距離が2種類になる平面上の4点の配置

久々の更新になります。見ておられる方いるかどうか…。

まあそれはともかく,今回は平面幾何のパズルです。

問題はタイトルの通りなのですが,ちょっと簡略化した「平面上で,距離が1種類になる3点の配置は?」という問いなら簡単ですね。

答えはただひとつ。そう,正三角形の頂点の配置しかありません。

本題は「平面上で,距離が2になる4個の点の配置は?」というものですが,これはぐっと難しくなります。いくつかはすぐに思いつくと思いますが,全部で6パターンあります。

答えは下のリンク先にまとめてありますので,できた方,ギブアップの方は御覧ください。次元を上げたバージョンについても考察しています。

互いの距離が2種類であるような平面上及び空間内の点配置について - Togetterまとめ http://togetter.com/li/868781

ラウスの定理から

久々の更新。メモ程度だけど。

入試問題とかで有名な話。
三角形の各辺の三等分点と,それぞれに向かい合う頂点を,向きを揃えて結ぶと,もとの三角形の1/7の面積の三角形ができる。

これはラウスの定理の一例になっている。
http://en.wikipedia.org/wiki/Routh's_theorem

三等分点は各辺に対して二つあるけど,向きを揃えて結べば,もとの三角形の1/7の面積の三角形ができるのは同じ。これは当たり前。

五等分点にすると,小三角形の面積は3倍になる。
三角形の各辺の五等分点(頂点に近い方)と,それぞれに向かい合う頂点を,向きを揃えて結ぶと,もとの三角形の3/7の面積の三角形ができる。

五等分点には,頂点から遠いものもある。
三角形の各辺の五等分点(頂点から遠いもの)と,それぞれに向かい合う頂点を,向きを揃えて結ぶと,もとの三角形の1/19の面積の三角形ができる。

向きを揃えなければ,また面積が変わってくる。
三角形の各辺の三等分点と,それぞれに向かい合う頂点を,向きを揃えずに結ぶと,もとの三角形の1/70の面積の三角形ができる。向きを揃えたときの1/10の面積に。

五等分点になると,だいぶ数字が汚くなってくる。
三角形の各辺の五等分点(頂点に近いもの)と,それぞれに向かい合う頂点を,向きを揃えずに結ぶと,もとの三角形の2/63の面積の三角形ができる。向きを揃えたときの2/27の面積。

とりあえず最後。
三角形の各辺の五等分点(頂点から遠いもの)と,それぞれに向かい合う頂点を,向きを揃えずに結ぶと,もとの三角形の3/532の面積の三角形ができる。向きを揃えたときの3/28の面積。

準結晶と菱形多面体

 今年のノーベル化学賞は,準結晶の発見者,ダニエル・シェヒトマン氏だそうです。
 準結晶については,佐藤郁郎さんの「今月のコラム」で聞きかじっていて,なんとなく知ってはいたのですが,偉大な業績だったんですね。
 佐藤さんの,5回対称性と準周期的結晶によれば,シェヒトマン氏の発見した合金の準結晶は,ペンローズタイルを3次元空間に一般化したものだそうです。ペンローズタイルは,黄金菱形六面体による非周期的な空間充填を,二次元平面に投影したもの。非周期的な平面充填形として有名です。今回のノーベル賞は,化学だけでなく,物理や幾何学とも密接なかかわりをもつ研究成果に与えられたのですね。
 菱形多面体は,高次元の立方体の三次元空間への投影になっています。菱形多面体について,いくつか記事を書いているので,そのリンクを貼っておきます。

・菱形多面体と正多面体
・菱形十二面体のCG
・菱形三十面体のCG
・菱形充填
・黄金菱形多面体
・黄金菱形六面体を積み上げる
・黄金菱形六面体を積み上げる(その2)
・菱形六十面体と大きな菱形三十面体


