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2015-11-01 出版状況クロニクル90(2015年10月1日〜10月31日)

[]出版状況クロニクル90(2015年10月1日〜10月31日)

出版状況クロニクル90(2015年10月1日〜10月31日)

15年9月の書籍雑誌の推定販売金額は1416億円で、前年比6.1%減。

その内訳は書籍が741億円で、前年比2.3%減、雑誌は675億円で9.9%減、そのうちの月刊誌は8.1%減、週刊誌は17.8%減。週刊誌は今年に入ってから毎月続けて2ケタマイナスだが、このような18%近い落ちこみは異常ともいえる数字で、週刊誌を読むという行為が急速に後退していることを告げている。

これは販売金額によるものだが、販売部数のほうは19.1%減である。おそらく両者ともこのようなマイナスは初めてのことであろう。ちなみに月刊誌はそれぞれ8.1%と8.5%のマイナス。

返品率は書籍が35.2%、雑誌は39.6%で、前者は横ばい、後者はやはり高くなっている。

9月はシルバーウィークもあり、百貨店、スーパーを始めとする物販、外食などは前年を上回ったと報道されているが、出版業界だけが例外だったことになる。


1.1月から9月までの出版物推定販売金額を示す。

■2015年 推定販売金額
推定総販売金額書籍雑誌
(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)
2015年
1〜9月計
1,155,639▲4.8575,199▲1.8580,440▲7.5
1月108,8160.653,9701.354,847▲0.1
2月147,763▲3.576,919▲5.170,844▲1.6
3月188,090▲3.3108,9940.479,096▲8.1
4月127,368▲4.957,454▲5.269,914▲4.6
5月100,421▲10.747,652▲7.352,769▲13.6
6月118,820▲4.654,9910.863,829▲8.8
7月113,336▲4.251,4342.961,902▲9.3
8月109,423▲7.049,719▲1.559,704▲11.2
9月141,602▲6.174,066▲2.367,536▲9.9

[9月までの販売金額は1兆1556億円で、前年比4.8%減である。2014年度の年間販売金額は1兆6064億円だったので、この4.8%のマイナスを当てはめると、15年度は771億円の減で、1兆5300億円前後と予想される。

そして最大の問題はこの販売金額の下げ止まりがまったく見られないことで、同様に4.8%ほどがマイナスとなっていくと仮定すれば、16年度は1兆4556億円、17年度は1兆3857億円となってしまう。

本クロニクル75 などで、紀伊國屋書店の高井昌史社長の、20年度に1兆3000億円、もしくはそれ以下になるという予測を紹介しておいたが、それが前倒しされることは確実である。台風の季節は終わったが、出版業界はまさに危機の目の中に入ろうとする状況に置かれている]

2.『出版ニュース』(10/中)に、ニッテンによる「2014年出版社売上金額 書店販売金額の推移2008−2014」が掲載されている。

 14年の出版社売上額は3534社で、1兆8691億円、前年比1.36%減。同じく書店販売金額は上位394社、3821店で、1兆1387億円、前年比6.7%減。

 本クロニクル78 などで、これまではこの「出版社売上額推移」や「出版社売上実績金額」などを示してきたが、今回は「出版社3534社の年間売上総額(書籍雑誌及びその他総合計額)」を取り上げ、そのシェアを見てみる。

