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2008-08-21 押井守の極私的ベスト5はこれだ!

[]GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊を含むブックマーク GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊のブックマークコメント


押井守フィルムを遡及しながら、アニメ作品は『うる星やつら2、ビューティフル・ドリーマー』(1984)までたどり着いた。いわゆる押井節の原点がこの作品にあったことが分かった。終わらない学園祭前夜、繰り返される前夜祭、何度も反復される行動は、最新作『スカイ・クロラ』(2008)において、永劫回帰する世界に反映されている。押井氏自身の体験から、遅れてきた70年安保全共闘世代としての逡巡にほかならない。


うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー [DVD]

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実写版『紅い眼鏡』(1984)は、のちに『人狼』(2000)に結実することになるプロテクトギアを着用した「特殊武装機動特捜班」のメンバー都々目紅一(千葉繁)の夢と幻想物語主人公ががみる夢という設定では、『ビューティフル・ドリーマー』(以下「BD」と略)と同じであり、同じような状況が何度も反復される。シュールというよりギャグっぽい作品になっているが、<夢>を描くには実写よりもアニメが格好だと思うのだが。押井守自身が名づけた「ケルベロス」たちの台湾流浪編が実写第二作『ケルベロス地獄の番犬』(1991)となった。押井守の実写映画が面白くないのは、アニメ制作の原則を実写に適用しているからだと思われる。


人狼 JIN-ROH [DVD]

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ケルベロス>二部作は、プロテクトギアを装着して闘うシーンの迫力が見どころだが、第二作『ケルベロス』は台湾の田園風景や、街の雰囲気をドキュメンタリー風に捉えた映像が新鮮であり、ストーリー性を疎外してシーンやショットをみることで辛うじて映画たりえている。<ケルベロス>ものは、沖浦啓之監督を務めた『人狼』が突出した出来になっている。




押井守世界は常に二元論で成立している。特に初期作品は<夢>によるシュール世界が展開される。典型は『BD』と『紅い眼鏡』は、映画そのものが、夢の反復によって構造化されている。近未来舞台にしたフィルムが多くなるが、基本的に押井守スタンスメタ映画である。最も典型的な『トーキング・ヘッド』(1991)で、アニメ制作現場舞台になっており、文字どおりメタレベル映画が思考される。押井守映画、とりわけアニメ映画に対してどのように考えているのかよく分かるフィルムになっている。「映画物語を持ち込んでしまった歴史」から「実体を失ってしまったキャラクター」が物語を超えなければならない、という考えである。


アヴァロン Avalon [DVD]

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パラレルワールドの代表的作品は『アヴァロン』(2001)であり、ヘッドギアを着けることでゲーム世界に入るアッシュの行動は、ゲーム内と現実世界を往復する。『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』(1995)も典型的パラレルワールドであり、電脳世界現実の往還が基本構造であり、そこに草薙素子とバトーの関係が投げ込まれる。


遅れてきた<全共闘世代>を強く意識する押井守は、原作脚本のみに徹した『人狼』(2000)の伏と少女関係童話赤頭巾ちゃん」に託して、過激派テロ化する社会9.11以前に観客に差し出した。その先見の明には敬服する。


御先祖様万々歳!! コンプリートボックス [DVD]

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押井守資質が一番よく表れているのが『御先祖様万々歳!』(OVA,1989)であろう。原作脚本監督押井守コントロールしたアニメとして、いわゆる押井節が強度に発揮された快作である。全6話からなるDVDオリジナル作品として、押井の究極の仕掛けがみえる。平凡な日常生活を続けていた四方田家に突然、未来から長男犬丸の孫と称する磨子がやってくる。<裏・うる星やつらヴァージョンといわれる所以は、ラム宇宙からきたのではなく単なる詐欺師だと仮定すれば・・・麿子の存在そのものの曖昧性が浮き彫りにされる。押井作品の常連主人公側と対立する人物・室戸文明(『紅い眼鏡』『機動警察パトレイバー』『人狼』など)が、四方田家に麿子の監視役として登場する。一方、母・多美子は家出し、探偵多々良伴内の助けを得て、麿子の実体に迫ろうと画策する。


MAROKO 麿子 [DVD]

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映画版『MAROKO 麿子』(1990 )は、四方田犬丸*1の視点で6話分180分を90分に編集しなおした作品で、犬丸が生き続けて結婚をし子供をもうけない限り、麿子の存在はありえないわけでラストシーンにおける犬丸の死の予兆は、麿子の存在を照射している。ま、それはともかく、母・多美子の家出により四方田家の崩壊を父・甲子国に宣言する犬丸のセリフ


すでに四方田家は、非日常的空間に突入しているんだ。もう今までの理論的なホームドラマは通用しないんだよ父さん。これからは、たとえ親子といえどもギリギリの人間性をむきだしにして互いの欲望をぶつけあうヘビーなドラマが始まるんだ!

