●平成21(ワ)35184特許権侵害差止請求事件「車載ナビゲーション装置

 本日は、『平成21(ワ)35184 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「車載ナビゲーション装置」平成22年12月06日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101220120521.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権侵害差止等請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件で対象になった2つの特許(特許第2891794号,第2891795号)の請求項は、次の内容です。


『【請求項1】
 目的地を設定しその設定した目的地を示す目的地座標デ―タ及び車両の現在地を示す現在地座標デ―タに基づいて現在地から目的地に至る航行情報を表示する車載ナビゲ―ション装置であって、目的地座標デ―タを記憶するための記憶位置を複数有するメモリと、目的地が設定される毎にその目的地を示す目的地座標デ―タを前記メモリの少なくとも前回の目的地座標デ―タの記憶位置とは異なる記憶位置に書き込む手段と、目的地の設定の際に前記メモリに記憶された目的地座標デ―タを読み出す読出し手段と、読み出された目的地座標デ―タのうちから1の目的地座標デ―タを操作に応じて選択し前記1の目的地座標デ―タの選択によって目的地を設定する手段とを含むことを特徴とする車載ナビゲ―ション装置。』


『【請求項1】
 地図を表示器に表示する車載ナビゲ―ション装置であって、複数のサ―ビス施設を示す表示デ―タ及び各サ―ビス施設の存在地点を示す地点座標デ―タを予め記憶した第1記憶手段と、前記第1記憶手段から前記表示デ―タを読み出してその前記表示デ―タに応じて前記複数のサ―ビス施設を前記表示器に表示させる手段と、前記表示器に表示された複数のサ―ビス施設のうちの1のサ―ビス施設を操作に応じて指定する手段と、指定された1のサ―ビス施設に対応する地点座標デ―タを前記第1記憶手段から読み出す手段と、読み出された地点座標デ―タを記憶する第2記憶手段と、前記表示器に地図が表示されているとき前記第2記憶手段から地点座標デ―タを読み出してその地点座標デ―タが示す地図上の地点を所定のパタ―ンにより地図に重畳して前記表示器に表示させる手段とを含むことを特徴とする車載ナビゲ―ション装置。』


 本件では、(2) 本件各特許発明における「車載ナビゲーション装置」の意義、および間接侵害の成否等についての判断が参考になるものと思います。


 つまり、東京地裁(民事第29部 裁判長裁判官 大須賀滋、裁判官 坂本三郎、裁判官 岩崎慎)は、


『(1) 問題の所在(被告装置の構成と本件各特許発明の技術的範囲との関係)

ア本件各特許発明は,いずれも,その特許請求の範囲の記載に照らして,それぞれ構成要件1−Aないし1−E及び2−Aないし2−Gの構成を有する「車載ナビゲーション装置」であることが,特許発明の技術的範囲であると解される。

イ被告装置の構成


 他方で,証拠(甲3の1,5,6,9)及び弁論の全趣旨によれば,被告装置の構成は,以下のとおりであると認められる。


(ア) 被告装置は,被告が管理・運営し,車両には搭載されていない被告サーバーと,ユーザーにおいて保持する本件携帯端末等から構成される(争いのない事実)。


(イ) 被告サーバーは,CPU,記憶手段,データ送受信部を含んで構成されている。そして,当該記憶手段には,経路探索を行う探索エンジン,道路網データ及び地図描画データが記憶されており,被告サーバーは,ルート探索結果に基づき,地図描画データを作成することができる。また,本件携帯端末ごとの固有の情報を記憶する記憶手段が設けられている(争いのない事実)。


(ウ) 本件携帯端末は,CPU,記憶手段,データ送受信部,GPS受信部,ディスプレイ,入力のためのキーを含んで構成されている。そして,当該記憶手段は,被告サーバーで作成された地図描画データを表示するための地図レンダリングエンジンを含むアプリケーションが搭載されて
いる(争いのない事実)。


