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2016-01-01 出版状況クロニクル92(2015年12月1日〜12月31日)

[]出版状況クロニクル92(2015年12月1日〜12月31日)

出版状況クロニクル92(2015年12月1日〜12月31日)

15年11月の書籍雑誌の推定販売金額は1145億円で、前年比7.0%減。

その内訳は書籍が506億円で、同2.4%減、雑誌は639億円で、同10.4%減、そのうちの月刊誌は10.0%減、週刊誌は12.2%減。

とりわけ週刊誌に至っては1月から11月まで、ずっと前年比2ケタマイナスとなっていて、電車の中で週刊誌を読む姿が見られなくなったことと連鎖している。

返品率は書籍と雑誌がいずれも40.1%であり、15年は40%を超えた月が書籍は6ヵ月、雑誌は9ヵ月に及んでいて、これは戦後出版史どころか、近代出版史上始まって以来のことだといっていい。

ちょうど1年前の本クロニクル80で、「正念場の1年もまた出版物売上の下げ止まりはまったく見られず、出版業界全体がさらに奈落の底へと沈み始めている。15年はその解体の年として記録されることになろう」と書いた。それはこの異常な高返品率、栗田出版販売の破産に表出したことになる。


1.15年の1月から11月までの書籍雑誌推定販売金額を示す。

■2015年 推定販売金額
推定総販売金額書籍雑誌
(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)
2015年
1〜11月計
1,392,979▲5.2684,717▲1.9708,261▲8.2
1月108,8160.653,9701.354,847▲0.1
2月147,763▲3.576,919▲5.170,844▲1.6
3月188,090▲3.3108,9940.479,096▲8.1
4月127,368▲4.957,454▲5.269,914▲4.6
5月100,421▲10.747,652▲7.352,769▲13.6
6月118,820▲4.654,9910.863,829▲8.8
7月113,336▲4.251,4342.961,902▲9.3
8月109,423▲7.049,719▲1.559,704▲11.2
9月141,602▲6.174,066▲2.367,536▲9.9
10月122,774▲7.858,859▲2.563,914▲12.1
11月114,566▲7.050,659▲2.463,907▲10.4
[11月までの推定販売金額は1兆3929億円で、前年比5.2%減、書籍は6847億円、同1.9%減、雑誌は7082億円、8.2%減である。14年12月の推定販売金額は1367億円だったので、15年12月も11月と同様に7%のマイナスと想定すれば、1272億円ほどで、15年度は1兆5200億円前後の出版物売上高となろう。
そして同様に16年度売上高も前年比5%マイナスを当てはめれば、1兆4440億円となり、さらに続いて17年度は1兆3000億円台まで落ちこむだろう。まさに1996年のピーク時の2兆6538億円の半分になってしまうのである。
これを再販委託制に基づく護送船団的近代出版流通システムの崩壊といわずして、何と呼ぶべきか]

2.12月24日に東京地裁で栗田出版販売の債権者集会が開かれ、債権者851人のうち806人が賛成し、賛成票88.94%で大阪屋との経営統合という再生計画案は可決された。
前回も記しておいたように、債権総額の2分の1と出席再生債権者の過半数があれば、再生計画は承認されることになっていた。
だがほぼ9割という賛成票が集まることに、逆に危惧を覚えてしまう。本当に806人の債権者が、栗田と大阪屋が統合し、第三極としての取次をめざすというスキームを信じているのだろうか。おそらくそうではあるまい。現在の出版状況の正確な分析と本来のビジョンを確立できないままに、大手出版社によるトップダウン的スキームをただ承認しただけであろう。
出版協は栗田民事再生案に対し、返品問題も含め、「元来、事業合併と債務解消は別の次元で考えられるべき問題であり、加えて、出版及びその関連業界は公共性の高さから、公正性・公平性・透明性が求められるべきであり、この点からもこの再生案自体に首肯できない」との声明を出していた。
だが1月末までに不服申し立てがなければ、認可されるということになる]
3.日販グループ22社の連結中間決算は売上高3051億円、前年比3.6%減。
 日販単体売上高は2431億円、同6.6%減。その内訳は書籍が1123億円、同2.21%減、雑誌は1204億円、同10.9%減。返品率はそれぞれ34.1%、42.0%。
 MPD売上高は893億円、同4.3%減。内訳はBOOK 480億円、同2.90%減、AVセル146億円、同16.9%減、GAME 78億円、同18.5%増、RENTAL 115億円、同7.0%減。

