『対話の可能性』対談テキストアーカイブ目次


      1. ◆ フキンシンな美学 (リンク先)
      2. ◆ ペテン師の目眩くアレゴリー的世界 (リンク先)
      3. ◆ 質疑応答 〜ミヤダイ×カタン流『14歳からの社会学』実践篇?! (リンク先)

※ 本アーカイブはブログを利用した簡易アーカイブです。日付はテキストの前後関係を維持するためのナンバリングとして使用しており、実際の収録日付/公開日付とは無関係です。予めご了承いただきたくお願いいたします。

『対話の可能性』vol.1 「デタラメでキレイになる。」 1

トランスクリプト『対話の可能性』vol.1 「デタラメでキレイになる。」 (2008年12月18日 渋谷 UPLINKで収録)
1◆フキンシンな美学

宮台真司(以下、宮台):おつかれさまでした。よろしくお願いします。とはいえ、僕の話なんかに時間使うのはもったいないよぉ。もっとライブやらないの?
日比谷カタン(以下、カタン):(ライブでは)ちょっとしゃべりすぎてしまって、ホントに集中が切れそうになりましてねえ。あのまんまいっちゃうとホントに色んなことがどうでもよくなってホントにデタラメになるんですよ。まあ、そのほうがキレイになるんであれば、ライブなんてやめちゃったほうがいいですけど。...みたいな話をするんですよね(笑)。あ、強引ですか?(※客席に向かって※)デタラメなんだからいいじゃないですか。
宮台:みんなに聴いていい? 今日さ、カタンさんを初めて見た人ってどのくらいいるの? 半分くらい? 僕ね、カタンさんのライブを最初に見たのが、チェコ大使館で開催されたシュヴァンクマイエル*1についてのドキュメンタリー作品の上映会なのね。これは上映とライブを組み合わせた複合イベント*2でした。僕はそのとき、シュヴァンクマイエル人形アニメよりもカタンさんのパフォーマンスのほうが面白いと思いました。そのしばらく後、チェコ大使館も絡んで、シネセゾンシュヴァンクマイエル映画特集のオールナイトイベント*3があったんです。そのとき全体のスピーチを僕が頼まれた。シュヴァンクマイエルというと、ある時期からゴスロリ系の女の子が集まって見るようなゴスロリアイテムになって、その場にもゴスロリがうようよいたんです。だから「お耽美を期待して見にきて、期待通りお耽美を楽しんで帰るようなヤツは、人形劇の本当の面白さを知らない。チェコには、ブジェチスラフ・ポヤル*4とか、イジートルンカ*5とか、必ず見る側の期待を裏切って名状しがたい何かを観客に持ち帰らせる作家たちがいるんだ」という話を...
カタン:...上映の前にしたんですよ。
宮台:上映の前にしたんですよ。(会場:笑)
カタン:凄いですよね(笑)。私も客席の後ろで笑いをこらえていたんですけど。
宮台:(カタンさんは)笑ってました! シネセゾンの上映会が、チェコ大使館のときみたいに、日比谷カタンのパフォーマンスが見られるイベントであれば、「日比谷カタンさんのほうが全然面白いよ」って言いたかったんです。チェコ大使館で見たときに思ったのは、「カタンさんは人形よりも人形っぽい」ってこと(会場:笑)。人形ってのは、形代(かたしろ)であって、実体が何なのかよくわからないのがポイントです。モノかと思えばヒトのようでもあり、ヒトかと思えばモノのようでもある。チェコ大使館のときも、この人は芸術なのか、芸術家のフリをした食わせものなのか。なんだかよくわからない存在だと思ったんです。
カタン:...僕なんかただのいちデザイナーなんですけどね(会場:笑)。本当に、そういう風に言っていただけるのは有難いんですけど、僕の中ではあまり芸術とかの意識がないので....
宮台:僕ね、今日のライブ聞きながら、いっぱいメモしちゃったんですよ。

*1:ヤン・シュヴァンクマイエル:1934年チェコスロバキアプラハ生まれ。シュルレアリスト、アニメーション/映像作家、映画監督。長編映画作品に『アリス』(1988)、『悦楽共犯者』(1996)、『ルナシー』(2005)などがある。

*2:2007年9月4日(火) チェコ大使館で開催された「[シュヴァンクマイエルのキメラ的世界]と[日比谷カタン]を2007年9月4日(火)チェコセンターに於いて鑑賞する悦楽共犯者たち。」http://www.geocities.jp/qulwa/chimeres-katan.html のこと。『ヤン&エヴァ シュヴァンクマイエル展〜アリス、あるいは快楽原則〜』(http://www.lapnet.jp/eventinfo/img/cm/lm/070825_svankmajer/content.html)の関連イベントとして開催

