためにも引用元を明記することが重要なわけですが、そういう意味ではまだcyborg001さんはまだマシなほうかもしれませんね。間違った意味ではあるものの、いちおう引用元は示しているので。

それにしても、「甲状腺がん検診はそこまで意味がないかもね」という結論を、なぜここまでして否定したがるのだろう?

kuching_tidurkuching_tidur 2015/11/11 10:24 人を脅かすと空から小判でも降ってくるんでしょう。
ところで、医療の裏側を描いた社会漫画「教えて!ブラックジャック先生」(たしかそんなタイトル)もずいぶんいろんな事いってましたが、確かこんなことも言ってましたね。
「人間は治療しようがしまいが誰でも100%死ぬ。だったら医療というのは死への恐怖を金に替える商売といえないか」
一方の極論ではあるけど間違ってはいないんでしょう。
どこに立ってどっちを向くかで、なにが医療に含まれるかっていうのは変わってくるんでしょうね。
で、っていう(

motoyama3kaomotoyama3kao 2015/11/12 03:45 義務教育内では自分の意見が間違っているか正しいか、それはなぜそう言えるか。
そんなことをみっちりやらないので、自分の主張をちゃんと精査するっていう発想自体がなかったり、あっても中途半端だったりするんでしょう。
大学の理系なら研究室である程度叩き込まれるかもしれませんが。
一番厄介なのは、ロジカルに考えることができない、かつ、長文でまとまらない文章で意見を主張している人たち。
彼らとは議論がかみ合わないので、相手にしてしまうと第三者にはどちらがバカかわからなくなるという。格言の通りだと思います。

counterfactualcounterfactual 2015/11/15 21:24 あちらの方々は、手術で死ぬこともあるし、手術で死ななかったとしてもその後の生活の質が下がったり、寿命が短くなることもあるということが理解できない様子。検診で早期発見し手術しても、その病気による死亡率が下がらないなら、その検診には意味がないどころか、有害であるのに。
無意味な手術をしてQOLが下がってしまった気の毒な人々など関心はないのだろうね。

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