この台詞に、アニメ・ホームドラマ演劇解体をしてみせるという意気込みが表出されている。押井守の傑作と言っても過言ではない。


GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊 [DVD]

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しかしながら、押井守の最高傑作は『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』(1995)になる。情報化が進んだ近未来社会における、人間としてのアイデンティティに言及されている畏怖すべきフィルムだ。もちろん映像的には続編『イノセンス』(2004)がはるかに精密に描かれるが、内容的には続編の域を出るものではない。


ほぼ押井守の作品を遡及的にみてきて、私なりの好みでリストアップするなら、次のようになる。


押井守作品・極私的ベスト5>

1.『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』(1995)−情報化電脳社会のなかでアイデンティティを問題とした傑作!!

2.『御先祖様万々歳!』(OVA,1989)−ドラマトゥルギーへの理論的・ギャク的疑義が満載されている快作!

3.『アヴァロン』(2001)−実写とアニメの融合ここに極まれり!

4.『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984)ー<夢>による物語の外へキャラクターが跳び出す!

5.『トーキング・ヘッド』(1991)−映画に関する映画論を映画館という舞台で展開した見事な「メタ映画」!


機動警察パトレイバー劇場版』(1988)も、映画全体を「死者」(天才エンジニア=帆場映一)が支配しているという設定のメタレベルにおいて、突出しており、「ベスト5」に入れてもおかしくはないのだが、ここは敢えて『トーキング・ヘッド』を入れていることを申し添えておきたい。なお押井守氏の『パトレイバー』への思いは意外に熱く、パロディ『ミノパト』(2002)まで、撮っていることに驚いた。『ミノパト』こそが、押井守氏の映画への愛にほかならない。


ミニパト [DVD]

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イノセンス』は、人間がサーボーグ化し脳のみで思考し、行動するいわば人間としての限界を描いており、脳の記憶(バトーによる草薙素子記憶)によってかろうじて関係が残っている。いってみれば逆・身体論として読むこともできる。背景描写がアニメとして表現可能な大量の情報を書き込んでいる点でも稀有の作品だ。『トーキング・ヘッド』と入れ替え可能なフィルムとして、この二作品をあげておいて、押井論をひとまず宙吊り*2にしておきたい。


イノセンス スタンダード版 [DVD]

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押井守 (文藝別冊 KAWADE 夢ムック)

押井守 (文藝別冊 KAWADE 夢ムック)

*1:四方田犬丸とは、あの大学教授映画評論家四方田犬彦意識した名前と想定される。押井守の犬好きは有名である。父の名の甲子国は、甲子園からか。母は多美子、平凡な名前。犬丸の孫、父の名は犬麿と称する麿子の出現。すべてが虚構の極みで謎めいている。四方田家は、その内容に見合う実に面白い設定だ。

*2:「宙吊り」とは『スカイ・クロラ』(2008)の評価が定まらないので、この時点では除外している。

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2008-08-08 今なぜ吉本隆明なのか、あるいは吉本隆明の<言理>

[]吉本隆明思想 吉本隆明の思想を含むブックマーク 吉本隆明の思想のブックマークコメント


アカデミズムに属さず、筆一本で生活者として自立し、60年代から70年代思想カリスマだった吉本隆明。氏の理論的大著で唯一、単行本化されていなかった『心的現象論本論』(文化科学高等研究院出版局、2008.7)が上梓された。豪華版は、既刊の『心的現象論序説』と『本論』を収録したもので、限定1000部、定価七万円と常識を超える定価に設定されている。普及版の『本論』を購入したが、それでも8,400円は痛い。


心的現象論本論

心的現象論本論

吉本隆明の思想

吉本隆明の思想


あわせて、山本哲士自ら『吉本隆明思想』(三交社、2008.7)を刊行して、吉本思想啓蒙に努めている。


ほぼ同じ時期に、糸井重里編集の『吉本隆明 声と言葉』(東京糸井重里事務所、2008.7)が、講演CD付きで出版されている。これは限定出版『吉本隆明 五十度の講演』と題する講演CDの発売に合わせて、さわりを74分に編集収録したのもであり、『五十度の講演』は吉本講演のアーカイヴになっていて、定価五万円。



一方は哲学者山本哲士による吉本個人誌『試行』に30年掲載された『心的現象論』の単行本化であり、他方は、コピーライター糸井重里による講演録集成、両方購入すると軽く10万円を超える。いくら本好きだと言っても、余程の心酔者やファンでなければ、この不景気に十二万円の支出はできまい。個人全集の刊行なら、毎月配本で総定価が十万円を超えてもさほど気にならない。「文化資本」という名における<思想資本主義商品化>にほかならない。


