正四角反柱の輪

 hhaseさんの「あそびをせんとや」に,正四角反柱の輪についての記事が書かれている等稜正四角反柱の模型を,対向する正三角形の面でどんどんつないでいくと,13個で環状になるそうだ。13個とは随分半端な数で,おそらく両端に隙間が残るか重なると思われる。自明ではないのでこれを計算してみた。

 正四角反柱の底面側面間の二面角を \theta とすると,正四角反柱を環状につなぐときの1つ分の角度は,対向する側面がなす角に等しいから, 2(\theta-\frac\pi{2})となる。
 よって13個分だと, 26(\theta-\frac\pi{2}) 。これが, 2\pi=360°に一致するかどうか調べればよい。

 正四角反柱の上下底面は,真上から見ると中心が一致して角度が45°ずれているから,
下面の頂点の座標を (\pm1,\pm1,0)とし,高さを h とすると,上面の頂点の座標は (\pm\sqrt{2},0,h),(0,\pm\sqrt{2},h) と書ける。
代表する点として, A(1,1,0),B(\sqrt{2},0,h),C(1,-1,0) の三点をとり,これらを頂点とする三角形 ABC が,正三角形であることから, h を算出する。
この三角形の辺長は,2であるから, AB の長さの自乗は,
(\sqrt{2}-1)^2+h^2+1^2=2^2
これを解くと, h=\sqrt{2\sqrt{2}} が得られる

三角形 ABC において, B から AC に下ろした垂線の足は AC の中点 H(1,0,0) であり,求める二面角 \theta は, BHx 軸のなす角である。
よって, \tan\theta=\frac h{1-\sqrt{2}}
\theta=\tan^{-1}(\frac{\sqrt{2\sqrt{2}}}{1-\sqrt{2}})
よって, \theta103.8362°となり, 26(\theta-\frac\pi{2})359.7402°

かなり近いが,360°に一致しない。誤差は僅か0.2598°で,なんと千分の一以下である。驚くほど誤差が小さい。


輪がぴったり一致しないことは,次のように考えても分かる。
もし正四角反柱13個をぴったり環状につなげるなら,この環の内周も外周も正十三角形になっているはず。これらの正十三角形の辺長の比は, 1:\sqrt{2} なので,各々の辺長を 2,2\sqrt2 と置くと,
内側の正十三角形の内接円半径は, \frac1{\tan\frac{2\pi}{26}}
外側の正十三角形の内接円半径は, \frac{\sqrt2}{\tan\frac{2\pi}{26}}
これらの差は, \frac{\sqrt2-1}{\tan\frac{2\pi}{26}} ≒1.68053。
h=\sqrt{2\sqrt{2}}≒1.68179であるから,僅かに異なる。つまり完全な環にはならない。


 上の議論は,次のようにして正2n角反柱に一般化できる
下面の頂点の座標を (\cos{\frac{(k+\frac1{2})\pi}{n},\sin{\frac{(k+\frac1{2})\pi}{n},0) とし,上面の頂点の座標を (\cos{\frac{k\pi}{n},\sin{\frac{k\pi}{n},h) とすると,
同様の計算により,h=\sqrt{2(\cos{\frac\pi{2n}}-\cos{\frac\pi{n}})}
\tan\theta=\frac{h}{\cos{\frac\pi{2n}}-1}=\frac{\sqrt{2(\cos{\frac\pi{2n}}-\cos{\frac\pi{n}})}}{\cos{\frac\pi{2n}}-1}
ただし,正二角反柱たる正四面体*1は,底面が線分(稜)に退化しているので,底面側面間の二面角を考えることはできない。よって,n≧2である。
ちなみにn=1の場合は, \theta は二面角ではなく,対向する側面がなす角 2\theta-\pi そのものが正四面体の二面角になる。 \theta を計算すると,
\theta=\tan^{-1}{\frac{\sqrt{2(\cos{\frac\pi{2n}}-\cos{\frac\pi{n}})}}{\cos{\frac\pi{2n}}-1}}
この値は約125.26439°なので,正四面体の二面角は約70.5288°と求まる。よって,正四面体を1つの稜周りに環状に並べていくと,5個並べたところで7.3561°あまりの隙間が残る。

n にいろいろな数を入れて試してみたが,ぴったり環状になる反角柱は見つからない。存在しないんじゃないかと思うが,証明はどうやるんだろう?近いものならある。
正24角反柱なら,83個でほぼ環状になる。角度はやや過剰で,誤差は \frac{2}{1000000} くらい。
正54角反柱では,187個で僅かに角度が過剰になる。誤差は \frac{4}{10000000} くらい。
これらは誤差こそ小さいものの,つなぐ数が無闇に多いし, n を多少増減しても反角柱があまりかわりばえしないので,それほど面白い結果ではない。やはり正四角反柱13個というのが興味深く,味わい深い。

もちろん以上はすべて等稜反角柱の話であり,側面を正三角形に限らなければ,ぴったり環状になるように調節することは可能だ。つまり,側面が二等辺三角形でよければ,高さをうまく調節して,任意の正2n角反柱(n≧1)に対して,3以上の任意の個数でぴったり環状になるようにつなぐことができる

*1:上底面が正n角形,下底面が正2n角形,側面に正方形と正三角形が交互に並ぶ,「n角台塔」という多面体があるが,二角台塔は正三角柱である。これはアルキメデスの角柱なので,ジョンソンの立体には入らないが,三角台塔,四角台塔,五角台塔や,二角台塔を下底面で貼り合わせた双二角反台塔(異相双三角柱)はジョンソンの立体である。ジョンソンの立体について詳しくはこちら。なお,正三角反柱は,正八面体である。