3月も半ば

2回目のCTがネガティブに出てから、頭痛と目眩は止んだ。

精神的なものだったんだ、、、

留学生鬱って話には聞いていたけど、まさか私に訪れるなんて!
私、外科系の人間だし、気っぷがいいし、男勝りだし、まさかこんな気弱な病気になるなんて思わなかった。
逆境知らずだから打たれ弱かったのね、、、

器質的な病気がないと分かって安心したけど、

状態が喜べる訳ない。

心配かけるから親にも言えない。

飲んで踊って楽しいお気楽な留学生仲間は、こんな真面目な相談の相手にはならない。

別に相談する必要もないけど。

正直、お気楽なだけの友達にうんざりしてきたのもある。
みんな貧乏だし。

そんなある日、学校主催のパーティで夏子にあった。

夏子はスイス人の年下の旦那がいる30歳の女性。ジュネーブ住まいだし(夫の研修で一時的にトゥールーズにきている)、夫は飛行機会社勤務だし、生活感が明らかにリッチ。

他の友達とは望めない、(トゥールーズにしては)高級レストランで食事しようと言うことになる。

シネマテックのラテン音楽祭

夏子とのディナーの約束の日、鬱症状は相変わらずで、出発ギリギリまでベッドに潜り込んで携帯電話のつまらないゲームで時間を潰している。
するとシーナから電話があり、シネマテックでラテン音楽祭りをやっていてクールだから来いという。

いや、そういう気分では全っっくない訳で...と断るが、どうしても来いと言って聞かない。
仕方ない。
どうせ30分後には夏子とのディナーに出かけなきゃならないんだ。すぐ出てもそんなに面倒じゃない。
と思い、着の身着のままの鬱装束でシネマテックに出かける。


シネマテックの中庭はそんなに広くない。
そこでいくつかのバンドが交代交代でラテン音楽を演奏している。
ハビエルは楽しんでいるが、そんなにうまくはない。
でもビールを少し飲んだりして、そんなに気分は悪くない。
フランス人のフランソワ、ドイツ出身のセクシーダンス姉妹マグダレナやケヴィンを紹介される。誰から紹介されたんだか、誰と誰がどこでどうやって知り合ったのか知らないけど、語学留学生ばかりだったグループが活気づいてくる。
だんだん、こうやって街に溶け込んでいくのかも。

Enricoとはこのとき初めて会った。

正確には<会った>とは言えない。数メートル離れた所に、ただ立っているのを、ただ遠目に目にしただけなのだから。
でも注意を引かずにはおかない格好いい男で、ちょっとびっくりするくらい風采のいい男で、目を奪われた。

ふと、エンリコがこちらを横目で見る。
はっきりと見た訳じゃないけど、私を見た気がする。

でも話すきっかけもなく、それに夏子との約束の時間になったので、無念ながらその場を後にする。