■2014年出版社3,534社の年間売上総額
売上順位 総売上額(100万円)売上占有比(%)前年比(%)
1位〜5位412,25522.06▲1.0
6位〜50位547,11329.27▲2.1
51位〜100位252,39613.500.6
101位〜150位151,8178.12▲1.3
151位〜200位95,1955.090.8
201位〜250位66,5403.560.6
251位〜300位50,5582.701.2
301位〜350位41,1312.201.9
351位〜400位34,7511.860.6
401位〜450位29,1541.56▲2.1
451位〜500位25,4361.36▲1.0
500社小計1,706,34691.29▲0.8
501位〜1000位116,3506.22▲7.2
1001位〜2000位42,1742.26▲4.0
2001位〜3000位4,0660.22▲13.2
3001位〜3534位2400.01▲9.1
501〜3534社小計162,8308.71▲6.5
3534社合計1,869,176100.00▲1.4
[1位から100位までの総売上額は1兆2117億円で、その売上シェアは約65%に及ぶ。それに対して、500位以下の3000余社の売上は1628億円で、シェアは9%にも満たない。
このような売上シェアから見ても、日本の出版社は雑誌、コミックをベースとする大手出版社と、単行本書籍による多くの中小零細出版社で形成されていることがよくわかるだろう。しかも前年比でマイナス幅は大手出版社よりも中小零細出版社のほうが大きく、それらの単行本書籍が売れなくなっている状況を告げている。
しかし大手出版社のマイナスにしても、それは雑誌書籍以外の収入でカバーされていることは明白で、中小零細出版社以上に量的マイナスに陥っているはずだ。それゆえに、現在の出版危機は大手出版社を直撃し、それが取次へとはね帰り、栗田の破産として現実化したと見なせよう。
書店販売金額のほうだが、2010年は412社で1兆3129億円であった。これは書店と店舗数が異なるので、そのまま比較できないにしても、1742億円のマイナスになっている。それは「書店販売金額の推移2008−2014」にも歴然で、大半の書店が前年比マイナスである。それが2015年に加速していると見ていいし、書店の資金繰りがタイトになってきている状況を浮かび上がらせている]

3.同じく『出版ニュース』(10/上)に、日本出版協議会の高須次郎会長が「栗田出版販売の民事再生と正味問題」を寄せているので、そのコアを抽出してみる。
* 「現在の正味体系」を中心とする取引条件の問題点に踏み込むことなしに、栗田の再生はないのではないか。
* 日書連が主導した1972年のブック戦争後出された『新正味一覧表』によれば、大手老舗版元の正味は74.5%以上も多く、限りなく高いが、中小零細、新興版元は69.5%以下で限りなく低い。
* 74年には書籍正味の改訂が行なわれ、最低正味の場合、版元出し正味69%、取次マージン8%、書店マージン23%となった。
* 93年には講談社、小学館が書籍正味を69%とし、97年までに書籍115社、コミック22社、雑誌・ムック22社が1〜3%の見直しに同意した。しかし高正味版元の見直し同意はほとんど得られなかった。
* ところがその一方で、大手書店チェーンに対し、取次は78から75%、さらにそれ以下という一本正味を提示するようになり、そのしわ寄せは新規取引版元に及んだ。そうした一例として、正味67%、新刊委託歩戻し5%、注文品支払保留30%などが挙げられる。
* このような取次の書店取引正味条件の競合によって、2001年に専門書の高正味出版社を多く抱える鈴木書店の倒産が起きたのである。
 大手取次の場合、8%のマージンで粗利5.6%の確保が必要であり、それも返品率30%とされているし、鈴木書店は高正味版元と大手書店チェーンの挟間で逆ざやになり破産してしまったことになる。
* 栗田やそれを支援する大阪屋にしても、そうした事情に変わりはない。アマゾンや大手書店チェーンとの取引はほとんど利益も出ないはずで、雑誌の売れ行きが急減する中で、町の書店との取引も利益を上げられない状況になっている。
* それゆえ栗田の民事再生のみならず、出版界の活性化のためには「現在の正味体系」の改革が不可欠なのだ。

