拝啓 この手紙 読んでいるベジータ
どこで何をしているのだろう
十五の王子は誰にも話せない 悩みの種があるのだよ
未来の自分に宛てて書く手紙なら
きっと素直に打ち明けられるだろう
今 滅ぼして 滅ぼして 消えてしまいそうな星を
見ながら思う 俺は強過ぎないか?
ひとつしかないこの体 いつかはばらばらに割れて
強さを制御 できずに死ぬ
それが怖いんだ
拝啓 ありがとう 十五のベジータ 伝えたい事があるのです
まずは大丈夫 そんなに強くない 思っているほど強くない
カカロットに勝てず 変な名前の妻子と
幸せに暮らす 日々を送っています
フリーザに負け セルに負け ブウにも負けてしまうけど
変な名前の妻子 家で待っててくれる
それから俺は 何回か死んでしまうことになるが
苦くて甘い今を生きている
カカロットとは合体したこともある
恐れずにトランクスを育てて
ラララ ラララ ラララ Love Bluma
ラララ ラララ ラララ Love Bluma
Love Bluma Love Bluma
負けそうで 泣きそうで 死んでしまいそうな俺は
誰の強さを信じ歩けばいいの?
ああ 大丈夫 気にするな 負けて死んでしまう時は
ドラゴンボール信じ死んだらいいさ
強さのインフレーションを 避けては通れないけれど
笑顔を見せて 今を生きていこう
今を生きていこう
拝啓 この手紙読んでいるベジータ
幸せな事を願います
浅黒い少年と青白い少年が中学校で出会った。
公立中学は地域と年齢とで、全く暴力的なやり方をして少年たちを区切って内部に放り込んだから、この二人は出会うことになった。二カ月足らずのうちに少年たちはゆるやかなグループを形成した。二人はもちろん一緒にはならない。青白い少年は浅黒い少年の、若い馬を思わせるつややかな肉体をまぶしそうに眺め、浅黒い少年は青白い少年の、触れると消滅しそうな不思議をひそかに愛した。互いが互いにあこがれ、あこがれ尽くし、そして、卒業して忘れた。ふいに胸を突き上げてこぼれ落ちそうになった何かを、あこがれと呼ぶことすら知らずに、自分たちがあこがれたことにすら気づかぬうちに、忘れたのだ。二人が言葉を交わしたのは三年間のうちたかだか十回ほどだった。
その先はあの民主的な規則に従って、浅黒い少年は肉体を試される高校へ進み、青白い少年は頭脳が求められる高校へ進んだ。大学へ行くか否かが誤差の程度の年数を生んで前後させたもののそれから二人は大人になった。妻を娶り子を授かり、しかしまるでずれた位相に生きていた。平気な顔をして社会は決然と、単純な規則で二人に経済的な差をつけて、生活の位相をずらした。普通という言葉で片付けて誰も振り返らないような別の生活を過ごしてもはや、二人の人生が交差する必然はなかった。
必然はなかったが、偶然は至る所に存在して二人が運転する車を突然衝突させた。再会したかつての同級生はそれが同級生だと気付く余地もなく、ひたすら互いが互いを嫌悪した。青白い男は理屈を信じ、浅黒い男は感情を信じて相手を詰り続けた。それは互いの属する社会の掟を持ち込んで、その最終的には主観性に拠るほかない前提をぶつけ合っていた訳だから、どこかに折り合いのつく地点などあるはずもなかった。
罵り続けて疲れ果て、黙り込んだ二人に警官が容喙した。
「和解したのか? だったらここでキスをしろ」
二人は呆然とした。やじ馬達は沸き返った。二人は警官に反言するが警官は、それが法だと取り合わない。やじ馬達は、キースッ、キースッと囃し立てる始末だった。
二人がいくらずれを孕んだ社会に住んでいようがそれらは所詮、日本に捕らわれた中間社会である以上、個々の社会の掟を気軽に抑圧して世間の声に従わせるあの「空気を読む」無言の取り交わしにあえなく蹂躙される。そして何より彼らは、空気を無視できる若さをとうに捨て去って大人になったのだった。
二人の唇が触れ合う直前、人間が知覚可能な最小の時間分解能の一つ分を挟んだだけの一瞬前、あの耐え難いあこがれが、水があふれ出すように前触れもなく、二人の体中を満たした。二人の思考を置き去りにして、あふれたあこがれが社会も世間も皮膚も無化した。やじ馬の囃し立てる音が遠くにしりぞいて唸るように、耳鳴りのように響いていた。唇が触れるまでの残りの時間を、あふれ出したあこがれが抵抗を示して、まるでアキレスが亀に永遠に追いつけないように到達不可能にした。それをあこがれと名付ける暇さえ二人に与えず見かけ上の永遠は歓喜として、傍若無人に実在を開始した。
最小の分解能を無視し、一途に無限小を目指して止まらない時間に閉じ込められて二人は結局、触れ合えはしない。