まあ、私としては『心的現象論本論』の普及版の購入と、「立ち聞き74分」の購入特権で講演2つが無料ダウンロードできる仕掛けになっているので、これで十分だ。といっても吉本隆明の声を聞くのは、今回が初めてのこと。とつとつとしたおしゃべりで、小林秀雄落語的口調とは異質なものとなっている。「立ち聞き講演」は、吉本隆明の生真面目さを体感することになる。それはそれで、実りあるものだ。



早速、山本哲士吉本隆明思想』を読み始める。序論に吉本隆明思想が要約されている。


フーコーディスクールプラチックの域を切り拓いたことに対応する位置を、吉本は<言理>として切り拓いたというように概念をあてたい。言説でも言述でもなく、この、言理の理論吉本隆明の基本としたい。吉本の言理は、幻想をめぐる幻想理と、言語表出をめぐる表出理と、心的疎外をめぐる疎外理からなっている、「理」のディスクールである。この<理>のディスクールとは、実存主義構造主義マルクス主義をこえ、内へむけた「論理」、外へむけた「理論」となっているのも「主体と構造」の対比をこえているためである。言理は思想理論との隔たりを架橋していくものである。(p.17−18)


何やら壮大な吉本論が展開されそうである。


自立の思想は、<知識人大衆>における大衆へ原像を据えることにより実存主義的知識主義をこえ、共同幻想論は、マルクス主義国家論や社会構成体論をこえ、心的現象論はフロイト的な心的内容主義をこえることから構造主義的な無意識論をこえ、言語表出論は、マルクス主義言語交通論や構造主義コミューン論をこえている。つまり、知識や経済的土台や無意識の規定性・決定性をこえることで、存在以前の初源/原初=疎外をとらえているのだ。ひらたくいえば、ものごとがなりたつ根拠を、構造へも主体へも還元せずに、表出するもののあり方においてとらえていくのである。(p.18)


定本 言語にとって美とはなにか〈1〉 (角川ソフィア文庫)

定本 言語にとって美とはなにか〈1〉 (角川ソフィア文庫)


このような山本哲二氏の<言理>論によれば、吉本隆明実存主義構造主義マルクス主義フロイト主義など、あらゆる基底還元主義をこえているという解釈になる。近代日本思想家は、西洋思想に影響され「つぎつぎとなりゆくいきおひ」によって、思想の表層を着せ替えていったことを思うと、吉本隆明のみが日本独自の世界レベル思想を構築した、ということになる。


親鸞 決定版

親鸞 決定版


思想そのものを深く語る資格のない私にとって、吉本隆明埴谷雄高アカデミズムに属さず、筆力によって己の思想を構築したという点では、戦後思想史のなかでは際立った存在であると思う。埴谷雄高が「先生」と呼ばれると「私は教師ではない」と否定したそうだが、吉本隆明にも<自立の思想>が根底にある。


マチウ書試論・転向論 (講談社文芸文庫)

マチウ書試論・転向論 (講談社文芸文庫)


知の巨人が不在の時代にあって、荒廃したこの世界に立ち向かう真の思想家はいない。吉本隆明の<言理>に、山本哲士自己および世界解読の方法を見出したようだ。久々に硬派の思想書を読む興奮を覚える。


夏目漱石を読む

夏目漱石を読む

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2008-08-04 宮崎アニメと押井守作品の差異とは「建前と本質」?

[]スカイ・クロラ スカイ・クロラを含むブックマーク スカイ・クロラのブックマークコメント


押井守の新作『スカイ・クロラThe Sky Crawlers』(2008)を観る。『イノセンス』(2004)は、遅ればせながら押井守発見させ、『立喰師列伝』(2006)でその世界に圧倒されてしまい、「アニメあなどるなかれ」の契機となった作品。もちろん、それまでに宮崎アニメはほぼクリアしていたし、決してアニメ偏見を持っていたわけではない。しかしながら、『イノセンス』と『立喰師列伝』は、私にとって衝撃的な出会いとなった。


イノセンス スタンダード版 [DVD]

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立喰師列伝 通常版 [DVD]

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だからこそ、新作『スカイ・クロラThe Sky Crawlers』への期待は大きく、同時期に公開された宮崎駿崖の上のポニョ』と見比べると、目指す世界は歴然として異なることは当然と思うのだ。宮崎アニメの最高傑作は『風の谷のナウシカ』(1984)だと偏見的に断言している私にとって、『となりのトトロ』や『崖の上のポニョ』は、・幼児子供から大人まで楽しむことができる幅広い世界を視野に入れた作品であり、それはそれで申し分ないのだが、押井守世界思想露出している分、好悪がはっきりする世界になっている。宮崎アニメは嫌いだという人に出会ったことはないが、押井守は嫌いだとか見ないなどという人達がいる。まあ、前置きはさておき『スカイ・クロラ』の内容に入ろう。


風の谷のナウシカ [DVD]