*3:2007年9月8日エスクァイアマガジンジャパン&コロムビアミュージックエンタテインメントpresents「シュヴァンクマイエル ナイト」シネセゾン渋谷でシュヴァンクマイエルの13作品を上映した。http://columbia.jp/prod-info/XT-2485-6/info.html

*4:ブジェチスラフ・ポヤル:1923年生まれ。チェコの代表的なアニメ作家。人形、レリーフ、切り絵、セルなど色々な素材を使い分け、カンヌでの最優秀短篇映画賞を皮切りに、ベルリンやアヌシー等の映画祭で数々の賞を獲得。作品に『飲みすぎた一杯』『ライオンと歌』など。

*5:ジートルンカ(1912-1969):プルゼニュ生まれ。チェコを代表する人形アニメ監督にして人形作家、絵本作家。

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『対話の可能性』vol.1「デタラメでキレイになる。」 2

トランスクリプト『対話の可能性』vol.1 「デタラメでキレイになる。」 (2008年12月18日 渋谷 UPLINKで収録)
2◆ペテン師の目眩くアレゴリー的世界

宮台真司(以下、宮台):でもね、僕はね、今日、カタンさんのライブを見た後に、トークでここに上がるのはしんどいですよ。
日比谷カタン(以下、カタン):いえいえいえ、そんなことないですよ!! だって、そんな....
宮台:そんなことあるんですよっ! この本(『<世界>はそもそもデタラメである』*1)で長々と書いていることって、結局「カタンさんの芝居を見て、すげーって思ういう感覚がいいんじゃないの?」って言ってるんです。この本ではいろいろな映画や演劇を扱っていますけど、結局それを言いたい。カタンさん的なパフォーマンスこそがすべての元型だって言ってるんです。別に元型が神聖という意味じゃない。逆です。僕たちは、何万年もずーっと長い間、初期のオペラのように、いかがわしきものに眩暈してきたのに、「何、最近まじめになってんの?!」みたいな。
カタン:そうでしょうね。そういう感じがしますね。
宮台:ですよね。そういう感じで、すげー真面目に書いていたのに、カタンさんの圧縮されたパフォーマンスに、一瞬で完全に並ばれかつ凌駕されてしまうってことですよ。「言葉ってキツイっすよね」って感じ。(笑)
カタン:...もう、いや、何て言うんですかね。(※ほめられて恐縮して狼狽※)
...恥ずかしいんで、話を強引に他の話に振りますけど。(笑)
僕がテレビで宮台さんを初めて拝見したとき....その時の議論のやりとり・切り返し方とか「今、なんかの発言について怒っている人がいるけど、宮台さんは怒らずに、こういうふうに言った」ってのが、凄いカッコよかったんですね。一挙手一投足を覚えているわけではないんですけど。「あ、こういう状況であんな風に話せるのは、凄く面白い!」と思ったんです。語られている専門用語的なことは全然わからなかったにもかかわらず、話が面白い。宮台さんは、今自分はどういうメディアで何を発言しているのか、ということをちゃんと踏まえているというスタンスが、僕には凄くカッコ良く見えた。他の人がどんどん破綻してしまって、もうただ「わーーーっ」ってなってるだけの中に、宮台さんがポツンと言った一言がもの凄く粋だったりすると「おおおっ」って思ったんです。

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『対話の可能性』vol.1「デタラメでキレイになる。」3

トランスクリプト『対話の可能性』vol.1 「デタラメでキレイになる。」 (2008年12月18日 渋谷 UPLINKで収録)
3◆質疑応答 〜ミヤダイ×カタン流『14歳からの社会学』実践篇?!