「神の見えざる手が最近見えるんだ」ってケンチが急に言い出した。「アダム・スミスの」
「なにそれ? 勉強のこと? 俺勉強できないからよく分からない」
ケンチは俺をすごく軽蔑する目で、一瞬だけ見てすぐににっこり笑った。ケンチは頭がよくてやさしいから、人を馬鹿にしたらいけないって頭ですぐに考えて許してくれるけどそのほんの少し、頭で考える一瞬前にそのまま気持ちが目に出てくる。そうして俺はたぶん、その一瞬の間ケンチにとても嫌われていて俺はそれを見るとすごく傷つきながらすごく、興奮する。
「でも俺、見えざるって知ってると思う。浅草のお寺にいるサルのことだよね」
機嫌を直さなくちゃと思って焦って物知りなところをアピールしたらまた少しケンチが嫌な顔をした。
「あ、あ、」
「三重に間違ってる」
「あー」
嫌われたくない嫌われたくないと思うたびに少しずつ俺はヒクツになってる気がする。それって限界があるのか分からないけど、ケンチはにこにこ嬉しそうな顔をして、セーターの袖で俺の頬っぺたを急にごしごし擦って反射的に、俺はおかしくて笑っちゃうとケンチも声を上げて笑ってそういうことがもう、とにかくしあわせって感じがして、あまり何も考えられなくなる。
「ほら、そこに」とケンチが指さした自動販売機の陰に手がいた。「あれで見えざるつもりなんだぜ。笑っちゃうだろう」
俺はどこが笑えるのか分からなかったけど、ケンチがそういうから笑った。
「昨日は渋谷の上空を飛んでいるのを見た」
そう言われてから毎日注意して歩いてるとほんとに空を飛んでたり、物陰にいたりするのを目撃してそのたびに学校でケンチに報告すると、ケンチは嬉しそうな顔でうんうんって頷いてから俺の頭をくしゃくしゃにしたり、俺の首の後ろ側を手のひらでぎゅっぎゅっとしたりする。せっかくワックスでセットした髪形が崩れてもその日はそのままにして過ごすし、ケンチの手が冷たいので首を触られると冷たくてちょっと怒ったりしてこれが学校生活だと思った。そうやって毎日報告していたらケンチは急に興味がないみたいな態度になってそれからそのうち、不機嫌になるようになった。
俺はとにかく、機嫌を直してほしいと思っていっぱい喋ったけど喋れば喋るほどケンチは不機嫌な顔になるのでもうどうしていいのか分からなくなった。ケンチに「で?」と言われると俺は、ほとんど息ができなくなって、正解の言葉をガチで探し始めるんだけど、もう毎日どんどん正解のエリアが狭まっているみたいで、全部が不正解のように思えて、探し続けてるとますますケンチはいらいらしてきていつも結局俺は、へらへら笑って終わり。
そうやって俺はケンチと喋れなくなった。
喧嘩? 1年のときあんな仲良かったのに。え、別になにもないけど、って答えるたびに気にしないようにしてた努力がゼロに戻ってムカつく。もっと近い友だちは絶対気づいてるはずなのに何も言わない。それもムカつく。なんか、俺たちは分かってるからさ、みたいな、何を分かってるんだってムカつくけど何を誰に怒っていいのかよくわからない。けど一番ムカつくのは、たまたまケンチと何かの拍子に目が合って、つい何かを期待してへらっと笑っちゃった後に、ケンチの表情は何にも変わらずに視線がそのまま通り過ぎて行くやつ。俺はこの顔をどうしていいのかわからなくなって、そのままへらへらした顔のまま、本当に怒ってる。毎回どうして、だまされるんだ。だまされるって誰に、何を。よくわからない。もっと頭がよければわかるかもしれない。頭がよければいいって本当に思う。
それで最近、手を棒でたたいてる。帰り道とかに手を見つけると、俺は怒ってて、しかも頭がわるいせいで、たたいてる。手って目じゃないから、見えないんだと思う。けっこう近づいても逃げなくて、棒でつつくとあわてて逃げるんだけど、なんかぐるぐる回ってるだけでぜんぜん逃げれてない。最近わかったんだけど、手ってぜったい足じゃないから、逃げるのが遅いんだ。だからあとは棒でたたくだけっていうシステムになってる。
手は口じゃないせいで鳴かないから、悪いって感じもあんましない。わちゃわちゃ動いて、それでもしばらく叩き続けているとぐったりして動かなくなる。初めての時は、叩いてるあいだの興奮とうらはらに、家に帰った後はいやな気持ちが続いていやだったけど、次の日に元気に空を飛んでいるのを見てなあんだと思った。それにみんなやってる。うちのババアなんてゴキブリホイホイでつかまえて捨てたりしてるけど、また復活して町にいる。俺だけじゃないから。
