デムパの日記

あるいは「いざ言問はむ都鳥」普及委員会

子宮頸がんワクチンで不妊に?(3件追記しました)

新型インフルエンザワクチンが実は不妊化ワクチンで...という与太話についてはずいぶん前に書いた(参照)
最近になって、「子宮がんワクチンが実は不妊化ワクチン」「不妊化ワクチンで民族浄化」という与太話が出回っている。
前回の騒ぎと違うのは、この与太話が左翼・市民運動系ではなく、自民党支持層を中心とする保守系の人々にも積極的に受け入れられていること。
たぶん、性行為感染症の危険減少=性の乱れが増加、という発想なんだろう。
この思想が間違っているとまで言う気はないが、すくなくともワクチンで防げる病気を防ぐという公衆衛生上の問題と同じ土俵で論じるべきではないと思う。

ということで、以前書いた内容を子宮頸がんワクチンバージョンに改訂してみた。

最近認可された子宮頸がんワクチンを接種すると、不妊になるんだそうなw

理由は、使用されているアジュバントがペット不妊化ワクチンと類似だからだって。

( ゚д゚)ポカーン

某国政府の陰謀で日本人を民族浄化するためにわざと使用されてるんだってw

えっとぉ、どこから突っ込んでいいのか...。

まずは「ワクチン」「不妊」で検索してみてください。
あまりのトンデモぶりに目眩がします。


まずはじめに、子宮頸がんは特定のタイプのヒトパピローマウイルス(HPV)に性行為等で感染した時に発生する可能性のある癌です。
(他の多くのタイプは良性の"いぼ"を作るだけで、癌にはなりません)
感染した人全員が子宮頸がんになるわけではありませんが、子宮頸がんになったヒトはほぼ100%HPVに感染しており、HPVによる発がんメカニズムもある程度解明されています。
つまりHPVが子宮頸部に感染することを防げば、子宮頸がんは予防できるわけです。
ようするに発がん型HPVに対するワクチンを接種すれば、子宮頸がんを防ぐことが可能です。


つぎに、ワクチンっていうのは事前に病原体の"一成分"や"殺菌した病原体"を注射しておくことで、その病原体に感染したときに速やかに免疫性が活性化されて病原体を排除させるものです(不活化ワクチン)。

(一部には生ワクチンといって、弱毒化した病原体や病原性の弱い類似の病原体を接種するというやや荒っぽい?ものもありますが、ここではあまり関係ないので除外)

病原体そのものには強烈な免疫誘導作用がありますが、殺したものや成分の一部のみを取り出したものでは、十分な免疫作用が誘導されない場合があります。

そこで使用されるのが「アジュバント」免疫賦活剤とかいわれるものです。

だから、ワクチン=病原体の成分+アジュバント(+防腐剤)です、だいたいは。

つまり、

HPVの成分+アジュバント=HPVへの免疫=子宮頸がんの予防

インフルエンザウイルスの成分+アジュバント=インフルエンザへの免疫

C型肝炎ウイルスの成分+アジュバント=C型肝炎への免疫

動物の妊娠に関するタンパク+アジュバント=妊娠への免疫=家畜の不妊化

ということです。

ちなみにアジュバントの中身はだいたい水と油です。

これに各種成分を添加して、副作用を抑えつつ、いい感じに長期間免疫を活性化するための工夫がされています。

砂糖水は甘い、塩水はしょっぱい、でも、水に味はありませんよね?

不妊化ワクチンの本質は「妊娠に関わるタンパク」で、アジュバントではありません。

このアジュバントを使用して不妊になる可能性は事実上ないでしょう。

もちろん、子宮頸がんワクチンにも問題はあります。
一つは、現在認可されている子宮頸がんワクチンは、子宮頸がんを発症させる複数のHPVのタイプのうち、主要なもの2〜3種(子宮頸がんの約半数)にしか効かないということです。
だから、ワクチンに入っていないタイプのHPVに感染してガンになることは防げない。

でも、子宮全摘出and/or癌で死ぬ確率を50%も下げられるのであれば、ものすごい効果だとは思いませんか? なんといっても命がかかっているのですから。
ワクチンの重い副作用(100万人に一人くらい?)のリスクと比較しても、その価値は極めて高いと思います。

話は変わりますが、近年では薬害に対する訴訟の賠償金額が高騰しており、薬害問題は世界有数の製薬会社の屋台骨を揺るがすほどになってきています。

(そのとばっちりで、難病や患者の少ない病気の新薬開発がスローダウンしています)

そんな状況で、たとえ秘密情報局や軍情報部、秘密結社(笑)などの圧力があったとしても、ワクチンメーカー(製薬会社)が危ない橋を渡ると思いますか?
ワクチンを製造しているのは地下の秘密工場ではなく、世界に名だたる一流製薬会社です。

そんな危ない橋を渡るのは、CEOや社長が許しても、株主が許さないでしょう。
ばれたら株価暴落間違いないですからね。
(実際にメルクは鎮痛剤の薬害訴訟で300億円近い賠償を命じられ、株価が暴落しました)

ワクチンの効果と副作用の話は、道徳や思想とは切り離して、冷静に考えましょう。


追記:
ツイッターで「アジュバントは防腐剤じゃないよ」という、このブログに向けられたつぶやきを拝見しました。ご指摘ありがとうございます。
(@なかったから、危うく見落とすところでしたw)

おそらく「ワクチン=病原体の成分+アジュバント(+防腐剤)です」という部分についてのご意見だと思うんですが、もちろんアジュバントは防腐剤じゃありません。
ここの意味は、"ワクチンを構成する成分は、"病原体の成分"と"アジュバント"と"微量の防腐剤があったりなかったり"ということです。
そういうつもりで書いたんですが、わかりにくい表現で申し訳なかったです。

ちなみに防腐剤としては水銀系のチメロサールが有名です。
この物質は自閉症の原因だとしてたたかれ、そしてその後無罪が(ほぼ)認められたという経緯があります。
もちろん必要不可欠なもの以外は入ってない方が良いに決まっているので、最近のワクチンは防腐剤無添加のものも増えてきているようです。
当然ながら防腐剤無添加のものは、より厳重な品質管理(輸送・保管中も含めて)が必要となるので、コストは高くなるようです(使用期限も短くなりそうですが)。
このこと(輸送・保管・価格)は、日本では医療費の増加、途上国などでは田舎まで届けられないという問題を引き起こします。
難しい問題ですね。

さらに追記:
同じくツイッターで「子宮頸がん防止に男もなんかせい!(超訳w)」とのご指摘をいただきました。
確かに不公平な感じはしますね。
他の性行為感染症と違って男は子宮頸がんにはなりませんからねぇ。
一応男も同じウイルスで陰茎癌などになったりもするんですが、発がん率は低いようです。
この辺については少し時間をいただいて勉強し、後日ブログにアップしたいと思います。
ちょっと忙しいので、1ヶ月以内くらいを目標とさせてください。


2012年2月4日追記:
「実際にメルクは鎮痛剤の薬害訴訟で300億円近い賠償を命じられ、株価が暴落しました」と書きましたが、これは勘違いで実際はもっとずっと多かったです。
こちらに実際の賠償などについて書きました