宮台真司(以下、宮台):今日は会場からの質問は?
日比谷カタン(以下、カタン):この期に及んで、私に質問をしたい方がいれば。デタラメなことしか言いませんが。あと宮台先生に直に今回のトークの内容と全然関係ないことを質問していただいてもいいと思います。では、生き急いだ方は、ちょっと手をあげていただけますでしょうか。
...そこの後ろの某I社の社員の方、どうぞ。
質問者1(高木大地(プログレバンド"金属恵比須"/"内核の波"キーボード奏者)、以下Q1):「言葉を信じない」って言っていましたけれど、本自体は言葉でできているじゃないですか?それを、生業とは言いませんけど、それでメシを食うってことは、それは見世物なんでしょうか?それとも「伝えたいことはデタラメなんだよ」ということでしょうか?「キーワード」って言葉も出てきましたけれど、「キー」も「ワード」も言葉を信じていないと「キーワード」という言葉は使えないんじゃないか?と思うのですが。
宮台:いいとこついてますよね。そこがポイントなんです。もちろん、言葉で書いて、感動や効果を引き起こそうと狙っているわけです。そこは、シンボルを道具として有効に使おうとしているわけですよ。ただ僕は、何度も自己言及してきたように、「あのミヤダイがこんなもの書いてるの?」っていう〈ミヤダイ〉レベルで享受していただきたいっていう気持ちがあるわけです。そこまでいくと、僕は自分がどう享受されるかはよくわからないです、というのが正直なところ。「あのインチキ野郎が書いちゃってよー」みたいなのが超いいんですよ。そこを楽しんでいただけているかなっていうのが、ねらっているけど、わからないところです。まぁ「こいつインチキじゃん」みたいに、友達に口角泡を飛ばして叫んで興奮する馬鹿がたくさん出て来ると、ますます面白い見世物になるとは思ってますが。
カタン:楽しめるかどうかの問題にもなってくるんですよね。

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『対話の可能性』対談テキストアーカイブ公開に寄せて 企画・立案 野田夏枝

★お待たせしました★

大変長らくお待たせしました。
日比谷カタン×UPLINK presents Live&Talk show「対話の可能性」過去6回分のトークのトランスクリプトテキストのアーカイブを公開させていただきます。お待たせして申し訳ありませんでした。そして、お待ちいただきましてありがとうございます。
まずは、こちらから、宮台真司さんをお迎えした第1回のテキストをご堪能ください。第2回以降についても順次公開を予定しています。どうぞご期待ください。

このテキストの筆者は、本企画の裏方スタッフの1人です。今回のアーカイブ化にあたり、この連続企画のそもそもの企画意図、発想の背景などを舞台裏からの視点で簡単にご説明させていただきます。

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はじめに。 日比谷カタン

改めましてご挨拶申し上げます。
ライブ&トークショー「対話の可能性」司会進行の日比谷カタンと申します。
この企画の立案者・野田夏枝による「『対話の可能性』対談テキストアーカイブ公開に寄せて
をお読みいただいて、このトークショーとそのアーカイブ化の意図は概ねご理解いただけたと思います。
今回このアーカイブ公開にあたり、前置き的には少々長くなりますが
「対話の可能性」について、私自身の考え方を記しておこうと思います。

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「ひねくれまくる正攻法の人、日比谷カタンが推奨するプログレッシブな正常位としての対話とその可能性を、ご家庭で是非一度お試しください」 倉持政晴(UPLINK)

趣味と仕事がごっちゃになった挙げ句、双方の意味性が消失してしまい、まるでがらんどうの空間に取り残されてしまったような虚しさを感じながら悶々としていた時期に日比谷カタンさんと出会いました。


所謂“表現の現場”に10年間立ち会ってきた中で、ある種のスランプのような状況に陥っていた僕にとって、カタンさんの在り方は新鮮に映るどころか正しく目から鱗でした。


「自分は音楽家ではない」と嘯きながらも確かな作曲能力と演奏技術を持ち合わせ、自らが歌の中に作りあげる複雑怪奇な世界の住人に成り済ますことによって初めて実現するという表現の特殊性。


この世に蔓延るありとあらゆる矛盾をかき集め、一旦それらを脳内ミキサーにぶち込み、その中からごくわずかな量だけ絞り出される高純度/高濃度の表現のみを観客にサーブしようとする表現者としての誠実な姿勢。


そういったカタンさんの理論やアイデアの源泉をもっと探ってみたいという欲求に駆られ、ゲストとの対談とライブで構成されるイベントができないかとこちらから話を持ちかけたことが切っ掛けとなって、UPLINKでのシリーズ「対話の可能性」が始まりました。


今、文字に起こされた対談の記録を読むにつけ、僕はその時の会場の空気や出演者の表情を思い出すことができます。
また、その場で語られていた話題の中から新しい切り口を発見することもできます。
それはまるで自分の記憶と記録が対話をしているかのような感覚で、奇妙な心地よさがあります。


記憶と記録の蝶番の役目を果たす対話の可能性。
この贅沢な仕掛けを皆さんにも是非楽しんでいただきたい…と切に願う次第です。