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2016-12-01 出版状況クロニクル103(2016年11月1日〜11月30日)

[]出版状況クロニクル103(2016年11月1日〜11月30日)

出版状況クロニクル103(2016年11月1日〜11月30日)

16年10月の書籍雑誌の推定販売金額は1079億円で、前年比12.1%減。

書籍は499億円で、同15.1%減、雑誌は579億円で、同9.3%減。

雑誌内訳は月刊誌が464億円で、同8.5%減、週刊誌が115億円で、同12.3%減。

今年最大のマイナスである。

送品稼働日が前年より2日少ないことにもよっているが、出版業界の現在を象徴するようなマイナスだといっていい。

返品率も書籍が41.8%、雑誌が43.2%と、またしても上昇している。

店頭売上は書籍が5%減、雑誌の定期誌はこれも5%減だが、ムックは6%減、コミックは12%減である。

11、12月はどうなるのかという年末状況の中で、16年が暮れていこうとしている。


1.日販の『2016年出版物販売額の実態』が出され、その「販売ルート別出版物推定販売金額2015年度」が『出版ニュース』(11/中)に掲載されている。それを示す。

■販売ルート別推定出版物販売額2015年度
販売ルート推定販売額
(百万円)
構成比
(%)
前年比
(%)
1. 書店ルート1,159,59364.694.6
2. CVSルート190,34110.687.9
3. インターネットルート172,7009.6106.2
4. その他取次経由ルート81,3594.693.3
5. 出版社直販ルート191,16310.695.4
合計1,795,156100.094.9

[15年の「販売ルート別出版物推定販売金額」はこれまでと「販売ルート」分類が異なっているので、まずこれに言及しなければならない。ここにはそのことに関するコメントが付されていないからだ。

これは本クロニクル91を見てくれればわかることだが、これまで「販売ルート」は書店、CVS、インターネット、生協、駅売店、スタンドで構成されていた。しかし15年度は生協、駅売店、スタンドが「その他取次経由ルート」に一本化され、それに新たに「出版社直販ルート」が加わる新しい構成となっている。

念のために付け加えておけば、「インターネットルート」は紙媒体だけの推計。「その他取次経由ルート」は大学生協、駅、スーパー・ドラッグストア等のスタンド店、二次卸を経由した出版販売額。「出版社直販ルート」は出版社が取次を通さず、販売店や読者へ販売した出版販売額である。

そのような新しい販売ルート別15年の出版物推定販売額は、1兆7951億円で、前年比5.1%減ということになる。14年の1兆6099億円、前年比4.4%減は、出版科学研究所の推定販売金額1兆6064億円とほぼ同じであった。15年の後者は1兆5520億円であるので、前年の35億円に対して、2431億円の較差が生じてしまっている。それはひとえに「その他取次経由ルート」と「出版社直販ルート」の導入によっている。とりわけ新たな「出版社直販ルート」の数字はどこからどのようにして加えられたのだろうか。それはマイナスにしても同様である。

前回の本クロニクルで、ニッテンによる2015年の出版社売上額が1兆7922億円だったことを既述しておいたが、15年の「販売ルート別出版物推定販売金額」は出版科学研究所のデータではなく、こちらに合わせていて、所謂ゲタをはかせているという印象を否めない。そこには日販ならではの思惑もこめられているのだろうか]

2.『出版ニュース』同号には1に示したCVSルートの「出版物売上高と扱い比率」も掲載されているので、それも引いておく。

■CVSの「出版物売上高と扱い比率」2015年度
順位企業名年間
総売上高
(億円)
店舗数14年
店舗数
1店舗当
売上高
(百万円)
出版物
扱い比率
(%)
出版物
売上高
(百万円)
1店舗当
出版物
売上高
(百万円)
1セブンイレブン42,91118,57217,491231.11.668,1013.66
2ローソン23,60512,39512,276190.41.740,6263.27
3ファミリーマート20,05610,83410514185.11.733,9443.13
4サークルK・サンクスジャパン9,3675,9915,990156.41.716,0982.68
5ミニストップ3,3632,2212,151151.42.48,1593.67
6デイリーヤマザキ1,8641,5181,533122.83.36,1374.04
7セイコーマート1,8481,1801,168156.61.22,1641.83
8NEWDAYS1,019502508203.03.03,0136.00
 8 社 計104,03353,21351,631195.51.7178,2423.34
 

