手塚眞「父・手塚治虫の素顔 (新潮文庫)」

実際に読んだのは2年以上前。子どもができて今、あらためてぱらぱらとめくると、仕事が大好きな人間が、どうやって自分の子どもと向き合うか、ということについて考えさせられる。

本当に忙しい時、父は家族の前に滅多に姿を現しません。まるで天然記念物のようです。父の仕事中は家族といえども仕事場に近寄らない、仕事の邪魔をしないというのが暗黙のルールになっていました。それでも家族の信頼を失わなかったのは、父が何の仕事をしているか、それがどんなに大変か、全員が熟知していたからでしょう。(p47)

自分の仕事への厳しさ、こだわりと豊富なアイディア、同業者への意識と負けず嫌いさ、マンガ業界全体への強い愛情…。この天才については語られ尽くされていることとは思いながらも、その仕事への常人ではありえないほどのコミットぶりに、自らを振り返って身体が震えるほどだ。実際の業界への功罪などはおいておいて、個人として、好きなことを仕事にできたら、ここまでできてもいいはずだ!と思う気持ち半分。そこまでやったら普通は身体がもたない、と思う気持ち半分。
実際、それほどの仕事好きでありながら、周囲にとことん優しく気をつかい、サービス精神旺盛で、その忙しさゆえにやさしさが『半分くらい裏目にでていました(p167)』というエピソードは、それほど仕事が好きでありながら家族にも愛されていた理由を十分に物語っている。これで悠々と長生きなど無理な話なのかな、とすら感じられてしまう。
そんな手塚治虫の、仕事がやる気になる名言を最後にメモっておいて、自分への戒めとしたい。

連載がひとつでも、十本あっても、時間は同じだけかかるんです!(p77)

その通りだ!十本あればそれをハイクオリティでこなす方法は十分にある。そこまでして、ほんとうに世に影響を与える仕事なのだろう。