で大手出版社の売上シェアを挙げておいたが、まずそれらと老舗高正味出版社の正味の見直しが必要なのはいうまでもないだろう。鈴木書店から栗田に至るまで、ずっと赤字のままで取次が営まれ、蓄積した土地、建物といった資産をすべて失ったころで、倒産している。
大手取次は利益を計上していることになっているが、取次のベースとなる雑誌の急激な落ちこみと、異常なまでの高返品率がこれ以上続くと、実質的に赤字の状態へと追いやられていくのではないだろうか]
4.
『週刊ダイヤモンド』(10/17)が特集「『読書』を極める!」を組んでいる。ビジネス誌としては長い特集で、1「知性を磨く読書術」、2「『新しい図書館』戦争」、3「出版不況と闘う書店」という3部構成になっている。
 この特集はタイトルに合わせ、1が20ページ以上を占めているが、リードに「闘う書店、使い倒せる図書館の歩き方」とあるように、2と3 に重点が置かれていると見るべきだろう。
 2 は武雄市図書館や海老名図書館に対して、「全国に広がる新しい図書館」として、武蔵野プレイス、千代田図書館、岡山県立図書館、鳥取県立図書館が紹介される。
 3 においてもその構図は同様で、「出版不況」に対して、紀伊國屋書店村上春樹『職業としての小説家』の取次を通さない買切仕入れ、「一度は行きたい!全国・“哲学”ある書店」として、西荻窪の古書店、京都の恵文社、ホホホ座などが紹介されている。
週刊ダイヤモンド 職業としての小説家
[しかし3において、「出版業界はまさに非常時である」とし、「書店の危機は終わらない」としながらも、そのよってきたる真の原因についての言及は見られず、その分析も的を射ていない。
現在の出版業界の危機は再販委託制に基づく近代出版流通システムの制度疲労、及びそれを利用した書店のバブル出店によるもので、その連鎖が再販委託制を支えていた中小の町の書店を壊滅状態にさせてしまったことだ。それが栗田の民事再生、初めての統合取次の倒産となって表われたのである。
だがこの特集において、そのことにはまったくふれられていない。それは取次経由のビジネス誌としては無理だったかもしれないが、4として「出版危機下の取次」を加えれば、より立体的な特集になったと思われる]
5.『週刊朝日』が『週刊ダイヤモンド』と同じスタンスで、「『ずさんな選書』にCCCが反省」(10/2)、「『リアル図書館戦争』各地で戦線拡大」(10/9)、「『海老名ツタヤ図書館』内幕 新たな疑惑に市民が激怒」(10/16)、「海老名TSUTAYA図書館 ポリシーなき選書と驚愕のジャンル分け」(10/23)という記事を毎週発信し、最新号ではまさに「週刊ツタヤ図書館 山口・周南市でも反対署名」(11/6)とあるので、まだ続いていくのだろう。
 これらの記事に併走するように、新聞などでも同様の記事が発信された。その一方で、小牧市は住民投票でツタヤ図書館は否決されている。
[本クロニクルは一貫して、CCC=TSUTAYAと日販、MPDのジョイントによる大型出店などに対して批判してきたが、このようなマスコミのTSUTAYA図書館への一斉バッシングには違和感を覚える。
これらのバッシングの背景にあるのは、まず公共図書館は「官」に属するもので、「民」にまかせるべきではないという「官尊民卑」の考えが抜きがたく潜んでいるように思われるからだ。しかし拙著『図書館逍遥』でも示しておいたが、近代図書館史をたどれば、戦前は私立図書館の時代であり、出版物がそうであるように、「民」の領域に属していた。 戦後の公共図書館学校図書館にしても、それらはGHQ占領下に教育改革の一環として設置が推進されたのであり、内発的なものではなく、1960年までは全国で公共図書館は800館で小規模なものだった。

現在の3300館というバブル的増殖は1990年以後のことで、そうした時代において、日本図書館協会大学図書館科の教師たち、各地の教育委員会からなる図書館官僚たちが新たに形成されてきた。TSUTAYA図書館に向けられた一斉バッシングは、彼らの思考とまったく重なる地平から発せられている。
しかし現在の社会状況から考えれば、公共図書館の一部の民営化は必然的な流れであり、そうした中で新しい図書館、図書館人が生まれてくるべきなのだ。それゆえにこのような一斉バッシングは、すべての図書館民営化の否定になってしまうことを危惧せざるを得ない。

