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2008-06-16 資本主義とキリスト教、あるいは神の不在

[]ゼア・ウィル・ビー・ブラッド ゼア・ウィル・ビー・ブラッドを含むブックマーク ゼア・ウィル・ビー・ブラッドのブックマークコメント


第80回アカデミー賞・主演男優賞を受賞したダニエル・デイ=ルイス主演、ポール・トーマス・アンダーソン監督作品『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(There will be blood, 2007)を観た。



金鉱と石油を求めて採掘するプレインビュー(ダニエル・デイ=ルイス)が黙々と堀り続ける無言のシーンが冒頭に長く続く。赤ん坊連れの仲間が事故で死亡すると、その子供を育てやがて、商談の場にかならず成長した少年H.W.(ディロン・フレイジャー)を同席させる。


石油!

石油!


アメリカンドリームを体現するプレインビューと対立するのが、聖霊教会カリスマ牧師イーライ(ポール・ダノ)であり、いってみれば資本主義キリスト教の対立にほかならない。ここではマックス・ウェーバーのいう「資本主義精神」が、キリスト教倫理と一致しない。約束した金銭を払わないプレインビューに、金を渡すべきだと強弁するイーライは、金銭を媒介として対立する。


しかし、石油パイプラインを通すために、聖霊教会の熱烈な信者である土地所有者の許可が必要となり、イーライの教会で、神の前で懺悔をさせられる。無神論者プレインビューにとって屈辱的な行為である。教会の中は熱狂的な信者が集まっている。礼拝堂の正面に正座させられ、自己の罪を懺悔するプレインビューの苦悩に満ちた表情には、己の野望のためには何でもするという強い意志があった。


石油の採掘と輸送で大成功をおさめたプレインビューは、大邸宅に住んでいる。そこへイーライが金の請求にやってくる。衝撃的なラストシーンについてはネタばれになるが、触れずに済ますわけには行かない。室内のボーリング場で、プレインビューはついにイーライを撲殺する。資本主義が金銭と暴力で、キリスト教徒を抹殺するのだ。資本主義の勝利は、アイロニカルな終焉を迎える。


ブギー・ナイツ [DVD]

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マグノリア<DTS EDITION> [DVD]

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[]ノーカントリー ノーカントリーを含むブックマーク ノーカントリーのブックマークコメント


ジョエルイサーンコーエンノーカントリー』(No Country for old men, 2007)も、畏怖すべきフィルムだった。コーエン兄弟フィルムの中でも傑出した仕上がりになっている。ベスト作品と言ってもいいだろう。それは何よりもハリウッド映画ルールから逸脱しているラストシーンに象徴されている。



冒頭テキサス自然風景を背景に、保安官のことばが語られ、一見平和そうな光景から、慄然とする世界へ変容して行く。偶然に大金を見つけた男ジョシュ・ブローリンは、その金を持ち逃げする。しかし、殺人鬼ハビエル・バルデムに、逃げても逃げても追われる。ハビエル・バルデムは、金を盗んだ男を追う途中で、遭遇する人たちを何の理由もなく殺して行く。圧縮ボンベのような銃で次々と殺人を繰り返す。そこでは感情だの倫理意識だの復讐などの、もっともらしい理由や動機は一切排除されている。


血と暴力の国 (扶桑社ミステリー)

血と暴力の国 (扶桑社ミステリー)


不条理な殺人鬼ハビエル・バルデムとは何者なのか。彼を追う保安官トミー・リー・ジョーンズは、殺し屋を追うが容易に姿を捉えることができない。


金銭と生と死。殺人鬼ハビエル・バルデムとは神の裏返しではあるまいか。

一般的に映画では、善人が悪人に勝つ。とりわけハリウッド映画における暗黙のルールがある。『ノーカントリー』は、善悪に関係がない。理由なき殺人の恐怖が観る者を戦慄させる。


ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』と『ノーカントリー』に共通する主題とは、極論すれば「資本主義キリスト教」の対立あるいは融合と離反。神の不在を象徴する畏るべきフィルムだった。


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2008-06-14 藤原審爾の再評価を待つ

[]昭和短編一人一冊集成 昭和の短編一人一冊集成を含むブックマーク 昭和の短編一人一冊集成のブックマークコメント


未知谷という出版社から『昭和短編一人一冊集成』が刊行されはじめ、五冊五人の予定で、6月現在吉行淳之介戸川昌子源氏鶏太藤原審爾までが出版された。残る一人は色川武大である。そのうち、未読でありなおかつ今日では、その著書がきわめて入手しがたい二人、すなわち、源氏鶏太藤原審爾を購入し、短編小説醍醐味を味わう。


藤原審爾 (昭和の短篇一人一冊集成)