↑左が菱形六十面体,右が菱形三十面体

 最後の「菱形六十面体と大きな菱形三十面体」では,黄金菱形六面体を積み上げて,菱形三十面体を作っていますが,これを平面に投影するとペンローズタイルの一部が得られます。この菱形三十面体からさらに外側に黄金菱形六面体を積み上げていくことができて,しまいには空間が充填できます。これを二次元に投影すれば,完全なペンローズタイルが得られます。
 ペンローズタイルは二次元の準結晶。三次元の準結晶は,より高次元の結晶の三次元への投影になっているというわけです。

立方体の爆縮

・立方体の爆発

 立方体は,各面を底面とする6個の合同な正四角錐に分割することができる。これらの正四角錐は,頭頂点がすべて立方体の中心に集まっている。この状態から,正四角錐をまっすぐ外へ移動させていくと,立方体が6個の破片になって飛んでゆくように見える。いわば立方体の爆発である。
爆発6.gif 直動画はこちら
 立方体は八面体対称である。そして立方体を上のように6の破片に分割した図形も八面体対称である。この対称性は,破片が移動しても損なわれることはないから,爆発の全過程を通じて八面体対称は保たれている。

・空間充填八面体
 6個の正四角錐は,底面が互いに垂直な3つの方向を向いている。正八面体を,断面が正方形になるように二等分した形をしている。これを2つ集めると,正八面体を1つの点心軸方向に潰した形の八面体(双正四角錐)ができる。8つの面はすべて合同な二等辺三角形である。

 この八面体は,これ一種類だけで空間を充填する。平行移動のみでは充填できないが,3つの直交する方向に向けて並べてやればよい。立方体による空間充填において,各立方体を6つの正四角錐に分割し,底面を共有する2つをくっつけて双正四角錐にすれば,この八面体による空間充填が得られる。

 この空間充填から八面体をうまく6個取り出すと,菱形十二面体になっている。もちろん,菱形十二面体は平行移動によって空間を充填する立体である。菱形十二面体の平行移動による空間充填を,さらに細かくしたものが,上の八面体による空間充填と一致する。

・立方体の爆縮
 爆発とは逆に,破片が内側に飛んでいくとすると,どのような図形が得られるだろうか?破片同士は干渉せずに互いにすり抜けるとする。内側に爆発するのでこれを爆縮と呼ぼう。
 初めのうちは,各角錐の頭頂点は,図形の内側に隠れていて表に現れてこない。角錐の底面付近が隣接する角錐底面と重なり合って縁取りのようになり,その縁取りがどんどん太くなっていく。

 あるところで,菱形十二面体の星型が現れる(上右図)。「星型」とは,多面体の面を多面体の外へずっと広げていって,他の面と交叉したところを稜とした多面体である*1。これは先ほどの空間充填八面体3つの複合多面体と見ることもでき,3つの八面体の共通部分が芯の菱形十二面体になっている。

 さらに移動が進むと,角錐の底面(正三角形)が内側,側面(直角二等辺三角形)が外側に来て,内部にまるっきり立方体の空洞ができる。この状況がしばらく続いて,角錐相互の重なりが解消すると,角錐底面が立方体の面の位置に来る。これは菱形十二面体そのものである。菱形十二面体は立方八面体の双対であり,実は爆縮の過程を通して一貫して見えている。中央の一点から始まって,爆縮が進むにつれてどんどん大きくなる。
 以上の過程を動画にしてみた→爆縮6.gif 直
 動画をじっくり見ていると,内部の菱形十二面体がだんだん大きくなっていく様子がわかるはずだ。
 爆縮の場合も爆発の場合と同様に,全過程を通じて図形は八面体対称である。

・立方体のひねり爆縮
 この爆縮にひねりを加えてみよう。角錐を少しづつ回転させながら飛ばすのだ。ライフルの弾丸のように。このひねり爆縮の間,図形は八面体対称であるが,鏡映対称とは限らず,一般にキラルな図形になる。