また最も問題なのは、市長や行政側が政治的パフォーマンスのために文化政策をスローガンとして図書館事業を利用し、市民に説明責任を果たすことなく、トップダウン方法でCCC=TSUTAYAを選んだことにある。しかも本クロニクル72で既述しておいたように、元武雄市長のCCC誘致エピソードはまったくのフィクションだったという事実も明らかにされている。その絡みもあって、CCC子会社の社長に就任したと思われる]
図書館逍遥
6.海老名市立図書館で、TRCはCCCと共同事業体となり、中央図書館はCCC、有馬図書館はTRCが運営、2館の統一館長をTRCの谷一文子会長が務めていた。しかしCCCとの関係を解消し、今後共同で図書館事業は行なわないし、海老名市立図書館も離脱すると表明。
 TRCの石井昭社長はその理由として、図書館運営に関する理念の違い、コミュニケーションの不成立、個人情報の扱い方に関する意見の相違などを挙げている。
[すでに2004年からTRCは公共図書館の指定管理・業務委託事業に参入し、双方で450館近くを運営している。それゆえに今回のCCCとのジョイント、CCCをめぐる海老名市立図書館報道、小牧市の住民投票などにより、図書館事業におけるCCCとの提携を断念したと考えるべきだろう。もちろん図書館官僚たちとの板挟みになるのを避ける意味も含めて。

〈付記〉 これを書いたのは10月29日だが、30日になって、TRCが海老名市立図書館からの離脱表明を撤回し、今後もCCCと共同運営を継続していくことが明らかにされた。それは内野優市長の定例会見によるもので、所謂「政治的決着」であることをあからさまに示している
7.『週刊東洋経済』(10/31)が巻頭特集「TSUTAYA破壊と創造」を組み、CCCの「企画会社」としての素顔、TSUTAYA図書館問題、増田宗昭社長への「独占直撃インタビュー」を掲載している。
図書館逍遥
56などのTSUTAYA図書館問題を背景にして、この「特集」が組まれたことは明らかだ。だがそれはともかく、増田社長自身も登場し、「俺たちはお化けなんだよ、本当の姿を見たことがない」というCCCの実像の簡略なチャートが提出されたことだけでも評価すべきだろう。これまでこのようなまとまった特集は業界紙でもビジネス紙でも、組まれたことがなかったからだ。
「企画会社」としてのCCCは書店、レンタル事業のTSUTAYA、出版などのカルチュア・エンタテインメント、カード事業のCCCマーケティングなどの連結子会社49社を抱え、15年3月期は売上高2004億円で、前年比2.3%増となっている。これは6年ぶりの2000億円台の回復だが、11年に非上場化したので、詳細な業績数値は不明とされる。

しかし特集の推定するところによれば、収益源の5割はFC料、直営店2割強、Tポイント2割強、インターネット1割強である。
それはCCCが「マルチ・パッケージ・ストア」と呼ぶ複合型書店を対象とするFC企業であることを示している。カード、ネット、出版、図書館事業などにも進出し、様々に展開しているように映るけれど、その収益の7割強はTSUTAYAのFCと直営店事業によっていることになり、CCCは「お化け」ではなく、その「本当の姿」はFCとレンタル事業をコアとする企業なのだ。
FCということでいえば、セブン‐イレブンがトーハンをビジネスモデルとしてスタートしたように、CCCは日販の金融と流通システムの中にFCとレンタル事業を持ちこみ、成長してきたといえるだろう。そして出店においても様々な手法が駆使され、いくつもの子会社が絡み、FC事業そのものがロイヤリティだけでなく、多様な利益を生み出す仕掛けになっていると思われる。

CCCの歴史は1980年代のビデオレンタルの発祥とともに始まり、それは全国各地で無数に簇生したが、CCCがサバイバルし、90年代にビデオ・CDレンタル業界の最大手に成長したのは、ひとえに日販との提携であった。
日販はトーハンに追いつき、追いこすために、書店は書籍雑誌より収益率の高いレンタルを導入するために、複合型出店を選択せざるをえなかった。また大店法の規制緩和と廃止によって、90年代以後の大型出店化も、CCCの成長に拍車をかけたのである。
しかしその一方で、CCC=TSUTAYAの成長と反比例するように、出版物売上高はマイナスの一途をたどり、この20年間で1兆円が失われる状況を迎えてしまった。これが「縮小市場でひとり成長を遂げた」、「リアル書店では国内最大手」CCCのかたわらで起きていた事実に他ならない。

