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2017-04-01 出版状況クロニクル107(2017年3月1日〜3月31日)

[]出版状況クロニクル107(2017年3月1日〜3月31日)

17年2月の書籍雑誌の推定販売金額は1398億円で、前年比5.2%減。前年は閏年で1日多かったこともあり、0.1%減だった。

書籍は827億円で、同1.9%減、雑誌は570億円で、同9.6%減。

雑誌の内訳は月刊誌が471億円で、同7.3%減、週刊誌は286億円で、同19.9%減。

返品率は書籍が31.0%、雑誌が40.9%。

村上春樹『騎士団長殺し』の2冊の130万部の搬入もあり、書籍マイナスは小幅なものになったが、これもその反動が起きなければいいが。『職業としての小説家』の場合、文庫よりも安い特価本が出回っている。

複数の書店からの証言によれば、『騎士団長殺し』はかつての売れ行きの半分ほどで、3日で止まってしまったという。確かに現在でも多くの書店で平積みされたままである。それはやはり本クロニクル103でもふれておいた、100万部を搬入した『ハリー・ポッターと呪いの子 第一部第二部特別リハーサル版』と同様のパターンを反復しているのかもしれない。

今回の本クロニクルは、このような日本の状況と異なるイギリスのことから始めてみよう。

騎士団長殺し職業としての小説家パサージュ論


1.『出版ニュース』(2/下)の笹本史子「海外出版レポート・イギリス―ウォーターストーンズの復活」は次のように始まっている。

  「2016年は書籍の売上が2年続けて前年比を上回り、明るいムードに包まれる年明けのイギリス出版界にまさに市場が上向いていることを証明するような良いニュースが流れた」。

 それは国内の最大の書店チェーンで、207店舗を展開するウォーターストーンズの売上高が4億910万ポンド、前年比4%増となり、経常利益が前年の赤字から990万ポンドの黒字に転じたことをさしている。その経緯と事情を要約してみる。

新しい代表取締役として招かれたジェームス・ドーントは数々の経営改革を遂行し、スーパーマーケットの安売り攻勢、オンライン書店の台頭、電子書籍の出現といった市場の変化に苦しむ書店業界にあって、ひとり気を吐いてきた。

それは電子書籍市場が伸び悩む中で、よりよい書籍環境を読者に提供する努力を続けてきたことが功を奏したのであり、読者は「知識とサービスを求めて我々の店にやってくるのだ」し、そうした「書店の力」によって、「通常ならそこそこの売上に終わってしまったであろう名作をベストセラーに押し上げること」を可能にした。

それらの例として、独立系の中堅出版社の歴史小説、同じく児童書出版社の児童書などが挙げられ、本や読者のことがよくわかっている書店ならではの出版社とのコラボレーションが語られている。

かつてのどん底ともいえる時代からの業績回復の背景にあるのは、それらに加えて、経営戦略における選択と集中、徹底したコスト管理が利益率の改善に結びついている。ここ数年は新規店舗をオープンし、既存店舗の改装に投資する一方で、不採算店は次々に閉店した。また流通ハブ施設も改善し、翌日発送可能タイトルを3千から2万へと増加させ、返品率を15%から2〜3%に下げることに成功した。

書籍以外の取扱商品が増えたことも売上の向上に貢献し、現在12%を占めているが、それは15%まで引き上げる計画ではあるけれど、ウォーターストーンズはあくまで書店で、本を中心とする方針に変わりはない。書籍以外の商品は書店を魅力的に見せるための付加的要素に過ぎない。

電子書籍はもはや未練がないし、自社のオンライン書店における電子書籍販売は昨年5月で終了させた。

ドーントの次なる目標はさらに売上を伸ばし、利益率を上げ、従業員に賃金の引き上げというかたちで還元することにある。

 かくしてレポートは、これも次のように結ばれている。

 「本を愛する人々が訪れ、時間を過ごす場所としての書店の魅力を向上させること、そしてその心に訴える品揃えをしてゆくこと、こういった書店の基本に立ち戻った方針があってこそ、経営改革は効果を上げることができたのだろう」と。

[いささか綺麗事が並んでいるとの印象も受けるが、ウォーターストーンズが本来の書店の姿に戻り、売上を伸ばしている現在がレポートされていることになる。もちろんそれはライバル店が次々と退場し、競合相手がなくなり、アマゾンのみをそれとするウォーターストーンズだけが可能であるにしても、ポスト電子書籍の書店市場の在り方を示唆しているはずだ。

