曇り


朝、携帯電話のアラームで目が覚めた。今日は休みだから二度寝しようと再び枕に頭を落とした。

そのすぐ後に、今度は目覚まし時計が鳴った。

おかしい。日曜は目覚まし時計は仕掛けてないはずだ。

もう一度携帯電話を見ると、そこには非情にも「2月21日月曜」の表示があった。

朝からショック死しそうだった。一日間違える組合せの中で最悪の間違いを犯した。これが土曜のつもりが実は金曜だった、というのなら、まだ今日という一日をやり過ごせば休みにたどり着くことができるので耐えられたのに。

なぜそんなあほな間違いを犯したのか。それは昨日出かけたからだ。普段なら出かけるのは土曜で、日曜はゴロゴロしているのに昨日に限って出かけてしまった。

で、昨日どこへ行ったのかというと御所市柏原にある水平社博物館。なぜそんなところへいこうと思ったのかというのは実は良く覚えてないんだけど、たぶんこれのせい。


人の世に熱あれ、人間に光あれ




ね、これかっこええでしょう。ちょっとカッコつけすぎちゃうかというくらいかっこええ。


場所はちょっと不便なところにあった。


近鉄の異なる路線の橿原神宮前駅と御所駅の中間にあって、どちらからも奈良交通のバスに乗らなきゃならん。私は橿原神宮前駅から乗った。






博物館最寄りのバス停までの乗り場があるのは西口。で、その最寄りのバス停郡界橋はこんなところ。






なんもねえ!いや、すぐそばに喫茶店があるので時間待ちには困らない。バスは一時間に一本あるかないかなのでこれ重要。


で、ここから博物館まではあるいて5分かからない。





誰もいない(工事のおじさんはいたけど)。中に入っても事務の人が2人ほどいるだけ。一階は事務所とトイレくらいで実際の展示は2階だけだった。なのでしょぼいのかなと思っていたら意外と面白かった。


面白いのは手書きの手紙やはがき、それから水平社関係の出版物やそれを報じた当時の新聞、それに写真。


写真に写っている人たちを見ると顔がおもしろい面白い。これぜったい不審者で通報されるぞというサングラスに禿頭で脇に残った髪を逆立てたおっちゃんで、ちょっとアラーキーを危なくしたような感じのひととか、もうなんというかイカツイというのはこの人の顔を説明するために作られた言葉なのではないかというようなごっつごつの兄さんとか、このひと肺病やみやろ、というひょろひょろの兄さんとか、当時のひとの顔バラエティ富みすぎ。


あと、手書きの文字は私より酷いんではないかというような悪筆(よくこんな字で郵便届いたなという)のものがあったり、いまの若い人が書いたといってもおかしくないようなちょっと丸みを帯びた今風なものがあったりして面白い。


で、残る出版物、本だったり冊子、チラシ、新聞、パンフレット、リーフレットといろいろあったけれども、特筆すべきはそのデザイン(新聞はふつうだけど)。


イラストもおもしろいけどフォントも凝っていたりする。若い人たちが中心になってやっていたんだなということが伝わってきてハッとした。のたうちまわるような辛い体験もあっただろうとは思うけれど、デザインなどを見てみるとけっこう楽しんでやっていたのかもしれないとも思ったりもした。


荊冠旗も実物を見ると迫力があって、見た目の古さにもグッとくる。





水平社の前身、燕会のシンボルマークなんかもいい感じ。





『請願隊は如何に闘ったか?』という冊子。ちょっと共産圏っぽい。






差別発言をした刑務所長を糾弾(彼らは糺弾という字を使っていた)する闘争のために『軍用金を送れ!!』と呼びかけるポスター。





  • エッタと吐す刑務所長を叩き落とすために!
  • 弾丸のない戦ひは出来ぬ!!
  • 三重懸水平社を勝たせ!!
  • 米でも麦でも直ぐ送れ!!

といった言葉、フォントもぐぐぐっと。


で、みていて気が付いたことがある。三羽の燕が輪を描く燕会のシンボルも、荊冠旗のデザインも同じ人が描いていた。


それどころか冒頭にあげた『人の世に熱あれ、人間に光あれ』で〆られた水平社宣言を書いたのも同じひとだった。


そのひとの名前は西光万吉。この人の写真も当然展示されていた。見ると細身で目がぎょろっと大きく、神経剥き出しにされたような感じの顔で、見るからに芸術家っぽい顔だった。すこし調べてみると画家としても才能があったらしい。


経歴を見ると文字通り右往左往というか波乱万丈、『転向』とかしてるし、激しい人生だったんだろうなとすぐにわかる。


ということでギョロメということもあるけど、なんとなーく大杉栄と同じようなにおいを勝手に嗅ぎ取ったりした。俺も殺されるところまでは行かなくとも、『転向』を迫られるような人間になってみたいとかちょっと思った。


博物館の展示のなかには岡崎の公会堂での全国水平社創立大会の様子をビデオとホログラフィ(大坂城なんかにも同じシステムがあった。全国の博物館を顧客にしてるニッチな感じ)で再現しているコーナーがあって、パッと見「しょぼっ!」と思ったんだけど、スイッチを押し、みてみると以外に感動的だったりした。


ということでたいへんおもしろかった。西光と言う人についてもう少し知りたいと思ったけれど、後半のどたばたが原因なのか、ちょっとハブられてる感じ。