スローペースについての考察。


競馬研究会にはいったということで、たまには競馬に関する考察でも。

隠れスローについて

さて、隠れスローという言葉があります。これは、逃げ馬が作るラップはさほどスローではないのに、後続が離され過ぎて、馬群がスローペースになることをいいます。

たとえば、2003年の秋の天皇賞
ローエングリンゴーステディが飛ばしすぎて、前半1000mが56.9秒のサイレンススズカのときをも上回る超ハイペースですが、馬群の1000m通過はローエンから約4秒遅れて61秒。2000mの天皇賞、しかもパンパンの良馬場で61秒というのは遅すぎます。案の定、勝ったシンボリクリスエスは上がり3Fが33.6秒、2着のツルマルボーイは33.1秒でした。

スローペースと上がりの競馬

また、スローペースというと、直感的に上がり3Fが速いと思うかもしれませんが、決してそういうわけでもありません。2000年のJCがいい例です。
逃げ馬でないステイゴールドが逃げて、前半1000mは63秒のスローペース。しかし残り1000mからペースが上がり、11.6-11.4のラップを踏んで、結局勝ったテイエムオペラオーの上がり3Fはペースの割にはそんなに速くない35.2秒。最速のファンタスティックライトでも35.0秒でした。
要するに、いくらスローペースといえども、残り1000mからペースが上がれば、そのままの脚では最後まで持たず、上がり3Fは遅くなってしまうのです。前後半のペースの落差が−4秒(つまり前半のほうが4秒遅い)のに、上がりが35秒なんてなかなか考えられませんよね。
いい脚はそんなに長く使えないということですね。スローペースかハイペースかは、前後半のペースの落差で計ることが多いので(特に某○坪氏はこの尺度をよく使う)、要するに、スローペース=上がりの競馬、ではないということになります。

ちなみに、テイエムオペラオーの競馬には、このように残り1000mくらいから急激に速くなる競馬が多いように思います。メイショウドトウに雪辱された2001年の宝塚記念も、前後半のラップの落差は約−2.7秒です。しかし残り1200mからのラップが11.8-11.8-11.6-11.5-11.6-12.1で、上がりは35.2秒。まぁ速いんですけど、直線より3〜4コーナーのほうがラップタイムが速くなっています。これはあくまで私の憶測に過ぎませんが、ひょっとするとテイエムオペラオーがペースを握っていたのかもしれません。(つまり、テイエムが動こうとすると馬群も動いてペースが上がり、相対的に動けない) そういえば5歳になったテイエムオペラオーは勝負どころでの反応がいまいちでしたが、こういうことも関係があるのかもしれません。憶測に過ぎませんが。そういえば宝塚では4コーナーで不利を受けていましたね。ただ、逆にいうと、不利をうけるほど、思うようにあがっていけなかったのかもしれません。

隠れスローの威力

隠れスローの威力とはいかなるものか、例を2レース紹介します。

1つ目は、92年の有馬記念。あのメジロパーマーがハナ差逃げ切ったレースです。前が飛ばしてハイペースのように思われますが、メジロパーマーダイタクヘリオスが他馬を大きく離していたにもかかわらず、1100m通過が69秒と、実はそんなに速くありません、っていうか落差−3秒くらいなのでスローといったほうがいいでしょう。しかも後続馬群を2秒以上引き離していました。ってことは後続は落差約−7秒ということになります。まぁ普通に考えたら信じられないペースですよね。後続馬群はものすごいスローペースです。なぜこんなペースになったのか、よくわかりませんが、前走の天皇賞・秋メジロパーマーダイタクヘリオスが激しく競り合って前半1000m57秒台で飛ばしたから、「こいつらに付いていったらバテる」という風に騎手が考えたのかもしれません。とりあえず理由はよしとして、隠れスローになったわけです。
しかも後続各馬は、メジロパーマーダイタクヘリオスをそのまま逃がしてしまいます。よって、残り600mになって、メジロパーマーと(結果的にハナ2着だった)レガシーワールドとの差は依然2秒以上。結局まんまと逃げ切ってしまいました。
レガシーワールドの上がりは34.8秒。落差−7秒のレースの割りには、さほど速くない気がします。しかしラスト6Fだと、約69秒で走っています。暮れの中山ということを考えれば、これは相当速いペースといえるでしょう。つまり、追いかける後続各馬も終いは脚色が鈍ってることになります。(まぁそれ以上にメジロパーマーのバテっぷりがすごいので、そうは見えませんが)