また『出版ニュース』同号の小山猛「同アメリカ―紙の書籍売り上げは前年比3.3%増」は、大きなベストセラーがあったわけではないが、ハードカバー5.4%増、ペーパーバック4%増などをレポートしている。

これらの、日本とまったく異なる海外出版売上状況に関しては本クロニクル97でも取り上げているように、後にもう一度言及することになろう]

2.『出版月報』(2月号)が特集「紙&電子コミック市場2016」を組んでいる。

 そのうちの「コミック市場全体(紙版&電子)販売金額推移」と「コミックス・コミック紙推定販売金額」を示す。

■コミック市場全体(紙版&電子)販売金額推移(単位:億円)
電子合計
コミックスコミック誌小計コミックスコミック誌小計
20142,2561,3133,56988258874,456
20152,1021,1663,2681,149201,1694,437
20161,9471,0162,9631,460311,4914,454
前年比(%)92.687.190.7127.1155.0127.5100.4


■コミックス・コミック誌の推定販売金額 (単位:億円)
コミックス前年比コミック誌前年比コミックス
コミック誌合計
前年比出版総売上に
占めるコミックの
シェア(%)
19972,421▲4.5%3,279▲1.0%5,700▲2.5%21.6%
19982,4732.1%3,207▲2.2%5,680▲0.4%22.3%
19992,302▲7.0%3,041▲5.2%5,343▲5.9%21.8%
20002,3723.0%2,861▲5.9%5,233▲2.1%21.8%
20012,4804.6%2,837▲0.8%5,3171.6%22.9%
20022,4820.1%2,748▲3.1%5,230▲1.6%22.6%
20032,5492.7%2,611▲5.0%5,160▲1.3%23.2%
20042,498▲2.0%2,549▲2.4%5,047▲2.2%22.5%
20052,6024.2%2,421▲5.0%5,023▲0.5%22.8%
20062,533▲2.7%2,277▲5.9%4,810▲4.2%22.4%
20072,495▲1.5%2,204▲3.2%4,699▲2.3%22.5%
20082,372▲4.9%2,111▲4.2%4,483▲4.6%22.2%
20092,274▲4.1%1,913▲9.4%4,187▲6.6%21.6%
20102,3151.8%1,776▲7.2%4,091▲2.3%21.8%
20112,253▲2.7%1,650▲7.1%3,903▲4.6%21.6%
20122,202▲2.3%1,564▲5.2%3,766▲3.5%21.6%
20132,2311.3%1,438▲8.0%3,669▲2.6%21.8%
20142,2561.1%1,313▲8.7%3,569▲2.7%22.2%
20152,102▲6.8%1,166▲11.2%3,268▲8.4%21.5%
20161,947▲7.4%1,016▲12.9%2,963▲9.3%20.1%

 16年のコミック市場全体の販売金額は4454億円で、前年比0.4%増となった。その内訳は紙が2963億円で同9.3%減、電子コミックが1491億円で、同27.5%増。

[この3年間のコミック市場全体の販売金額はほぼ横ばいといっていいが、その内訳は紙が落ちこむ一方で、電子が成長することによって、それが保たれたことになる。

しかし紙のコミック全体の販売金額の落ちこみはとどまることなく、3000億円を割り、32年前の1984年の売上に戻ってしまった。しかもコミックスも2000億円を割り、最大の落ちこみで7.4%減、コミック誌もかろうじて1000億円を下回らなかったものの、1016億円、12.9%減と2年続きの二ケタ減である。結局のところ、コミック誌は1990年代の3分の1の販売金額になってしまい、コミックスを合わせても、その時期の売上に及ばないという事態に陥ってしまった。

しかもそれが深刻なのは、電子コミックの成長に比べ、電子コミック誌は3%ほどのシェアを占めているだけなので、このコミック誌市場から読者が急速に減少していることを意味している。すなわちかつてであれば、電車の中でコミック誌を読む光景がよく見られたが、現在ではスマホを見る姿が圧倒的になっていることに示されていよう。