 回転角度をうまく調節して,最終的に角錐の底面が,立方八面体の正方形の面の位置に来るようにしてみよう。これで立方八面体にツノをつけた形が得られる。爆縮が始まってからずっと失われていた鏡映対称性が,この時点で再び回復している。外観は,正八面体を膨らましたような形だ。正八面体の紙風船があったら,こんな形だろうか。
 動画はこちら→ひねり爆縮6.gif 直

*1:多くの場合,どの面とどの面の交叉を稜とし,どの稜とどの稜の交叉点を頂点とするかによって,一つの多面体から複数種の星型多面体が得られる。菱形十二面体の場合は自身を含めて5種の星型がある。

正八面体の爆縮

・正八面体の爆発

 正八面体は,各面を底面とする8個の合同な正三角錐に分割することができる。これらの正三角錐は,頭頂点がすべて正八面体の中心に集まっている。この状態から,正三角錐をまっすぐ外へ移動させていくと,正八面体が8個の破片になって飛んでゆくように見える。いわば正八面体の爆発である。
爆発8.gif 直動画はこちら
 正八面体は八面体対称である。そして正八面体を上のように8の破片に分割した図形も八面体対称である。この対称性は,破片が移動しても損なわれることはないから,爆発の全過程を通じて八面体対称は保たれている。

・正多面体による空間充填
 8個の正三角錐は,3つの側面が互いに垂直。立方体の1つの頂点を,断面が正三角形になるように切り取った形をしている。これを4つ集めると,中に正四面体の空洞がある立方体ができる。正四面体の稜は立方体の各面の対角線と一致していて,正四面体は立方体に内接している。

 ということは,稜長1の正八面体1つと,同じく稜長1の正四面体2つから,稜長√2の立方体が2つ作れるということだ。これは空間充填と関係がある。
 たくさんの正八面体を,互いに稜が一致するように平行移動しながらつなげていく。そのとき,隣接正八面体の面同士は重ならず,間に隙間ができる。この隙間は,4つの正八面体の面で囲まれているので,正四面体である。
  
 上右図で,正四面体の窪みができているのがわかるだろう。だから正八面体間の隙間を埋めると,正八面体と正四面体による空間充填になる。この空間充填において,正四面体は,周りの4つの正八面体から正三角錐を1つづつもらって立方体になれる。正八面体の周りには8つの正四面体があるから,この操作によって正三角錐は余らずに,立方体による空間充填が得られる。目を凝らして上右図を見れば,個々の正八面体の内部に隠れている稜線がその立方体の稜になっているのがわかる。
 正多面体のみによる空間充填は,この二種類しか存在しない。その二種類が,このように相互に変換可能なのである。

・正八面体の爆縮
 爆発とは逆に,破片が内側に飛んでいくとすると,どのような図形が得られるだろうか?破片同士は干渉せずに互いにすり抜けるとする。内側に爆発するのでこれを爆縮と呼ぼう。
 初めのうちは,各角錐の頭頂点は,図形の内側に隠れていて表に現れてこない。角錐の底面付近が隣接する角錐底面と重なり合って縁取りのようになり,その縁取りがどんどん太くなっていく。

 あるところで,一様多面体の星型切頂六面体が現れる(上右図)。一様多面体とは,正多角形のみでできていて,どの頂点も区別のつかない多面体である*1。正多面体や半正多面体は凸な一様多面体であり,星型正多面体は非凸な一様多面体である。
 星型切頂六面体も非凸な一様多面体で,星型正八角形(正8/3角形)6枚と,正三角形8枚でできている。正八面体の破片は,正三角形を底面とし,底角45°の二等辺三角形*2を側面とする正三角錐なので,これ8個で,正三角形は8枚。二等辺三角形は24枚で,4枚づつ重なって星型正八角形を形づくる

