公開中作品レビュー全文掲載『最近、蝶々は・・・』

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最新第11号に掲載中の新作レビューより、公開中のこの映画に関する、以下の原稿を全文掲載します。


■最近、蝶々は…

「夜ごとの蝶が眠らせない」というコピー。そして、風で髪を揺らす美女の周りに色鮮やかな蝶が舞う。

そんな美しい宣伝チラシのイメージからは想像もつかないのが、いきなりモノクロ画面が映し出され、1945年の南方戦線が映し出されるというのがこの映画の始まりだ。

兵士の見た目で天空に光る月が移動して、そこをポイントに画面はカラーになっていく。そして色鮮やかな蝶が舞う綺麗な合成シーンとなる。その向こうには謎の女が笑っている。

エロスと殺意が充満する物語の幕開けだった。

舞台は現代に移り、OL・留可(後藤理沙)が、自分の異常に悩まされている姿が描かれる。一人で寝ていても、淫夢を見て朝起きたら膣から精液がどろりと出てくる、まるでさっきまで男とセックスしていたかのように。

それどころか、ヨダレまで精液になっていることがある。まるでさっきまでフェラチオしていたかのように。

そんな時、幽霊にレイプされるという与太話が載った女性週刊誌の記事を見た彼女は、その記事を書いた記者に連絡を取る。

記者は留可に会うことにするが、目の前の彼女の態度が突然豹変し、セックスを求めて激しく誘ってくるのに驚く。その際、彼女の太腿に蝶の痣が浮かび上がる。

これは多重人格ではないか?

そう思った記者は精神科医に意見を求めるが、多重人格などもともとは存在せず、メディアが作り出したもので、やむなく「解離性同一障害」という定義をひねり出した途端、多くの自称患者が名乗り出たという「現実と虚構の逆転」を指摘される。

……と、ここまではサイコサスペンス調である。自分では気づかない内に多くの男と関係を持っているというだけなら、ただのヤリマン女のエピソードにすぎないともいえる。

だがトランス状態になった留可は眼球の向きが色んな方向に変わるという、ぎょっとするような場面が用意され、それを契機に描写は暴走する。

手当たりしだい男をむさぼる彼女は、役立たずのチンコは素手で握り取ってちぎり、口に突っ込む。ふぐりを突っ込まれたまま窒息死する男。
阿部定も真っ青だ。

他にも首をちぎり取った途端にバーッと壁に鮮血が飛び散ったり、顔に後ろから包丁を刺した次の瞬間、血を噴き出しながら回転して倒れるなど、特殊メイクの見せ場となる残虐シーンがここぞとばかり投入されていく。

殺した者たちの死体をチェーンソーで斬り刻み、臓物が夥しくあふれ出るシーンもある。

もはや「現実と虚構」のモチーフなどどこ吹く風……と思いきや、猟奇事件を繰り返したヒロイン留可はあっさり投身自殺。

その魂は、これまで何度かこの映画の登場人物を乗せて走っていた、原作者のカメオ出演だと思われていたタクシーの女運転手・内田春菊に憑依する。欲求不満のこの中年女性は、セックスの間だけ若い身体……つまり留可の姿になる。

記者の前で正体をあらわした留可は、自分はひたすらセックスを求め、勃たない男を殺してきたのだとうそぶく。

セックスレスなんかあり得ないだろ。やらないんだったら今すぐ殺してあげるよ」などと、なぜか現代の草食系男子批判を始めるのだった。

こうして事件の真相を知った記者だが、世間からは異常性格者扱いされるしかない。悪霊は歴史を超えて存在してきたのではないかと、彼は思うのだった。

冒頭の南方戦線での美女の降臨は、人類の始まりとともに存在したこの悪霊が顕れた1つの時代の1コマにすぎなかった……というオチには「なーんだ」と思うものの、本作はそんな謎解きサスペンスよりもなによりも、特殊造型によるエログロスプラッタ描写が見せ場として徹底しているのが、最大の特徴だろう。

かつて南方戦線に行っていた老人が、戦地で見たのと同じ蝶を目撃したとたん発狂し、介護してくれている看護婦に杖でふりかぶり頭から脳幹が溢れるほど殴打する場面など、セックスとは何の関係もなく、ただの残酷描写である。

だがこういうシーンが一つあるだけで、次の瞬間、何が起こるかわからないハラハラドキドキ感を醸し出すことが出来ている。

この蝶は時に暴力、時に性欲を助長させるのかもしれないが、そんな細かな整合性よりもダイナミックなスプラッタ描写を見せ切ることで、本作は一種の爽快さを獲得している。


原作 内田春菊
監督・脚本 友松直之
撮影・照明 田宮健彦
出演 後藤理沙
徳元裕矢 黒木歩 川又シュウキ 希咲あや 
あん 金子弘幸 若林美保 朝霧涼 衣緒菜
内田春菊

5月10日〜23日
レイトロードショー 
ヒューマントラストシネマ渋谷
劇場サイト http://www.ttcg.jp/human_shibuya/topics/detail/29641
友松直之監督のブログ http://blog.livedoor.jp/n_tomomatu/archives/38318184.html

今回は合わせて全14本という、創刊して以来の最多本数の新作レビューとなりました。
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