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2012-03-01 出版状況クロニクル46(2012年2月1日〜2月29日)

[]出版状況クロニクル46(2012年2月1日〜2月29日)

出版状況クロニクル46(2012年2月1日〜2月29日)

出版業界は失われた15年を通じて、一万店を超える書店を始めとして、多くの出版社やいくつもの取次も失い、8500億円に及ぶ出版物販売金額のマイナスを見てしまった。

しかしこれは本クロニクルで繰り返し言及しているように、日本だけで起きている異常な事態であり、出版危機と同時に日本の文化的危機の表れとも見なしうるだろう。

それなのに大手新聞も出版業界紙も、マス雑誌やリトルマガジンも、経済誌、思想誌、文芸誌も、この事実に正面からふれようとしない。ジャーナリズム、文学、思想などのあらゆる表現の根幹に横たわる最も重要な問題だというのに。

『週刊東洋経済』(2/11)が「流通サバイバル」特集を組み、百貨店、スーパー、コンビニ、ショッピングセンターなどをめぐる最前線の状況をレポートしているが、出版業界についてはアマゾンに関する言及が見られるだけで、その他にはまったくふれられていない。

太陽も死もこれほど科学的に直視されている時代はなかった。だがこの期に及んでも、相も変わらず再販制タブーゆえに、出版危機だけは直視できないということなのだろうか。

週刊東洋経済


1.出版科学研究所による2011年の出版物推定販売金額も出されたので、あらためて失われた15年を直視するためにも、出版物販売金額の推移、及び雑誌の内訳を示しておく。

■出版物推定販売金額(億円)
書籍(前年比)雑誌(前年比)合計(前年比)
199610,9314.415,6331.326,5642.6
199710,730▲1.815,6440.126,374▲0.7
199810,100▲5.915,315▲2.125,415▲3.6
1999 9,936▲1.614,672▲4.224,607▲3.2
2000 9,706▲2.314,261▲2.823,966▲2.6
2001 9,456▲2.613,794▲3.323,250▲3.0
2002 9,4900.413,616▲1.323,105▲0.6
2003 9,056▲4.613,222▲2.922,278▲3.6
2004 9,4294.112,998▲1.722,4280.7
2005 9,197▲2.512,767▲1.821,964▲2.1
2006 9,3261.412,200▲4.421,525▲2.0
2007 9,026▲3.211,827▲3.120,853▲3.1
2008 8,878▲1.611,299▲4.520,177▲3.2
2009 8,492▲4.410,864▲3.919,356▲4.1
2010 8,213▲3.310,536▲3.018,748▲3.1
20118,199▲0.29,844▲6.618,042▲3.8

■雑誌推定販売金額内訳(億円)
月刊誌(前年比)週刊誌(前年比)
199611,6923.03,940▲3.3
199711,6990.13,9450.1
199811,415▲2.43,900▲1.1
199910,965▲3.93,707▲5.0
200010,736▲2.13,524▲4.9
200110,375▲3.43,419▲3.0
200210,194▲1.73,4220.1
20039,984▲2.13,239▲5.3
20049,919▲0.63,079▲4.9
20059,905▲0.12,862▲7.1
20069,523▲3.92,677▲6.5
20079,130▲4.12,6980.8
20088,722▲4.52,577▲4.5
20098,455▲3.22,419▲6.1
20108,242▲2.42,293▲5.2
20117,729▲6.22,115▲7.8

[この出版データがとられ始めたのは1956年であるが、それから96年の40年間にわたって、はまったくといっていいほど見られず、一貫して成長を続けてきたのである。それゆえに96年以前と以後は、出版業界の明暗を分かつコントラストを示していることになる。

日本の出版流通と販売システムは雑誌をベースにして立ち上がり、それに書籍が相乗りするかたちで稼働してきた。しかし97年に1兆5644億円あった雑誌売上は、11年にはついに1兆円を割りこんでしまった。それは3分の1以上の落ちこみであり、内訳で示した月刊誌、週刊誌の動向もパラレルである。雑誌の凋落は広告収入の減少を伴って進行しており、両者の回復の兆候は見られない。