4.トーハングループ14社の連結中間決算は売上高2258億円、前年比1.5%減。
 トーハン単体売上高は2181億円、前年比1.3%減。その内訳は書籍798億円、同1.5%増、雑誌813億円、同5.9%減、コミック287億円、同2.1%増。返品率はそれぞれ45.6%、48.5%、29.0%。

5.紀伊國屋書店の決算は売上高1086億円、前年比1.8%増の増収増益。

6.有隣堂の決算は売上高524億円、前年比3.9%増の増収増益。
 [から まで、大手取次と大手書店の決算数字を並べてみた。書店のほうは数字を示していないが、取次と同様に雑誌の凋落が押し寄せている。
日販に関してだが、これは業界紙などでは報じられておらず、
ビジネスジャーナルが伝えているが、日販の取次事業は赤字になっている。
そのデータも出回っていて、出版取次事業は2399億円、前年比6.7%減、営業損益は3億円、経常損益は1億3300万円の赤字とわかる。これは日販の創業以来のことで、雑誌の凋落と高返品率に加えて、配送コストの上昇も影響しているのだろう。
その取次状況に対して、大手書店も出版物販売はマイナスでも、他の商品などによって何とか増益を確保していることになる。
このような大手取次と大手書店の決算から見えるのは、後者よりも前者のほうがより困難な状況へと足を踏み入れているという事実であるように思える]

7.能勢仁が『日本古書通信』(12月号)に「最近の出版販売事情―今年に思うこと」を寄せ、取次受難史を書いているので、それを示してみる。
危機、倒産、破産、廃業負債額
1999柳原書店 倒産負債36億円
2000日販 経営危機特損206億円
2000北陸館 倒産負債18億円
2001鈴木書店 倒産負債40億円
2002神奈川図書 倒産
2002日新堂書店 倒産
2002安達図書 廃業
2005名古屋・三星 破産
2005福岡・金文図書 破産
2008洋販 破産
[能勢はこれらの取次の倒産や破産を、「第一次受難期」と呼び、それに比べ、今回の栗田の135億円の負債額かいかに大きいかと述べている。
それに続いて日販やトーハンの書店リベート、原価率、運賃、返品率などにも及び、これが他ならぬ「最近の出版取次事情」であることを示している。
また同号にはその前に、舘野晢の「韓国の出版、体験から考える」も掲載され、こちらも同じく興味深い]
8.CCCがJR浦和駅商業施設内に浦和蔦屋書店をオープン。雑誌や書籍以外に文具や雑貨を揃え、カフェを併設する蔦屋書店の小型店とされる。
 これは蔦屋書店の品揃え、売場づくりなどのノウハウを活用した新店で、CCCは早ければ来年から、同店をモデルとするFCを展開するとしている。
[浦和蔦屋書店は『週刊東洋経済』(10/31)で、CCCの増田社長が「毎月、この店だけで1000万円のキャッシュを生むよ」と豪語した新店だが、他の蔦屋書店と同様に、売上状況は伝わってこない。同誌でも、この200坪の浦和蔦屋書店を雛型とするFCを本格化し、早期に100店とすると書かれていたけれど、16年度における展開はまだ未知数だといっていい。
その他にもCCCは北関東を中心に、ゲーム、音楽、映像ソフト販売を運営するワンダーコーポレーションと新会社を設立し、Tポイントの中小加盟店を広げる。またその一方で、CCCのFCでもあるワンダーコーポレーションはファミリー・マートと提携し、同社の「ワンダーグー」との一体型店を、16年に5社出店する。
CCC=TSUTAYAもツタヤ図書館バッシング意外に、雑誌の凋落、レンタル現象の影響を大きく受けているはずで、それは全体で考えれば、5%マイナスであっても100億円規模になってしまう。それをカバーするためには新規出店、FC展開しかなく、新たな撒き餌戦略へと向かっているのだろう。
しかしこのような出版状況と音楽、映像配信の時代を迎えて、その戦略が功を奏するのか難しいのではないかと思われる。ICT総研の調べによれば、定額配信市場は音楽が前年比66%増の930万人、動画は40%増の590万人とされる。
なおネットの「株価プレス」が「TSUTAYAのCCC、業績ってどうなの? 試行錯誤の真っ最中」で、CCCの業績などに関してレポートしている。
そうした動向は日販とMPDの決算数字へと反映され、その行方を示すことになろう]
週刊東洋経済
9.小田原の伊勢治書店は同社の外商センター、及び4店舗のうちのダイナシティ店とブックプラザ伊勢治の2店を、トーハンと伊勢治書店の筒井正博社長が出資する合弁会社である(株)伊勢治書店に事業譲渡。
先月もあゆみBooksの日販による「囲い込み」を記したばかりだが、今月もまたトーハンによる書店の「囲い込み」が続いたことになる。おそらく来年もこの「囲い込み」はさらに増えていくであろう]
10.『朝日新聞』(12/14)の朝刊に、「本の値引き仁義なき攻防」と題し、アマゾンの値引き販売記事が掲載された。それに「参加するのは1社のみ」とされ、筑摩書房の名前が挙げられ、『フローベール全集』など8タイトルが定価の割引と書かれている。
 これに対し、筑摩書房の代表取締役山野浩一名で、「当社の見解」である「朝日新聞平成27年12月24日朝刊の記事について」が出された。