[ついにコンビニ上位8社の年間総売上高は10兆円を超えた。

しかし出版物売上高は14年の2002億円に対して、15年は1782億円で、前年比11%減となっている。1でもCVSルートは1903億円、同12.1%減とマイナス幅はそれを上回っている。

15年における雑誌のつるべ落としのような凋落が、コンビニを直撃しているとわかる。16年はそれが加速しているわけだから、もはやコンビニで出版物の流通販売がコストに見合うのかが問われることになろう。ガソリンの値上げともなれば、取次は耐えられないだろう。

ちなみに14年はセブン-イレブンが420万、ローソンが380万、ファミリーマートが370万円と、かろうじて日商1万円を保っていたのが、15年はそれを割りこんでしまっている。

ちなみにとは逆で、14年までは「1店舗当出版物売上高」も出していたのに、本クロニクルで言及されることもあってか、15年はそれを外してしまっている。したがって今回の表に示されているのは、本クロニクルによるものである]

3.「岩波ブックセンター」を経営する信山社が破産。負債は1億2700万円。

[前回のクロニクルで、会長の柴田信の急逝を伝えたばかりだが、その1ヵ月後に信山社も破産を余儀なくされたことになる。

これは柴田の信用と看板で、かろうじて岩波ブックセンターも存続してきたことを意味していよう。

その店舗はどうなるのであろうか]

4.『週刊東洋経済』(11/19)に「ドコモの雑誌読み放題『dマガジン』の成功の秘訣」という記事が掲載されている。

 それによれば、雑誌も79誌から168誌に増え、2015年に200万だったユーザーは16年には300万を超え、毎月12億円の売上で、年商は144億円に達するとされる。

 その一方で、出されたばかりの日本ABC協会の16年の上半期の「ABC雑誌販売部数表」(『文化通信』11/21掲載)を見ると、「dマガジン」などの読み放題ユニークユーザー(UU)数は83誌合計で、473万部、15年下半期比64.1%増となっている。そのトップは『FLASH』で、紙の9万部に対し、15万部を超え、同71.6%増、続いて『週刊文春』が紙43万部に対し、13万部に及び、同220%増である。

週刊東洋経済 

[『FLASH』が「dマガジン」で紙の倍近く読まれていることに驚き、あらためて「ABC雑誌販売部数表」を確認してみると、紙を上回っているのは『FLASH』だけではないのである。それらは『SPA!』『MEN`S NON・NO』『Casa BRUTUS』『UOMO』『おとなの週末』『日経ビジネス アソシエ』など全部で18誌に及んでいる。

このような「dマガジン」の成長による紙との部数の逆転は、さらに起きてくると考えられるし、もしユーザーが400万を超えれば、この「ABC雑誌販売部数表」の見取図も様変わりしてしまうかもしれない。またそれが同様に書店に与える影響も含めて。

だが今回意外だったのはデジタル版のほうはもはや成長が止まったようで、最大部数の『日経ビジネス』にしても3万7千部で、次が『日経TRENDY』の6千部で、前者はまだ伸びているが、後者は減少している。

やはり毎月400円で読み放題という「dマガジン」のコンセプトが「成功の秘訣」ということになろうか。

だがそれが雑誌の編集、取次や書店の雑誌の流通や販売に与えていく影響を見極める必要も生じてきたことになる]

5.アマゾンの電子書籍読み放題サービス「キンドル・アンリミテッド」の削除問題に関連するレポートが続いている。それらを挙げてみる。

 『選択』(11月号)の「日本で『独り勝ち』アマゾンの異変」は日本人の広報部門のトップやキンドル事業本部長の退社、シアトル本社から送りこまれた米国人広報、それとパラレルに起きた公取委による立ち入り検査と「キンドル・アンリミテッド」問題に関しての言及である。