それを反映して、コミックス新刊点数は1万2000点台で変わらずに推移しているが、コミック誌発行部数は2007年の10億冊に対し、16年は5億冊となり、半減している。さらに返品率は40%に達している。これは雑誌全体についてもいえることだが、書店数が半減してしまったこととパラレルであろう。

それから17年には紙コミックスと電子コミックスが逆転すると予測されているけれど、フリーで見られる中国のサイトなどのものも加えれば、すでに逆転していると見なしていいかもしれない。

日本の雑誌、コミック、書籍という出版市場からすれば、 におけるイギリスやアメリカの売上の回復が、日本では望めないことが否応なく認識されるのである]

3.本クロニクル104で既述した名古屋の栄進堂書店の破産管財人弁護士から3月1日付で出版社に向けて、次のような照会状が出されている。その5つの要点を示す。

本件図書(破産会社の在庫図書)は「いわゆる委託販売によるものではなく、通常の売買契約によって破産会社に売り渡されたものと思料され」る。

本件図書の所有権は売買契約によって売り渡された買主に移転するという大正2年の判例に基づき、「代金支払いの有無を問わず、売り渡された本件図書の所有権は破産会社に存します」。

上記の次第により、本件図書所有権は破産会社にあり、その処分権は破産管財人に存する。

そこで破産管財人としては本件図書を売却して債権者への配当の原資としたいので、出版社に定価から減額した金額で売却したい。

3月10日までに応諾のファックス、入金が到着しない場合には定価20%で一般買主を募るか、ブックオフや古書店に一括して売却することにする。


[これは業界紙でも報道されていないので、その後の経緯などは詳らかではない。ただこの照会状に応諾した出版社はないと思われる。

しかしこの「本件図書」問題は、書店在庫が書店に属するか、取次に属するかに関してスポットを当てたことで、これからの書店の破産に適用されれば、「本件図書」の所有権は破産会社にあるということになろう。

この問題は中村文孝の『リブロが本屋であったころ』を参照してほしいが、取次・書店間の取引契約書には、委託品ゆえに所有権は取次にあると記されているけれど、その後、法的に所有権は書店にあることが明らかになっている。

それもあって、以前は取次が、倒産した書店にトラックで乗りつけ、回収していたが、裁判所の許可なく雑誌ですらも引き上げられなくなっていた。栗田が危機に陥った青山ブックセンターの在庫を引き上げたのは、まだ破産に至ってない段階の処置だったので、それが法的に可能だったのであろう。

つまり出版物の再販委託制は、書店在庫の所有権が取次にあることを前提として支えられていたのだが、それがもはや法的に成立しない事実を、栄進堂の自己破産は明らかにしてしまったのである。

この問題についてはまだ多くのことが論じられなければならないし、どのような決着を見るのかも注視しなければならない。しかし例によって、肝心な問題は報道もされないし、その内実も伝わってこない。

もし何百億円もの在庫を持つナショナルチェーンが自己破産したら、その所有権は破産会社にあり、その処分権も破産管財人に存することになり、栄進堂のようなケースが出来するかもしれない。

そうなれば、取次が窮地に追いやられることは明白であり、再販委託制に基づく出版社・取次・書店という近代出版流通システムは破綻してしまうであろう]

リブロが本屋であったころ

4.これも本クロニクル103で既述しているが、3の栄進堂とほぼ同時期に自己破産した岩波ブックセンター=信山社の債権届出額が8575万円となる。

[当初は負債が1億2700万円、個人資産への抵当権の問題も伝えられていた。負債の減少は売掛金の回収、及び在庫を取次へと返品したことによっている。営業譲渡も試みられたが、2010年から連続赤字を計上していたために、断念するしかなかったようだ。

信山社の場合は従来と同様に、取次への在庫の返品、売掛金の圧縮という処理に従ったことになる。それは信山社が単独店でチェーン店ではなかったこと。そのために負債額が少なかったことによっているのだろう。ただ信山社のような立地と規模においてすらも、赤字営業によって1億円近い負債が生じたことにあらためて驚いてしまうのであるが。

しかし今後の書店の破産は信山社のようにシンプルな処理ではなく、太洋社も道連れにした芳林堂の対応、栄進堂のような様々な手法が導入され、より複雑化していくと思われる]