 さらに移動が進むと,角錐の底面(正三角形)が内側,側面(直角二等辺三角形)が外側に来て,外形がまるっきり立方体になる。この状況がしばらく続いて,角錐相互の重なりが解消すると,角錐底面が立方八面体の正三角形の面の位置に来る。これは立方八面体にツノをつけた形になっている。立方八面体は,立方体を稜の中点まで切頂した形であって*3ツノがまさに切られた頂点に該当する。
 立方八面体の正三角形の面の位置は正八面体と共通だが,角度は60°ずれている。正八面体では,対向する平行な面がちょうど60°回転した関係にある(面心図参照)ので,正八面体の爆縮で立方八面体ができるのだ。
 以上の過程を動画にしてみた→爆縮8.gif 直
 爆縮の場合も爆発の場合と同様に,全過程を通じて図形は八面体対称である。

・正八面体のひねり爆縮
 この爆縮にひねりを加えてみよう。角錐を少しづつ回転させながら飛ばすのだ。ライフルの弾丸のように。このひねり爆縮の間,図形は八面体対称であるが,鏡映対称とは限らず,一般にキラルな図形になる。

 回転角度をうまく調節して,角錐が自分の高さの2倍の距離移動したときに60°回っているようにしてみる。このとき角錐の底面は,もとの正八面体の面と一致しているので,これは正八面体にツノをつけた形になっている。爆縮が始まってからずっと失われていた鏡映対称性が,この時点で再び回復している。
 動画はこちら→ひねり爆縮8.gif 直
 爆縮とひねり爆縮のいづれにおいても,その過程では,正三角錐8個からなる複合多面体*4が現れている。ひねり爆縮の場合,途中で角錐の底面が2個づつ一致して,双三角錐4個からなる複合多面体になる瞬間がある。右図に示したものが,その三角錐4個の複合多面体である。もちろん正複合多面体*5ではない。
 双三角錐ごとに色分けして表示したものも掲げておこう。

*1:これに対して,正多角形のみでできていて,どの頂点の区別がつく凸多面体がジョンソン立体である。

*2:もちろんこれは直角二等辺三角形

*3:もちろん立方八面体は,正八面体を稜の中点まで切頂した形でもある。

*4:互いに交叉する複数の多面体を,その位置関係を含めて一括してとらえた三次元図形。多面体の複合体。

*5:すべての面,すべての稜,すべての頂点がそれぞれ区別できない複合多面体で,5種類ある。

正二十面体の爆縮

・正二十面体の爆発

 正二十面体は,各面を底面とする20個の合同な正三角錐に分割することができる。これらの正三角錐は,頭頂点がすべて正二十面体の中心に集まっている。この状態から,正三角錐をまっすぐ外へ移動させていくと,正二十面体が20個の破片になって飛んでゆくように見える。いわば正二十面体の爆発である。
爆発.gif 直動画はこちら
 正二十面体は二十面体対称である。そして正二十面体を上のように20の破片に分割した図形も二十面体対称である。この対称性は,破片が移動しても損なわれることはないから,爆発の全過程を通じて二十面体対称は保たれている。
 20個の三角錐は,正四面体にとても近い形をしている。実際,この正三角錐の側面(二等辺三角形)の等辺の長さは,正二十面体の外接球半径に等しい。正二十面体の稜長1として外接球半径は約0.951なので,誤差は5%ほど

・正二十面体の爆縮
 この逆に,破片が内側に飛んでいくとすると,どのような図形が得られるだろうか?破片同士は干渉せずに互いにすり抜けるとする。内側に爆発するのでこれを爆縮と呼ぼう。

 初めのうちは,各角錐の頭頂点は,図形の内側に隠れていて表に現れてこない。角錐の底面付近が隣接する角錐底面と重なり合って縁取りのようになり,その縁取りがどんどん太くなっていく。角錐の重心が一致するくらいまで移動が進むと,図形の外形は最も小さくなる。

 その後はどんどん大きくなって,今度は角錐底面が図形の内側に隠れる。あるところで,菱形六十面体によく似た恰好が現れる(左図)。尖り具合がたいぶ足りないが…。菱形六十面体(右図)は,黄金菱形60枚からなる凹多面体で,花形十二面体とも呼ばれている。過去のエントリでもう少し解説している。