 それを要約すれば、これは筑摩書房創業75年記念企画「読者謝恩価格本セール」に基づく100書店も含んだもので、その中に「アマゾン・ジャパン」も参加したものである。それは過去3回にわたって行われ、日書連よりも評価と支援も受けていて、筑摩が率先して「脱再販」に加担しているものではない。それゆえに「事実が曲解され」「誤解を招く恐れ」があるので、朝日新聞記者に抗議し、「あらためて当社へきちんと取材したうえで、より正確な記事をなるべく早い段階で掲載するよう、強く要請」した。
フローベール全集(『フローベール全集』)
[これも前回のクロニクルで、筑摩書房と河出書房の「期間限定時限再販企画」としてふれておいたので、少しでも調べれば、このような「事実が曲解され、一方に偏っている」記事が出されることはなかったはずだ。
ジャーナリズムの出版記事に関しては、本クロニクルも何度か批判してきたが、ついにここまで新聞記事における調査や取材が劣化してしまった実例を見せつけられる時代になったことを実感してしまう。
もっとも出版業界にしても他人事ではないのであるが]

【付記】
[上記の文は12月27日に記したものだが、29日になって、同じく『朝日新聞』に「本の値段 どうあるべきか」という記事が掲載された。
これは「再販制」の定義をまず示した上での定価販売と時限再販に関して、筑摩書房社長山野、ジャーナリスト津田大介、上智大学准教授柴野京子の3人の意見を聞き書きしたものである。これは山野も先の抗議文の「追記」として述べているように、24日の記事に対する補足、追加記事に他ならない。
だがこの「値引き、再販維持に必要」「定価販売、多様性を提供」といった小見出しは明らかに朝日新聞の再販制堅持のポジションを示し、24日の記事がそれに違犯した筑摩をスケープゴートとする意図的なものだったことを伝えている。
政権にすりより、軽減税率を獲得した新聞が、出版業界に向けて放った、再販制絡みの意図的なフェイントのようにも思えてくる。
新聞の軽減税率問題については「新聞『軽減税率適用』の真相」(『選択』1月号所収)が詳しく、そこでは「書籍もこの際入れた方が週刊誌の政府・与党批判も減る」との政権側の露骨な主張も紹介されている]
11.SBクリエイティブの「SB新書」が12月配本分から大幅にリニューアルし、書店に1冊当たり、本体800円に対し、80円の報奨金を用意する。それに合わせ、発行部数を従来の倍から5倍、4000書店に増やす。
 新装刊後、「SB新書」は全点が発売7ヵ月後から時限再販に指定し、書店に価格決定を委ねる。
[こちらも『朝日新聞』(12/10)朝刊の一面に「SB新書」8点の広告が出されていたが、報奨金に伴う発行部数と書店数の拡大に見合うプロパガンダであるとわかる。 そのうちの池上彰『日本は本当に戦争する国になるのか?』、堀江貴文『本音で生きる』の初版は各4万部であるという。これだけの宣伝と報奨金、時限再販戦略に見合う売上を確保できるであろうか]
日本は本当に戦争する国になるのか? 本音で生きる
12.講談社の月刊情報誌『クーリエ・ジャポン』は2月25日発売号で紙の刊行を止め、デジタルを基盤とする有料会員サービスへ移行。
 同誌はフランスの週刊誌『クーリエ・アンテルナショナル』と業務提携し、2005年に創刊。
クーリエ・ジャポン
『クーリエ・ジャポン』はいかにもフランス的な特集とエディトリアルの色彩が強く、いつまでたっても日本の雑誌のようにならなかった、めずらしい雑誌のように思われる。それゆえによくぞ10年間も出されたという感慨を覚える]
13.五月書房が破産。同社は1946年創業で、社会科学書を始めとする多くの分野の書籍を刊行していた。
 1995年は年商1億5000万円を計上していたが、2014年は5500万円まで落ちこんでいた。負債は推定3000万円。
[数ヵ月前に閉じたという話が流れていたが、やはり破産してしまったことになる。 五月書房の書籍としてはシュペングラーの『西洋の没落』が懐かしい。なぜならば若い頃に買い求め、何度か試みたが、ついに最後まで読むことができなかった著作であるからだ。
そういえば、現在でも『西洋の没落』は五月書房版しか出ていないのではないだろうか]
西洋の没落
14.『ニューズウィーク日本版』(12/8)に楊海英(静岡大学教授、モンゴル名オーノス・チョクト)の「外国で拉致を働く中国をカネ重視で黙認する国際社会」が掲載されている。
 これはタイバンコク空港から、「4人の犯罪者」が北京へと連行されたことから始まり、彼らが香港の出版人アーハイ(中国名 桂明海)とその仲間たちであると続いている。