そしてさらに補足しておけば、本クロニクル75などで指摘しておいたが、TSUTAYAの直営店にしてもFC店にしても、大型店としては書籍や雑誌を驚くほど売っていない。ちなみにこの特集で15年3月期の書籍雑誌売上高は804店で1212億円とされている。ということは1店当たり約1億5000万円、月商1250万円である。これでは書籍雑誌販売は赤字の店が多いと推測される。
ただ代官山蔦屋書店は月商9000万〜1億円だとされているが、紀伊國屋、ジュンク堂、有隣堂はいずれも1店舗当たりがそのレベルにある。したがって特集において、TSUTAYAの書籍雑誌マーチャンダイジングとしての「管理力」「展開力」「商品力」が写真入りで紹介されているが、実効力に関しては疑問を抱いてしまう。日販にしても、TSUTAYAの書籍雑誌販売で売上に見合う利益を上げているのだろうか。

それゆえにCCC=TSUTAYAは「書店チェーン最大手」となっても、それはFC企業としての集積の結果で、それも単店における出版物販売状況がいかに危ういものであるかがわかるだろう。
それでもCCCは16年も蔦屋書店とTSUTAYAを次々に開店させるという。その先には、CCCにしても、日販やDMPにしても、また出版業界にしても、何が待っているのであろうか]
8.有隣堂の松信裕社長が会長である神奈川県日販会が解散を決議し、1967年設立から45年の歴史に幕を降ろす。
[首都圏日販会(仮称)への発展的解消とされているが、書店の減少に加え、日販とCCC=TSUTAYAのジョイントによる出店の影響も大きな要因となっているのだろう。
それは神奈川日販会だけでなく、新潟日販会、長野日販会も解散の意向だという。かつては日販だけでなく、どの県にも取次の名を付した会があったものだったが、実質的にはナショナルチェーンの大型店出店によって、そのような地方共同体的組織も解体されていく状況を迎えている。それは各県の日書連の問題へともリンクしていくと思われる]
9.青森県八戸市議会は16年に開設予定の「八戸ブックセンター(仮称)」に対する補正予算が可決され、内沼晋太郎ブックコーディネーターへの同センターディレクション業務、委託費623万円、PRイベントや設計委託費460万円が承認された。
 小林眞市長の発言によれば、同ブックセンターは「本のまち八戸」構想の心臓部に位置づけられている。その上で本や市内の書店、図書館の案内窓口、読書会専門の部屋、執筆ルームの設置、本を薦め合うことを楽しむ定期イベント、小説や自伝を書くためのワークショップの開催、市内書店をめぐりたくなるような共同フェアなどの「市内書店と一体となった公共サービスの提供」「官民一体の八戸モデル」「市民が新しい分野の本と出会う機会の創出」が謳われている。
[八戸市のことも小林市長のこともまったく知らないが、元武雄市長に始まるTSUTAYA図書館誘致の流れを重ね合わせてしまう。政治家による文化パフォーマンスとしての、本にまつわるプロジェクトだと見なせよう。このような企画の起源がどこから生じたのかを考えると、2008年に始まり、3年で終わった丸善の松丸本舗に行き着く。

これはCCC出身の当時の丸善の小城武彦社長が、編集工学研究所の松岡正剛を店主として、丸の内本店で開いたものである。この記録は
『松丸本舗主義』(青幻舎)として刊行されている。
同書については本クロニクル54でもふれているが、「前人未到の実験書店はなぜ閉店になったのか!」という帯コピーがなければ、部外者は成功した書店、文化的プロジェクトの記録と間違えてしまうかもしれない仕上がりになっている。確かにそれに見合うだけの多くのマスコミ露出度、多大な宣伝効果、もてはやされ方はまさに「奇跡の書店」にふさわしかった。