その一方で、書籍の落ちこみは雑誌ほどではないが、それでも下げ止まりとはいえない。だが書籍のマイナスの少なさはまだ救いでもあり、買切や時限再販導入によるマージンアップを図るしか書店のサバイバルの道は残されていないだろう。

このような事態に陥った様々な原因について、99年に上梓した『出版社と書店はいかにして消えていくか』から『出版状況クロニクル3』(近刊)において詳述してきた。それらをここで繰り返さないが、誰しもが否定できない。ここに表出している出版危機を直視し、今年こそは改革への道を踏み出さなければならない。はっきりいって残された時間は少ないのだ]

出版社と書店はいかにして消えていくか(1999年版)出版社と書店はいかにして消えていくか(2008年改訂版)

2.1の雑誌のデータの中にコミックが含まれているので、雑誌販売金額の明細を認識しておく上で、それらの数字も知っておくべきだろう。

■コミックス・コミック誌の販売金額(億円)
コミックス伸率(%)コミック誌伸率(%)合計伸率(%)出版総売上に
占めるコミックの
シェア(%)
19962,5351.13,312▲1.35,847▲0.322.0
19972,4214.53,279▲1.05,700▲2.521.6
19982,4732.13,207▲2.25,680▲0.422.3
19992,302▲7.03,041▲5.25,343▲5.921.8
20002,3723.02,861▲5.95,233▲2.121.8
20012,4804.62,837▲0.85,3171.622.9
20022,4820.12,748▲3.15,230▲1.622.6
20032,5492.72,611▲5.05,160▲1.323.2
20042,498▲2.02,549▲2.45,047▲2.222.5
20052,6024.22,421▲5.05,023▲0.522.8
20062,533▲2.72,277▲5.94,810▲4.222.4
20072,495▲1.52,204▲3.24,699▲2.322.5
20082,372▲4.92,111▲4.24,483▲4.622.2
20092,274▲4.11,913▲9.44,187▲6.621.6
20102,3151.81,776▲7.24,091▲2.321.8
20112,253▲2.71,650▲7.13,903▲4.6

[このコミック誌月刊誌・週刊誌とあり、それぞれが子ども、大人に分類され、それぞれの数字も判明しているのだが、煩雑であるためにそれらは挙げていない。

だがコミック誌全体が15年間で半減しているように、子ども、大人の月刊誌や週刊誌もほぼ同じように半減している。それは当然のことながら、販売部数もリンクしていて、半減以上で、大人の週刊誌は3分の1 になっている。

ケータイやインターネットといった新しいメディアとの競合は明らかで、こちらも一般の雑誌と同様に回復は難しいだろう。

しかし1の書籍と同じくまだ救いなのは、コミックスが健闘していることであり、これはブックオフなどの循環市場を考慮すれば、成長を続けていた分野と考えていいのかもしれない。

日本の出版業界は書籍だけで成立している欧米の出版業界と異なり、2で見たように、雑誌、コミック、書籍で成立し、それに90年代からレンタル商品が加わり、進行してきた。しかし雑誌の凋落とともにレンタルの不振が明らかになっている現在、書店はコミックと書籍のマージンアップも含めた販売促進の方向を選択するべきだし、他に手段はあるのだろうか]

3.昨年の書店の動向がナショナルチェーンによる地方への大型出店であり、それが地場書店に与える影響への懸念を『出版状況クロニクル3』で一貫して伝えてきた。その大型店出店の実態が『新文化』(2/9)に掲載されているので、それを示す。

