MiAU緊急シンポジウムの斉藤氏の発言について

CNETで掲載された記事はちょっと抜書き的になっていて何故そういえるのか、というところの背景が伝わっていないので勝手ながら僕の考えも交えて補足したい。

デジタル時代のコピー制限における根拠となるDRMについて、慶応義塾大学DMC機構の斉藤氏は「技術的にいえば、すべてのDRMは解除可能」と説明。また、適法サイトを示すマークについても「適法マーク自体をデジタル署名や電子透かしでガードすれば、そのコストについていけない権利者が出てくる。逆にコストを下げてガードを低くすれば、適法マークそのものが複製される」と存在意義の低さを指摘した。

「ダウンロード違法化」に警鐘、MiAUが緊急シンポジウム - CNET Japan

もし、一般ユーザーを犯罪者にしないための確信犯的な違法サイト(もちろん、正体をひた隠しにしようとはするでしょうが)を作ろうと思ったら、適法サイトマークを複製してしまえばよいわけです。ほら、適法マークって発想的にはベリサインセキュアドシールみたいなものですよね。
ところが、例えば、ベリサインセキュアドシールを貼るためには、ベリサインからサーバIDを買わなければならない。これは金額が結構バカになりません。そして、検証するための手間もユーザー側にあるので、「本物だと思った」という話になってしまえば「情を知って」に該当しなくなりますよね。
だから、

  • クラックされないようデジタル署名や電子透かしを駆使した強固なシステムで
  • ユーザーが手間をかけずに本物だと一瞬でわかり
  • 適法サイトが未来永劫適法であることを監視しつつける運用が可能で
  • コストが非常に低い

システムを作らないと、実効性がありません。特に最初の項目はOSとかブラウザレベルで組み込まないと難しいですよね。そして、利用者にブラウザを選ぶ自由は常にあります。
ベリサインなんかが追跡調査しないのは、最初の発行の段階でかなり綿密な調査を行っていて、かつ、そこで得た信頼を破るのは社会的な制裁の対象になる、というところが大きいので、これだって発行してもらってから悪さをすることはいくらでも可能です。ましてや、適法サイトマークが誰に対して発行されるべきか、ということを考えたらその運用の困難さは想像に難くありません。
斉藤さんの発言は、コストを下げる=強度が下がる、という意味合いだったと思いますが、正直、利用者が「情を知って」とならないためであれば、正しいマークを貼ってあるサイトが自動検証され、そのことがユーザーに伝えられることと、コピー(それこそ「似通った」画像レベルであっても)されたマークが正しいマークでないことの自動警告が為されなければならない。コピーした画像レベルでよいのであれば、マーク自体が如何に強固でも意味がないわけで、そういう仕組みがちゃんとできるコストも考えると、確かにコスト下げる=強度下がる、と言えそうです。そうではなくて、自分でマークを検証することまでもユーザーに求めるのであれば、銀行のサイトを使ってお金を騙し取られる際の責任と同様に、ちゃんと検証しなかったことで逮捕されることの責任も自ら負わなくてはならない、と言うことになります。もちろん、マークが偽造されていたことを知らなかったことが「情を知って」になってしまうのは馬鹿げていますよね。
そして、上手くいったとしても、先にあげた「その後の運用」の問題があって、僕が一番問題だと思っているのはこの点です。一度適法になってしまえば野放し、ってことであれば意味ないし、アップローダーみたいなものはサイト管理者にどこまでの責が課されるかもはっきりしないし、取締りのコストを考えると、独立行政法人「ウェブサイト管理機構」ができそうですよね。天下り。そのうちプロバイダの接続料から天引きされたりね。
そんなわけで、適法サイトマークには大変な課題が待っているので、アイディア一発では法案を通す根拠としては弱いです。仕組みと実運用までちゃんと考えなきゃ。