人間の能力は生得的であるとするチョムスキーの考え

チョムスキーは、言語能力を典型に、人間の能力は生得的に備わっているものであり、経験的に獲得されるものではないとする。(前者を合理主義、後者を経験主義という。)
この考え方は一見「反動的」にも見える。人間は生まれで決まると言っているように見えるからだ。人間は生まれで決まってしまうのではなく育ち(経験や学習)で能力が身に付き伸ばせるとした方が「進歩的」に感じるであろう。
しかし、チョムスキーの真意はそういうことではなく、人間の誰にでも生得的に備わっている道徳的・知的な資質を尊重し、だからこそ人権が尊重されなければならないとするのである。社会の支配層やイデオロギー指導者である知識人にとっては、人間の道徳的・知的な能力は生得的・内在的なものではなく、後から彼らが教育や訓練などによって与えるものであるとした方が支配にあたって都合が良いので、こうした生得説を認めないのだとチョムスキーは言う。
もちろんチョムスキーは、経験や学習などに意味がないと言っているのではなく、人間の基本的な能力は生得的であり、白紙の状態から経験や学習や訓練によってはじめて身に付くわけではないが、成長過程で経験や学習などの適切な刺激が能力を引き出すきっかけ(トリガー)になるのだとする。


参考文献

言語と知識―マナグア講義録〈言語学編〉

言語と知識―マナグア講義録〈言語学編〉