店名
■2011年(1月〜12月)の大型店新規出店(書籍・雑誌売場400坪以上)
 都道府県売場面積(総面積)開店
1ジュンク堂書店 旭川店北海道1040坪(1050坪)6月
2丸善 多摩センター店東京900坪(1140坪)4月
3蔦屋書店 前橋みなみモール店群馬900坪(1800坪)8月
4ジュンク堂書店 岡島甲府店山梨800坪(940坪)10月
5丸善 松本店長野800坪(1000坪)12月
6宮脇書店 秋田本店秋田750坪4月
7コーチャンフォー 北見店北海道750坪(1932坪)10月
8丸善 博多店福岡700坪(800坪)3月
9MARUZEN&ジュンク堂書店 新静岡店静岡675坪10月
10ジュンク堂書店 仙台TR店宮城550坪11月
11精文館書店 新豊田店愛知450坪(600坪)10月
12宮脇書店 今治ワールドプラザ店愛媛430坪11月
13有隣堂 テラスモール湘南神奈川414坪(463坪)11月

[400坪以上の14店のうちの半分はCHI グループによって占められ、DNP の資本を背景に大型出店が推進されたことをあからさまに物語っている。
またナショナルチェーンとして新規出店数で最多のTSUTAYAは22店、次の未来屋書店は20店、宮脇書店11店、くまざわ書店が9店と続いている。そしてCCCのFCであるトップカルチャーは3月に埼玉の久喜市に2300坪、10月に茨城のひたちなか市に2000坪を出店する。

その一方でナショナルチェーンの出店を受け、当然のことながら地場書店の閉店が増えてきているようだ。それは昨年からの出版社における返品率の高止まり状態に反映され、多くの出版社の売上減少とリンクしている。出版危機下におけるナショナルチェーンによる全国大型出店、地場書店の閉店、出版社への返品の上昇というスパイラルは今年も続いていく。だがそれはただでさえ弱っている出版社の体力をさらに蝕んでいくだろう]
4.ナショナルチェーンの出店と地場書店の閉店問題に関して、『新文化』(2/16)がトランスビューの中嶋廣、岩波BCの柴田信、ブックスページワンの片岡隆、みすず書房の持谷寿夫の4人の座談会「地域に書店がないから本が売れない!」を掲載している。他意はないが、スペースのこともあり、そのうちの中嶋と片岡の、よりアクチュアルにしてリアルな発言を要約紹介しておこう。

中嶋は語っている
「提案はひとつだけ。書店への正味を現状から6%下げ、版元は定価を10%上げて、それを支えるというものです。小手先の弥縫策は、この10年余を見る限り、いくらやっても徒労です。(中略)それが業界の社会的責任というものです」
「現実に書店が減り続けているのだから、もう時間がないんじゃないですか」
「書店を儲かる構造にし、新規参入を増やす以外に脱却する方法はないと思いませんか」
片岡隆も言っている
「私が本屋のない駅に小さな店を出してきたのは、(中略)自分の住む生活圏で本を買いたい、読みたい(中略)、地域に住む読者は本屋がほしいと言っているんで、(中略)地域のために本屋を残さなくてはいけないんです」
「大手から中小の書店まで、みんな元気がないのは、将来が見えないからですよ。(中略) 書店には注文品の流通問題はまだまだ根強くあります。マージンの問題もそうですが、重要なのは本の価格が安すぎること、本が偏在していること。読者は偏在していない。いまでも本屋をやりたいという人はいるのです」
「いまは、なぜ書店が消えてなくなるのか、それが問題なんです」
「まずは、全体の収益構造を変えるために定価と利幅を上げることが大事だと思います」

[中嶋と片岡の発言の中に、現在の書店が置かれている状況とその流通販売に関する問題が出揃っている。これらの急を要する課題と提案に対して、出版業界はただちに回答を用意すべきなのは自明であるのだが、例によって書協も取協も日書連も小出しに「弥縫策」を提示しつつ、今年も過ぎていくのではないだろうか。そしてさらに地域の書店は消えていき、出版危機はさらに深まっていく]
5.「批評家」の東浩紀が『日経新聞』(2/5)の読書欄に「書物文化の行方」という一文を寄せている。
東は学生の頃と異なり、最近はリアル書店にほとんど足を向けず、オンライン書店をもっぱら利用していると始め、その理由のひとつとして、新刊の増加により、それによって書店が「知の宇宙に通じる夢溢れる扉」として機能しなくなったことを挙げ、次のように書いている。