 さらに移動が進むと,角錐の底面同士の間に正五角形の隙間が現れて,角錐底面が二十十二面体の正三角形の面の位置に来る。このとき,二十十二面体にツノをつけた形になっている。二十十二面体は,正二十面体を稜の中点まで切頂した形である*1正三角形の面の位置は正十二面体と共通だが,角度は60°ずれている。正二十面体では,対向する平行な面がちょうど60°回転した関係にある(右の面心図参照)ので,正二十面体の爆縮で二十十二面体ができるのだ。
 以上の過程を動画にしてみた→爆縮.gif 直
 爆縮の場合も爆発の場合と同様に,全過程を通じて図形は二十面体対称である。

・正二十面体のひねり爆縮
 この爆縮にひねりを加えてみよう。角錐を少しづつ回転させながら飛ばすのだ。ライフルの弾丸のように。このひねり爆縮の間,図形は二十面体対称であるが,鏡映対称とは限らず,一般にキラルな図形になる。

 回転角度をうまく調節して,角錐が自分の高さの2倍の距離移動したときに60°回っているようにしてみる。このとき角錐の底面は,もとの正二十面体の面と一致しているので,これは正二十面体にツノをつけた形になっている。爆縮が始まってからずっと失われていた鏡映対称性が,この時点で再び回復している。
 正多面体の正三角形の面に,正四面体のツノを取り付けた多面体は,ダビンチの星と呼ばれることがある。正二十面体のひねり爆縮で得られるこの図形は,ツノが正四面体に近いので,ダビンチの星によく似ている。多面体おもちゃのポリドロン正三角形を20*3=60個使ってこのダビンチの星が作れる。
 動画はこちら→ひねり爆縮.gif 直
 ひねり爆縮の過程では,意外な多面体も現れる。複合多面体*2だ。正四面体5個の正複合多面体である。もちろん正三角錐が正四面体と一致しないので,完全な正複合多面体*3にはなっていないのだが,結構オドロキの結果ではないだろうか。20個の正三角錐が4個づつ重なって,それが5つの正四面体に見える。

 正四面体5個の正複合多面体と同様,この図形も鏡映対称性がないキラルな図形である。ひねる方向を反対にすると,もとのものの鏡像が現れる
 正複合多面体については,この記事この記事を参照。

*1:もちろん二十十二面体は,正二十面体を稜の中点まで切頂した形でもある。

*2:互いに交叉する複数の多面体を,その位置関係を含めて一括してとらえた三次元図形。多面体の複合体。

*3:すべての面,すべての稜,すべての頂点がそれぞれ区別できない複合多面体で,5種類ある。

正十二面体の爆縮

・正十二面体の爆発
 正十二面体は,各面を底面とする12個の合同な正五角錐に分割することができる。これらの正五角錐は,頭頂点がすべて正十二面体の中心に集まっている。この状態から,正五角錐をまっすぐ外へ移動させていくと,正十二面体が12個の破片になって飛んでゆくように見える。いわば正十二面体の爆発である。
爆発12.gif 直動画はこちら
 正十二面体は二十面体対称である。そして正十二面体を上のように12の破片に分割した図形も二十面体対称である。この対称性は,破片が移動しても損なわれることはないから,爆発の全過程を通じて二十面体対称は保たれている。

・正十二面体の爆縮
 この逆に,破片が内側に飛んでいくとすると,どのような図形が得られるだろうか?破片同士は干渉せずに互いにすり抜けるとする。内側に爆発するのでこれを爆縮と呼ぼう。

 初めのうちは,各角錐の頭頂点は,図形の内側に隠れていて表に現れてこない。角錐の底面付近が隣接する角錐底面と重なり合って縁取りのようになり,その縁取りがどんどん太くなっていく。あるところで,半正多面体*1の一つ,斜方二十十二面体*2によく似た恰好が現れる。

 角錐の重心が一致するくらいまで移動が進むと,図形の外形は最も小さくなる。
 その後はどんどん大きくなって,今度は角錐底面が図形の内側に隠れる。前回記事のコメントでoodzunadairaさんに御指摘いただいた,央菱形三十面体に似た図形も現れてくる。