5.CCCが子会社のカルチュア・エンタテイメントを通じて、徳間書店を子会社化。

 議決権ベースで徳間書店の株式97%を取得したとされるが、追加出資額は明らかにされていない。

『出版状況クロニクル4』でも、CCCメディアハウスによる『ニューズウィーク日本版』や『Pen』を発行する阪急コミュニケーションズ、及び美術出版社の買収や子会社化を伝えてきた。

だがそれらと異なり、今回は資本提携から踏み出した初めての総合出版社の買収であり、そのような例は読売新聞社による中央公論社、投資会社シークエッジグループによる実業之日本社の買収に続くものだ。実業之日本社買収は本クロニクル97で既報。

しかしCCCが読売新聞社以上に総合出版社経営のノウハウを有しているはずもなく、一時的な「囲い込み」と見なしておくほうが妥当であろう。

徳間書店のほうにしても、そこまで経営が苦しくなり、CCCの資本力にたよる結果に至ったのだから、創業者の徳間康快を見習い、彼が平和相互銀行と寄り添うことで、徳間書店を成長させてきたように、CCCを利用して再起することをめざすべきではないだろうか]

6.5のCCCに関連する動向として、『キネマ旬報』(3/下)が「2016年映画業界総決算」特別号として、「データが語る2016年映画界」で、森井充「パッケージ概況」、四方田浩一「動画配信概況」が報告されている。

 「パッケージ概況」によれば、16年のDVD、ブルーレイ(BD)などの映像パッケージソフト市場のメーカー出荷売上は、2044億円、前年比6.2%減、金額にして136億円のマイナス。12年連続の前年割れで、この間に1700億円減となり、54.5%規模へと縮小している。内訳はセル用が1529億円、同6%減、レンタル店向け489億円、同9.8%減で、こちらも双方のマイナスは3年連続。レンタルマーケットの落ちこみも止まらず、08年に1000億円を割って以来、一度も前年を上回ることなく、ピーク時の04年の4割強まで縮小してしまった。16年末でのレンタル店は3054店で、こちらも1年で83店が減少している。それゆえに映像パッケージ市場及びレンタルマーケットとも苦境にあり、さらなる市場縮小が待っている。

 「動画配信概況」によれば、ネットフリックスとアマゾンプライム・ビデオのj二つの見放題サービスは、思いのほか急速に伸びていない。それでも16年には広告モデルの無料インターネットテレビ局アベマティービー、Jリーグ全試合の放映権を得たダゾーンがサービスを開始している。今後の動画配信市場は地上波テレビ放送との競合や融合が進み、巨大な市場が構築されるか否かの時期に入り、17年はそうした将来像が見え始める年になるとされる。

[前回の本クロニクルなどでも繰り返し述べてきたように、CCC=TSUTAYAはレンタルとフランチャイズシステムをコアとするもので、出版物のマーチャンダイジングを確立しないままに拡大し、それを日販とMPDが支えてきたのである。

しかしここまで映像ソフトパッケージ市場とレンタルマーケットが縮小し、動画配信市場も様々に構築されようとしているわけだから、CCC=TSUTAYAへの影響も大なるはずで、図らずも、こちらもコミック市場ではないけれど、スマホがもたらした社会と生活変化の直撃を受け、それはいうまでもなく、フランチャイズチェーンにも大きな影響を及ぼしていよう。

それに加えて、レンタルの次に柱とする雑誌の凋落はもはや深刻な事態を招来しているとも推測される。そうした中での徳間書店買収が起きているのである]

キネマ旬報

7.日販の吉川英作副社長が代表取締役に就任。

代表取締役が社長と副社長の二人体制となったのは日販で初めてのことだし、大手取次にあっても前例はないはずだ。

日販とCCCによるMPDの立ち上げは『出版業界の危機と社会構造』で既述しているが、その初代社長を務めたのは吉川であることからすれば、今回の彼の代表取締役就任が、MPDとCCC=TSUTAYA問題にあることは明らかだ。

その一方でCCCは千葉県柏市に「柏の葉蔦屋書店」(柏の葉T-SITE)を開店。2階建の総売り場面積は1700坪、在庫は15万冊で、カフェ用として548席を備えたブックカフェスタイル。