 単純に、10年20年前に較べ、書店の棚がますます新刊に、それも売れない新刊に埋め尽くされるようになっているという事実である。古典の文庫や教養系新書の棚は確実に小さくなり、ベストセラーに譲り渡されている。そしてそのベストセラーももはや昔ほどは売れないから、書店員は流行に敏感にならざるをえない。つまりは、いまやリアル書店は新刊のフローに呑み込まれ、教養のストックの場として機能しなくなっているのだ。
そして書店の知の機能の回復がなければ、「書店文化はコンビニとレンタルとネットに呑み込まれ消えざるをえないと思う」と結んでいる。
[「批評家」の東のみならず、作家も著者も「書店文化の行方」も含んだ日本の未曾有の出版危機に対して、できるだけ発言すべきだろうと思う。
失われた15年間における出版物販売の金額のドラスティックな減少をそのままあてはめるのであれば、彼らの収入も3分の1のマイナスとなっていて、また彼らの3分の1は退場、消滅したことになるからだ。それこそこのままの状態が続くのであれば、一部の批評家、作家、著者を除き、書店文化とともに消えていかざるをえないであろう]
6.その書店側を代表する東京都書店商業組合が書店再生委員会で検討してきた収益改善案5つを提示。それらは次のようなものだ。
1.責任仕入・責任販売で書籍・雑誌の収益改善
2.200書店でロングセラー・実用書の増売を行う実験販売
3.雑誌の付録とじを書店業務からなくす
4.万引きロスの負担の軽減
5.取次特急便の書店負担をなくす


[これは書店、取次、出版社が合意により改善できるとの限定で出された収益改善案で、日書連に対しても提案されるという。
しかしそれらの限定条件をふまえたとしても、本クロニクルで語られている書店の緊急事態に応えてはおらず、毎度お馴染の「弥縫策」に映る。あらためていうまでもないが、肝心なのは1による書店の収益の改善に尽きるし、それらをめぐって時限再販にどのように取り組むかが緊急の課題なのではないだろうか]
7.それならば取次の立場はどうなのであろうか。
これは異例と考えてかまわないであろうが、日販の古屋文明社長が『日経MJ』(2/12)の「売り手の考」1ページインタビューに登場している。
古屋は出版物の市場規模の縮小、電子書籍への取り組みにふれた後で、現在の取次、書店事情とその改善について語っている。

*雑誌と書籍のマージンは変わらないが、回転率がちがうので、雑誌の落ちこみは痛い。
*書籍をもうかる商売にすべきだが、返品率は40%となっているので、流通の仕組みを変え、書店のマージンを増やすしかない。
*市場規模が縮小し続けているのに新刊点数が増えているのはバカな話で、書店の店頭売上に見合った送品数量の適正化を進め、点数についても検討している。
*書店の売る仕組みを推進し、返品率を落とし、25%までにもっていきたい。
*書店マージンを増やすために買切を増やし、出版社にも働きかけ、その70社と返品の少ない書店に報奨金を支払う「パートナー契約」を結んでいる。

[取次の経営者として古屋が流通業界紙に登場し、ここまで明言しているのは、これからの日販の基本的方針がまずは総量規制にあることを伝えようとしているのだろう。
しかしバブル新刊点数の送品を受け入れたことと同様に、買切制を伴わない均一的な総量規制もまた両刃の剣となる可能性も高い。
その日販の動きにトーハンや他の取次も追随すれば、多少の返品率改善を見るにしても、出版物販売金額はさらに拍車をかけて落ちこみ、出版社に跳ね返り、角を矯めて牛を殺すという状況を招来しかねないし、その兆候はすでに出ていると考えられる]
8.講談社のベストセラーであるアップル創業者伝『スティーブ・ジョブズ』(W・アイザックソン著、井口耕二訳)の発行部数と電子書籍のダウンロード数が公表された。
紙版は1が55万部、2が47万部、電子版は1、2合わせて4万1000ダウンロードとされている。定価はいずれも1900円。後者の半数はiPadiPhone 向けで、14の電子書籍配信書店で発売したが、アップストアが大半を占め、その他の13書店を合わせてもその数に及ばない。