 それによれば、アマゾンの削除問題は出版社との信頼関係よりも、シアトル本社の意向を受けたものだとされ、「今回のキンドル・アンリミテッド問題では『出版社優先』というのがお題目に過ぎないことを露呈した」とも述べられている。

 『FACTA』(12月号)の「アマゾン『読み放題』破綻の真相」は『選択』よりも出版社寄りで、講談社、小学館、光文社、朝日新聞出版だけでなく、20の出版社の作品が一方的に削除されたこと、それに対し、アマゾンは説明も謝罪もしていない。それは新しい米国人広報者が日本語を一言もしゃべれず、まったく対応できないことにあるとされている。また『選択』での二人の他にも日本人法務スペシャリストの退社、さらに書籍事業本部担当のバイスプレジデントの退社も噂されているという。これらの一連の出来事を「シアトルの再植民地化」と結論づけている。

 『週刊東洋経済』(11/19)にも「アマゾン読み放題なおも続く全削除」が掲載されているが、これは先の2つの記事と重なるので言及しない。

 また『週刊エコノミスト』(12/6)の「出版の未来」特集も、ほとんどが電子書籍の側からの一方的言説なので、これも同様である。

アマゾンの売上は1兆円に迫り、出版物に関しても2千億円を超えたとも伝えられている。また昨年からアマゾンと直取引を開始したKADOKAWAの販売冊数が3割に達したという話も聞こえてくる。

しかし出版物売上に限っていえば、近年の雑誌の凋落に見られるように、アマゾンですらもピークアウトし始めているのではないかという推測も成り立つであろう。コンビニにおける雑誌売上の凋落とも関連するけれど、ピークアウト後のアマゾンにおける出版物対応はどうなるのか、「キンドル・アンリミテッド」の一方的な削除問題と同様のことが起きてくるかもしれない。

それは出版社のみならず、取次との関係にしても同じことが考えられる。しかし最も問題なのはそうしたアマゾン絡みの取引に関して、リスクヘッジをかける戦略も余裕も、現在の出版業界からは失われてしまっていることだろう]

6.日本電子図書館サービス(JDLS)はDNPと同グループのTRCと資本提携し、JDLSの第三者割当増資の1000万円をDNP、1億1000万円をTRCが引き受けた。

 JDLSは2013年に紀伊國屋書店講談社KADOKAWAの3社によって設立され、今回の割当増資でDNPグループと3社は、それぞれ25%の出資比率となった。

 JDLSは電子図書館サービス「LibrariE(ライブラリエ)」を展開している。DNPはTRCと丸善雄松同のグループ会社2社と共同で電子図書館システム、及び日本ユニシスとのクラウド電子図書館サービスを提供し、現在は50の公共、大学図書館で利用されている。

 今回の資本提携で、DNPグループは取扱いタイトル数が合わせて4万点となり、中高図書館への電子図書館システムの導入を進めていく。そして18年には累計8万タイトルの販売と200自治体での電子図書館サービスの導入を見込んでいる。

[この資本提携の狙いはコンテンツを増やすことによって、TRCを通じての公共図書館や中高図書館への電子書籍の拡販にあると考えられる。しかし雑誌のデジタル版の伸び悩みを見たばかりであり、電子書籍が図書館市場において浸透していくかは難しいし、それこそこの提携がそのことを告げているのではないだろうか。

電子出版制作・流通協議会の『電子図書館電子書籍貸出サービス調査報告2016』によれば、電子書籍貸出サービスを実施する図書館は53館でしかない。その導入が進んでいない理由として、コンテンツの価格と少なさ、予算の確保、電子書籍貸出サービスの実施に対する知識の欠如、電子書籍サービスの継承に対する不安などが挙げられている。

それはもっともで、これは電子書籍とは関係ないけれど、どの図書館も相当量のVHSビデオを抱え、ほとんどがデッドストックになってしまったことを目の当たりにしているからであろう。DVDやブルーレイに移行することで、ハードその物がなくなってしまい、貸出も途絶えてしまっていると思われる。

