上代語の一人称の「ア」と「ワ」、日本語の人称システム

古代日本語では一人称とされる語に「ア」と「ワ」があった。使い分けとしては、「ア」は純粋な一人称であり、「ワ」は「話し手と聞き手」を共に指す「一人称+二人称」の人称だったとされる。(「聞き手」を含まない「私たち」という意味の一人称複数形とは違う。) このため、「ア」の方は私的な事柄に多く使われ、「ワ」の方は公的なことに使われるといった区別もあったらしい。
こうした「一人称+二人称」を持つ言語は今でも存在し(インドネシア語など)、また、人類言語の祖形の人称システムそのものが、「一人称」「二人称」「一人称+二人称」「三人称」だったのではないかとも考えられている。
日本語ではその後平安時代頃には、「ア」と「ワ」の区別がなくなり「一人称+二人称」が消えた。「ワ」が一人称を代表するようになった。
しかし、関西弁などで二人称に「ワレ」とか「自分」とかの一人称の語を使ったりするのは、そのかすかな名残なのではなかろうかと思ったりもする。


(追記)
古代には「ナ」という、一人称としても二人称としても使われる語もあった。
「オノレ」も一人称としても二人称としても使われる。


(追記2)
大人が小さな男の子に対して「ぼく」(江戸時代ごろだと「ぼう(坊)」)という二人称的呼びかけを使うことがあったり、日本語の人称は単純に一二三人称という以外にも「視点」の置き方をどこにするかということが微妙に関わっているのだと思われる。


(追記3)
アイヌ語にも、話し手と聞き手を含む「一人称+ニ人称」が存在する。