スティーブ・ジョブズ1スティーブ・ジョブズ2
[これまで電子書籍はかなり発売されてきているにもかかわらず、その実売部数についての報告はほとんどなされていなかった。講談社は紙版への影響を懸念していたが、相乗効果があり、印刷せず、在庫も返品もないので、収益的にはプラスだとしている。
紙版の4%が電子版の売れ行きとなるが、この数字をどのように考えるべきだろうか。よく売れたと見るべきか、それともこれほど話題になった本なのに、この程度の部数しか売れないと見るべきか。即断は避けるにしても、この数字が現在の最大の電子書籍部数と考えることは妥当であろう。
講談社は夏から全発行書籍の紙と電子版の同時発売をめざしているが、電子書籍の売れ行きについて、社長決裁によって刊行された『スティーブ・ジョブズ』を見ならい、ぜひとも公表し、電子書籍販売の範を示すべきだろう]
9.講談社小学館集英社が中心となって12億円を出資し、大日本印刷と凸版印刷にも各5億円の出資を要請し、20億円を超える資本規模となる出版デジタル機構が4月に発足予定。
出版デジタル機構の設立は180社の出版社の賛同を得て、100万点の電子書籍化をめざし、出版社と取次・書店の間に立ち、出版物の電子化と卸売りを図る。

10.電子書籍化と東日本大震災の被災地支援をめぐって、出版業界団体である日本インフラセンター(JPO)が経済産業省の緊急電子化事業の補助金10億円を受け、電子書籍の普及と被災地支援を目的とし、6万点の電子書籍化をめざす。

から10が今月における電子書籍関連ニュースである。
しかし講談社のみならず、集英社小学館にしても、欧米と異なる出版状況をはっきり認識しているのだろうか。
既述したように、日本の出版業界は講談社小学館集英社に象徴されているように、書籍、雑誌、コミックで成立し、欧米の書籍の電子化をめぐる構図とはちがい、雑誌、コミックを巻きこんだかたちで展開されてきたし、これからもそのような道筋をたどるだろう。

その場合にはどのような影響を受けるのだろうか。出版デジタル機構が出版社を代行し、取次や書店に電子書籍を卸売りすることが本当にできるのだろうか。それらの数々の疑問が浮かんでくる。もしそれを本気で構想しているのであれば、の例に示されているように、紙版と電子版の売れ行き部数を公開することを前提として、プロジェクトを進めるべきだ。そうでなければ単なるブラックボックス事業に他ならない懸念を孕んでいるように思われる。

またJPOの経産省10億円の書籍6万点電子化プロジェクトにしても、被災地支援を目的とし、被災地への知へのアクセスを確保し、助成金を受けた出版社は東北3県の図書館に電子化した書籍を献本することが条件だが、その電子化は図書館、書店、学識経験者によって検討されることになっている。その他にも補助金を受ける中小出版社の定義、プロジェクト運営のシステムとそれを支える各種の委員会のメンバー決定、出版デジタル機構との関係など、経産省の下部組織的な構成によって成立するような印象を受けざるをえない。
出版業界が危機にある現在において、公的資金による支援を願っていることはわかるにしても、電子書籍プロジェクトは丸ごと経産省の管理の下で進められていく様相を帯びるのではないだろうか。

いつも本クロニクルで繰り返しているように、出版の魅力は許認可でないその自由、民間の知と力によって生じるものであり、それは日本の出版のコアともいえるコミックが証明しているし、出版の前提となる自明の事実ではないだろうか]
11.これも電子書籍プロジェクトに関連しているはずである。

