みすず読書アンケート2009

毎年、年度初めの愉しみの一つは、今年の出版予定でありいまひとつが『みすず』1/2月号の「読書アンケート特集」である。

本日、入手した『みすず』1/2月号を早速チェックする。関心を持つ著者が5冊にどんな本をあげているか、また、多くの著者が収穫として重複してあげている図書に興味がわく。

さて、2009年の収穫からみてみよう。


五人が推薦しているのが池澤夏樹カデナ』(新潮社、2009)


カデナ

カデナ


池澤氏への関心は、河出書房新社の『世界文学全集』を個人編集している点であり、ブルガーコフ巨匠とマルガリータ』、E.M.フォスター『ハワーズ・エンド』、フォークナー『アブサロム、アブサロム!』などを購入している。第3集のラインナップでは、チェコの作家フラバルの『私は英国王に給仕した』や『ヨーロッパの傑作短編コレクション』に期待している。しかし、肝心の池澤氏の作品はほとんど読まない。これは反省すべきことだろう。


巨匠とマルガリータ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-5)

巨匠とマルガリータ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-5)


四人が推薦しているのは、次の三点。


田中純『政治の美学ー権力・と表象』(東京大学出版会、2008)

政治の美学―権力と表象

政治の美学―権力と表象


ガルシア・マルケス、旦敬介訳『生きて、語り伝える』(新潮社、2009)

生きて、語り伝える

生きて、語り伝える

ダーウィン渡辺政隆訳『種の起源(上・下)』(光文社古典新訳文庫、2009)

種の起源〈上〉 (光文社古典新訳文庫)

種の起源〈上〉 (光文社古典新訳文庫)

種の起源〈下〉 (光文社古典新訳文庫)

種の起源〈下〉 (光文社古典新訳文庫)


ダーウィン生誕200年は、レヴィ=ストロースの死よりも大きかったか。


女優 岡田茉莉子

女優 岡田茉莉子


三人推薦は七冊あるが、そのうち岡田茉莉子『女優 岡田茉莉子』(文藝春秋、2009)が購入未読本であり、気になった。野崎歓氏のコメントが良い。

岡田茉莉子の自伝は、まさに待望のというほかない一冊。事実関係の丹念な再確認に基づく証言として貴重だが、映画の中ではもちろん、「スクリーンの外でも、私でない私」を演じ続ける、女優という存在のパラドックスを正面から見つめた、魅惑の女優論でもある。」(32頁)


また安部日奈子氏は次のように評価する。

岡田茉莉子岡田茉莉子を演じる>ことをプリンシプルとし、映画女優ひとすじに歩んできた半生を顧みる自伝。たとえば吉田喜重監督の傑作『戒厳令』では、岡田茉莉子は出演せずプロデュースに回っている。「(三国連太郎演じる北一輝の)妻の役については、私が演じるかどうか、その判断は私に任せると、吉田は言っていたが、私は迷った。・・・・・その役を、女優として演じることができても、映画スターとしての私のイメージを観客が捨てきれるとは思えなかった」。観客がスクリーンに岡田茉莉子自身を見てよい役かどうかを熟考し、否となればプロデューサを務めて映画を支える情熱こそ、大女優の真骨頂だ。」(38頁)


更に映画評論家の山根貞男氏は、

「自伝の正統的な形だが、本書の素晴らしさは、同時に、母との戦中戦後史にも、現場からの戦後映画史にも、さらにはスター論にも映画論にもなっている点にある。自らの女優歴を現在の目で読む。そんな営みが希有な自伝を生み出したにちがいない。」(30頁)


と記している。三人とも絶賛している、これは読まねば・・・


ユルスナールの靴 (河出文庫)

ユルスナールの靴 (河出文庫)


2009年の出版でない図書もあげてられている。特に惹かれたのは、須賀敦子ユルスナールの靴』(河出文庫、1998)。栩木伸明氏は友人に勧められて読み、次のような感想を記している。

「大著ではないのに、内側の世界が広々していて驚いた。エッセイというものはもしかすると、小説に負けず劣らず、自由でたっぷりした器なのかも知れないと思った。」(p.6)


同感であり、愛読者として嬉しくなる。


といったように、この「読書アンケート」から読むべき本や、読んだ本を学者・評論家がどう読んでいるかを知ることができる、最も信頼に値するアンケートなのである。