●平成19(ワ)24698 損害賠償等請求事件(1)

 本日は、『平成19(ワ)24698 損害賠償等請求事件 平成23年05月26日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110610142701.pdf)について取り上げます。


 本件は、著作権に基づく損害賠償等請求事件で、その請求が認容された事件です。


 本件では、まず、争点1(原告プログラムは,創作性を有するか)についての判断が参考になるかと思います。

 つまり、東京地裁(民事第47部 裁判長裁判官 阿部正幸、裁判官 山門優、裁判官 柵木澄子)は、


『1 争点1(原告プログラムは,創作性を有するか)について


 ・・・省略・・・


(2) プログラムとは,「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(著作権法2条1項10号の2)であり,これが著作物として保護されるためには,「思想又は感情を創作的に表現したもの」(同法2条1項1号)であることが必要である。


 一般に,ある表現物について,著作物としての創作性が認められるためには,当該表現に作成者の何らかの個性が表れていることを要し,かつそれで足りるものと解される。この点は,プログラム著作物の場合であっても同様である。


(3) これを原告プログラムについてみるに,原告プログラムは,測量業務を行うためのソフトウェアに係るプログラムであり,上記(1)で認定したとおり,プログラムの作成者において,測量業務に必要かつ便宜であると判断した機能を抽出・分類し,これらを40個近くのファイル形式で区分して集約し,相互に組み合わせたもので,膨大な量のソースコードから成り,そこに含まれる関数も多数に上るものであって,これにより,測量のための多様な機能を実現している。


 また,原告プログラムは,個別のファイルに含まれる機能の中から,共通化できる部分を抽出・分類し,これをサブルーチン化して,共通処理のためのソースコード(原告ファイル33)を作成しており,この共通処理のファイルの中だけでも,60個以上のブロックが設けられ,1000行を超えるプログラムのソースコードが含まれている(甲28の37,甲55の33)。


 このように,原告プログラムは,これを全体としてみれば,そこに含まれる指令の組合せには多様な選択の幅があり得るはずであるにもかかわらず,上記のようなファイル形式に区分し,これらを相互に関連付けることによって作成されたものであり,プログラム作成者の個性が表れているといえる。


 また,測量用のプログラムという機能を達成するためには,単純に,機能ごとに処理式を表現すれば足りるにもかかわらず,原告プログラムは,上記のとおり,共通化できる部分を選択し,これらを抽出して1つのファイルにまとめている。これらのサブルーチンを各ファイル中のどの処理ステップ部分から切り出してサブルーチン化するのか,その際に,引数として,どのような型の変数をいくつ用いるか,あるいは,いずれかのシステム変数で値を引き渡すのか,などの選択には,多様な選択肢があり得るはずであるから,この点にも,プログラム作成者の個性が表れているといえる。さらに,各ファイル内のブロック群で受け渡しされるどのデータをデータベースに構造化して格納するか,システム変数を用いて受け渡すのかという点にも,プログラム作成者の個性が表れているといえる。


 これらの事実に鑑みると,原告プログラムは,全体として創作性を有するものということができ,プログラム著作物であると認められる。


(4) これに対し,被告らは,原告プログラムは多くの制約がある中で記述され,作成者である被告Bの個性が表現される余地はなかったものであって,創作性を有するものではない,原告が原告プログラムにおいてプログラムの作成者の個性が表現されていると主張する部分は,「解法」(著作権法10条3項3号)に当たり,著作権法上保護されるものではない,と主張する。


 しかしながら,原告プログラムにおいて作成者の個性が表現される余地がなかったとの主張については,これを裏付けるに足りる客観的な証拠はない。また,原告プログラムにおけるファイル形式の区分の仕方や,各ファイルを相互に関連付ける方法,サブルーチン群の取りまとめ方などは,「解法」に当たるものではない。

 したがって,被告らの上記主張は理由がないというべきである。』


 と判示されました。