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世界平和になった時代、「戦争」をゲームとして請け負っている会社があり、二つの会社は絶えず戦争ゲームとして平和ぼけした民衆の関心を引き付けている。戦闘飛行士たちは「キルドレ」と呼ばれ、大人にならない子供たちが「戦争ゲーム」の主役を担っている。永劫回帰世界にいる「キルドレ」には死とは、再生意味し他者となって復活し再び三度「戦争ゲーム」に向かう。


キルドレ」であるカンナミ・ユーイチ(加瀬亮)は、欧州前線基地「ウリス」に配属される。ユーイチには過去記憶がない。たばこに火をつけたあとマッチを折る癖があり、飛行機の操縦がうまい前線基地には、女性の司令官クサナギ・スイト(菊池凛子)がいる。スイトは最初、ユーイチを無視しているが、向ける視線が熱い。二人の間にあった過去連想させる。


二人は恋愛関係に発展するが、「キルドレ」である限り「死」はつねに再生として再現される。日常的な閉塞感を戦闘機に乗ることで、変化をつけており、自分たちが置かれている位相にあまり関心を示さない。あらたな女性キルドレ」ミツヤ・ミドリ栗山千明)が赴任し、ユースケやスイトへの関心から「キルドレ」としての自己アイデンティティが見いだせない。スイトの妹ミズキが実は娘であることなどいち早く察知し、二人の仲にこだわる。


大人になることの意味。大人になるとはその先にある「死」を受容することでもある。子供のまま成長しないことが必ずしも、幸福とはいえない。「終わりなき日常」が永遠に続くことにほかならない。


スカイ・クロラ』は、飛行機の実戦がリアルに描かれるが、交わされる台詞はいつもの押井ワールド的小声と、感情を抑制したような口調で統一されている。平和戦争、生と死、恋愛と疎外など、淡々と綴られているが、そこに押井守の強いメッセージが込められている。「人生いかに生きるべきか」を考えさせる。決して明かるい映画ではないし、楽しいアニメではない。いかにも、押井守らしい世界が展開される。様々な謎や謎めいたことばや徴がフィルムのいたることろに刻印されている。


押井 守 INTRODUCTION-BOX (期間限定生産) [DVD]

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冒頭で『イノセンス』と『立喰師列伝』に触れたが、最近発売された『押井 守 INTRODUCTION-BOX 』を求めて、過去フィルムを見ると、実は『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995)に押井守エッセンスが詰められていることが分かった。『スカイ・クロラ』の公開に合わせて『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊2.0』(2008)が一部地域で公開されている。1995年版をみても、この作品が彼の最高傑作であった*1ことが分かる。いうまでもなく『マトリックス』の先駆的作品であったことは周知の事実であろう。


GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊 [DVD]

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押井作品に込められる衒学的なことばにまどわされなくとも、世界の在りようや「生と死の形而上学」がつねに語られていることに驚くのだ。もちろん、押井守の熱烈なファンには、以上のことなど当然なのだろうけれども。


凡人として生きるということ (幻冬舎新書)

凡人として生きるということ (幻冬舎新書)


ここまで書いてきて、押井守著『凡人として生きるということ』(幻冬舎、2008.7.31)を入手して一気に読む。押井氏の考え方がよくわかる。「若さ価値はない」こと。「人間は自由であるべき」というのは欺瞞であるという。


平和」とか「正義」とか、人間にとって絶対的な価値があると思われる強力な命題こそ、実は時代の変化に応じて緻密に再定義を繰り返さなければ、かえって価値を損なうものなのである。/その価値が絶対的だと思われるからこそ、総じて言葉たらずのままに、「自由は絶対的価値」といった言われ方だけが残ったものがある。(p.59)


また、押井守は「美学」にこだわる。


現代の日本では「名声」「お金」、そして美しく生きるという「美学」の三点で、何を大事に生きていけばいいのか。/結論から言えば、それは美学にほかならない。/名声とお金は相対的な価値だ。(p.75)


押井氏独特の「美学」がフィルムに結実しているわけだ。宮崎駿と比較して、自ら次のように述べている。


宮さんと僕の間に違いがあるとすれば、若者の姿に限って言えば、宮さんは建前に準じた映画を作り、僕は本質に準じた映画を作ろうとしているという、映画監督としての姿勢の差異だけだ。宮さんだって、事の本質は見えているはずで、あえて本質を語っていないだけなのだ。(p.33)


なるほど、宮崎アニメ押井作品の差異は、「建前と本質」の差にあるというわけだ。


機動警察パトレイバー2 the Movie [DVD]

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機動警察パトレイバー 劇場版 [DVD]

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*1:本稿執筆時、押井守が自らが好きであると公言する『御先祖様万々歳』と自ら映像が気に入っているという『アヴァロン』を観ていないことは告白しておかねばなるまい。

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