日本の公文書


2月13日付け『朝日新聞(大阪版)』に、国立国会図書館館長・長尾真氏のインタビュー「日本文化のデジタル化」が掲載されている。2007年に長尾氏が館長に就任して以来、電子化が加速されグーグルの英語支配に対して日本語文化を守るためにも、出版業界との連携による著作権を保証する形で書籍の電子化を構想している。


図書館・アーカイブズとは何か (別冊環 15)

図書館・アーカイブズとは何か (別冊環 15)


明治大正期発行の保存書籍の電子テキスト「近代デジタルライブラリー」は、利用者にとって画期的な試みであり、地域の公立図書館を介することなく明治期刊行図書のオリジナルと接することができることは有難い。書籍に関しては、「日本の文化遺産」という大義名分を押し出すことで、Google戦略と一線を画することができそうだ。


問題は書籍以外の資料、特に「公文書」管理と情報公開にある。


日本の公文書─開かれたアーカイブズが社会システムを支える

日本の公文書─開かれたアーカイブズが社会システムを支える


松岡資明『日本の公文書ー開かれたアーカイブズが社会システムを支える 』(ポット出版、2010)は、書物と電子書籍の双方の形で出版された。日本における公文書の惨憺たる状態は、年金記録の杜撰さに象徴されるだろう。


日本の公文書については、法的な制度化が遅れたがために、本来保存すべき文書が廃棄されている現状は、ほとんどの国民は知らないだろうし、私も全く知らなかった。


郵政民営化の背後に何があったのか、それは関係する公文書の情報公開によって解明されると著者は言及している。


松岡氏は、「公文書管理法」の成立過程と、2011年4月施行に向けてジャーナリストの立場から、世界各国と日本における公文書の保存やアーカイブ化状況について、報告している。


日本では「人間文化研究機構」において、「国文館研究資料館」や「国立歴史民俗博物館」「国立国語研究所」など六機関の横断検索が可能となっている。また世界級のデジタルアーカイブとして「国立公文書館アジア歴史センター」が公開されアクセス可能となっている。これらは必要な人には知られている。


また、民間では「財団法人市川房枝記念会」、時代の証人であった市川房枝さんの活動の膨大な記録「市川房枝の言説と活動」のデジタル化、できればアーカイブとして公開されることが期待される。本書では、満鉄・藤原豊四郎による14万人の名簿保存が紹介されている。


更に「MLA連携」と言われる、ミュージアム・ライブラリ・アーカイブズ、つまり博物館、図書館、文書館の連携が、デジタルアーカイブ化によって可能になってきている。日本は遅れているが・・・


人間の活動は、書物のみではなく、文書や博物資料として残されてきた。この内、図書や博物資料は比較的残存率が高いが、文書とりわけ公文書については全く放置されてきた。「公文書管理法」の施行に従い、行政機関の公文書の保存と公開が期待される。


本書は、ジャーナリストの執筆ということでもあり、やや隔靴掻痒の感なきにしもあらずだが、少なくとも公文書管理と保存の必要性、そしてアーカイブ化の重要性が、私たちの前に示された点だけでも評価したい。新政権与党による「事業仕訳」はいいのだけれど、公文書館の人員削除などは論外であり、アーキビストの養成が急がれる。


なお、巻末には「公文書館一覧」とアーカイブ関係URLが掲載されてり、日本の公文書館の少なさに驚く。図書館運動がそれなりに成果をあげつつあった時、バブル崩壊とともに指定管理職制度の導入や民間委託化が進み、図書館に専任司書がいない事態になっている。一方、これからという「公文書館」は、設置されていない県が多い。せめて「公文書館法」が10年前に成立していたらと考えると、民主党政権に期待したいところだ。*1


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*1:国会が「政治とカネ」の問題という旧態依然たる議論以前の状態で停止しているのは、検察官僚=自民党による策略と思いたくはないが。