本の収穫2011
今年は、腰を据えてじっくり読む余裕がなかった。購入本は例年同様、気になる本が積み置かれている状態である。しかし、最も大きな収穫は、高山宏氏の大著『新人文感覚1 風神の袋』『新人文感覚2 雷神の撥』(羽鳥書店,2011)2冊と、氏による翻訳、ロザリー・L・コリー著,高山宏訳『パラドクシア・エピデミカ』(白水社,2011)の三冊に尽きるだろう。
- 作者: 高山宏
- 出版社/メーカー: 羽鳥書店
- 発売日: 2011/08/10
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- 作者: 高山宏
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パラドクシア・エピデミカ ― ルネサンスにおけるパラドックスの伝統
- 作者: ロザリー L コリー,高山宏
- 出版社/メーカー: 白水社
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いずれも、本としては、記載順に904頁、1008頁、660頁と大冊であること。電子書籍化の話題が先行する中で、敢えて膨大なる書物、モノとしての本とは、かくあるべきと主張しているかのようだ。『風神の袋』『雷神の撥』の数編は読んでいるが、未読本として物理的にも大きなスペースを占めている。更に、12月には『夢十夜を十夜で』(羽鳥書店,2011)が、『新人文感覚』二冊の副読本として刊行された。
- 作者: 高山宏
- 出版社/メーカー: 羽鳥書店
- 発売日: 2011/12/21
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ところで、翻訳本に関しては、高山氏は、「翻訳は歴たる自作と心得ること」とし、
「外国の誰かの説を叩き台に議論をしようという場合、先ずはその本を訳してから」(『雷神の撥』p.66)
との原則を貫いている。翻訳者といえば、フランス語では澁澤龍彦、ドイツ語の種村季弘亡きあと、英文学の高山宏のみとなってしまった。翻訳とともに、数年前から出版予告が出ている『アリスに驚け』(青土社)の刊行をお願いしたい。
- 作者: 円城塔
- 出版社/メーカー: 新潮社
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小説のなかで特筆すべき作品は、円城塔『これはペンです』(講談社,2011)であり、小説や論文などを書くことの本質に迫る内容であった。小説というより<メタ小説>、つまり「小説に関する小説」である。テキストの自動生成プログラムを開発した叔父から姪に届く手紙を中心に話が展開する。併載されている「良い夜を待っている」は、桁はずれの記憶力を持つ父の話。「超記憶症候群」と医学的に称される父の内部記憶は普通人には理解しがたい様相を呈しており、細部の記憶が再現される。姪を介して二編の小説が繋がる仕掛けとみた。
「映画は20世紀の芸術である」と12月29日のブログに記載したけれど、同様に「小説は19世紀の芸術である」と言うべきだろうか。幸いにも日本の近代小説は、自国語で書かれている。グローバル化とされる21世紀は、世界語として英語で書かれ、読まれるべきだろうか。多くの外国文学が、日本語で読むことができるのは幸せというべきだろう。自国の言語への翻訳文学が一つのジャンルとして成立する国は多くない。水村美苗が、フランス語がかつて世界語であったが今は日本語と同じ地域語に没落したことをネタにしていたではないか。
- 作者: 中野三敏
- 出版社/メーカー: 岩波書店
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さて、その日本語で書かれた本として、近代以前の板本があり、翻字=活字化されている本が一割に満たないとすれば、江戸期以前の写本や板本も、読書の対象でなければならない。和本リテラシーの回復を目的に、中野三敏著『和本のすすめ―江戸期を読み解くために』(岩波新書,2011)は、書物の範囲について、基本的な考えを改めるべきときが来たことを教えられる。明治維新以後、近代化とは西洋を範とし、輸入学問が正統化されてきた。江戸期は近代化への土台が基準に評価されてきた。江戸期を江戸という時代に即して解釈するためには、和本を読みこなすことが要請される。学界においても、読解できる人数が限定される。昭和前期までは、普通にくずし字を読む大人が、多数であったこと。それが、戦後の近代化、更にポスト近代という時代ともなれば、活字化されたもののみが本となってしまった。グーテンベルクによる印刷術とは、西欧における印刷術であり、江戸期は、日本独自の板本と呼ばれる和本が即ち書物であったことを、了解すべき時がきている。
いまなら辛うじて間に合うというわけだ。ちなみに、著者による「おわりに」の記載によれば『国書総目録』に収録されている写本・板本が50万冊、未収録が約50万冊あるという。
それはさておき、上記以外の「2011年本の収穫」を急いで挙げておく。
- 山本義隆著『福島の原発事故をめぐって いくつか学び考えたこと』 (みすず書房)
- 開沼博著『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』(青土社)
- 柄谷行人著『「世界史の構造」を読む 』(インスクリプト)
- 小沢征爾 村上春樹著『小澤征爾さんと、音楽について話をする 』(新潮社)
- 作者: 小澤征爾,村上春樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
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- 井上理津子著『さいごの色街飛田』(筑摩書房)
- 作者: 井上理津子
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- 作者: 渡辺京二×津田塾大学三砂ちづるゼミ
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- 土本典昭、鈴木一誌著『全貌フレデリック・ワイズマン アメリカ合衆国を記録する』(岩波書店)
- 作者: 土本典昭,鈴木一誌
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- 作者: 荒川洋治
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- 上野景文著『バチカンの聖と俗 日本大使の一四〇〇日』(かまくら春秋社)
- 内田樹著『最終講義 生き延びるための六講』(技術評論社)
- 佐野眞一著『津波と原発』(講談社)
- 佐野眞一著『怪優伝 三國連太郎・死ぬまで演じつづけること』(講談社)
- 立花珠樹著『新藤兼人 私の十本 老いても転がる石のように』(共同通信社)
- 作者: 立花珠樹
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- 佐々木中著『夜戦と永遠---フーコー・ラカン・ルジャンドル 』(河出文庫)
- 佐々木中著『砕かれた大地に、ひとつの場処をアナレクタ--- 3 』(河出書房新社)
- 佐々木中著『この日々を歌い交わす---アナレクタ2 』(河出書房新社)
- 佐々木中著『足ふみ留めて ---アナレクタ1』(河出書房新社)
- 作者: 佐々木中
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- *佐々木中著『切りとれ、あの祈る手を---〈本〉と〈革命〉をめぐる五つの夜話』(河出書房新社,2010)
- ハインリヒ・フォン・クライスト著、種村季弘訳『チリの地震 新装版』(河出文庫)
- 仲正昌樹著『ヴァルター・ベンヤミン 「危機」の時代の思想家を読む』(作品社)
- 作者: 仲正昌樹
- 出版社/メーカー: 作品社
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書物論・図書館関係本として
- 作者: アントネッラ・アンニョリ,柳与志夫[解説],萱野有美
- 出版社/メーカー: みすず書房
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- 作者: スチュアート・A.P.マレー,Stuart A.P. Murray,日暮雅通
- 出版社/メーカー: 原書房
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- 石橋毅史著『「本屋」は死なない』(新潮社)
- 作者: 石橋毅史
- 出版社/メーカー: 新潮社
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- 西谷能英著『出版文化再生 あらためて本の力を考える』(未来社)
- 作者: 西谷能英
- 出版社/メーカー: 未来社
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