後ろめたさもなくなって、それからは気がねなくたたいてる。家に帰ってからのいやな感じはなくなったけど、それと一緒にたたいてる間の興奮もなくなった。なんとなくやることになってるからやるって感じで、でもまあ、たたいてる間はケンチのこととかいろいろ考えなくてすむからしてる。べつにへらへら笑う必要もないし。
3年生になって、受験の気分でみんなちょっとざわついたまま春が終わった日に、手が学校に迷い込んできた。誰もいない校庭で手は元気に動き回ってた。他のクラスからもざわめきが立ち上がって、俺たちも5階のクラスから小さな手を見下ろして騒いでた。先生が怒った。小学生じゃないんだから。かさかさ動いていた手が校舎の蔭に隠れて見えなくなって、みんな席に戻った。他のクラスも同じように落ち着きを取り戻して授業が再開された。
でもまた遠くで騒がしくなった。悲鳴のような歓声のような音が少しずつ上ってきた。1階のクラスから順々に上がってくるようだった。だんだんと近づいてくる声にみんな黙ったまま意識を向かわせていた。そして明らかに真下の4階が騒いでから、完全に静かになった。もう先生も授業を止めて、なにか待ち構えるみたいに緊張した顔付きで黙っていた。
突然窓ガラスが砕け散った。そして手が教室に飛び込んだ。
ちょうどオーストラリアからの留学生、キャンベルの席の脇の窓だった。彼女はガラスの破片を浴びて血まみれだったけど、仁王立ちになって自分の机の上でくにゃくにゃ動く手を凶暴な目で睨みつけてた。
俺はずっとこの留学生が怖かった。だってぜんぜん日本語を喋ろうとしないんだから意味がわかんない。しかもデカイし。キャンベルがおもむろに手を殴り始めたのをみてやっぱりと思った。机ごと壊すんじゃないかってくらい殴りまくって、今度は両手で手を握り潰しにかかった。そしてそれを掲げて大笑いした。みんなそれをぼんやり見て聞いてた。ただキャンベルの大笑いだけがクラスに響いていた。
死んだみたいに彼女の四角い手の中でぐったりしていた手がふいに、するっと抜けて、笑うキャンベルの大口にぽんと飛び込んだ。あわててキャンベルはもがき始める。手を口に突っ込んで手を出そうとする。でも数秒後、キャンベルの頭は爆発。脳みそとか血とかが飛び散る中から手が飛び出して、キャンベル(享年17)の机に着地した。みんな絶叫して席を立った。
みんな席を立ったけどそのままへたり込んだり、また席に座ったり、ドアに激突したりなぜかほうきを構えたりしていた。
手は机をさわやかな感じで飛び降りて、机の脚がいっぱい生えてる床をじぐざぐにすごい速さでくぐり抜けていく。そして座ったままのケンチの背中に張り付いた。
みんなが動きを止めてそれを見る。かすかに汗ばんで湿ったケンチのカッターシャツの背を降りた手は、ズボンの透き間に指をねじ込む。ケンチは今さら席を立って腰の手首をつかんで引き離そうとするが離れない。そのまま手はもぞもぞケンチの尻の方へ進んでゆき、ついにズボンの中へすっぽり入ってしまった。ケンチは半狂乱になって引きずり出そうとするけど上手くいかない。ケンチの肉のうすい尻の上をもぞもぞしてる。ケンチはうわあああ、わああと言葉にならない叫びを一人で張り上げている。
その叫び声が急に息をつまらせた。それから困惑した顔で無理無理無理無理と言った後うぐっとまた息を詰まらせてから、机の端をつかんだままひざから崩れて、あとはうめき声を上げ続けながら、額を脂汗まみれにして目をぎゅっとつむってた。
俺、勉強のことはよくわからないけど、これはわかる。これ、ぜったい、入ってる。
はっはっはっはっと犬みたいに短く荒くきれぎれの息をしてケンチは苦しそうにしてる。その合間に、聞こえない声で何か言ってた。だれも気づいてないかもしれない。俺しか見てないかもしれない。ケンチの唇は、声も出さずに、助けて、助けてと動いていつの間にか俺は、机を手でかきわけて走りだしてた。途中で誰かの机の足にひっかかって転んでも、そのまま必死で這ってって、ぶつかるみたいにケンチの肩をつかんだ。
驚いて振り返ったケンチの目は、それでも苦しくて見開くこともできずに、右はつらそうに閉じたまま、涙目の左だけうっすら開いて、けど、俺をきちんと見てた。
「ごめん。助けて」
「うん」
手を引っこ抜こうとするのにまるでだめだ。手はびくともしない(ただし指は高速で動いている模様)。何万年も前からそこにいる、当たり前のことで誰にもどうしようもないって感じでひたすらしっかりしてた。俺はいらいらして悔しくて涙が出てきた。なんでケンチにこんなことするわけ? ほんと神さまのくせに、神さまのくせに、何さまのつもりだよ!
