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2008-04-13

航空管制の問題と医療危機はちょっと違う問題だと思う。

僕の観測しているところではどうも同じような問題と捉えられているように思えます。

「明日からというか、今日から管制業務はできない」。籾井康子被告は判決後の会見で、現場への影響をこう語った。一瞬の「言い間違い」が厳しく断じられた点について、「現場に不安と緊張を強いるもの。安全にとって有害」と声を詰まらせた。

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そうなのかなあ。医療について言えば、常に完璧最高の医療を行っても、それでも助からないケースがあり、また、常に完璧最高というのが現実的ではないという現場において、常識的な範囲の措置を行ったにもかかわらず、行政罰どころか刑事罰を受けてしまうという理不尽な問題であります。

しかし、航空管制はそうではない。常に完璧を要求されるし、ミスは起こりうるとしても、ある程度それをカバーする仕組みが出来ているから、よっぽどルーチンワークになって緊張感に欠けているような状況にならない限り、そうそう事故なんて起こるもんじゃないと思うんだけど。医者で言えば腹の中にメスを落としたようなものじゃないの?

今回の事故は、同省航空・鉄道事故調査委員会の報告書でも、システムの不備や運用の不徹底など複数の要因が指摘された。こうした状況を踏まえ、一審・東京地裁は、個人への刑事責任追及は「相当でない」としていた。

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それが原因だとしたら、普段から事故続出なんじゃないの。不徹底が原因だとしたら、どんだけ気の抜けた現場なんだよってことだよね。そうじゃなくて、その人がその辺の本来確認をやらなければならない手順をすっ飛ばしたとしたらものすごい職務怠慢だし、周りは何やっているんだ、という話だよね。

もちろん、ミスは起きる。刻一刻と状況が変わるものだろうから、高度な判断も要求されるだろう。だからといって、今回の判決が「現場に不安と緊張を強いるもの。安全にとって有害」とは思わない。単純な量刑が不当(正直そこまで必要かというと厳しすぎると思う)という訴えであればいいのだけど、緊張を強いられる職場であることは間違いないんだから、そりゃないだろうと思ってしまう。

厳しすぎる、ということはあっても責任は追求されるべきだと思う。フールプルーフなシステムを作ったら突発時に対応できないとか言われそうな気がするしフェイルセーフは無視されたらしょうがない。それとも、どんなに頑張っても事故の直前まで行くほど脆弱な管制システムなんでしょうか。ここの評価ができないからあんまり強いことはいいづらいんだけどね。

この話は医療者にはよくわかる話です。医療者が現在直面している問題そのままと感じています。医療もすべて手作業であり、いかにシステムを張り巡らそうとも必ずミスは生じます。ミスが生じればその過失を問われます。誰も故意にミスを冒そうとしたわけでなく、くり返される膨大な作業量の中での単純ミス、思い違い、結果としての判断ミスなのです。これは絶対には防ぐ事は不可能です。いかにミスに対して厳罰が下されようが完全に防止する事自体がそもそも無理な要求です。

医療は既に刑事罰で処罰する傾向が著明となっています。その結果としてミスは激減したでしょうか、医療レベルが向上したでしょうか、いずれも否です。刑事罰が下されるのを見せ付けられた医師はひたすら防衛医療、萎縮医療に傾きつつあります。刑事罰が発生しやすい職場からはドンドン逃げ出していき、そこへの志望者も激減しています。これに対する批判は盛んですが、人間ならロシアンルーレットを毎日もてあそばなければならない職場はゴメンと考えるのを非難できないと考えます。

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おっしゃりたいことはわかるのですが、ミスはその引き起こした内容と原因に応じて処罰されるべきです。医療問題は高度な専門性を要する技能をそれを(当直医とかが専門じゃないから)持ち得ないのに要求されたり、状況的には適切な措置を結果論によりミスと判断されたり、絶対に助からない患者が死亡したことを医者の責任にされたりするような理不尽さが問題であり、点滴の内容を間違えたような話が問題にされないでいいとは思いません。

僕は医療問題を大きな社会問題と捉え、医者の側の事情を知り、支援して行きたいと考えていますが、医者のミスは起きて当たり前だから処罰はいらんというような考えであれば思いなおさなければならないと思います。理不尽であるところのロシアンルーレットの部分を他の社会問題と同じように語ることで、問題の特殊性を薄め、他の社会問題に直面しているしている人に甘えに捉えられてしまうようでは仕方がありません。

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追記:基本的には言い草が気に入らないのとこの問題の現象を安易に医療問題に適用することは良くないよ、と言いたいわけなので、航空管制システムが今のままで十分とか、そういう風に思っているわけでもないし、責任は追及しなければならないけど、本当に刑事罰が必要なのかどうかは(本文で注記しているように)わかりません。ちゃんと改善しようという姿勢は今まで見せてきたのかな。その辺も気になります。

とおりすがりとおりすがり 2008/04/13 11:53 今回のインシデントでは、管制の指示とTACSの指示のどちらを優先するかが決まっていなかったことで、2人の機長が衝突方向に操縦してしまうというシステム上の「運用の不徹底」が発覚しています。すなわち、今回のような状況では、ミスをカバーするための「フェールセーフ」の仕組みが存在していないことが分かった。逆に言うと、現状のようにTACS優先の運用ルールが当時決まっていたら、この事故は起こらなかったのです。

