ソシュール『一般言語学講義』の要点

ソシュール『一般言語学講義』の要点は、訳者小林英夫の解説において次のようにまとめられている。


1.ものをいう行為(langage)とものをいうために用立てる口頭的または書写体系(langue)は別個の事実であり、langage「言語活動」において、社会的部面であるlangue「言語」と個人的部面であるparole「言」を見分け、言語の科学こそ本質的な言語学であるとし、言の科学はその従属的な地位とする。


2.言語はその話し手にとっては史的事実である前にまず意識的事実であるとし、通時言語学に対する共時言語学の優位を説く。


3.時間の作用を一応無視したときの言語を「言語状態」とし、一つの言語状態から他のそれへ移るのは偶然の仕業によるとして、言語の変化において目的論を退け機械説をとる。


4.言語は一つの記号体系に他ならない。記号(シーニュ)は、能記(シニフィアン)=聴覚映像(音声面)と所記(シニフィエ)=概念(意味内容)から成る。能記、所記とも心的なものである。能記と所記の間には自然的関係は成り立たず恣意的であるという特質がある。


5.言語は何よりも「社会的事実」であるから、社会学の一つである経済学の基礎をなす価値の概念をもって詳しく性格づけられる。


6.言語の組織・体系と関係のないものは「外的言語学」の領域においやられ「内的言語学」の検討が終わってのち「地理言語学」の題下に一編を与えられ、この新興科学の原理と方法が詳述される。注目すべきは、およそ言語の空間的多様性は、その原因をことごとく時間の作用に帰さしめていることである。


ソシュール学の根幹をなすのはだいたい以上の6点であり、他のいくつかの説もこれらの一つや複数の結合に還元することができる。


4の補足をすると、この恣意性とは、概念=シニフィエとそれを表す音=シニフィアンの結びつきが恣意的だということの他に、どのような事象を一まとまりの概念とみなすか(これを分節化するという)も恣意的だということである。たとえば、英語では男の兄弟を一まとめにbrotherとして分節化するが、日本語ではさらにその年上の方を兄、年下の方を弟として分節化するように、分節化の範囲は言語(文化)によって異なる。
また、体系とはすなわち完結した構造を持つシステムのことである。


一般言語学講義

一般言語学講義


(追記)
『一般言語学講義』はソシュールの弟子達がソシュール没後に編纂したものであり、必ずしもソシュールの真意を伝えているわけではないということなので、ここに掲げたこともあくまでも参考程度です。