例えばこのようなJDLSとDNPグループの提携のかたわらで、トーハンが12年に始めた書店店頭での電子書籍販売システム「c-shelf」の停止を発表しているもいる。トーハンは新たな電子書籍店頭販売システムの仕組みを検討しているとの言だが、これで打ち止めと考えるべきだろう]

7.書協の文芸小委員会が、全国2600の公共図書館の館長宛に文芸書などの購入や寄贈に対する要望書を送付。

 「出版界からの声と住民との要望のバランスに配慮され、文芸書・文庫本の購入や寄贈に、格段のご配慮を」というものである。

『出版状況クロニクル4』で、15年11月における新潮社佐藤信隆社長の公共図書館に対して、新刊本の1年間の貸出猶予を求める要望書を出すとの発言を紹介しておいたが、それが今回の要望書となったのであろう。

しかし一方で、新潮社は画期的労作と呼んでいい梯久美子『狂うひと』を刊行したばかりである。これは島尾敏雄『死の棘』の謎に肉迫した作品で、戦後文学のコアすらもえぐっているように思える。それは同時代の他の文学者たちの問題へともつながっているのではないだろうか。

それはともかく、この新刊は定価が3000円であることからすれば、初版部数は少なく、書店への配本も同様だった推測できる。だがこのような1冊こそ全国の2600の公共図書館は購入すべきであり、そのことによって広く読まれ、新潮文庫『死の棘』も新たなベストセラーとなり、それが島尾文学ルネサンスに繋がっていくことを夢想してみる。もちろんそんなことはありえないにしても、このような要望書を出すより、そうした図書館における一冊の本と読者の出会いを考えたほうが楽しいし、図書館の現場に対しても訴求力があると信じたい。

書協の文芸小委員会なるものが、どのようなメンバーによって構成されているか知らないけれど、図書館の現場を考えれば、このような要望書が単なるパフォーマンスでしかないことは自明のように思える]

狂うひと 死の棘

8.雑協は取協とコラボレーションし、初めての「12月31日特別発売日」を設定し、雑誌129誌、書籍40点、部数にして雑誌700万部、書籍100万部を書店とコンビニで全国一斉発売する。

[『新文化』(11/17)にその「発売予定タイトルの一部(雑誌扱い)」として、70誌の一覧が掲載されている。だが雑協の「雑誌価値再生委員会」がいうところのすべてが「特別版」で、「家族全員で書店に行った時に、誰もが欲しいものに出会えるタイトルが揃った」企画だとは思われない。

また「特別発売日」のベースにある「子どもたちもお年玉をもらってお金を使いたくて仕方ない。そんな時に書店で買える新刊がない]という発想自体がアナクロニズムではないのか。現在はドラえもんの時代ではないのだ。

それに書店は1万4千店を割り、もはや近くに書店もないこともめずらしくない。ところがコンビニは5万店を超えていることからすれば、書店よりもコンビニのための「特別発売日」となってしまうのではないだろうか。

単価500円で800万部、消化率60%でも24億円の市場を創出といっているのだから、「雑誌価値再生委員会」はその結果報告を義務とすべきだ]

9.創文社の『季刊創文』(第23号/秋)が届き、本号で終刊となること、2017年3月まで新刊書籍を刊行し、その後、20年まで書籍販売を継続し、同年で解散することが述べられ、そこに至る経緯と事情も記されているので、それを引いておく。

   弊社は、一九五一年(昭和二六年)に産声を上げ、爾来七〇年弱、創業者久保井理津男の「良書は一人歩きする」という強い信念のもと、人文社会科学の専門書出版社として「出版の王道」を歩んでまいりました。
しかし時代は変わり、日本経済の長引く停滞、および大学予算の縮小化に伴う大学図書館への販売の低迷、さらには学術論文、博士論文の電子化・オンライン化という事態にさらされ、
紙媒体専門の学術書専門出版社の経営は、大きな打撃を被ることとなりました。