(エ) 以上のような被告サーバー及び本件携帯端末の構成からすれば,被告装置においては,現在地及び目的地を入力・設定して,経路探索を行い,その結果をディスプレイに表示してユーザーに伝達するために,被告サーバーと本件携帯端末が,それぞれ次の機能を分担しているものと
認められる。


a 本件携帯端末のGPS受信部によってGPS信号を受信することにより本件携帯端末の所在地である現在地情報を取得し,また,本件携帯端末におけるキー操作に基づき目的地の入力(なお,どのような操作を行った段階で目的地が設定されるかについては,後記のとおりである。)を行う。


b これらの現在地情報及び目的地に関する情報は,被告サーバーに転送され,被告サーバーにおいては,これらの情報に基づき,現在地から目的地に至るルートを探索し,探索結果に基づき,地図描画データが作成される。


c 当該地図描画データは,本件携帯端末に転送され,本件携帯端末のディスプレイの画面上にルートの探索結果が表示される。


ウ 以上のとおり,被告装置は,被告サーバーと本件携帯端末とによって構成され,両者がそれぞれ機能を分担してナビゲーション機能を果たしていることから,このような被告装置が「車載ナビゲーション装置」ということができるか否か,すなわち,本件各特許発明における「車載ナビゲーション装置」が,複数の機器に機能が分担され,かつ,その機器の一部が車両に搭載されていないものを含むか否かが問題となる。


(2) 本件各特許発明における「車載ナビゲーション装置」の意義

ア特許請求の範囲の記載について

 本件各特許の特許請求の範囲の記載は,前記争いのない事実等(2)ア記載のとおりであり,これには,「車載ナビゲーション装置」を構成する機器の一部を車両外に設けることができることをうかがわせる記載はない。他方で,機器の一部を車両外に設けてはならないことをうかがわせる記載もない。


イ本件各明細書の記載について

 本件各明細書には,「車載ナビゲーション装置」の意義・構成に関して,次のような記載がある(甲2の1及び2)。


 ・・・省略・・・


(ウ) 本件各明細書が開示する「車載ナビゲーション装置」について


 以上のとおり,本件各明細書の実施例においては,?方位センサ,角速度センサ,距離センサ及びGPS装置等の各センサ,?インターフェース,CPU,ROM及びRAMから構成されるシステムコントローラ,?外部記憶媒体(例えば,CD−ROM)から地図データを読み取る読取手段,?ディスプレイ,グラフィックメモリ,グラフィックコントローラ及び表示コントローラから構成される表示装置,?入力装置の各構成要素から成る一体の機器としての「車載ナビゲーション装置」が開示されている。


 他方で,これらの構成要素である一部の機器を車両外に設置し,車両内に搭載された機器と車両外の機器との間で情報を交信その他の手段によって交換することによって,1つの「車載ナビゲーション装置」を構成することは開示されていない。


ウ「車載」及び「装置」の一般的な意義

 証拠(甲22ないし25)によれば,「車載」という語の一般的な意義は,「車に積みのせること」をいうと認められる。また,弁論の全趣旨によれば,「装置」という語の一般的な意義は,「ある目的のために機械・道具等を取り付けること。そのしかけ。」をいい,一定の機能を持ったひとまとまりの機器をいうと認められる。

エ検討

(ア) 前記ウの「車載」及び「装置」という語の一般的な意義からすれば,「車載ナビゲーション装置」とは,車両に載せられたナビゲーションのための装置(ひとまとまりの機器)をいい,ひとまとまりの機器としてのナビゲーション装置が車両に載せられていることを意味すると解するのが,自然である。


 そして,本件各特許の特許請求の範囲の記載のように,A,B,C,Dとの「手段を含むことを特徴とする車載ナビゲーション装置」というとき,「ナビゲーション装置」がA,B,C,Dという手段を備えるとともに,そのような手段を備えたナビゲーション装置が「車載」,すなわち,車に載せられていることが必要であると解するのが,その文言上,自然である。


 また,本件各明細書に開示されている「車載ナビゲーション装置」の構成は,前記イのとおり,各構成要素から成る一体の機器としての「車載ナビゲーション装置」であって,被告装置における被告サーバーと本件携帯端末のように,車両内の機器と車両外の機器にナビゲーション装置の機能を分担させ,両者間の交信その他の手段によって情報の交換を行い,全体として「ナビゲーション装置」と同一の機能を持たせることは開示されていない。したがって,各機器をどのように構成し,また,各機器にどのように機能を分担するか,各機器間の情報の交換をどのような手段によって行うかについても,本件各明細書には何らの開示もされていない。


 さらに,本件各特許発明はナビゲーション「装置」に関する特許発明であるから,「装置」の構成が特許請求の範囲に記載された構成と同一であるか否かが問題となるのであって,同一の機能,作用効果を有するからといって,構成が異なるものをもって,本件各特許発明の技術的範囲に属するということはできないことはいうまでもない。


