●平成22(行ケ)10273 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

 本日は、『平成22(行ケ)10273 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「赤外線透過性に優れた表示を印刷してなる包装用アルミニウム箔」平成23年03月08日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110316095151.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた-審決取消請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、取消事由1(引用発明2を引用発明1に適用した誤り)についての判断が参考になります。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 清水節、裁判官 古谷健二郎)は、


『1 取消事由1(引用発明2を引用発明1に適用した誤り)について

(1) 本願発明と引用発明1との相違点は,前記第2の3(3)のとおり,「本願発明の印刷インキは,樹脂ワニスに顔料を添加してなり,該顔料は,顔料本体表面が合成樹脂膜によって被覆されているのに対して,引用発明1のインクはそのようなものでない点」であるところ,審決は,この相違点に関して,「引用発明1では,赤外光に対し透過性を有するインクを用いて印刷部9を設けることにより,印刷部9とカバーフィルム4自体との明度差を小さくしているが,赤外光に対し格別に優れた透過性を有するインクを用いなくても,閾値δ2を適当な値に設定すれば,カバーフィルム4上の異物を印刷部9と区別して判定することができることは明らかである。一方,引用発明2は,「塗料」であるが,そもそも「塗料」と「インク」は厳密に区別されるものではなく,例えば,金属板の上に盛るように付着させる場合は「塗料」と呼び,紙に染みこませる場合は「インク」と呼ぶとしても,材料自体に本質的な相違がない場合が多く,引用発明2の塗料はアルミニウム箔の表面に印刷するときにも使用できることは,容易に推察される。したがって,引用発明1のインクに代えて,引用発明2の塗料を用いること,すなわち上記相違点は,当業者が容易に想到し得たことである。」(7頁16行〜28行)と判断して,本願発明の進歩性を否定した。


 しかし,審決の上記判断には,以下に説示するとおり,引用発明1に対して,引用発明2の構成,すなわち,「反応性水可溶樹脂で被覆した,分散性が良好な被覆顔料を樹脂ワニスに添加してなる油性塗料」を適用し得るための動機付けが示されておらず,当業者が,引用発明2を引用発明1に適用し得るとすることは,誤りといわなければならない。


(2) まず,引用発明1は,前記第2の3(2)の【引用発明1】,【引用発明1と本願発明との一致点】及び引用例(甲1)の記載によれば,以下のとおりと認められる。


 すなわち,引用発明1は,PTPシートの製造に際して,赤外光を照射することにより,アルミニウム製のカバーフィルムの印刷部上にある異物をも判別できることを技術課題の1つとして,赤外光に対し透過性を有するインクを用いて記号等からなる識別情報としての印刷部を設け,赤外光を照射した際の反射光において,印刷部とカバーフィルム自体との明度差を極めて小さくし,さらに,第2の閾値δ2をカバーフィルムの明度より若干低い値に設定するという構成を採用することにより,印刷部の存在の有無に関係なく,印刷部のみが無視されてカバーフィルム上の異物が判定できるという作用効果を達成したものと認められる。


 これに対し,審決は,上記のとおり,「赤外光に対し格別に優れた透過性を有するインクを用いなくても,閾値δ2を適当な値に設定すれば,カバーフィルム4上の異物を印刷部9と区別して判定することができることは明らかである。」と述べるところ,赤外光に対し透過性を有するインクを用いない場合には,印刷部の明度が一定程度低下し,印刷部上に印刷部と同程度の明度を有する異物が存するときには,当該異物が判定できないこととなる(異物の明度が既に判明している場合には,その明度より高く,かつ,印刷部の明度より低く閾値δ2を設定すれば異物が判定できるが,そのような場合が一般的であると解することはできない。)。したがって,審決の上記説示は,引用発明1の技術課題が解決できない従来技術を示したものにすぎず,引用発明1に対して引用発明2の構成を適用することについての動機付け等を明らかにするものではない。


(3) また,審決は,上記のとおり,「引用発明2は,「塗料」であるが,そもそも「塗料」と「インク」は厳密に区別されるものではなく,例えば,金属板の上に盛るように付着させる場合は「塗料」と呼び,紙に染みこませる場合は「インク」と呼ぶとしても,材料自体に本質的な相違がない場合が多く,引用発明2の塗料はアルミニウム箔の表面に印刷するときにも使用できることは,容易に推察される。」と述べるところ,この説示は,「塗料」と「インク」とが厳密に区別されるものではなく,本質的な相違がない旨を述べるだけであり,仮に,「塗料」と「インク」が区別されず,また,引用発明2の塗料がアルミニウム箔の表面の印刷に使用できるとしても,それはただ単に,引用例2がアルミニウム箔に使用できる可能性のあるインクを開示しているにすぎない。引用例2には,当該塗料が赤外光に対する透過性に優れることは記載されておらず,引用発明2の「塗料」を引用発明1の「インク」として使用することが示唆されているということにはならない。


 そもそも,「塗料」又は「インク」に関する公知技術は,世上数限りなく存在するのであり,その中から特定の技術思想を発明として選択し,他の発明と組み合わせて進歩性を否定するには,その組合せについての示唆ないし動機付けが明らかとされなければならないところ,審決では,当業者が,引用発明1に対してどのような技術的観点から被覆顔料を使用する引用発明2の構成が適用できるのか,その動機付けが示されていない(当該技術が,当業者にとっての慣用技術等にすぎないような場合は,必ずしも動機付け等が示されることは要しないが,引用発明2の構成を慣用技術と認めることはできないし,被告もその主張をしていない。)。


(4) この点について,被告は,引用例2の段落【0006】の記載を根拠に,色相,着色力及び分散性に優れているのが好ましいことは,インキや塗料の顔料について一般的にいえることであり,引用発明1のインクについてもあてはまることであるから,引用発明1のインクとして引用発明2の油性塗料を適用してみようという程度のことは,当業者が容易に考えつくことであると主張する。


 確かに,インクや塗料において,色相,着色力及び分散性に優れているのが一般的に好ましいと解されるところ,それに応じて,色相,着色力,分散性などのいずれかに優れていることをその特性として開示するインクや塗料も,多数存在すると認められるのであり,その中から,上記の一般論のみを根拠として引用発明2を選択することは,当業者が容易に想到できるものではない。


 したがって,被告の上記主張は,採用することができない。


2 以上のとおり,相違点についての審決の判断は誤りであるから,この判断を前提とし,引用発明1に対して引用発明2の構成を適用して本願発明の進歩性を否定した審決の判断は,誤りというべきである。


 なお,相違点に関する本願発明の構成の容易想到性についての審決の判断が誤りである以上,この構成が容易想到であることを前提にし,構成から来る原理のみに依拠した作用効果についての審決の判断(前記原告主張の取消事由2の(1)参照)も誤りである。被告の準備書面中には,拒絶理由通知で示したところに基づく明細書の記載不備を主張する部分があるが,審決で判断していない理由であって本件訴訟でこれを主張することは許されないから,採用することができない。


第6 結論

 よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。