またTSUTAYAは名古屋のアピタ新守山店に中古書、新刊の併売、及びテナントを入れた新業態店舗「草叢BOOKS」を1250坪で開店している。

これらは従来の雑誌、書籍、レンタルという業態から、パルコ的テナントプロジェクトへの移行の試みであろうが、その先行例の代官山蔦屋蔦屋家電にしても、利益を上げていないとされている。

だがこれらのプロジェクトにしても、日販とMPDの支えを抜きにしては成立せず、前回の本クロニクルでも見たように、17年もまた大型店出店の大半はCCC=TSUTAYAで占められるであろう。そのことによって、日販、MPD, CCC=TSUTAYAはどのような行方をたどることになるのであろうか。

そのかたわらで、CCC=TSUTAYA店舗のリストラも始まるはずで、吉川の代表取締役就任はそのことを告げているようにも思われる]

出版業界の危機と社会構造

8.日販グループ会社のプラスメディアコーポレーション、すばる、MeLTSの3社は合併し、プラスへと承継。

 プラスメディアコーポレーションはブックオフの子会社としてTSUTAYA 33店舗を運営していたが、14年に日販が子会社化し、31店を引き継いでいた。すばるはTSUTAYA加盟店の運営や図書館業務の請負、MeLTSはTSUTAYA 5店、蔦屋書店1店を運営している。


9.トーハンのグループ会社あおい書店は4月1日付で19店舗を、やはりグループ書店のブックファースト、スーパーブックス、らくだに事業移管する。

 ブックファーストは42店から48店、スーパーブックスは35店から39店、らくだは7店から16店となる。


10.大垣書店が尼崎市の三和書房、札幌市のなにわ書房と業務提携し、両者の教科書を除く仕入れを大垣書店に一本化。

 これに伴い、三和書房となにわ書房は大垣書店のフランチャイズとなり、店舗番線は支店というかたちで運営されることになる。

でもふれた日販のTSUTAYA店舗のリストラに備えた動きであろうし、 はトーハンの書店尾「囲い込み」のその後の動向ということになろう。いずれにしても、日販やトーハンの傘下書店が、リストラと再編成に向かわざるをえない状況を示している。

10 はいずれも新風会の会員で、大垣書店がその会長であることから、これもまたとりあえず大垣書店が「囲い込み」したことになろう。

しかしこれらのリストラ、再編にしても、危機の先送りに他ならず、出版物売上の凋落と相俟って、さらなる問題を露呈していくばかりであろう]

11.メディアドゥは産業革新機構が保有する出版デジタル機構の全株式を取得し、子会社化。

 その理由として、メディアドゥは現在のコミック中心の電子書籍ビジネスにおいて、ビジネス書や文芸書の電子書籍流通推進が課題とし、出版社の共同出資で設立された出版デジタル機構がテキストコンテンツを豊富に持ち、相互に補完関係を築き、シナジーを追求できるとしている。

出版デジタル機構に関しては『出版状況クロニクル4』の12年2月のところで、講談社小学館集英社などにより、100万点の電子書籍化とその卸売りを目的にして設立されたことを既述している。そしてJPOの「緊デジ」の代行出版社を務めたことも。

またメディアドゥについても、前回の本クロニクルで、集英社小学館講談社が出資する「著作物のデジタル流通」を事業コンセプトとしていることにふれている。

これらの始まりと流れからすれば、この動きも電子書籍ビジネスをめぐるリストラと再編と見なすことができよう]

12.講談社スマホで個人の電子書店を開設できる「じぶん書店」を始める。

 「じぶん書店」はスマホを所有するユーザーを対象とし、誰もが電子書籍を販売することができるサービスである。書店開設を希望するユーザーは会員登録を行なうことで、講談社電子書籍3万2000点から自由に選び、取り扱うことが可能となる。

 販売価格は講談社が決めた「定価」で、書店開設費は無料。作品の推薦コメントをアピールし、SNSで拡散することができ、そのSNS情報を見た人はすぐに試し読みと購入もできる。売れた場合、売上の10%に相当する「アフィリエイトコイン」が書店運営ユーザーに提供される。

[この「じぶん書店」を開発、運営するのが11のメディアドゥだと知ると、出版デジタル機構の買収も、そのアウトラインが明確になる。早急にその電子書籍事業に出版デジタル機構電子書籍も組みこんでいき、大手出版社共同の「じぶん書店」の構築をめざしているのだろう。