 日本文化の一役を担う出版社の経営は、一般企業の経営とは明らかに異なる「こころざし」をもって当たらねばなりません。しかし、だからと言って社会の成員としての責任を免れるものではございません。

 これまで、創文社の出版活動をご支持下さってきた、著者の先生方、および取引業者の方々に、経済的なご迷惑をおかけしないために、この度の決断と相成りました。  

本クロニクル99で、創文社の解散は既述しておいたが、このような知らせを実際に目にすると、近年の人文科学専門書出版社の苦境がリアルに迫ってくる。

同号には稲垣良典の「創文社、『神学大全』と久保井さん」が掲載され、1960年が始まり、2011年に全訳にこぎつけたトマス・アクィナス『神学大全』翻訳の長い歩みが語られている。これはまさに創文社としての「出版の王道」を伝えるもので、ぜひ読んでほしいと思う。

先日久しぶりに早稲田の古本屋街を歩いたのだが、営業している店は少なく、その閑散とした光景にショックを受けた。確実にひとつの時代が終わろうとしているのだろうし、創文社の解散や信山社の破産もそれとリンクしていることになろう]

 神学大全 

10.雑誌『旅と鉄道』『SINRA』を発刊する天夢人がインプレスホールディングスに株式を売却し、グループ傘下に入る。

 同社は正社員12人で、年商3億4千万円の黒字経営。

旅と鉄道 SINRA 山と渓谷

[前回の本クロニクルでも、コミックやライトノベル一迅社講談社傘下入りを伝えたばかりだが、天夢人もまたこのような出版状況下において、雑誌の販路拡大のためのデジタル事業のノウハウと財源もないこと、後継者も決まっていないことからの判断だとされる。それから『旅と鉄道』朝日新聞出版『SINRA』新潮社を発売所としていたので、統合する必要にも迫られていたのだろう。

インプレスHDのほうも、06年の山と渓谷社のM&A以後、グループ拡大をしてこなかったが、山と渓谷社とコラボするかたちで、外部成長をめざすとされる。確かに『山と渓谷』『旅と鉄道』『SINRA』の組み合わせは悪くないように映る。

書店が取次によってM&Aされているように、中小出版社もサバイバルの方策として、大手グループとの連携に迫られる状況を浮かび上がらせている。だが書店と比べて、出版社のほうはM&Aが水面下で推進されているケースも多いと思われるので、実際には毎月のように起きているのかもしれない]

11.静山社の「ハリ・ポタ」シリーズ第8巻『ハリー・ポッターと呪いの子 第一部第二部特別リハーサル版』1800円が初版部数80万部で11月11日に発売され、14日に20万部の重版が決まり、100万部に達する。

ハリー・ポッターと呪いの子 火花

[これにはよくわからない印象がつきまとう。4巻から8巻までは買切だったのに、どうして返品リスクのある委託に戻したのか。

8年4ヵ月ぶりの新刊だったこと、またこれまでと異なり、四六軽装版で、内容もそれに通じるものがあったにしても、買切から委託へと移行したこととそのままつながっているようにも思えない。考えられるとすれば、版権取得にまつわる契約条件にあると見なすしかない。

事前注文が60万部あったとされるが、このようなベストセラー化には返品がつきもので、20%でも20万部の返品となり、それはそのまま重版分である。ブックオフには現在でも「ハリ・ポタシリーズ」をよく見かけるし、それは明らかに売れ残りの新刊だとわかる。7巻は200万部売れたとされるが、実売はどうだったのだろうか。

再販委託制下に加えて、現在の書店市場から考えれば、ベストセラーの背後にある返品はかつてよりも高くなっているはずで、文春の『火花』にしても返品はどうなったのか。静山社がそのような轍を踏まないことを祈る]

12.10月27日にオープンしたジュンク堂書店柏モディ店の売上高が『文化通信』(11/7)で報告されているので、それを示す。

 初日187万円、28日143万円、29日214万円、30日198万円、31日124万円である。ジュンク堂側はまずまずの出足とし、売上目標は月商4000万円とされる。