だが松岡はこのプロジェクトを「人と本のための商用文化実験」と銘打っていたにもかかわらず、「商」の面をまったく明らかにしていない。つまり「書店業」として成立しなかったがゆえに、3年で閉店に追いやられたのである。しかしそれを書き記さなかったことで、
『松丸本舗主義』はセレクトショップ、文化棚に関する幻想が温存され、現在に至っていると思われる。
八戸の小林市長が「文脈棚の手法」を唱えていること、招聘されたのが『松丸本舗主義』にメッセージを寄せている内沼晋太郎であることは、その証左となろう。この一冊の意味を今こそもう一度確認すべき時期に入っている]
松丸本舗主義
10.SEALs(自由と民主主義のための学生緊急行動)が「本を以て路上に出よう」と訴え、書店、生協、図書館にフェアを呼びかけ、「基本の15冊」からなる「SEALs選書プロジェクト」をスタートさせた。
 それに先駈け、また呼応するように、MARUZEN&ジュンク堂書店で、ブックフェア「自由と民主主義のための必読書50」の9月20日から10月末まで開催が予定されていた。
 ところが『朝日新聞』(10/24)によれば、渋谷店の書店員の発した「うちは闘うメンツが揃っています。書店としてできることをやります!」となどというツィッターが共感を寄せられるとともに、選書が偏向しているとの批判が続出した。
 店側は20日に非公式アカウントを削除し、21日に自主的にフェア棚を撤去し、内容を見直したうえで、再開するという方針を示した。
[フェアは書店員の主張であり、その店のカラーであるはずで、「陳列されている本が偏っている」からこそ面白いのだ。店側はツイートに至る経緯を調査するようだが、どこからどのような批判が寄せられたのかも明らかにすべきだろう。自由にフェアを開けない書店の時代をも迎えているのだろうか。
今泉正光の『「今泉棚」とリブロの時代』の帯に「本を売ることも一つの思想である」というコピーを付したが、それがあらためて問われている]
「今泉棚」とリブロの時代
11.経産省東日本大震災復興予算による「コンテンツ緊急電子化事業(緊デジ)」に対して、会計検査院から未配信書籍問題の改善処置要求が出された。
 事業受託団体JPOによれば、会計検査院の文書は緊デジで電子書籍化された書籍6万4833件のうち、配信が確認できないものが4万6350件とされる。JPOはこのデータは今年2月時点のもので、9月の経産省とJPOの調査では3万2028件が配信になっているという。JPOは緊デジ利用の出版社344社にアンケートを実施し、その実態を把握し、10月中に発表するとの声明を出した。
[JPOの「緊デジ」に関しては本クロニクルでも追跡し、ずっと批判してきたし、書目選定審査委員長永江朗による内幕告発も紹介してきた。それらに加えて、半分が未配信という状況も明らかになった。
選書問題も含めて、「緊デジ」に関わった出版社は、TSUTAYA図書館の選書にクレームをつける資格がないというべきだろう。それにまだ調査結果は発表されていない。どうなっているのか]
12.ケーイー(旧商号・近代映画社)が自己破産。負債額は9億5000万円。
 旧近代映画社は1945年に創業され、映画誌『近代映画』や『SCREEN』を始めとし、ティーンアイドル誌やパズル誌などを刊行してきた。05年売上高9億5000万円が13年には3億6000万円に落ちていたという。
 『SCREEN』などの編集発行事業は食品事業などを手がけるタイヘイグループのティ・アイ・ティに譲渡され、ティ・アイ・ティは近代映画社に社名変更。
SCREEN
[1960年代には『平凡』や『明星』と並んで、『SCREEN』が輝いていたような印象があった。それはまさに洋画の時代を象徴していたし、70年代には従姉の家にそれらのバックナンバーが並んでいるのを見たことがあった。あれからもはや半世紀近くが過ぎてしまった。
また80年代には近映文庫も出ていて、その中に『脱いだスター女優284人』の「アメリカ編」「ヨーロッパ編」の二冊があり、これまで何度か書いてきた。今となれば貴重な文庫かもしれず、見かけることがあったら、購入をお勧めする]
13.パソコン書などの秀和システムの親会社MCJが、全株式を経営コンサルティング会社のウエノグループに10億3000万円で譲渡。
