シンガポールの救急現場より

今週の朝日新聞夕刊で、「海外の救急現場から」と題した特集が行われている。第5回の今日はシンガポールの救急事情。
曰く「シンガポールでは救急車を呼ぶと、料金を取られることがある。それも約1万3千円に相当する165シンガポールドルと、極めて高い」
背景は日本とあまり変わらず、緊急でない救急患者が救急外来に殺到すると言う現実に対処しようとしたための措置だ。
受診料も92年1$⇒28$+検査処置上限25$、97年に一律70$⇒現在80$。気軽に利用すると言うわけには行かない。罰金は、搬送後に急を要さないと判断された場合に課されることになる。
良くこの手の施策への批判として、「本当に必要な人が使えない」というものがある。それにはどう対処しているか。

  • 救急外来で見る病状、見ない病状の周知徹底(4ヶ国語でテレビ新聞を使ったキャンペーン)
  • 非救急の人のための深夜外来(夜11時まで)

そして、救急外来も

  • 最優先(心臓発作や重症外傷)
  • 準優先(手足骨折など致命的でないが重症)
  • 捻挫や腹痛(命に直結しない)

を看護婦の問診によって決定する。数時間待ちも珍しくないが、不思議と落ち着いた様子とのこと。
これは、目的に向かって住民と医療の側が相互理解を行っていることで可能な状況だ。そして、これが民度というものなのだろう。豊かになりすぎて自分最優先が当然と思っている日本では望めないのだろうか。そんなことはあるまい。もちろん、シンガポールは国土も精々東京23区程度であり、最適化はしやすいし、人も説得しやすい。しかし、こういった良い最適化を行うのにもっとも必要なのが思いやりの心なんだろうと思う。
この取材で印象的なのは、対象となったスペイン、フランス、マレーシア、シンガポールの医師に日本の状況を伝えて感想を求めたところ、「疲れきった医師がいる?患者がかわいそうじゃない」と一様に答えが返ってきたことだ。彼らの勤務体制は3交代制で、日本のように日勤⇒当直⇒翌日も日勤などということはありえない。
「患者がかわいそう」の念をもって医療に当たる、というのは万国共通した医師の姿勢のようだ。しかし。

本当にみんなよくやったと思います。
こんな状況でも決して救急要請を断ることなく、急患の受付も断らなかったのですから。
でも、とても悲しいことが何回もありました。
それは、病棟になかなか上がれないこと、結果の説明が遅れていること、診察が遅れていることに腹を立てられた多くの患者やその家族から、何度も医師や看護師に対する苦情があったことです。

救急外来でのある看護師の涙:日々是よろずER診療:So-netブログ

日本では努力は報われない。シンガポールのような、明確な目的に対して実施される施策ではなく、医療費削減というスローガンがそこにあるだけだから。
上記のコメント欄で、ブログ主のコメントにはこうある。

ただ、社会生活を営むにあたり、「法」は一つの手段であってほしい・・・
「法」が主で、行動が「従」でありたくない・・・・・
そういう想いはあります。
しかし、現実は、そんな甘いものではない
とも自覚しております。

同様に、僻地外科医さんのコメントも胸を打つ。
医が仁術でなくなっていくのは誰のせいなのだろうか。