 さらに移動が進むと,角錐の底面同士の間に正三角形の隙間が現れて,角錐底面が二十十二面体の正五角形の面の位置に来る。このとき,二十十二面体にツノをつけた形になっている。二十十二面体は,正十二面体を稜の中点まで切頂した形である。正五角形の面の位置は正十二面体と共通だが,角度は36°ずれている。正十二面体では,対向する平行な面がちょうど36°回転した関係にある(右の面心図参照)ので,正十二面体の爆縮で二十十二面体ができるのだ。
 以上の過程を動画にしてみた→爆縮12.gif 直 爆縮の場合も爆発の場合と同様に,全過程を通じて図形は二十面体対称である。

・正十二面体のひねり爆縮
 この爆縮にひねりを加えてみよう。角錐を少しづつ回転させながら飛ばすのだ。ライフルの弾丸のように。このひねり爆縮の間,図形は二十面体対称であるが,鏡映対称とは限らず,一般にキラルな図形になる。
 回転角度をうまく調節して,角錐が自分の高さの2倍の距離移動したときに36°回っているようにしてみる。このとき角錐の底面は,もとの正十二面体の面と一致しているので,これは正十二面体にツノをつけた形になっている。爆縮が始まってからずっと失われていた鏡映対称性が,この時点で再び回復している。

 動画はこちら→ひねり爆縮12.gif 直
 ちょっと見たところ,この図形は小星形十二面体と一致するようにも思える。小星形十二面体は,正5/2角形(星型正五角形)12枚からなる自己交叉タイプの正多面体だ。星型正多面体についてはこちら。右の図では同じ面を同じ色で塗ってある。ツノに隠れて見えない部分にも面がある。小星形十二面体と一致するなら,角錐の底面と,隣接する角錐の側面は面一のはずだが,どうだろうか?
 答えは否である。なぜなら,正十二面体の二面角は約116.6°で,120°ではないからだ。正十二面体の二面角が120°なら,角錐の底面と側面の間の二面角は60°となるから,120°+60°=180°で,角錐の底面と隣接角錐の側面が面一になる。実際にはこの角度は180°でなく,約116.6°×3/2=約175.0°になるので約5°足りない。そういえば,どことなくふっくらしている。小星形十二面体に比べて,ツノの高さが少し足りないのだ。

 多面体おもちゃのポリドロンには底辺1,等辺√2の二等辺三角形があって,これを60個使って小星形十二面体が作れる(左図)。こうしてできる形も,小星形十二面体にはならなくて,すこしふっくらしている。ぴったり小星形十二面体になるには,二等辺三角形の底辺の長さ1に対して,等辺の長さが\phi\simeq1.618でなくてはならない。\sqrt{2}\simeq1.414とだいぶ違うが,模型をぱっと見た感じではそれほど違和感はない。
 正十二面体の稜長を1として,それぞれのツノの高さを計算してみると,小星形十二面体は約1.376なのに*3対し,ポリドロンでは約1.130で*4,ひねり爆縮では約1.114となる*5。なんと,どちらも高さは2割近く足りなかったわけだ。道理でふっくらしている。

・正二十面体では…
 さて,以上,正十二面体の爆発,爆縮を見てきたが,これを正二十面体にそっくり置き換えて考えてみたらどうなるだろう。何か興味深い多面体が現れるだろうか?次回,検討してみたい。

*1:複数種類の正多角形を面とする多面体のうち,各頂点まわりの面の並び方が同一で,どの頂点も区別のつかない多面体。

*2:正十二面体の稜をすべて切り開いて,切り離された面を正方形でつなぎ,残った穴を正三角形で塞いだ形

*3:側面が鋭角黄金三角形の正五角錐の高さ

*4:側面が底辺1等辺√2の二等辺三角形の正五角錐の高さ

*5:正十二面体の内接球半径