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2010-01-21 優雅で繊細な古典的恋愛喜劇作家の死を悼む

[]エリック・ロメール追悼 エリック・ロメール追悼を含むブックマーク エリック・ロメール追悼のブックマークコメント


2010年1月12日新聞報道で、ヌーヴェル・ヴァーグの牽引者エリック・ロメール訃報(11日他界)が伝えられた。

かつて「覚書」として記録した「優雅で繊細な古典恋愛喜劇作家としてのロメール論を以下に貼付することで追悼にかえたい。


【優雅で繊細な恋愛喜劇あるいは偶然という至福】

フランス映画といえば、ヌ−ヴェル・ヴァ−グすなわち、ゴダ−ルやトリュフォ−がただちに想起されるが、当時たんなる娯楽作品とみなされていたハワ−ド・ホ−クスやアルフレッド・ヒッチコックフィルムに正当な評価を与えたのがヌ−ヴェル・ヴァ−グの批評家たちだった。 そのヌ−ヴェル・ヴァ−グの長兄がほかならぬエリックロメ−ルであり、彼こそが真のそして最後のヌ−ヴェル・ヴァ−グを代表するヒッチコック=ホ−クス主義者なのである。


エリック・ロメール コレクション 海辺のポーリーヌ [DVD]

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日本ではロメ−ルの作品が1980年代半ばまで紹介されなかった。1985年に『海辺のポ−リ−ヌ』(1983)が初めて公開された時、さわやかな衝撃が走り、以後『満月の夜』(1984)から、「四季物語」として『春のソナタ』(1989)『冬物語』(1991)と『夏物語』(1996)を経て『恋の秋』(1998)まで順次われわれは、ロメ−ルの作品を見ることが出来るようになった。


四季の物語 夏物語 [DVD]

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恋の秋 (エリック・ロメール コレクション) [DVD]

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記念碑的処女作である幻の傑作『獅子座』(1959)が、三十年遅れで公開されたことは記憶に新しい。とはいっても、ロメ−ルのすべての作品を目にすることが出来るわけではなかった。しかしその後、DVDとして「六つの教訓話」やの「喜劇と格言劇シリーズ」未公開作品をみることができる環境になっている。


獅子座 [DVD]

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ロメ−ルの恋愛喜劇は、ヒッチコックサスペンス映画やホ−クス西部劇のように、いつも似たような物語が展開される。若い女性たちを主人公にして、豊かな知性と青春の輝かしさを生なましく、しかも洗練された台詞のやりとりに託して、あたかも優雅で繊細な古典劇のように端正な語り口で演出される。



 とりわけ、ロメ−ル的瞬間とも呼ぶべき至福が用意されているのが、『緑の光線』(1986)である。ヴァカンスにでかける約束をしていた友人からキャンセルされたデルフィ−ヌは、いくつかのリゾ−ト地をめぐりながら理想男性との出会いを切望する。彼女の期待はことごとくはぐらかされ、次第にみじめな気持になりパリへ戻ろうとする。けれどもまさにその瞬間、駅でドストエフスキ−を読んでいる時に一人の男性と出会い、運命的なものを感じる。偶然の遭遇によって、太陽が沈む時に放つ伝説の<緑の光線>を二人で見る至福の瞬間を迎える。 



春のソナタ [DVD]

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その続編が『冬物語』であり、ヴァカンスで幸福な出会いをしたフェリシ−はささいな間違いから、最愛男性と別れて5年間が経過する。その間に、フェリシ−は子供を育てながら二人の男性美容師図書館司書!)と同時進行的に関係を持つが、どうしても結婚に踏み切れない。そんなある日、たまたま乗り合わせたバスの中で、ヴァカンスの男性に出会う。偶然がもたらす至福が、あまりにもあっけなくラスト成就する。恋愛劇を描きながらも、ロメ−ルの作品のなかではセックスがあからさまに描写されることは徹底して回避されてきた。しかし唯一の例外として『冬物語』の冒頭のシ−ンがあり、実に速いリズムで男女のヴァカンスの出会いと別れがきわめて官能的に描かれる。この二作品では偶然による至福体験が語られ、見る者に知的陶酔に満ちた幸福時間を堪能させてくれる。 

 

冬物語 [DVD]

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考えてみれば、ロメ−ルは第一作の『獅子座』において、偶然による僥倖というかたちで、その特権的世界が示されていたのだった。舞台ヴァカンス中のパリ中年になるまで気侭な生活を楽しんでいたピエールは、友人たちが次々とヴァカンスに出掛けてしまい、所持金が底をつきホ−ムレスのごとくパリをさまよい歩く。伯母の遺産が一旦従兄に相続されていたが、一転して従兄の突然の交通事故死により、ふたたび主人公に遺産がころがり込み、幸運がもたらされる。実は、『緑の光線』とは『獅子座』の女性版リメリクであったことに気づく。