しかし講談社の3万2000点のうちの2万点がコミックとされるから、それに小学館集英社も加われば、電子コミック売上はさらに成長するであろうが、で見たように、書店のコミック売上を減少させることになるだろう。

KADOKAWAアマゾン直取引と同様に、講談社の「じぶん書店」の試みも、取次や書店に対する離反と見られても仕方がないと思われる]

13.『週刊東洋経済』(3/4)が特集「物流が壊れる」を組んでいる。そのリードは次のようなものだ。

 「(……)インターネット通販の拡大で荷物が急増する宅配業界では、配達員の不足が深刻だ。再配達の無料対応など築き上げてきた質の高さが足かせとなり、利益を削ってサービスを維持する事態に陥っている。

 産業を支える大動脈、幹線輸送ではトラックドライバーの不足と深刻な高齢化で、輸送の維持が困難になっている。

 モノが運べない時代がいよいよ現実になろうとしている。本特集では逼迫する現場をリポートし、瀬戸際に立つ物流の最前線に迫る。」

 インターネット通販が5年間で1.8倍、15年に13.8兆円となり、ヤマトなどの宅配便市場がドラスチックに変わってしまったこと、再配達と値上げ問題、脱宅配依存に移行する佐川急便、投函型に注力する日本郵便、その中で1兆円規模に達したアマゾン売上高とプライム会員サービスが報告されていく。

[このような渦中に出版輸送問題を置いてみると、本クロニクル105106と続けて言及してきたけれど、「いつ出版輸送が止まってもおかしくない」し、出版流通はスポイルされかねない状況にあることが実感となって迫ってくる。

これも本クロニクル103でもふれているが、コンビニの雑誌売上は月商30万円を割りこんでしまっているのに、5万店に及ぶコンビニ流通を続けること自体が、もはやコスト的に成立しなくなっているのは自明なことだと思われる。

しかもそれはまだボトムではなく、さらに減少していくのは確実だからだ。雑協では取協、東京都トラック協会、印刷工業会とで「出版物流協議会」を設けているが、出版物流をめぐる物量減少と売上減、深刻なドライバー不足などを真剣に受け止めているだろうか。土曜休配日問題を焦点にしているうちに、事態はさらに悪化していくにちがいない]

週刊東洋経済

14.リードエグジビジョンジャパンが主催する東京国際ブックフェア(TIBF)は今年の開催を休止と発表。

 TIBFはリードと出版業界による東京国際ブックフェア実行委員会の共催で、1994年から始められていた。

[「休止」と発表されているが、実質的に終わったと考えられる。

TIBFはリードにとっても赤字だったと伝えられているし、主要出版社も出店が減少したことも、その理由となろう。

本クロニクル95などでも、リードの実態、TIBFなどに関する疑問と出版社の脱退にふれてきたが、初期はともかく、現在の出版業界にあっては何のメリットもないブックフェアと見なすしかなかった。

それに出版業界にしても、このようなブックフェアを共催する余裕も体力も、もはや失われてしまった現在を物語っていよう]

15.『文化通信』(3/13)が子どもの文化普及協会を特集している。同会は児童書専門店、個人で開業する小規模書店、ブックカフェ、雑貨店などの取次で、クレヨンハウスの子会社でもある。それを紹介してみる。

取次に取引口座を開くには「信認金(取引保証金)」が必要とされるが、同会は取引条件が買切で、月末締めの全額入金。当初は入金を確認してからの前払い制のために、保証金は不要。

取引出版社は252社で、クレヨンハウスの子会社としてスタートしたこともあり、児童書出版社が多かったが、現在では講談社、小学館、集英社、岩波書店を始め、主要出版社の書籍も調達できる。それに買切だが、書店マージンは原則30%で、他の取次よりも利幅が高い。また知育玩具、CD、DVDなど書籍以外の仕入れ先も43社に達する。

同会に取引口座がある小売店は1000店で、継続的な取引は700〜800店、そのうちの400店から定期的に注文が入る。

その取引先は毎月10店から20店増え続け、1000店のうちの書店は1割ほどである。

取引先からは週に2階(月曜・木曜)受注し、月曜受注分は木曜日、木曜受注分は翌月曜日に宅配便で発送。送料は1回の受注が3万円を超えれば、同会が負担、その額に満たない場合、店側が送料580円を負担する。依頼があれば、選書も引き受ける。