藤原審爾 (昭和の短篇一人一冊集成)


二人とも現役時代は大ベストセラー作家であり、映画化された作品が多い。源氏鶏太は主としてサラリーマンものだが、藤原審爾純文学から中間小説時代小説や任侠ものまで幅広く執筆した。小説を読む快楽が得られる。小難しい作品ではなく、実に読みやすく、深い味わいがある。近年の小説にはない、昭和の香りがする。


とりわけ藤原審爾小説は本書に採録されている作品すべてが異なるジャンルのもので構成されている。冒頭の『罪な女』から読みはじめる。服役中の夫を待ちながらも、出会った男に尽くす可憐芸者が、夫の出所によって二者択一を迫られる。


『殿様と口紅』は短編のなかでも特に短いもので、前科五犯で「殿様」の異名をとる初老の男が若い刑事に手錠を繋がれて、汽車で護送される。その間におきる出来事を刑事の立場から、また偶然横の席に座った追われる女性とのいきさつなど、実にうまくまとめられている。絶品というべき作品。


泥だらけの純情 [DVD]

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『泥だらけの純情』は、日活中平康1963年)と東宝の富本壮吉によって二度原作タイトル映画化されたことで著名な作品。今回初めて読む。中平作品は、吉永小百合(真美)と浜田光夫(次郎)。やくざな男と外交官お嬢さん純愛1977年リメイクでは、山口百恵三浦友和コンビによるもの。細部にそれぞれ映画的な脚色はあるが、大筋は藤原審爾原作どおり。


泥だらけの純情 [DVD]

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『前夜』は、森一生監督市川雷蔵主演『ある殺し屋』(1967)の原作になった。平凡な職業中年男が、実は凄腕の「殺し屋」であり、原作映画化作品とも味わい深い。


ある殺し屋 [DVD]

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『さかまき万子』は、一風変わった女性・万子を引き取った新宿芸能社の人々との関係を描きながらも、芸能社の主人竜子のきっぷの良さによって際立つ作品。この小説森崎東によって<喜劇・女シリーズ>として映画化された。『喜劇・女は男のふるさとヨ』(1971)『喜劇・女生きてます』(1971)『喜劇・女売り出します』(1972)では、竜子が経営する新宿芸能社に集う女性たちのしたたかな生き様を描いていた。



『鏡の間』は五十男と三十代の女性の偶然の出会いと別れを、抒情的な大人の恋愛としてしっとりと、唄いあげるような作品。


秋津温泉 [DVD]

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以上の他、長編小説映画化された作品として、吉田喜重監督秋津温泉』(1952)、今村昌平『赤い殺意』(1964)、石井輝男監督高倉健主演『花と嵐とギャング』(1961)、山田洋次馬鹿まるだし』*1(1964)、深作欣二恐喝こそわが人生』(1968)、マキノ雅弘日本やくざ伝・総長への道』(1971)など、「キネマ旬報DB」で調べると57作品が、藤原審爾原作から映画化されている。今、ほとんど藤原本を読むことができない。


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馬鹿まるだし [DVD]

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日本やくざ伝 総長への道 [DVD]

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解説者の結城信孝氏によれば短編だけでも500編以上ある作品の正確な書誌ができていないという。この多才な小説巧者・藤原審爾はもっと評価されていい作家だ。『藤原審爾昭和短編一人一冊集成4』が、藤原氏の再評価になることを祈りながら。


恐喝こそわが人生 [DVD]

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喜劇・一発大必勝 [DVD]

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*1山田洋次馬鹿まるだし』の原作藤原審爾『庭にひともと白木蓮』であり、会社松竹)が喜劇として売るため『馬鹿まるだし』にタイトル変更された。以後、山田洋次ハナ肇を主役にシリーズ化し、『男はつらいよ』に引き継がれることになる。つまり、『男はつらいよシリーズ藤原審爾的作風が土台にあり、渥美清と出会うことでできあがった作品といえるだろう。藤原審爾の影響は大きい。

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2008-06-01 『実録・連合赤軍』は「カノン」として歴史的な評価を受けるだろう

[]実録・連合赤軍  実録・連合赤軍 を含むブックマーク 実録・連合赤軍 のブックマークコメント


若松孝二『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(2008)を観る。観ることのつらさを克服すれば、この作品のもつ意味が明らかになる、そんな映画だ。


降雪のなかを一列に歩く九人の姿が捉えられると画面は一転、1960年安保闘争に遡及する。60年安保とそれ以後、ケネディ大統領暗殺事件、ベトナム戦争毛沢東文化大革命などのニュースに続いて、1966年明治大学における「学費値上げ反対闘争」に若き重信房子伴杏里)と遠山美枝子(坂井真紀)の姿が映される。1967年、再び明治大学の重信と遠山。原田芳雄によるナレーションは、60年安保重要な役割を果たした共産主義同盟ブント)が、中核派解放派と組み三派全系学連が68年にかけて学生運動を展開して行くことを述べる。