ロメ−ル的世界に親しむには、もっとも軽快で台詞の洒脱さを味わうことが出来、しかも偶然が導く至福体験も得られる『レネットとミラベル、四つの冒険』(1987)がお薦めであろう。第一話の「青い時間」では、都会の少女ミラベル田舎娘レネットに偶然に出会うシ−ンから始まり、夜明け前の音のない瞬間を自然のなかで体験する。残りの三つの挿話は、少女たちの会話が生き生きと、微笑ましくかわされ、ロメ−ル的世界のなかで、その不思議なユ−モラスな幸福感にすっかり感染してしまうこと請け合いである。なにげない日常生活を描写してこれほど素晴らしい作品に仕上げることができるのは、稀有な才能の持ち主ロメ−ルならではといえよう。 


 

        

ほかに、少女を中心とした六人の若者達の恋の堂々めぐりがヴァカンス先の別荘で繰り広げられる『海辺のポーリ−ヌ』(1983)、二人の男性の間で揺れ動く若い女性パスカル・オジェの心理をシニカルに描いた『満月の夜』(レナ−ト・ベルタ撮影の最も贅沢な作品の一つ)、少女二人の恋人たちの交換劇である『友だちの恋人』(1987)、高校で哲学を教えている女性教師を主人公にして、恋愛哲学についてのコントが展開される『春のソナタ』などがある。



七十歳を過ぎて以降、ロメ−ルはフィルムの中で若返り続けている。それは、何よりもハワ−ド・ホ−クスのコメディに限りなく接近していると評判の高い最新作『木と市長文化会館、または七つの偶然』(1992)を見ることによって証明されるだろう。



拙稿の『覚書』は『木と市長文化会館』までが対象であったけれど、その後、『O侯爵夫人』(1976)や『グレース侯爵』(2001)などの古典劇が公開された。遺作が『我が至上の愛アストレとセラドン』(2006)であったことは、いささか残念だが、現代劇をも古典劇を土台として撮ってきたロメールにとって、典型的古典喜劇我が至上の愛』が遺作であったことに納得しなければなるまい。


グレースと公爵 [DVD]

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いずれにせよ、エリック・ロメールの作品全体を通してみると、古典主義者であったことが分かり、ヌーヴェル・ヴァーグとは、文字通りの「新しい波」であると同時に、物語の原点を志向する運動でもあったわけだ。


アストレとセラドン 我が至上の愛 [DVD]

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新作をみることができないが、オリヴェイラが100歳になっても映画を撮り続けていることを思うと、89歳の死は通常大往生イメージとして受入れるしかないけれど、最後にもう一本現代劇を撮って欲しかったとファンの一人として思う。



エリック・ロメールに敬意を表して合掌。

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2010-01-03 三大編纂物がなしえた偉業は日本文化の伝統を示している

[]三大編纂物/群書類従・古事類苑・国書総目録出版文化史 三大編纂物/群書類従・古事類苑・国書総目録の出版文化史を含むブックマーク 三大編纂物/群書類従・古事類苑・国書総目録の出版文化史のブックマークコメント


熊田淳美『三大編纂物/群書類従・古事類苑・国書総目録出版文化史』(勉誠出版、2008)、本書のなかで『国書総目録』が戦前から「国書解題」として計画され、それが結果的に『国書総目録』となった経緯が詳細に記述されている。


三大編纂物 群書類従・古事類苑・国書総目録 の出版文化史

三大編纂物 群書類従・古事類苑・国書総目録 の出版文化史


利用する立場として、『国書総目録』は明治以前の書籍の探索に便利なツールという認識を出るものではなかったが、本書により実に困難な事業を民間の一出版社が成し遂げたことの偉業を知らされた。


古典籍総合目録―国書総目録続編〈第1巻〉

古典籍総合目録―国書総目録続編〈第1巻〉


現在国文学研究資料館版権を委譲していること、更にそれが『新国書総目録』としてデータベース日本古典総合目録』となっている。利用者の利便性が増すばかりだが、その根底には、一枚一枚の採録カードの積み重ねがあったことを忘れてはなるまい。


古典籍総合目録―国書総目録続編〈第2巻〉

古典籍総合目録―国書総目録続編〈第2巻〉


塙保己一は「典籍そのもの、史料そのものを版行して、典籍、史料そのものに語らせることによって自らの著書に代えた」と熊田氏が指摘するとおり『群書類従』に結実した。その『群書類従』も、現在は『日本古典総合目録』で検索可能となっている。


しかも驚くべきことに『古事類苑』に至っては『古事類苑データベース』(国文学研究資料館)として本文を参照できる状況にまでなっているのだ。


熊田氏のいう「壁のない図書館」が実現されつつあることを、後世の私たちは僥倖として受けとめるべきだろう。三大編纂物とは利用することで満足するものでなく、どのような苦難を経て書物として版行されたかを知るべきだろう。熊田淳美氏の労作である本書を紐解くことによって、伝統文化の奥深さを知ることになった。




なお、『古事類苑』に関しては、大隅和雄『事典の語る日本の歴史』(講談社学術文庫、2008)の中に一章を割いて紹介されている。


事典の語る日本の歴史  (講談社学術文庫 1878)

事典の語る日本の歴史 (講談社学術文庫 1878)


今年最初の覚書は、前田塁『紙の本が亡びるとき』(青土社、2010)に触発されて書物が「文化」であることを立証した熊田氏の著書への言及で始めることができた。


紙の本が亡びるとき?

紙の本が亡びるとき?

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