 秀和システムは1981年に設立され、「パーフェクトマスター」シリーズを始めとするパソコン関連書やビジネス書を発行し、15年3月期の売上高は12億円。
[1980年代は秀和システムの他にはソフトバンクアスキーなどのコンピュータ版元が立ち上がった。これらの異業種の人々の参入は、様々なシーンで出版業界に新しい流れをもたらしたと思うし、その再編も始まりつつあるのだろう。それらは十分に検証されていないが、能勢仁の『本の世界に生きて50年』の中での証言にも明らかだ。
なお本クロニクル88で、桐原書店のTACへの事業譲渡を伝えたが、出版物の一部の出版権の了解が著者から得られないことで、中止になったとされる]
本の世界に生きて50年
14.『歴史読本』が休刊。
歴史読本
[以前は新人物往来社から出されていたが、同社が角川書店傘下となったことで、近年はKADOKAWAからの刊行だった。
創刊は1956年で、人物往来社の『特集 人物往来』として始まり、60年代の邪馬台国ブームなどを背景にして、人物往来社の倒産から新人物往来社への移行はあったものの、「歴読」と呼ばれ、半世紀以上のまさに歴史を保っていたことになる。 そのような歴史がベースとなり、現在の時代小説の隆盛へのひとつの道筋となっていたのであろう。だがそのような雑誌と歴史の時代も次第に遠のいていく]
15.扶桑社の「超世代文芸クオリティマガジン」で、柳美里福田和也坪内祐三リリー・フランキー重松清が編集同人であった『en−taxi』 が46号で休刊。
 2003年創刊で、リリー・フランキーのミリオンセラー『東京タワー』も同誌に連載されたものだった。
東京タワー en−taxi(5号)
[『en−taxi』の良き読者とはいえないし、後半は読んでいなかったけれど、初期の頃は講読していたし、5号が特集「大切なことは本屋の棚から学んだ」であったことを覚えている。
同誌の13年間にわたる歴史は、いずれ坪内祐三が書いてくれるだろう]
16.『文化通信』(9/28)に、「出版物で唯一前年を上回る日記・手帳」という大見出しによる3ページのパブリシティを含んだ特集が組まれていた。
 それによれば、15年販売実績は日販が売上冊数ベースで前年比7%増、トーハンは売り上げベースで同2%増。
 それらの出版社は高橋書店、日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)、博文館新社のシェアが7割を超え、その中でも売れ筋は「ファミリー手帳」だという。これは子どもを持つ働く女性を対象とするもので、自分の予定だけでなく、家族の予定を書きこむことができるタイプの手帳をさす。
[この特集の広告からすると、この分野に多くの出版社から参入があることがわかる。
だがあえていえば、出版物というよりも白紙の部分が大半を占める日記や手帳が、唯一前年を上回っているというのは笑い話ではなく、ブラックユーモアそのもののように思える。それこそが現在の出版業界を象徴しているにちがいない]
17.田中英夫の『洛陽堂河本亀之助小伝』(燃焼社)がようやく上梓された。
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[これには「損をしてでも良書を出す・ある出版人の生涯」というサブタイトルが付されている。1909年から22年にかけて、洛陽堂は竹久夢二の画集や『白樺』や白樺叢書などを刊行し、近代文学史には名前を残しているが、その発行者の河本亀之助は人名辞典や近代出版史にも見出されない。
在野の研究者である田中は独力で6年間にわたって、小冊子『洛陽堂雑記』を32号刊行し、それに加筆を行ない、ここに出版の運びとなったのである。
近代文学、出版研究者も必読の一冊として推奨する次第だ]
18.「出版人に聞く」シリーズ〈19〉の宮下和夫『弓立社という出版思想』は11月初旬発売。
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以下次号に続く。

 
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