[][]立花隆の計算はおかしい

話題の女系天皇をめぐるY染色体論について、立花隆が言及。


■神武天皇のY染色体を受け継ぐ人々はゴロゴロいる

神武天皇から今上天皇まで、一応125代ということになっているが(実際には、かなり神話的な部分が入りまじった伝承だから怪しい)、一応これを信じたうえで、計算の便宜上以下100代ということにする。

先に述べたように、神武天皇以下、歴代の天皇たちは、子供数人どころか、数十人ももうけるのが珍しくなかったのが現実だが、仮に、これも計算を簡単にするため、各代子供二人しか作らなかったとする。すると、子孫の総数は2の累乗ということになる。

要するに、二人の子供がそれぞれ二人の子供を作ったと勘定していけば、2、4、8、16、32・・・と世代の数だけ倍々ゲームで増やしていったのが子孫の数ということになる。これは世代の数だけ2の累乗にするということだ。つまり、先の数列は2の2乗、2の3乗、2の4乗、2の5乗ということになるから、100代後には2の100乗になるということである。

つまり神武天皇がたった二人の子孫だけを残し、その後の世代も各代二人の子孫しか残さなかったとしても、神武天皇の子孫は今、2の100乗人いるということである。2の100乗というのが、どれほどの数になるか、ちょっと想像がつかないだろうから、わかりやすい簡易計算をしてみる。

2、4、8、16・・・の数列さらに引きのばしていくと、32、64、128、256、512、1024になる。これをいいかえると、2の10乗が1024になるということで、これを約1000ということにしてしまうと、2の10乗=10の3乗ということになり、これを使うと、2の100乗が簡単に計算できる。2の100乗=(2の10乗)の10乗=(10の3乗)の10乗=10の30乗だから、1にゼロを30個つけたのと同じ数字ということである。ゼロが12個だと兆だから、1兆の1兆倍のさらに100万倍ということである。これは日本の総人口(1億人とする)の1兆倍の100億倍というとんでもない数字になる。

子孫の半分は女性だろうからそれを半分にする、子孫同士の結婚によるダブリを差し引くなどの、いろんな条件をつけての割り算、引き算をたくさんしていったとしても、神武天皇のY染色体を受け継ぐ人々が、今の日本にゴロゴロいるはずという意味がわかるだろう。

現実問題として、天皇家の由来のY染色体がそう珍しいものではないだろうという結論は正しい。しかし、その過程の計算がかなりおかしい。立花隆が計算に用いた仮定、すなわち「神武天皇がたった二人の子孫だけを残し、その後の世代も各代二人の子孫しか残さなかった」という仮定によれば、神武天皇のY染色体はゴロゴロしているどころか、消滅してしまっていたという可能性がきわめて高い。

立花隆の計算の誤りは、Y染色体を受け継ぐ子孫の数≒子孫の数、としてしまったことにある。立花隆の仮定によれば神武天皇の子孫は膨大な数になるが、そのうちY染色体を受け継ぐのは男系のみである。最初の世代で女の子が二人生まれたら終わり。子孫は膨大な数になっても、神武天皇のY染色体を受け継ぐ人はゼロということになる。出生性比は概ね1:1として、生まれる男子の数の期待値は1なのだ。

初期の段階で、運よく男子ばかりが生まれてくれれば、神武天皇のY染色体は生き残るであろうが、そのチャンスはきわめて小さい。立花隆の仮定によると、集団内の神武天皇のY染色体の頻度は上がったり下がったりのランダムウォークをとるが、一度でもゼロになってしまえば終わり。半分が崖になっている道を酔っ払いが歩くようなものだ。しかもその酔っ払いの出発地点は崖ギリギリときている。

別の視点から考えればわかりやすいかもしれない。神武天皇の時代の任意の男子Aについて、彼のY染色体は現代社会に残っているだろうか?立花隆の仮定を男子Aに援用して、「男子Aがたった二人の子孫だけを残し、その後の世代も各代二人の子孫しか残さなかった」としよう。男子AのY染色体は今の日本にゴロゴロいるか。男子Aの子孫は膨大な数いる。しかし、男子AのY染色体が残っているチャンスはほとんどないだろう。

立花隆の計算は間違っているが、天皇家の由来のY染色体が現在日本の集団内でそう珍しいものではないだろうという結論は正しい。そう考える理由は二つある。一つは、天皇家のY染色体は繁殖成功しやすいこと、もう一つが、そもそもが現在まで残っているY染色体はなんであれ、ほとんどが集団内では主流の系統であるということ。

上記引用でも、「歴代の天皇たちは、子供数人どころか、数十人ももうけるのが珍しくなかった」とある。それだけで、同世代のライバルのY染色体に対して優位である。傍流とされ、皇室を離れたY染色体を持つ人たちであっても、一般庶民と比較すれば繁殖に有利であったろう。

たとえこうした生存上の有利が一切なかったとしても、ほとんどの場合、現存する任意のY染色体について同祖的なY染色体はゴロゴロある。ある庶民Bの男系をどんどん神武天皇の時代までさかのぼったとしよう。(神武天皇にいきつく可能性だってありうるけれども)庶民Mにたどり着いたとする。さて、庶民MのY染色体は、現在の日本にどのくらいあるのだろうか?ゴロゴロあるというのがその答えである。庶民Mと同時代に生きた庶民L、庶民N、庶民O、庶民PなどのY染色体は、上記した理由によって、現代には伝わらなかったであろう。現在の残っているというだけで、そのY染色体はきわめてラッキーなわけだ。

ランダムウォークで例えてみよう。酔っ払いを崖っぷちに100人集めて、よーいどんすれば、どんどん酔っ払いは落ちていく。時間が経ったところで見てみれば、生き残っている酔っ払いは崖から離れていることが多い。ちなみに、十分時間が経てば、他の酔っ払いはみな崖から落ちてしまって酔っ払いは一人になる。これが、Y染色体やミトコンドリアによって一人の共通祖先にたどれる理由である。

いちおう、私の立場を表明しておこう。天皇制については、消極的賛成。女系天皇については、正直どうでもよいと思っているけど、強いて言うならやっぱり消極的賛成。多数の人が男系維持に賛成なら、それはそれでいいのではないか、と考えている。今回、立花隆に突っ込んだのは、保守系のY染色体論にばかり突っ込むのはバランスがとれていないと考えたから。ついでに、

天皇家の祖先そのものである天照大神のミトコンドリアを受け継ぐ天皇家の女性たちこそ、天皇の台座に登るいちばんの資格者だという議論が行われてもおかしくない。

立花隆の天照大神のミトコンドリア論については、科学のつまみ食いする連中を皮肉ったのだろうが、素で間違えているだけかもしれない。微妙。



2005年12月9日付記

天皇家の由来のY染色体が現在日本の集団内でそう珍しいものではない理由を、id:jounoさんが既に同じような説明をしていた。

http://d.hatena.ne.jp/jouno/20051114/1131899680

こちらが図入りでわかりやすい。

http://jouno.s11.xrea.com/archives2/bansei_ikkei.html



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