[柏モディ店は千葉県柏市の同エリア最大級の売場面積500坪だという。坪当たり在庫100万円とすれば、5億円の在庫と見なせるが、月商目標からすると、年商4億8000万円で、商品回転率はかろうじて1回転にすぎない。少なくとも在庫の3回転が必要なのは書店や取次関係者であれば、よくわかっているはずだ。

もちろん旧マルイ館のリニューアル物件なので家賃も安く、在庫も圧縮しているにしても、単店で利益が出せる売上だとはとても思われない。

それはジュンク堂だけでなく。どの大型店のオープンにもつきまとっている疑問でもある]

13.出版協から頼まれたこともあり、これまで断わってきた講演を11月4日に試みてきた。『図書新聞』からのオファーも出されたが、要約する必要もあったので、ここにその前半の部分だけを提出しておくことにする。

 講演の前半の基本チャートを示す。

■出版物をめぐる世界
(三)出版
―出版物に関する様々な読者、作者、研究者、
ジャーナリズムなどが、織り成すイメージ
作品
(二)出版業(界)
―社会経済大系としての出版社・取次・書店
商品
(一)出版史
―自然過程としての歴史
作品と商品

[出版物をめぐる世界は、上のような三層構造と関係によって形成されているとみなせます。

これをさらに補足しますと、(一)は作品と商品、(二)は商品、(三)は作品という概念をコアにして成り立ち、日本だけでなく、欧米でも共通する構造と関係だと考えられます。

ここから日本だけの特質を抽出してみます。(一)からは現在が明治以来の3度目の大転換期にあることがわかります。その兆候は出版物の価値の暴落として表われているからです。

1度目は明治初期で、近代を迎えることによって、近世の和書に代表される出版物は二束三文となり、古典類も見向きもされず、たきつけや襖の芯に使われたといいます。

2度目は敗戦時で、これもまた戦前、戦争下の出版物は捨て値同然となり、古書業界でも所謂つぶしの対象になったとされます。

3度目はいうまでもなく現在に他ならず、最近の古書目録で見た例を挙げてみます。それは筑摩書房『明治文学全集』全百巻が3万円、講談社『日本近代文学大事典』全六巻が二千円というもので、これには本当に唖然とする思いでした。これらは私が最もよく参照しているもので、特に前者は日本の全集の金字塔といえるでしょうし、これが出版されていなければ、私たちの世代にとって、明治文化そのものを全体としてイメージすることが困難だったと考えられます。

このことを親しい古本屋に話しましたら、そうした古書価であっても買い求める読者は少ないし、これらの全集の所有者の高齢化を考えれば、まだ次々と古書市場に出てくるであろうし、下げ止まることはないという返事が戻ってきました。この事実は出版社の在庫がもはやデッドストック化していることを意味しています。これらが(一)からたどられた3度目の危機の実態です。

次に(二)から見てみます。日本の出版社・取次・書店という近代出版流通システムは雑誌をベースとして、書籍が相乗りするかたちで形成され、成長してきました。戦後の再販委託制下にあって、その流通販売を支えるためには2万店以上の書店が不可欠でしたが、現在は1万4千店を割っているはずで、完全に生産、流通、販売のバランスが崩壊してしまったといっても過言ではない状況に追いやられています。その原因のひとつは1980年以後の書店のバブル出店、複合店、大型店化に求められるでしょう。90年代後半の出版危機の始まりはその帰結であり、中小書店を退場させることになったわけです。

(一)と関連づけて考えれば、1度目は近世出版システム、2度目は国策取次の日配解体に伴う戦中出版システム、3度目は再販委託制による戦後出版システムの危機で、いずれも共通するのはそれらが出版業界全体の危機として表出していることです。その中でも最大の危機は現在にあることを否定できないと思います。

