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2018-08-14

伊神 満「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明, 日経BP社, 2018

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Christensen, Clayton M.(1997)は、「業界リーダーの座に君臨する企業が、すぐれた経営を行うことによって、業界リーダーの地位を失うことになる」という現象を発見し、これを「イノベーションのジレンマ(The innovator's dilemma)」と呼んだ。

Christensen(1997)は、ハードディスク・ドライブ(HDD)業界の歴史を観察し、リーディングカンパニーが破壊的技術の転換点で必ずつまずいていることを指摘した。またChristensen(1997)は掘削機業界、鉄鋼業界、コンピュータ業界等の業界や、トランジスタ北米オートバイ市場等においてもこのようなイノベーションのジレンマという現象が生じていることを説明した。

本書は、イノベーションのジレンマに対して、【RQ】「既存企業はどうしてさっさと新技術を先取りしてしまわないのか?」について、経済学の視点から説明を行ったものである。

伊神(2018)は3つの観点から説明を進めている。

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【分析1】伊神(2018)は「クライダーの法則(HDDの情報記録容量は12ヵ月ごとに倍々になる)」から「HDDの主な材料である『磁気ディスク』の性能は年々向上し、その部品コストはどんどん下がっていった」とし、「HDD価格(P)がHDD部品コスト(Z)につられて下落」すると説明。このHDD部品コスト(Z)を操作変数として、「2段階最小二乗法などの『注意深い回帰分析』」を行い、「新旧HDDの製品の価格(P)と売上台数(Q)の因果関係、すなわち需要の弾力性を測定」した。

「新旧製品間の需要の代替性」を測定することで、「新製品(3.5インチHDD)と旧製品(5.25インチHDD)の間には、相当の代替性がある」とした。

【結論1】以上の分析から、伊神(2018)は「既存企業は、たとえ有能で戦略的合理的であったとしても、新旧技術や事業間の「共喰い」がある限り、新参企業ほどにはイノベーションに本気になれない。(イノベーターのジレンマの経済学的解明)」と指摘した。

既存企業の抜け駆け

伊神(2018)は、

【分析2】・「需要サイド、つまり買い手・消費者にとって、(5.25インチか3.5インチかという規格の違いを除けば)HDDは汎用品、つまり『同質財』であり、」

・「供給サイド、つまり売り手・生産者にとって、競争の性質は『クールノー的』(生産計画と売上目標を立てたら、あとは営業部隊に死ぬ気で売らせるような競争)」

・「クールノー競争における企業の利潤最大化の1階条件」を元にしたコスト算出

HDDメーカーを3社に集約した上での利益算出

(1)新旧両製品を製造・販売するメーカー

(2)旧製品のみを扱うメーカー

(3)新製品のみを扱うメーカー

(1)(3)の利益額が(2)よりも巨額なのだから、イノベーションした方が得」すなわち、【結論2-1】旧製品のみを扱うメーカーは新製品の採用をすべきであることを指摘した。

また、【結論2-2】「ライバル企業数が増えると1社当たりの利益は減る(中略)販売台数が減るだけでなく、競争激化によって利幅も小さくなってしまうので、利益の下がり方は深刻である。既存企業としては、他社が新市場を牛耳る前に(そして新参企業が参入してくる前に)先手を打つのが上策だ。」とも指摘している。

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伊神(2018)は、【分析3】「投資の動学ゲーム分析」より、【結論3】「こと研究開発能力に関する限り、既存企業の方が新参企業よりも優れていることが分かった。ここで言う「イノベーション能力」は、既存企業が積み重ねてきた「技術資本や組織資本といった強み」や、新参企業の特徴とされる「意思決定のスピードと柔軟さ」など、各社のあらゆる長所と短所を合算した数字である。」と指摘した。

伊神(2018)は、「既存企業が鈍重なのは、能力不足のせいじゃない。意欲や、努力が、欠如している」点にも言及しており、以上の【結論1〜3】を踏まえると、【RQ】「既存企業はどうしてさっさと新技術を先取りしてしまわないのか?」に対する解を、既存企業の意欲不足・努力不足にあるとしていることが推察される。

(画像出典:https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784822255732

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