以後、1969年安田講堂の攻防戦を経て、塩見孝也議長のもと「赤軍派」が結成される。新宿酒場宮台真司扮する作家*1が、重信に札束を渡すシーンがある。一方で「革命左派」の永田洋子(並木愛枝)たちの動きを追う。「赤軍派」による大菩薩峠の爆破事件、「革命左派」による銃砲店襲撃など、両派の「歴史」を押さえながら「連合赤軍」の結成に至る過程を克明に描く。


榛名ベースにおける「総括」と「粛正」の恐るべき実態が、リアルに再現されている。重信と別れ軍事訓練に参加した遠山は、「赤軍派」と「革命左派」の確執のなかで、「総括」を問い続けられ死にいたる。「総括」を支配したのは、森恒夫(地曳豪)と永田洋子であったことは周知のとおりだが、その内実は部外者には図りがたいところがある。


森と永田が、山岳アジトから離れたときに逮捕される知らせをラジオニュースで聞くメンバー。やがて権力の手がまわり、残された戦士たちは逃避行の旅となる。最後に九人となったが、五人と四人の二手に別れたあと、植垣康博(中泉英雄)ら四人は駅のホームで逮捕される。


残された五人とは、坂口弘ARATA)、坂東國男(大西信満)、吉野雅邦(莵田高城)、加藤倫教(小木戸利光)、加藤元久(タモト清嵐)であった。あさま山荘には管理人の妻(奥貫薫)一人がいたが、彼女保護監禁ではなく)し、10日間にわたって官憲と戦う。山荘内からのみ事態の進行を捉え、機動隊や戦士たちの家族の声のみが画面にインされる。


徹底して「連合赤軍」の内部から描いた若松孝二の方法は、氏の反権力の姿勢そのものである。これが映画としてきわめて密度の高いフィルムになった。未成年(当時16歳)の加藤元久が仲間の四人に「俺たちみんな、勇気がなかったんだよ!俺も、あんたも、あんたも、坂口さん!あんたも、勇気がなかったんだよ!」といわせる時、年少者として参加し少しでも距離をもった加藤少年のことばに、「連合赤軍」の「総括」をさせている。


光の雨

光の雨


高橋伴明監督立松和平原作光の雨』(2001)は、「連合赤軍」をモデルとしたメタ映画として、見ごたえがあったが、若松作品と比較すべきではない。『実録・連合赤軍』は、推測するにかつて『赤軍PFLP 世界戦争宣言』(1971)を撮った若松氏の執念の成果というべきだろう。もちろん、佐々淳行原作映画化した『突入せよ! あさま山荘事件』(2002)などは、権力の側からみた一方的作品であり比較・評価に値しないことは言うまでもない。


突入せよ!「あさま山荘」事件 [DVD]

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本作品によって、「連合赤軍」は「カノン」となった。その評価は歴史が下すだろう。わずか40年近く前に起きた事件だが、その残虐さによって目をそむけるのではなく、直視しなければならないだろう。「連合赤軍」に参加した若者は10代から20代の青少年だった。「革命」ということばに「理想」をみて、命を賭けて行動した若者たちがいたことを忘れてはなるまい。



■補記(2008年6月02日)


あさま山荘にたどり着いた五人の赤軍戦士たちの行動は、「粛清」を経た負い目を持つがゆえに、きわめて倫理的態度を貫徹する。山荘の管理人に接する態度の堂々たる慎ましさ。彼らが当面の敵と措定した公安機動隊との実戦に徹することこそが、目的を同じくしながらも死に至った仲間たちの霊を背負うことにほかならないからだ。闘いの最後近く、坂口、坂東、吉野たちが、管理人の妻に「中立」の立場でいて欲しい、そして坂口(ARATA)が「強行手段に出た場合は全力であなたを守る」と説得するときが、赤軍戦士たちの志が伺えるシーンだ。

ラストシーンは、森恒夫正座し仲間に宛てた手紙朗読される。自死する直前の森は「今ぼくに必要なのは、真の勇気のみです。はじめての革命的試練。−跳躍のための。」と遺書をしたためた。

書き残した二点を補記しておきたい。


若松孝二 初期傑作選 DVD-BOX

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若松孝二 初期傑作選 DVD-BOX 2

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若松孝二 初期傑作選 DVD-BOX 3

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*1:このワンショットのみの出演だが、宮台真司存在が大物の風格を帯びているのに喫驚した。

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