ビブリオバトル


ビブリオバトルという言葉を、寡聞にしてつい最近まで知らなかった。早速、谷口忠大著『ビブリオバトル 本を知り人を知る書評ゲーム』(文春新書,2013)を読み、公式サイトを確認しながら、情報社会における新たな試みが始まっていたことを知った。



実際、ビブリオバトルが開催されている図書館に2回、傍聴参加してみた。参加者は、大学生諸君であり、本の紹介を5分で発表することは、結構むつかしい。起承転結をつけながら、本を紹介する。聞いている人は、本について知り、また紹介者についても知る。質問コーナーも刺激があっていい。

場所が図書館の一角であるのも新鮮だ。ARGの岡本真氏が、

ビブリオバトルは、もっぱらの公共図書館でなかばタブー視されている二つの要素をはらんでいるからこそ、人々を惹きつけているのではないだろうか。一つ目は、「人を通して本を知る。本を通して人を知る」ことである。二つ目は、ビブリオバトルは、賑やかな図書館を生み出すということだ。・・(中略)・・静寂・静謐を求められる図書館で、「人を通して本を知る。本を通して人を知る」知的書評合戦を繰り広げるということは、なかなか痛快なことだ。・・・知的な興奮や感動を味わうとその感情を思わず誰かと分かち合いたくなることがある。そして、その場所として誰もが利用できる図書館という場は正にふさわしい。なぜなら図書館は知を共有する場だからだ。(p184-186)


と云う言葉を、著者の谷口氏が賛同しながら引用している。


発案者の谷口氏によれば、発端は研究のための輪読会であった。輪読会の問題点は、担当者しか読書・準備していないというケースが多い。であれば、全員が発表者になれば良いという逆転の発想にあったようだ。輪読会のメカニズムを逆転の発想で設計されたビブリオバトルとは、知的書評合戦のことである。


ビブリオバトルの公式ルールとは、以下のようなものである。


【公式ルール】

1.発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる。

2.順番に一人5分間で本を紹介する。

3.それぞれの発表の後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを2〜3分行う。

4.全ての発表が終了した後に「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした投票を
参加者全員一票で行い,最多票を集めたものを『チャンプ本』とする。

【ルールの補足】
1.各発表参加者が自分で読んで面白いと思った本を持ってきて集まる.

a.他人が推薦したものでもかまわないが,必ず発表者自身が選ぶこと.
b.それぞれの開催でテーマを設定することは問題ない.

2.順番に一人5分でカウントダウンタイマーをまわしながら本を紹介する.

a.5分が過ぎた時点でタイムアップとし発表を終了する.
b.原則レジュメやプレゼン資料の配布等はせず,できるだけライブ感をもって発表する.
c.発表者は必ず5分間を使い切る.

3.紹介された本について2〜3分のディスカッションを行う.

a.発表内容の揚げ足をとったり,批判をするようなことはせず,発表内容でわからなかった点の追加説明や,「どの本を一番読みたくなったか?」の判断を後でするための材料をきく.

b.全参加者がその場が楽しい場となるように配慮する.

4.全発表参加者に紹介された本の中で「どの本を一番読みたくなったか?」を基準に参加者全員で投票を行い最多票を集めたものを チャンプ本 として決定する.

a.紳士協定として,自分の紹介した本には投票せず,紹介者も他の発表者の本に投票する.
b.チャンプ本は参加者全員の投票で民主的な投票で決定され,教員や司会者,審査員といった少数権力者により決定されてはならない.

参加者は発表参加者,聴講参加者よりなる.全参加者という場合にはこれらすべてを指す.


要は一定の紳士協定に基づき、上記のルールが運用されることが大切であることだろう。
ネット社会では、ブログやSNS、ツィターにせよ、批判的コメントが過剰に反応することを、ビブリオバトルには、回避する仕組みがあることだ。


実際2回、ビブリオバトルを傍聴して、広範に展開する可能性を感じた。公共図書館で年齢の区別なく開催する、大学図書館では学生の主催・参加が、コミュニケーションやプレゼンのスキルを磨くことができる、そして何よりも、学校図書館での活用が期待される。学校図書館の場合、司書教諭等が指導しながら開催する。


本離れ、読書離れが云われて久しいが、ビブリオバトルが本を媒介にして、知的書評合戦を繰り広げる。読書の魅力は捨てたものではないことが、実証されつつある。ちょっとした仕掛けが、潜在的な知的欲求を刺激する。


書評を「書き言葉」から「話しことば」へ。限られた時間による書評合戦は、本に対する関心を呼び起こす。ビブリオバトルは、チャンプ本を決定する。問題はそのあとだ。再び「書き言葉」への変換が必要なのではないだろうか。エクリチュールへの回帰へ。


谷口忠大氏の専門図書

朝日新聞社の「ゼロ年代の50冊」第一位
ジャレド・ダイアモンド著『銃・病原菌・鉄』

知の逆転 (NHK出版新書)

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