レスラー
タイトルバックで80年代のプロレスのポスターが映され、人気絶頂であったランディ(ミッキー・ローク)について中継風に語られる。映画はその20年後から始まる。控え室に背中を向けてすわる中年のプロレスラー、彼の背中をキャメラは執拗に追って行く。試合後、自宅に帰る様子を、背後から手持ちキャメラが追い、やがてトレイラーハウスにたどり着く。
どうやら賃貸のハウスらしく、管理人が鍵を取り換えていることから、ランディは車の中で一夜を明かすが、近隣の子どもたちによって起こされる。そこに横たわるのは、もはやかつてのダンディなミッキー・ロークではなく、くずれた中年男の表情が映される。
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ボクシングは何度も映画化され、『ロッキー』に代表されるように闘うことのリアリティと、試合前のトレーニグの背景に音楽が流され、いわばテンポの良い進捗によって、ラストシーンへと感動を繋げて行く。ボクシング映画には、観る者を一種のカタルシスに導く効果がある。
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一方、プロレスは、つねに胡散臭さがつきまとい、事前の打ち合わせやストーリーが出来あがっているものをリング上でいかにみせるかが一般的な解釈だろう。もちろんプロレスについては、そのとおりであり、映画化された作品として、評価できるのはロバート・アルドリッチ『カリフォルニア・ドールズ』(1981)一本と言っても過言ではない。
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ミッキー・ローク主演の『レスラー』(2008)が、ヴェネチア映画祭で金獅子賞を受賞、その後各種映画祭で次々と受賞が相次いだことに、あのミッキー・ロークがどのように復活したのか興味がわいてきた。その点、期待度は大きかった。
冒頭に記したように、主人公の背後からよりそうように描きながらも、成功した人生から転落した中年男の居場所探しの映画であった。レスラーとしてうらぶれたリングに上がるにも、髪を染めたり、日焼けサロンに通い、筋肉増強のプロテインを飲み、トレイニングを重ねている。そして試合前には、リング仲間と試合の流れを打ち合わせる。試合の流れは決まっているものの、実際の試合は真剣そのもので、体力・気力がないと、あるいは気を抜くとたちまち怪我をしてしまう。
リングを自分の生きる場所として生きてきたランディは、打ち合わせどおりの激しい試合をしたあと、相手と健闘をたたえ合い、控え室で一人になったとき倒れる。目覚めた時は病院のベッドの上、医者から心臓のバイパス手術をしたこと、そしてリングへ立つことが心臓への負担をもたらすため、試合への出場を禁止される。
ランディが行きつけのストリップバーのキャシディ(マリサ・トメイ)に相談をすると、「家族」だと言う。家族との関係が癒してくれる、と。キャシディは、自分にも子どもが一人いることを告白する。ランディは娘に会うべく、プレゼント選びをキャシディに依頼する。
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娘に古着をプレゼントし、なんとか娘との関係を修復させることができたランディだが、フルタイムの仕事はスーパーの総菜売場の接客。馴れない仕事にいらいらしながらもガマンして続けている。
キャシディとの関係は、パートナーとしては無理であると断られ、娘との食事の約束を忘れたがため、今度こそ絶交を言い渡される。行くあてのないランディにとって、自分のホームはリングにしかないことを悟る。ランディは、20年ぶりの相手とのリング対戦に挑むことになる。
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『レスラー』を観ることは、『ロッキー』のようなカタルシスを得られるわけではない。ぶざまでもいい、中年レスラーの生き方を参照すること。己れの生き方と比較し、フィルムを鏡として写してみることだ。
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それにしてもランディの生き方は、ミッキー・ロークの半生に重なる。ミッキー・ロークは、80年代には『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』(マイケル・チミノ監督*1、1985)、『ナインハーフ』(エイドリアン・ライン監督、1985)、『エンゼル・ハート』(アラン・パーカー監督1987)等の話題作で主演を務め、スターとしての絶頂期にあった。その後、作品の選択に当時のハリウッドではマイナーな作品、周縁の作品を選ぶ。
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ミッキー・ロークは、ブコウスキーに扮した『バーフライ』(バーベット・シュローダー監督、1987)や、アッシジの聖人に扮した『フランチェスコ』(リリアーナ・カヴァーニ監督、1989)など、地味な作品に出演し結果的にスターの位置から降りてしまった。
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ボクサーに転身し、顔にダメージを受け、映画俳優としては、かつてのような主役のオファーがなくなる。そのミッキー・ロークに声をかけたのが、ダーレン・アロノフスキーだった。
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