玉村豊男「世界の野菜を旅する (講談社現代新書)」

珍味を食べて、それについて熱く語るエッセイが面白いのは当然だ。一方で、こんなにも日常生活に染み付いた普通の野菜について、その歴史やら文化やら著者の思い出やらを書いていって面白いエッセイはなかなかないと思う。

私の仕事は、ツアーガイドのようなものだと思っている。
目の前にある風景を指さしながら、そこに見えているものがなんであり、どういう歴史や文化の背景をもっているかについて、本で読んだ話や人から聞いた話を紡ぎ合わせながら、自分の体験を交えて説明する。
(p248「あとがき」より)

旅先で野菜を食し、自らも珍しい野菜をたくさん栽培してきた、野菜マニアと呼んでよいほどの著者。その本書における語りっぷりは、まさに野菜を巡るツアーガイドそのものである。野菜に関するウンチクは、実にグローバルながらも身近で、世界を旅している気分になれる楽しさがある。

ポルトガルの丸くならないキャベツ、ジャガイモとタラとの出会い、主食から飼料になっていったトウモロコシ、コショウと勘違いしたコロンブスが「ペッパー」と呼んだトウガラシ、シリアのナスのペースト…。他にも、これでもかと野菜のエピソードが、著者の経験とともに語られていく。

食事にはその土地に住む人々の文化がにじんでいる。物珍しい野菜は当初は嫌われるものだが、そのあとで馬鈴薯のように受容されるものもあれば、トウガラシのように地域により受け入れられないものもある。歴史的に、そして地理的に野菜の食べられ方について考えていくこの本は、まさに「世界の野菜を旅する」というタイトルに偽りなし。海外で野菜を食するところを想像すると、旅行欲が駆り立てられるし、実際に旅行するときには、もっと野菜に注目してみたいな、という気にさせられる。
6章立てになっているが、取り上げられる野菜は、私たちが普段食べるものについてはどこかでほとんど網羅されると言ってもいいほど。これをきっかけに、一つ一つの野菜についてもっと詳しくなっても良いな、と思わせてくれる。

…と思いつつ本棚にあったこれの本を読むと、これが写真満載でいろいろな野菜のイメージを高めてくれてよい。並べて読み返してみようか。

からだにおいしい 野菜の便利帳 (便利帳シリーズ)

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