書誌データの図書館MARCをめぐって、国会図書館の「JAPAN/MARC」と民間マークであるTRCの「TRC MARC」、日販図書館サービスの「NSI MARC」、大阪屋の「OPL MARC」の攻防が始まっている。このうちの公共図書館における「TRC MARC」のシェアが8割に及んでいる。
文字・活字文化推進機構、日本図書館協会、全国学校図書館協議会は、民間マークは運営コストが年間300億円以上かかっていて、「JAPAN/MARC」に転換すれば、そのコストが解消されるというパンフを10万部全国の教育委員会公共図書館へ配布し、実質的な一元化を提言している。
これに対しTRCは「JAPAN/MARC」がコスト削減につながらないと反論している。

国会図書館、文字・活字文化推進機構、日本図書館協会、全国学校図書館協議会 vs. TRCという、官と民のマークをめぐるヘゲモニー争いのように感じるのは私だけではないはずだ。
出版業界と同様に、公共図書館もその成長は終わったと見るべきだろう。館数の増加の停止、図書予算の削減、マーク問題は、出版業界における電子書籍をめぐる攻防に相似している。
文字・活字文化推進機構の肥田美代子理事長はこの問題に関する『文化通信』(1/30)のインタビューで、1国1書誌データが望ましいと述べ、それによりマークが無償なので入札を排除し、地域書店と図書館が支えあった「知の地域づくり」の推進を提唱している。そして肥田は次のように言っている。
 全国で書店が潰れていく事態を、私は看過できないのです。地域書店に元気がなければ、街の景色も変わります。
 書店の皆さん、もっと元気を出して下さい。もっと自信を持って下さいと言いたい。経済産業省も、この業界はさびれ行く業種ではなく、未来の明るい業種になるとはっきり言っています。私は今後、経産省の力を借り、底力のある書店づくりの応援ができればと願っています。
 図書館のミッション、書店のミッション、それぞれがしっかり自覚することから「知の地域づくり」がはじまります。
この期に及んで何を言っているのだろうか。出鱈目をいうのはいい加減にしてほしい。すでに「全国で書店が潰れ」、「町の景色も変わっ」てしまっているではないか。公共図書館の理念なき膨張もそのひとつの原因であったことは自明のことではないか。「経産省の力を借り、底力のある書店づくりの応援」が本当にできると思っているのだろうか。そして本当に経産省は「この業界はさびれ行く業種ではなく、未来の明るい業種になる」と断言しているのだろうか。こういう人物が出版文化産業振興財団理事長を務め、読書推進運動の中心となっていることにあらためて驚きを覚える。
TRCは肥田と文字・活字文化推進機構に公開質問状を提出すべきだろう]
12.佐藤優が「憂国の極論放言者」の一人として『週刊新潮』(3/1)で、「『図書館司書』は出版社・書店でご奉公」という一文を寄せている。
佐藤は公共、大学図書館が出版業界のガン細胞であり、ベストセラーを大量購入し、タダで貸し出しし、著者(作家)、出版社、取次、書店に基づく本をつくるサービスを破壊していると述べ、司書は資格を得るために、出版社、取次、書店で無給研修し、本に関する専門的知識を学ぶべきだと提言している。
そして近年の図書館における自らが入手した専門書、研究書、洋書の数百冊に及ぶ大量廃棄本について、「本の価値を理解する基礎教養のない人が図書館司書をつとめているから学術書や専門書の大量廃棄が行われているのだと思う」と述べ、この問題は図書館でそれらを自由に読む機会が失われたことを意味し、10年後における日本人の知力の低下を愁いている。