地裁で言及しているルールとは、管制官個人のミスをなくすためのルールではなく、航空業界全体のルールなのです。

「ミス」が起きた結果、初めてわかることもあります。その「ミス」を生かすためには、「ミス」を単純化された被害者感情に流されて刑事罰とすることが妥当かどうか。医療、管制ともに、そこが問われていると考えます。

なお、「ミス」と過失は異なります。ルールを意図的に守らなかった、サボったなどの過失を免責する議論ではなく、ルールを守っている意識があるのに結果として「ミス」となった場合の論理として、医療と管制の問題の根っこは同じなのです。

追記に対してもコメント。医師側も管制側も、「刑事罰」があっては現場の萎縮が起こるのでダメだと言っているのであって、道義的責任まで免責すべきいう話はしていないと思いますよ。

NOV1975NOV1975 2008/04/13 13:29 おっしゃることはわかります。
あげられている「不徹底」は「不備」ですね。不徹底はルールがあって、なおかつそれを守らないということですから。まあそれは本題ではありません。
ミスや不注意・過失が刑事事件として有罪になるのは業務上過失致傷・致死というものがなんであるかということになると思いますが、僕は法律の専門家ではないので深くは触れられません。
ただ、刑事罰というものが「あってはならない」のではなく、「適切に適用されるべき」ということにする必要はあると思います。そうでなければ、明確な殺意がない自動車事故等も全て刑事罰は必要ありませんよね。一定の社会的効果を元に罰が与えられるのですから、そんな罰なんて与えなくてもみんな再発防止に向けて邁進することが必要です。
萎縮も問題ですが、弛緩も問題です。そして今回はそのバランスを考えて有罪の判決が出たのでしょう。
もう一度いいますが、僕は航空の専門家でもないですから、これが通常の判断を超える、普段だったら絶対起こりえないような状況でのミスだとしたら、不当な判決なのかもしれません。あるいは、管制をどうやっても避けられえない状況だったとか、上司の指示でルール違反とか。その判断を簡単に出来ない以上、医療問題をこれになぞらえて司法の不法だとなじる行為はあまりいいものではないと思っています。
ルールというのは必ずしも明文化されているわけではありません。医療問題なんかは現場が守るにはリソースの足りないルールを押し付けられているようにも思えます。その職種において当然持つべき知識・技術から外れるようなミスを犯したときに、ルールが悪い、というのはなんかおかしいと思ってしまいます(今回がそうだ、というわけではありませんけど)。
裁判所が信頼できない(という印象自体は僕にもありますが)を突き詰めていくと、ルールの恣意的な運用を認めないことになるんじゃないかと思っています。例えば、流れに乗ってようがメーターに誤差があろうが法定速度からちょっとでもはみ出したら即罰金、みたいな。単純に司法がアホだと言ってしまえるのであれば、厳格なルールを決めて、それに従わなかったら刑事罰くらいの覚悟でやればいいのにと思いますよ。
ちょっと大げさに言ってみました。僕もそんなに極端なことを考えているわけではないんですけどね。

satromisatromi 2008/04/13 19:34 判決新聞記事でのはてブでも散々いわれたことですが、そもそもシカゴ条約を批准しつつICAO ANEX 13とは真逆の裁判を連発するからこのような批判になるわけで。
そもそも刑事事件になること事態が問題なんです。

それに、インシデント発生場所自体は管制官ですが、TCASというシステムと管制官・2機のパイロットの全てが別々の行動をとったために起こった事故であり、管制官に全ての責任を押し付けるのはどうかと思います。
自動車事故の例を出されてますが、自動車事故だって100:0の事故なんてほぼ無いですよね?

くえすちょなーれくえすちょなーれ 2008/04/13 22:54 質問です。気に入らない言い種いいぐさ、はどなたの発言をさしてのものですか?よく読み取れなかったのですが。

NOV1975NOV1975 2008/04/14 07:31 >satromiさん
その点については確かにちょっと問題があると思います。そこは司法というかルールの問題で、裁判になってからの話が妥当でないかどうかとはまた別の問題ですね。
正直なところ、ICAO ANEX 13で言うところの「事故」なのか「事件」なのかは僕には判断できません。
話の中心が単純にICAO ANEX 13を守れって話であればまだわかるんだけど…やっぱりちょっと医療の話とはずれると思います。
自動車事故についていうと、80:20であろうが原因の中心にドライバーの不注意があるのであれば、その点について免責されることはないですよね(情状酌量はあっても)。それこそ状況的に0:100で相手が悪くても、0:100になることはほぼないでしょう。不条理かも知れませんが、今のところそういうルールなのですから。
>くえすちょなーれさん
不安はともかく、現場に「緊張を強いる」のは当たり前でしょ。こんな重大な仕事をするのに普段緊張してないの?と思った次第です。

zubuzubu 2008/04/21 08:56 この事件で一番、重い責任があるとすれば、このような訓練体制を組んだ関係者だ。(少なくとも、判決をうけた管制官2名ではない)
事故が起こったエリアは、元々、トラフィックが過密であることがはじめから判っていたのに、訓練生にマイク握らせてるんだから。
医療に例えれば、研修医がいきなり、心臓の血管バイパス手術等、難易度の高い手術をするようなものだ。
そんな体制、医療業界じゃああり得ないだろう?

NOV1975NOV1975 2008/04/21 21:23 そういう点はあまり問題にされていませんね。判決の話とは別個に何とかしなきゃならん問題ではあると思います。

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