 アーハイは北京大学で歴史学を学んだ後、ヨーロッパに渡り、スウェーデン国籍を取得している。そして香港中心街の銅鑼湾で巨流発行公司という出版社兼書店を経営し、主として中国の政界に関する書籍を積極的に刊行してきた。それらは『中国高官夫人たちの秘録』や『上海グループ政治家の女たち』といった世俗的読み物も多く、それが「道徳性の高い偉大な中国共産党のイメージを悪化させた」として北京の逆鱗にふれ、逮捕と拉致に遭った。
これは中国政府の「秘密警察」が第三国タイに越境し、滞在中のスウェーデン国民を拉致したという政治事件の様相を呈している。また香港の出版業界は中国批判書も刊行しているので、世界が危惧していた「香港の良心が奪われる」事態をも招きつつあるとされる。
ニューズウィーク日本版
本連載89で、北京の民営書店「万聖書園」を営む劉蘇里のインタビューを紹介しておいた。香港でアーハイが経営していた出版社兼書店のうちの出版社の紹介はあったが、書店のほうはどのような方針によって営まれていたのであろうか。
日本においても、出版社や書店に携わることが、当局からの拉致や連行の対象にまでならないにしても、このまま時代が進めば、絶えざる監視の対象とされるような社会状況を迎えることになるかもしれない]
15.アルゼンチンの作家セサル・アイラの『文学会議』(柳原孝敦訳、新潮社)を読んでいて、次のような一文に出会った。
 「経済危機が出版業界を直撃し、以前の好景気のツケを払う羽目になった。好景気の時期には供給過多になり、本屋には国産の本が溢れた。ところが消費者の財布が固くなるや、本は最初に買い控えられることになった。当然のことながら出版社は、処分不可能な在庫を大量に抱え込むことになり、できることと言ったらせいぜいが活動の縮小くらい。縮小が過ぎて、私は今年暇になり、将来への不安は募るばかり。」
文学会議
[これは日本の文学状況、出版業界の現況をそのまま語っているようでもあり、何とも身につまされる気がする。
しかしそのような中にあっても、主人公は伝説の財宝を発見して大金持ちとなり、さらに文学会議にも出席し、そこに列席するメキシコの文豪のカルロス・フエンテスクローンを作製し、世界を征服しようとするのだ。
日本に置き換えれば、村上春樹クローンを作り、多くの作品を生産し、出版業界を回復させる試みとでもいおうか]
16.岩永文夫が亡くなった。
 彼は風俗評論家で、『フーゾクの日本史』講談社+α新書)や『フーゾク進化論』平凡社新書)などの著者でもあった。
フーゾクの日本史 フーゾク進化論
[といっても、新聞などに死亡記事が出たわけではないはずなので、ここで挙げてもほとんどの人が知らないであろう。
彼は私の若い頃の友人で、1970年代初頭に、神田のある研究会を共にしていた。そういえば、そこにはこれも亡くなってしまった占い師兼倶楽部小説家の銭天牛もいた。私たちは奇妙な時代を共有していたのである。
しかしその後、岩永とは長い間会うこともなく、再会したのは四十年以上過ぎた一昨年で、彼は末期癌の状態にあった。それでも彼は竹中労の一番弟子だったことから、現代書館から刊行予定の『竹中労著作集』に取り組んでいて、何とか目途をつけるまで生きていたいと話していた。だが病気は悪化したようで、昨年になって連絡がとれなくなり、十二月に訃報が届いた。十一月に亡くなったとあった。『竹中労著作集』の計画は中絶してしまったのかもしれない。
このような場を借り、ご冥福を祈る]
以下次号に続く。

 
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