増田彰久「西洋館を楽しむ―カラー版 (ちくまプリマー新書)」

西洋館。それは、明治から昭和初期にかけて建てられた、西洋の様式を取り入れた建物とでも定義すればいいのか。どういうものがそれなの?と訊かれてとっさに思いつくのは東京駅とかだろうか。
このかわいいカラー版の本に出てくる建物は、建てられた年代もばらばらだし、建て方も、その形も用途もばらばらだ。灯台から学校から、金持ちの豪邸まで。材料も、レンガから石から、木造まである。外見もちょっと古風な感じから、どっしりと重厚なものまであれば、内装もアールデコやらアールヌーヴォーやらがあると思えば和風なものがあったりする。
建築物は、ぱっと全体を見ると見えなかった工夫やこだわりがわかったときが見ていて一番おもしろい。この本で紹介される西洋館でも、例えば和風と洋風が混ざった意匠の巧みさだとか、その時代においてどういうところが独特なのか、といったあたりを優しく説明してくれるのが嬉しい。

著者がおもしろい、というそうした西洋館の多様性が、写真と解説でこれでもかと楽しめる。近くにあるものはぜひ見に行ってみよう、と思わせてくれる。

この本にも紹介される西洋館が日常に馴染んでいる街に育った。見慣れた建物も、写真であらためて見ると、他の建物に劣らず独特の威風を放っている。新しく入ってきた技法をもちいて、誰に見せてもかっこいい、と思ってもらえるようなものを作った建築家たちの気合いが感じられる。見慣れたものを、そういう歴史や技術という側面を含めて見る視線は、自分ではなかなか得られなかった。