これは(二)のポジションのどこにいるのかによって把握するのが難しいのですが、基本的に再販委託制は出版物販売が常に上昇していくことを前提とするものです。そのメカニズムは出版物が商品であると同時に、金融を兼ねるものとして流通しているからです。そのために(二)においては、出版物が商品と換金機能の双方を有することになるのです。1980年以前の出店、閉店がほとんどなく、売上が伸びていた時代には出版物の送品に伴う先払い、後払いの再販委託制のバランスシシートが保たれていましたが、今世紀に入ってからはもはやそれが機能不全に陥ってしまったことは明白です。

そうした例として、取次の大手出版社への支払い条件、同じく大手書店への出店に対しての開店口座条件を挙げることができるでしょう。しかし出版業界のすべてに危機が露出し、販売額がドラスチックに減少していく中にあって、もはやそれに象徴される再販委託制は破綻していると見なすしかないのです。

このように(一)と(二)からたどることができるのは、紛れもない出版危機に他ならず、それが日本特有の出版史と出版業界システムから生じるものであることがわかるでしょう。それゆえに欧米と比べて日本だけが出版危機に追いやられてしまったのです。

またここで留意して頂きたいのは、「出版状況クロニクル」が(一)の歴史に基づき、(二)の社会経済大系の現在状況に対する正確な分析を目的としていることです。それに関して(三)からは日本の特質として、書籍、雑誌、コミックからの形成を指摘できます。ただ「出版状況クロニクル」において、(三)の共同幻想としての出版は完全に切り離すことはできないにしても、棚上げしているといっていいでしょう。

それゆえに(三)については「出版状況クロニクル」とは別に、やはり(一)と(二)をふまえて、トータルな出版の歴史をたどるつもりで、ブログ「古本夜話」として書き継がれています。これは伊藤整の『日本文壇史』と、山口昌男の晩年の『「敗者」の精神史』などの近代歴史人類学三部作を、出版を通じてリンクさせる試みとして、すでに連載600回を超えています。

しかしほとんどの出版、編集、書店に関する本や雑誌の特集などは(一)をまったく理解する努力を傾けず、捨象し、手前勝手に(二)と(三)を混同して論じているために、現在の出版危機の根幹にある問題とずれてしまう考現学もどきのものだと見なすしかありません。「出版不況」という言葉もこのようなところから発せられています。またそうした視点から企画される様々なイベントやプロジェクトなどにしても、出版状況をミスリードするもの、もしくは疑似イベントと考えるべきでしょう。

このような機会ですので、もう少し「出版状況クロニクル」についての自己解説もどきを付け加えておきます。毎月、本クロニクルを記すにあたって、いつも念頭に置いているのは、イタリアの歴史家カルロ・ギンズブルグの『裁判官と歴史家』(上村忠男、堤康徳訳、平凡社、1992年/ちくま学芸文庫、2012年)という一冊であります。

ギンズブルグは同書において、長年の友人を主犯とする明らかな冤罪事件に対し、歴史家として裁判記録を丹念に読み、事件の経緯を詳細にトレースしていきます。そしてその事件にまつわる証言、証拠、記録を検討しながら、裁判官歴史家の関係の位相を浮かび上がらせることになります。それは裁判と裁判官を批判する歴史家をも意味しています。

私も1990年代後半から現在にかけてのほぼ20年間にわたって、同時代の出版状況をトレースして記録し、それらの「出版状況クロニクル」は7冊、その一方でオーラルヒストリーである「出版人に聞く」シリーズは20冊に及んでいます。そうした事実をふまえれば、私はギンズブルグのような優れた研究者の足元にも及ばないけれど、市井の「歴史家」と称することは許されるであろうと思われます。そして出版状況、様々な言説、発言への批判も、そこから発せられていることを、ここで伝えておきます]

日本文壇史 「敗者」の精神史 f:id:OdaMitsuo:20161126112951j:image:h110 裁判官と歴史家 出版社と書店はいかにして消えていくか ブックオフと出版業界 出版業界の危機と社会構造

14.「出版人に聞く」シリーズ番外編の鈴木宏書肆風の薔薇から水声社へ』の刊行は遅れてしまい、17年1月にずれこんでしまった。

 今月の論創社HP掲載「本を読む」10は「清水俊二、吉川英治、吉川晋」です。

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