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純丘曜彰 Teruaki Georges Sumioka の鏡 このページをアンテナに追加 RSSフィード

06. September (Sun) 2009 ロバート・マッキー氏からのメール このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

 いま、彼の大著『ストーリー』を翻訳している。とにかく大変だ。なにが大変、って、この人、講演のまんまに書くから、構文が文章語ではなく会話調で、俗語表現もいっぱい出てくる。そして、なにより、実際の数多くの作品に対する知識の広さと考察の深さが半端ではない。すでにこの十倍以上のメモがたまっている、というので、第二版を待っていたのだが、いつになるかわからない、とのこと。それで、第一版のままでも、十分に評価が高いから、これでいこう、という話になった。

 ロンドンから戻ったとかで、御本人からメールをいただいた。すでに十九カ国で翻訳されており、日本語版をずっと待ち望んでいる、と言う。で、もうちょっと時間をください、と、返事を書いた。そうしたら、さらに長い返事が来たので、日本では、広告代理店主導の会議で話しが決まるので、映画のストーリーの市場も、若手脚本家市場もないから、期待しすぎないでほしい、という事情を説明した。

 というのも、以前、別の著者の本で、こんなことがあったからだ。ほとんど仕上がった翻訳で、あとは契約を整えるだけ、という段階になって、その著者が、その本をプロモーションするために、スター並みにファーストクラス日本に招け、高級ホテルで全国旅行をさせろ、それが条件だ、と言い出した。冗談か、と思って、再度、問い合わせてもらったが、本気らしい。バカ言え、ということで、出版社とともに一笑に付して、沙汰やみにした。たしかに、おバカなノリのハリウッド本でおもしろかったのだが、こんなほんとうのバカだとは思わなかった。

 ロバートマッキーの場合は、むしろ逆だ。現実世界で講演して歩いている。日本にも招かれて当然の人だ。ところが、日本では、ビジネス本で、名前がちょこっと出ているだけ。映画の『アダプテーション』で初めて知った、という人がわずかにいるくらい。これって、あまりに世界の基準から外れている。

 しかし、たしかに日本には、脚本勉強する、という余地がない。大御所が若手を「弟子」に抱えているが、それこそハックライターとしてネタを取られてしまうだけ。自民党じゃないが、こんな古くさい映画テレビドラマの作り方は、そろそろ終わりにしないといけない。だいいち、つまんないじゃないか。たとえば、『アマルフィ:女神の報酬』なんて、脚本家の名前も出てきやしない。肝心のタイトルからして、才能のない連中が『007:慰めの報酬』からパクったのが見え見えだ。だいいちアマルフィなんか、ろくに出てこないじゃないか。そのうえ、アマルフィにもローマにも、もともと女神なんかいないぞ。どんなに興行収入がいいとしても、こんな話題先行主義は、まともな作品の作り方、売り方じゃない。

 こういう悪しき業界慣習(アンシャン・レジーム)を変えるためにも、ロバートマッキーの『ストーリー』はぜひ日本翻訳して出版したい。儲かろうと、儲かるまいと、映画テレビドラマは、ほんとうにおもしろい、良い脚本が自由市場で競われて選ばれるべきだ。『犬神家』以来の、日本中の話題になったというだけの凡庸なクズ作品は、もううんざりだ。なんとか、急いで翻訳を仕上げないと。それにしても、マッキー氏の返事は、その人柄が出ている。世界中不景気だからねぇ、期待しすぎたりはしないが、ずっと待っているよ、それを実現することこそが我々のストーリーだ、と。


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ふかざわふかざわ 2010/08/02 05:11 はじめまして。
その後、STORYの翻訳はいかがでしょうか。
期待しています。

やまだやまだ 2011/10/04 10:30 初めまして。
ロバート・マッキー氏はビジネス界でも注目されていますよね。
翻訳本が完成したらぜひ買いますので、どうか頑張ってください。

ProfDr_SUMIOKAProfDr_SUMIOKA 2011/10/04 18:35 じつは私の方の翻訳は、とっくにできている。ところが、著者本人の意向と関係なく、親本の米国側出版社の日本側代理店が、先に、ある日本側出版社に翻訳出版権(オプション)を売ってしまい、そのうえ、この出版社は、諸般の事情で翻訳できず、また同時に、別の出版社も、翻訳出版権無しにある翻訳家に依頼していたのがばれ、あちこちで話がこじれて、だれもこの本の出版には手を出さない、という最悪の状況にある。この本、関係者の間での注目度、必要度は高いのだが、親本の古さ、ページ数や内容の難解さから、もはや日本の商業出版社では採算割れが確実視されている。だったら、私がどこかの大学出版会の力を借りてきちんと学術書として出したいのだが、それでもなお例の日本側代理店がかんでいて、ややこしい。マッキー氏は、このバカげた日本の出版事情にあきれかえり、とてもがっかりしている。本が著作者でもない連中の利権に絡み取られると、こういうことになる、という悪い実例だろう。

ばばばば 2012/03/12 12:23 はじめまして。

そんな事情があったんですか。
どうりで日本語版が出版されていないのか分かりました。
とても素晴らしい本なので早く店頭に並ぶことを願います。
私自身、個人的に訳してます。
まだ、数ページですが。
この状況だと日本語版はかなり望みが薄いかな。
そんな気がしてなりません。
とても残念です。