『出版状況クロニクル2』でも大学図書館における廃棄本について述べ、どうしてこのような専門書が捨てられてしまうのか、疑問を呈しておいた。
おそらく佐藤も懸念しているように、近年の全国規模の公共図書館での廃棄本は膨大な量に及んでいるはずで、それらの中には、その地域の図書館において二度と架蔵されることのない稀少本も大量にあったにちがいない。
佐藤ではないが、それらの本はその地域の人々にとってもはや自由に読むことのできない本と化してしまったのであり、いってみれば、それはひとつの文化の喪失ということになる。しかしそのことを理解していなければ、単なる廃棄処分に他ならないのだ。だが紛れもなくそのような書物環境の中に、出版業界も置かれている。またそのようにして本だけでなく、多くの有形無形の文化遺産が廃棄されていったのであろう。

なお当然のことながら、現場の図書館司書と日本図書館協会と大学の図書館学科の教師たちは、この佐藤の言に対して反論すべきだろう。もちろん私に対してでもかまわない。それを待って、さらにこの問題に言及することにしよう]
13.『創』(3月号)にめずらしく出版社のスキャンダルが掲載されている。それは「本誌編集部」による、「プレジデント社を襲ったふたつの衝撃」である。
創 3月号
[その内容は読んでもらうしかないが、サブタイトルにある「出版界の現状を象徴する舞台裏事情」で、出版業界の末期症状を伝えているかのようだ。 しかもプレジデント社は、諸井薫のペンネームを持つ作家にしてエッセイストの本多光夫が社長を務め、『プレジデント』によってビジネス出版社のブランドを固め、また佐野眞一『だれが「本」を殺すのか』連載、刊行版元でもあった。
そしてこれも奇妙な偶然だが、本多の次男が『週刊文春』(3/1)で、「私が体験した恐怖の拉致監禁1076日」という一族の内紛から起きた事件を告白しており、プレジデント社をめぐる様々な出来事が一挙に吹き出したような印象を受けた。
この『創』の記事は表紙にも掲載されておらず、他では報道されていないのではないだろうか]
プレジデント3/19号だれが「本」を殺すのか
14.誠文堂新光社月刊誌『囲碁』が4月発売の5月号で休刊。創刊は1951年で60年以上の歴史を持つ趣味誌として著名だったが、最盛期に2万5千部あった発行部数が半分以下に落ちこんでいた。
囲碁3月号
[このようにして「趣味の共同体」を形成していた雑誌がひとつずつ消えていく。それはまた雑誌とともに形成されてきた、多くの近代の「趣味の共同体」そのものが消えていきつつあることを告げているのだろう]
15.先月掲載予定がずれこんでしまったが、『週刊スパ』(1/31)が「『このエロ本付録がすごい!』大賞」なる記事を掲載している。
[付録といえば、女性誌のブランド物を想起することが多いと思われるが、エロ雑誌系の付録の進化もすさまじく、DVDからパンツ、水着、ハイソックス、付け乳首と多彩になっていることを教えられる。
再販制によってこれらの付録も守られているかと考えると、何となく楽しい]
16・「出版人に聞く」シリーズ〈10〉の小泉孝一『鈴木書店の成長と衰退』(仮題)の編集を終えた。初めて語られる取次の戦後史であり、早く出せるかもしれない。

日本古書通信』の八木福次郎が亡くなった。実はこのシリーズとは別の企画で、八木へのインタビューを依頼され、引き受けたばかりであった。本当に残念であり、聞き書きも急がないと、肝心な人たちが鬼籍に入ってしまうという事実に、またしても直面してしまった。

拙著『出版状況クロニクル3』は遅れてしまい、今月上旬刊行。
また『男の隠れ家』4月号は「出版人に聞く」シリーズ〈5〉の能勢仁を案内人とする書店などの特集で、私も日本とヨーロッパに関する、書店と文学史についての一文を寄せている。
啓蒙的な一文なので、よろしければご一読あれ。

男の隠れ家4月号

《既刊の「出版人に聞く」シリーズ》
「今泉棚」とリブロの時代盛岡さわや書店奮戦記再販制/グーグル問題と流対協リブロが本屋であったころ本の世界に生きて50年震災に負けない古書ふみくら営業と経営から見た筑摩書房
以下次号に続く。

 
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