 以上のことからすれば,本件各特許発明にいう「車載ナビゲーション装置」とは,一体の機器としてのナビゲーションのための装置が車両に載せられていることが必要であり,車両に載せられていない機器は,「車載ナビゲーション装置」を構成するものではないと解される。


(イ) 原告の主張について

 原告は,「車載」の通常の意義,本件明細書1の段落【0002】の記載及び本件特許発明1の作用効果等に照らして,その構成の一部を車両に載せた状態にする必要はあるが,その構成のすべてを車両に載せることまでは要求していないと解すべきであると主張する。


 しかしながら,原告は,その前提として「車両用ナビゲーション装置」と「車載ナビゲーション装置」とを同一のものとしているが,「車両用」のナビゲーション装置と「車載」されたナビゲーション装置とは必ずしも同義ではない(例えば,車両外にナビゲーション装置を設置し,その経路探索結果や進路等をドライバー等に連絡する等,車両用のナビゲーション装置であっても,車載されないものもあり得る。)。また,特許請求の範囲の記載や本件各明細書の記載に照らして,その構成のすべてが車両に載せられた状態にある必要があること,作用効果又は機能が同一であれば,機器の全部が「車載」されている必要はないということはできないことは,前記(ア)のとおりである。したがって,原告の前記主張は,採用することができない。


(3) 被告装置への当てはめ

 前記(1)のとおり,被告装置は,被告サーバーと本件携帯端末とから成り,それぞれが機能を分担し,両者の間でデータ通信を行うことによってナビゲーション機能を果たすものであって,一体の機器である「ナビゲーション装置」ではなく,むしろ,「ナビゲーション装置」を含み,かつ,「ナビゲーション装置」より広い概念である「ナビゲーションシステム」というべきものである。そして,被告装置を構成する被告サーバーは,車両に積み載せられておらず,かつ,被告サーバーがなければ,被告装置はナビゲーションシステムとしての機能を果たさないものである。以上のことからすれば,被告サーバーと本件携帯端末とから成る被告装置は,一体の機器としてのナビゲーションのための装置が車両に載せられているということはできない。


 よって,被告装置は,「車載ナビゲーション装置」であると認めることはできず,構成要件1−A及び1−F並びに2−A及び2−Hのいずれも充足しないから,その余の点を判断するまでもなく,本件各特許発明の技術的範囲に属するとは認められない。』


『9 被告装置の使用による本件各特許発明の実施の有無(争点(3)),被告装置の生産による本件各特許権の共同直接侵害の成否(争点(4))及び本件携帯端末用プログラムの譲渡等による間接侵害の成否(争点(5))について


 原告は,?被告が,本件携帯端末をユーザーに操作させることによって被告装置を使用して本件各特許発明を実施しており,また,被告の行為には支配管理型の特許権侵害が成立する,?被告がKDDI及び本件携帯端末の製造業者と共同して被告装置を生産したことをもって,被告装置の生産による本件各特許権の共同直接侵害が成立する,?被告が本件携帯端末用プログラムを譲渡等する行為は,被告装置の使用又は生産を本件各特許権直接侵害とする間接侵害に該当すると主張する。


 しかしながら,「物」の「使用」による特許発明の実施又は「物」の「生産」による特許発明の実施といえるためには,使用又は生産された物である被告装置が,本件各特許発明の構成要件を充足し,本件各特許発明の技術的範囲に属する「物」と認められることが必要であるところ,被告装置が,本件各特許発明の構成要件を充足せず,その技術的範囲に属すると認められないことは,前記1ないし3のとおりであるから,原告の前記主張?及び?は,いずれも理由がない。


 また,「物」の発明について間接侵害が認められるためには,被告が譲渡等した物(本件携帯端末用プログラム)を用いて生産される物(被告装置)が,本件各特許発明の構成要件を充足し,本件各特許発明の技術的範囲に属する「物」と認められることが必要であるところ,被告装置が,本件各特許発明の構成要件を充足せず,その技術的範囲に属すると認められないことは,前記1ないし3のとおりであるから,被告が本件携帯端末用プログラムを譲渡等する行為が間接侵害に該当すると認めることはできず,原告の前記主張?も理由がない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。