「か、か、神様だろ」とケンチが律義につっこんだのが腹が立って、おまえが突っ込まれてるくせにつっこんでるばあいじゃなくねと思ってムカついて頭を叩いたら「なぜだ」と言われてなんか一瞬、すげぇなつい感じした。
戦略を変える。俺はズボンの上からケンチの尻をたたいた。経験上、手ってたたくといい。まずダメージを与えて弱らせてから引っこ抜く作戦だ。
なんかね、いや、手を叩いてるんだけど、どうしても見た感じ俺がケンチの尻を叩いてるみたいで、叩くたびにひびくらしくて苦しそうな顔してケンチがうめき声をもらすから、これってスパンキングっていうんでしょ。びっくりした? 俺がこういう専門用語を知ってるのってたぶん、学校で習ったからだと思う。あーなんか興奮する。今わかったけど、興奮するのってすごく楽しい。でもこれって正義じゃん? 親友を助けるっていう正義しながら、興奮もできてこれって、一石二鳥だと思う。
で結局、ぜんぜんダメージを与えられなかった。途中で、あ、この作戦ダメだって気づいたけど、気づいてからプラス5回くらいたたいてから次の作戦に移った。
ケンチのズボンのベルトをつかんで力士気分で思いっきり引き上げた。ズボンの布で手を圧迫して弱らせる作戦だ。ゆるめて、引っ張りあげる。この繰り返し。ケンチはさっきより苦しそう。うわごとみたいにやめろ、やめろと言うけど俺はやめない。これは正義だから。がんばって吊り上げて下ろしてを繰り返す。いつの間にかケンチは黙ってまたうめいてた。
だんだん力が抜けていってぐったりしてたケンチが突然、左腕をふって俺を跳ね除けた。床に落下したケンチはけいれんした。そしてゆっくりけいれんが終わって肩で息をしながらぐったりしてた。
あ、俺しってる、これ、
「いや、言わなくて、いいから……」
「みんなーっ、ケンチが射精したよーっ!!」
これはとんでもないことが起きたと思って、俺はクラスのみんなに報告した。ケンチのズボンがもぞもぞ動いて手が出てきた。そのまま手はゆっくりケンチを離れて浮かんでいった。ゆっくりゆっくり、天に召されるみたいに上がっていって、天井にすうーっと消えていった。
「エリ・エリ・レマ・オカシタニ(神よ、神よ、なぜ我を犯したもうや)」
たぶん、俺のせいだ。俺のせいだと思う。俺はケンチを抱え起こした。
「ごめん。ほんとごめん。たぶん俺のせいだ。ケンチのアナルバージンが……」
「いや、いいんだ」
「いいわけないだろ! だっていつか彼女のためにとってあったんだろ!?」
「俺は貫かれたが死んでいないし、復活もしない。全ての罪を背負って世界を救わないし、お前は、そんなことを悔い改める必要もない(そもそも彼女のためにとってねーし)」
男なのに馬鹿みたいにぽろぽろ涙が止まらなくて、逆に俺がケンチになぐさめられてるみたいで情けない。と思ってたらクラスのみんなが騒ぎ始めてその視線を追うと窓の外だった。いつのまにか雲が分厚く全天を覆って、なのに妙に明るくて、その雲のいたるところからあの手が大量に、ゆっくり降りてきていた。白く光っていた。地上に近づくにつれて誰もが静かになってそれを待ち受けていた。
天井をすり抜けて教室にもたくさんの手が降り注いだ。みんな恐怖で固まってた。でも俺はなんか、あきらめてるっていうのか、よくわかんないけどすごく静かな気分だった。ケンチは賢者タイムだった(たぶん)。
手が一人にひとつずつ降りてきた。そしてぺろんぺろんってみんなのお尻を一回なでて、それからまた天に上っていった。俺もなでられた。未来を祝福するみたいな手つきだった。いくつかの手たちは床に吸い込まれて下の階にいった。しばらくすると床から手が上がってきてまた天井に消えていった。外を見ると白く光った手たちが雲に吸い込まれていっていた。
「あれが市場経済の終焉だ」
「え? 経済……?」
俺はまた意味が分からなかったけど、ケンチは軽蔑のかけらもなく俺に微笑んでた。