したがって、レガシーワールド他後続各馬は残り1200mになっても捕まえようとしませんでしたが、仮にそこからペースを上げていったとしても、差し切っていたかどうかは怪しいと思います。1300m走った後で11秒台のラップを5つも6つも刻むのは相当きついと思います。

ってことは何が言いたいかというと、「残り1200の時点で勝負は決まっていた」ということです。すべて結果論で言ってるので、騎手が悪いとか云々ではありません。そこは了承ください。メジロパーマーが逃げて、ダイタクヘリオスが競りかけた、1週目の4コーナー〜2週目の向こう正面までの4Fは、12.6-12.8-12.8-13.0。これで差が広がるんですから、そりゃ先行が有利になってしまいます。

よく「脚を余して負けた」等といいますが、先ほどもいったように後続各馬でさえラスト200mはかなりペースが落ちていたので、どうも脚を余したとは思えません。このように、隠れスローというのは、残り1200mで勝負を決めてしまうほどの威力があります。


2つ目の例は、2004年の天皇賞・春です。イングランディーレが逃げ切ったレースですね。誰も競りかけず、イングランディーレの刻んだ前半1000mのラップは62.9秒。結果的に前後半1マイルの落差は−2.2秒ですから、ややスローペースでしょうか。しかし、後続馬群は誰もイングランディーレを追いかけず、なんとこの時点で2番手集団に4秒の差をつけています。つまり2着だったゼンノロブロイの落差は約−9秒となります。−9秒となると、ナリタトップロードマチカネフクキタルの勝った菊花賞よりもはるかにやばい。まぁこれらは上がりの競馬になったから、後半の1マイルのうち半分はスローな流れなんですけどね。こんな超スローの競馬では、確実に勝ちタイムは遅くなります。4秒も前に逃がしてしまうと、まったく別のレースをしているのと同じことになります。

またまた極端な話、ディープインパクトの勝った天皇賞でバテバテになってシンガリ負けしたブルートルネードの走破タイムのほうが、メジロブライトの走破時計よりも速いのですが、仮に良馬が一緒に出てきたとしても、同じレースでは道中での2頭のキョリはメジロブライトの射程権になっているはずですから、よほどのことがない限りメジロブライトが差し切るでしょう。しかし4秒だと、ほぼ別のレースをしたような感じになって、差しきれなくなります。いくら高橋尚子選手でも、前半で10分の差をつけられたら、後半挽回しろって言われてもしんどいでしょう。それと同じです。

残り1000mでも、イングランディーレゼンノロブロイの差は3.7秒。そこから追い上げて、残り800mでは3.1秒、残り600mでは2.1秒、残り400mでは1.6秒となりましたが、直線では結局0.5秒しか詰められず、1.1秒差つけられて負けました。要するに、追い上げる方がバテてしまったわけです。そりゃ11秒前半のラップを連続で出せば、終いまで続きません。

このように、前を楽に逃がしてしまって終いもある程度まとめてしまうと、後続馬は成す術がないことになります。

このような詳細なラップを調べる前は、上がりがそんなに速くないから「ロブロイなにしてんだよ」と思っていたのですが、このように調べてみると、ロブロイさんも一生懸命がんばっていることがよくわかります。

やっぱり凄いディープインパクト

今まで示したように、隠れスローになってしまうと前がバテないかぎり、差し切るのは相当難しくなります。メジロパーマーなんかはバテてるような気がしますが、それでも逃げ切っていますからね。

しかしやはり常識はずれのお馬さんもいます。ご存知ディープインパクトです。残り600mの時点でアドマイヤジャパンは1.9秒前方。そしてアドマイヤジャパンもばてずに上がり3F35.5秒でまとめているというのに、上がり33.3で差し切るんですから、強すぎるとしか言いようがありません。普通こんなに上がりが速くなると他馬とそんなに差がつかなくなるものですが、ディープインパクトはほぼ同位置にいたシックスセンスを約1秒も突き放しています。

翌年の天皇賞でも、残り1000mから仕掛け、ラスト4Fは11.0-11.0-11.2-11.3でまとめています。イングランディーレメジロパーマーのケースとは馬場状態が違うんでしょうが、それでも凄すぎるラップタイムでしょう。恐るべしディープインパクト

まとめ

上がりの競馬だけがスローペースじゃない。
先頭のラップだけで競馬全体がハイペースってわけじゃない。

公開されているデータ――各馬の上がり3F,先頭のラップタイム――だけではわからない競馬の時計も参考にすべきだと思います。

以上。