出版社からの仕入れも買切で、事故以外に返品はなく、支払いサイトは45日、全額払いである。

取引店の拡大に伴い、出荷冊数が1日7000から1万冊に達する日もあり、電子発注も増えている。物流は流通業者のナガオに業務委託している。

1976年にクレヨンハウスは創業し、当時の取次は太洋社だったが、正味の低い取次をめざし、86年に同会を設立した。それから低正味、買切制条件での仕入先出版社を拡大していった。その転機となったのは01年の鈴木書店の破綻で、これで出版社の意識が大きく変化し、取引先が広がっていった。


[低正味、買切制の取次としての子どもの文化普及協会が、その経緯と内情も含め、このように大きく紹介されたのは初めてだと思うので、細部にわたって言及してみた。

同会の低正味買切制は、児童書専門店及び本以外を主たる商品とする業態であれば、他の取次よりもメリットが認められるし、そのことによって取引先も増えているとわかる。

だが町の小規模書店の場合、どうしても雑誌とコミック、文春や新潮社の書籍も不可欠と考えられるので、取次のすべてを同会に託するわけにはいかない。とすれば、複数の取次を使い分けるか、出版社との直接取引を組み合わせて運営するということになろう。

せっかくの子どもの文化普及協会の特集だったのだから、『文化通信』としても、今度はその取引先書店の特集も試みるべきだろ]

16.長きにわたって、『ちくま』連載されていた鹿島茂の『神田神保町書肆街考』筑摩書房)がA5判556ページの大冊となって刊行された。

[私見によれば、同書はタイトルからして1979年に刊行された脇村義太郎の『東西書肆街考』岩波新書)を範とし、サブタイトルにある「世界遺産的“本の街”の誕生から現在まで」を鹿島流にアレンジし、満を持して上梓した一冊だと見なせよう。

その終章に当たる「昭和四十〜五十年代というターニングポイント」においては、「出版人に聞く」シリーズ15の小泉孝一『鈴木書店の成長と衰退』が正当な「オーラル・ヒストリー」として取り上げられ、所謂「神田村」の歴史もたどられている。

本クロニクル99で、小泉の死も伝えているが、何よりの供養となり、とても有難いし、彼も草葉の陰で喜んでいると思いたい]

神田神保町書肆街考 東西書肆街考 鈴木書店の成長と衰退

17.クリストファー・クラークの「第一次世界大戦はいかにして始まったか」というサブタイトルを付した『夢遊病者たち』(上下、小原淳訳、みすず書房)を読み終えた。

第一次世界大戦は「二〇世紀の最初の災厄であり、他のあらゆる災厄はここから湧き出した」とされ、この起源と危機の原因については、これまでも多くの論議、文献と資料、仮説が提出されてきた。

同書において、クラークは従来のドイツの戦争責任定説から離れ、ドイツ、オーストリア=ハンガリー、フランス、ロシア、イギリス、イタリアという「六つの自立的プレイヤー」に加え、オスマン帝国やバルカン諸島国家の多国間相互作用を分析し、19世紀後半から1914年7月に至る第一次世界大戦勃発までのヨーロッパの社会状況を浮かび上がらせている。

そして「一九一四年の人々は我々の同時代人である」とし、しかも最後の一文は次のように結ばれている。「一九一四年の登場人物たちは夢遊病者たちであった。彼らは用心深かったが何も見ようとせず、夢に取り憑かれており、自分たちが今まさに世界にもたらそうとしている恐怖の現実に対してなおも盲目だったのである」と。

これを読みながら、このタイトルがヘルマン・ブロッホ『夢遊の人々』(菊盛英夫訳、ちくま文庫)に由来することは想像できたが、内容からすれば、ロベルト・ヴィーネの映画『カリガリ博士』をも想起させた。

それとともに、現在の世界状況ばかりか、日本の出版状況に関しても、私たちは現在どこにいるのかという自問を発せざるをえないし、クラークの感慨にも似た結びの一文を思わず反復してしまったことを記しておこう]

夢遊病者たち 夢遊の人々 カリガリ博士

18.今月の論創社HPの「本を読む」14 は「矢牧一宏と七曜社」です。

 続けて4月15日更新の同15 は「1960年代の河野典生と『殺意という名の家畜』」を予定しています。